第283射:さあ訓練、訓練、訓練だ
さあ訓練、訓練、訓練だ
Side:ナデシコ・ヤマト
田中さんが強奪……いえ、スキルで出した軍船には圧倒されましたが、今ではこの船が私たちのモノだということを心強く思います。
ゼランさんたちの船は木造船で帆を張って進むという、どこかの大航海時代を思わせる作りで、魔物の攻撃にはとても弱そうなイメージがありました。
この船なら魔物に落とされるところが思いつきませんから。
とはいえ、ノルマンディーで私たちを襲ってきた魔族も向こうにはいます。
油断をしないようにしないといけませんね。
「……っていうかさー。なんか僕たちの仕事って前と変わってない気がするんだけど」
そう言ってテーブルに顔を乗せてぐったりしているのは光です。
どうやらいつもの訓練に飽き飽きしているようですね。
とはいえ、それも無理はありません。
今私たちがこの船を動かすためにやっていることというと……。
「まあ、レーダー監視とドローンでの周囲警戒だからなー」
そう、私たちに与えられたお仕事は、対空、対艦、対潜のレーダー及び、索敵に出しているドローンからの映像を見続けることだけだったのです。
とはいえ、これはいじめで行われているものではなく……。
『敵の接近を把握できる超高性能各種レーダーだ。これがあれば奇襲を受けることなく船を進められるどころか、こっちが発見して先に攻撃ができる』
という、非常に重要な施設なのです。
私たちが今行っている作業は、船の安全を守るために絶対に必要なこと。
なので、私はぼやいている二人に注意をすることにします。
「気持ちは分かりますが、レーダー監視は大事です。ここは海上。いつ大型の魔物が襲ってくるかもわからないのですから。頑張っていきましょう。ね?」
「わかってるってー。流石に監視をしている理由はね。でもさ、ここまで変わり映えしないとなんだかなーって感じ」
「だよなー。というか暗いのがより一層眠気を誘うよな」
確かに、このCICはレーダーをより見やすくするため部屋は暗くしてあります。
それが夜を連想させて眠気を誘うというのはよくわかりますが……。
「それでもやらないといけないのです。というか命がかかっているのにたるみすぎですよ」
「ごめんごめん。そんなに怒らないでよ。ちゃんて寝ないでやってるし、ただ見ているだけじゃ暇なんだよー。それはわかるでしょ? それにドローンのむこうじゃさー……」
「田中さんやノールタル姉さんたちが訓練しているもんなー」
「仕方がありませんわ。私たちじゃゼランさんたちの指導はできません。ノールタルさんたちもゼランさんたちのフォローです。というか、私たちが覚えて教えないといけないんですよ」
そう、私たちが真っ先にこのCICでレーダー監視をさせされている理由は、私たちが一番覚えやすいと判断されたから。
まあ、普通に考えれば当然でしょう。
外に地球の軍人さんがいるならともかく、こちらの世界の人は機械、コンピューターというものを知りません。
私たちは軍人さんほど精通してはいませんが、それでも機械、コンピューターというものは理解しています。
だから、私たちに真っ先覚えさせて、次に仲のいいノールタルさんたち、そして覚えたみんなで次はゼランさんたちの指導をする予定になっています。
確かに操船は田中さんがいればできるのですが、レーダーの監視にはどうしても人手が必要です。
「それは分かってるけどさ」
「では、外で地獄の訓練をしたいというわけですか? 田中さんの訓練が息抜きになるレベルと勘違いしているわけではありませんよね?」
「いや、流石にそれはないけど、ここでじっとしているのはってやつだよ。というかゼランさんたちがこの仕事耐えられるか心配だ。外で監視しているわけでもないからなー」
「だよねー。ただ画面を見ているだけ。機械がわからない人にこれを見てろってかなりきつくない?」
「……そういわれるとそうですわね」
理解できないことをさせられるというのは苦痛です。
その最たるは勉強です。必要性は当事者である学生にはわかりずらいですからね。
「ですが、できないというわけにもいかないですわ。私たちでフォローはできないのですから。物理的に」
「だよねー。田中さん血を吐いたってのに、あと2隻も出したからね。そっちはどうしても手が回らないよね」
そう軍船は3隻あるのです。
田中さんは光さんの言うように血を吐いてまで船を用意しました。
それだけ必要だと考えているのでしょう。
なので、2隻はゼランさんたちの手でレーダーの監視をして無線機などでの連絡をしないといけません。
だから、レーダー監視人員の育成は絶対に必要なのです。
「まあ、それは分かってるけどさ。それでも、この状況はなー」
「こうして画像も映らない画面を見ているのってつらいよねー。僕たちでもつらいのに我慢してみろって言えないよ」
「だよな。本当につらいよな」
「うん。拷問。もう眠い」
「はぁ……」
今までのドローン監視もあって集中力が全然保っていません。
これは田中さんに一度厳しく指導してもらった方がいいのでしょうか?
