第281射:限界を知る
限界を知る
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
ざっぱーん!
そんな音とともに、おっきな軍艦がいきなり目の前に現れた。
しかもそれだけではなく、大きな波が立って、私たちがのっているクルーザーも激しく揺れ動く。
「なんじゃこりゃー!?」
「軍船だろう!」
「ものすごい衝撃ですわね!」
「きゃぁぁぁぁ!?」
「ひゃわぁぁぁぁ!?」
「ぬぉぉぉ!?」
「がふっ!? いったー!!」
あ、最後の声、クルーザーのベッドでのんびりしていたヨフィアさんが落ちた音だ。
わっかりやすー。と、そんなことを考えつつ、意外と余裕はあるんだなーと僕は思いながら波が収まるのをまつ。
まあ、激しいのは一瞬で後はすぐに落ち着いていく。
そして、穏やかになった海の真ん中に存在するのは、大きな島のような灰色に染め上げた鋼鉄の船。
無骨を通り越して、真面目に戦うために生まれた軍艦。
僕がパッと見ただけでも機銃だよねそれっていうのが下からでもわかる。
「って、そういえば、田中さんは?」
「あれ、そういえばどこだろう?」
「操船室ではないですか?」
いや、撫子。場所を聞きたいんじゃなくてここまでのことが起きて、まだ出てこないっておかしくない?って聞きたかったんだけど、まあ、操舵室に行けばわかるのは間違いないから、そのまま僕たちは操舵室へと向かうと……。
ポタッポタッ……。
とやけに耳に残る水の滴る音が聞こえるなーと思っていると、口を手で押さえて片膝立ちになっている田中さん。
そして、その手からは血があふれ出していた。
「ちょっ!? 田中さん!?」
「田中さん!!」
「一体何が!!」
僕たち3人ともあまりに驚きの光景に大声を上げてしまう。
まさか、だって田中さんが吐血してるとか、ありえないでしょ。
今までずっとケガ一つ負ってこなかった人がなんで……。
と、そんな風に僕たちが混乱していると、僕たちがやってきたことに気が付いたのか。
ボドボドボド……。
「ぺっ。ったく、久々に懐かしい血の味だな」
そう言って、立ち上がる田中さん。
「まってまって! 一体何が起こってるの!? 敵!?」
「ん?」
田中さんは僕の言葉に何を言っているかわからないって顔をしているが、僕たちの方がわからないよ!
「いや、田中さん。それ、血ですよね? 吐いてましたよね?」
「私にもそう見えましたわ。膝をついていたことろを見ると田中さんから出てきた血ではありませんか?」
「ん? ああ、なるほど。確かにこの血の量なら心配するな。ルクセン君一応回復魔法かけてくれるか?」
「あ、うん」
なんか意外と大丈夫そうだけど、なんで血なんかはいてるんだろう?
というか……。
「まって、回復魔術をかけるのはいいけど、どこが傷になっているの? 詳しい話聞かないと回復魔術ってうまく効かないのはしってるよね?」
そう、回復魔術は傷を治すってイメージが一番大事だからどこをどうケガをしているのかを知らないとあまり効かないっていう弱点がある。
「いや、それはわからん。だが、結果を見るに原因はわかる」
「へ? どういうこと?」
「俺は今スキルを使用してあの軍艦を出した。それと同時に吐血した。ということはつまり魔力っていうのを消費した状況に似ている……」
あれ? なんかその状況聞いたことがあるような?
「魔力枯渇による吐血ということでしょうか? ヒカリさんが以前起こったときのように?」
ああ、そうか。僕のことだったよ。
あの時は血を吐いて気絶したから人伝でしか聞いてないんだよね。
だから思い出せなかったのか。
「多分な。だが、外に原因がある可能性もある。一応は吐血だから、口の中から食道を伝って胃まで回復対象にすれば問題はないだろう。臓器の損傷はこんなものじゃないからな」
「え、なにその臓器損傷経験ありみたいなセリフ」
僕はツッコミをしながら回復魔術を言われたとおりにかけていく。
「いや、傭兵だったしな。銃で撃たれて風穴があいて内臓傷ついて死にかけたなんてことは普通に何度かあるしな。というか、ルクセン君は違うが大和君に結城君も経験はあるだろう?」
「ええ。あの傷で動けるわけがないですし、もう二度とごめんですわ」
「ああ。あれはちょっとな。なんでヨフィアさんが動けたか驚きですよ」
そういえば、ヨフィアさん撃たれて立ってたよね。
なんで立てたんだろう?
「あれは元々の経験の差だろう。痛みに慣れていたのと、あとはカチュアっていう大事な人を殺されたからだな。怒りから動くときは体の痛みを感じない。あとハイになっているとな」
「ハイっていうと?」
「あのクソ女だよ」
「「「ああ」」」
そういえば、あのジョシーってくそ女は田中さんに散々打たれまくってようやく死んだった。
あれは確かに普通じゃなかった。テンションぶち抜けていたってのは分かる。
と、そんな話をしている間に回復魔術をかけおえる。
「田中さん一応回復魔術はかけてみたけどどう?」
「ちょっと待ってくれ」
田中さんはそういうと体を動かしてみる。
屈伸から始まって背伸びにホルスターから拳銃を取り出して即座に照準。
「ま、普通だな。どうだ傍から見て変に見えたか?」
「うん。僕にも普通に見えたよ。勝てる気がしない」
「ですわね。たった今まで血を吐いていたとは思えませんわ」
「まあ、何事もなくってよかったですよ。で、魔力を減ってるんですか? ステータスは?」
晃がそういうと、田中さんは意外なことに驚いた顔をして……。
「ああ、そんなのあったな。あまりにもあてにならなかったから見てなかった」
「あてにならないって、いやまあそうだけどさ」
一応スキルの取得ができたかとかで僕たちはよく見るんだけどなー。
田中さんにとっては参考程度の情報でしかないのは事実だよね。
傭兵って怖い!