とりあえず、連絡をしてみようかと思っていると、CICのドア開き……。
「よぉ。予想通り退屈しているみたいだな」
「うひゃっ!? あ、あれ!? 田中さん!? どういうこと!?」
「え、でも、ドローンのモニターには……」
「はい。いますわね」
そう、田中さんがここに現れたことは特に問題は……あります。
なにせ、田中さんはモニターの向こうに……。
「って、ああ!? 別の人が服着てるだけ!?」
「そういうことだ。背格好の似た人に代わってもらっただけの単純なトリックだな。いや、トリックっていうか監視が甘い証拠だな。ほかも見てればわかっただろうに」
「すみません。ぼーっとしてました」
「申し訳ございません」
注意していた私も見破れなかったのですから、同罪なので素直に謝っておきます。
「ま、反省してればいいというか、そもそも3人でモニターの監視は無理だしな。そろそろこいつらにも教えようかと思って連れてきた」
田中さんがそういうと開けた扉からノールタルさんたちも入ってくる。
「まーた、ドローンの監視だろう? そりゃヒカリたちだっていやになるさ」
「いえ、ノールタル様。それ以上みたいですよー。だから私もぞっとしているんですけど」
「しっかりしなさいヨフィア。姫様もいるのです。しっかりとお勤めを果たすのです」
「はい。微力ではありますが私も監視のお手伝いにきました」
どうやら田中さんも私たちがそろそろ限界だということには気が付いて、援軍を送ってくれたようなのですが、さらに後ろからエルジュにリリアーナ女王までやってきました。
「私もこういうのは得意なんで」
「……えーと、一応エルジュ様や私は他国のトップなのですが、こういう機密の場所に連れてきてよかったのでしょうか? ましてや運用方法など」
「別に構わない。どうせ俺が出した船は俺の意思一つでどうにでもなるしな。使い方にしてもキーをフリーにしているからな。普通は起動にだって面倒な手順が必要だ。それを考えるとわからないってのは最高のセキュリティなのかもな」
確かに、使い方がわからない人に道具を渡してもどうにもなりませんからね。
とはいえ、なんでエルジュはそんなに自信があるのでしょうか?
得意って、レーダーとか見たことはないはずですが……。
「ま、さっそく教えるから、とりあえず全員集まってくれ、会議室で勉強会だ」
「ここを離れていいのですか?」
「この状況じゃ集中できないだろうからな。まずは息抜きを兼ねてほかの人に教えてみるといい」
「確かに。ここでまだやれって言われてもやり切る自信はないです」
晃さんの言う通りですね。
ここに残されても夢の世界に旅立ってしますでしょうし、ここは人に教えることができるかはわかりませんが、そちらに力を入れた方が効率がよさそうですね。
そんな感じで、私たちは一つ一つゆっくり覚えていき3か月後の訓練を重ねていきました。
「……っていうかさー。なんか僕たちの仕事って前と変わってない気がするんだけど」
「いや、この話。何度目だ?」
「この3か月で何度も話したわね」
私たちは本日夜のレーダー監視要員として仕事についていました。
結局のところこの船のことは覚えていったのですが、任せられたことはレーダーの監視でした。
「仕方ないですわ。ほかの武器の管制とかは全自動で田中さんができるのですから」
「監視だけができないんだよなー。まあ、敵味方の識別のIFFがないから目で見るしかないんだけどな」
そうなのです。
敵味方の識別はこっちの世界では肉眼でしかできません。
地球なら敵味方の識別を出さない船や飛行機なんかは迷惑極まりないですし、軍艦などでしたら宣戦布告に等しく攻撃対象ですからね。
ですがこの世界のはそれが存在しないので、一々レーダーで確認したらドローンで確認、そして調べて攻撃するかどうかを検討しないといけないのです。
全てを吹き飛ばすわけにはいきませんからね。
「意外と使い勝手悪いよねー」
「普通なら人員沢山いるからな。とはいえ、最初のころよりはましだろう」
晃さんの言うとおり、最初に比べて雲泥の差です。
私たちはレーダー監視の班長になっていて、レーダーやドローンのモニターを見つめるのはゼランさんらがこなしています。
こちらはちゃんと短い期間での交代をしていて集中力がなくならないようにシフトを組んでいます。
とはいえ、実力不足に人員不足でまだつらいことはありますが、ここまでなら許容範囲でしょう。
私たちも休めるんですから。
「ええ。反復訓練を何度もして、最初の頃より確実に腕が上がっていますわ」
「それはわかる。効率よく監視できてると思うよ」
「まあ、慣れってやつだよな」
流石に3か月も訓練していれば、最初のころのようにどうしていいのかわからないという場面も少なくなっています。
自信をもって判断ができる。
これは確かに訓練の成果といっていいでしょう。
「じゃ、そろそろ航海してみるか。一週間航海も問題なかったし」
と、その田中さんの言葉で私たちはいよいよ、魔族は暴れる大陸へと進むことになるのでした。
戦いに必要なのは訓練。そして訓練。さらに訓練。
どこかのヒーローみたいになんでもできるわけがないので、訓練をして覚えます。
レーダーの監視を!
眠気との戦い。そして、外海へ出てどうなるのか?