「で、いかがですか?」
「ああ、MPだったか? これがゼロになっているな。今まで戦車を呼び出してもゼロにならなかったんだがな。どうやら一応このステータスは壊れていないらしい。でも、まだレベルは1のままだけどな」
「あ、そのレベル1っていうのはなんとなく俺は理由がわかりましたよ」
「「え?」」
晃の唐突な発言に驚く僕と撫子。
「どうしてだ?」
「まあ、予想でしかないですけど、ある意味シンプルだったってことです。僕たちはこの世界に来て戦闘経験を積んで強くなった。とはいえ、元々俺たちってレベル1じゃなかったでしょう? 向こうの世界でも表示はされなかったけどレベルの概念があったって考えられませんか? だから、田中さんの場合は傭兵で散々レベルが上がっていた。しかもこの世界とは比べ物にならないぐらいの危険な場所だった。だからこの世界に来た時にレベル1って設定されたけど、実情はかなりレベルが上だったってことじゃないですかね?」
「いや、言っていることが全然わからん」
「うーん、なんていえばわかりやすいかな? あ、そうだ。田中さんってプログラマーだったんですよね」
「まあ一応な」
「それなら、こういうのはどうです。田中さんは地球ではきっとレベル1000越えだったんです。でもこの異世界に来た時に表記だけレベル1にされた。バグったともいえるかな?」
「ああ、こっちの表記に収まり切れずにそうなったってことか。一定数を越えると1に戻るみたいなバグか」
「そうそう」
あー、そういうのはあるよねー。
なるほど強すぎてステータスの表示がバグってたってことね。
「私は意味が分からないのですが?」
「あー、難しく考えるな。大和君に言えばカウントできなくなったから1にしようって話だな」
「なるほど。計算できないから1となるわけですね」
「そういうことだ。ま、とはいえ限界がわかったのはいいことだ」
「あ、そっか。田中さんは軍艦を呼び出すと魔力が枯渇するってことだね。って、どういう規模だよ!? 僕とか物を呼び出すとかできないんだけど!」
さらっと言ったけど、魔力枯渇でよく済んだと思うレベルだよ。
軍艦だよ! しかもどう見ても一昔前の大砲を積んでいるとかじゃなくてミサイル発射管とかがある現代軍艦!
「さあな。それはこの世界に呼び出した後ろの連中に聞いてくれ」
「へ?」
そういわれて僕たちが振り返ると、ユーリアたちが集まっていた。
「いえ、こんな規格外のことを私に聞かないでください。エルジュはご存じですか?」
「えーと、どうだろう? あははは!! あ、リリアーナ女王ならご存じでは?」
「いいえ。私もこのようなことを起こせる人物にはあったことがございません。マノジル殿はいかがですか?」
「いやいや、このような大魔術ができるわけも聞いたこともないですな」
ん? なんかエルジュが少しおかしかった気がするけど、こんなことをできる人がいるわけもないか。
と、そこはいいとして。
「田中さんせっかく出したんだし軍艦に入らないの?」
「ああ、そうだったな。とはいえ、どうやって中に入ったもんか」
「へ?」
「いや、どうやっても軍艦の高さに届くとは思えないしな」
「確かにそうですよね。ジャンプしても無理そうですね」
「ですわね。どこからかはしごでも出ないのですか? 大きい客船などはそういうのがありますが」
あー、大きい船は確かにそんなイメージだね。
橋を架けてそこから乗り込むって感じ。
「残念ながら海の上だしな。はしご車を持ってくることは出来んな。あとは、縄梯子でも垂らすか、救命ボートを下ろすウィンチでも動けば……」
と、田中さんがそういうと……。
ガゴン。ウィンウィンウィン……。
頭上にあった救命ボートが下りてきた。
「そういえばタナカ様が出すものって遠隔で操作ができませんでしたか?」
「できたな。ちょっとまてそうなると……」
ヨフィアさんの指摘に田中さんが何か考えていると、軍艦がいきなり動き始めた。
「やっぱりか。全く便利なことだ。とりあえず位置を調整している。今のままだとクルーザーの上に救命ボートが落ちてくるからな。で、ボートに乗ったら軍艦の中を見に行くとするか」
「「「おー!」」」
やった! なんか初めての見学ツアーなんかのノリでわくわくしてきたよ!
「その前に、ヨーヒスそっちは無事か?」
「ああ、無事だよ。しっかしものすごいものを出したな。この島みたいなのが船か?」
「そうだ。俺のよく知ってる船はこんな感じだな。で、周りの魚人とかは驚いてないか? 何もないって説明してほしいんだが」
「任せておけ。あとでその船に乗せろよ?」
「まかせておけ。ついでに魚介類たのむぜ」
「おう」
なんか、本当にヨーヒスさんとは仲がいいよねー。
なんだろう、男同士の友情ってのがあるのかな?
ついにタナカの限界が訪れる。
それは軍艦一隻分!
多いのか多くないのかはわかりませんが、ともかくこれが限度。
あとは、回復した後で二隻目が出せるのかというところです。
タナカ。お前らいったい何やってんだ。




