第279射:化け物の謎
化け物の謎
Side:アキラ・ユウキ
「疲れたー」
「そうですわね」
光と撫子は心底疲れたような顔で椅子に座る。
俺も同じように席に着く。
「今日は焦ったな。というか、人が殺された」
そう、ヨーヒスさんが連れてきてくれた人魚と話をする予定だったのに、変な化け物が現れた。
「……うん。おかげで人魚と話す機会がパーだよ。なんだよあいつ」
「冗談が出るだけ元気な証拠ですわ。で、あの化け物ですが、逃げてきた人を追ってきたといっていました。おそらく……」
「え? あいつが噂の魔族ってやつ?」
「完全に化け物だな」
本当にその感想しかない。
生き物として酷く歪だった。
「人の命を何とも思っていないようでしたし、あれは驚異ですわね」
「とはいえ、田中さんにあっさりやられてたけどねー」
「いや、あの人のあっさりは俺たちにとっては高難易度にまちがいないから」
あの時はけが人の治療で意識してなかったけど、魔族っていうとゼランさんたちの国の兵士が全く相手にならなかったんだ。
それを一瞬の銃撃で倒しちゃったんだから、やっぱりすごいと同時に基準がわからないよな。
誰か攻撃を受けていた人でもいれば話を聞けるんだけどな。
ほとんどの人は重傷でまともに攻撃を受けた人は死んでいる。
ん? ちょっと待てよ……。
「そういえば、撫子って攻撃されてたよな?」
「あ、そういえば攻撃されたね。どんな感じだった?」
そう、撫子はあの化け物の一撃を受けていた。
身近に攻撃を体験した人がいるじゃないか。
で、当人である撫子は言われて思い出したようで……。
「ええーっと、どんな感じと言われても、一瞬の事でしたから。それに不意打ちで全力のようには見えませんでした。普通に受け身は取れましたし」
「ああ、そういえば回転して、壁に着地してたよね。意外としょぼかったってこと?」
「どうでしょうか? 女性とはいえ、私もそれなりに装備を整えていますから、簡単に弾き飛ばせるとは思えません」
「確かにそうだよな。完全に宙に浮いてたし、人を吹き飛ばすような力って相当だよな」
撫子がいくら女性とはいえ成人に近いから体重だって少なく見積もっても40以上はあるだろうし、それをポーンとふきとば……。
ドスッ。
「がはっ!?」
なぜか撫子からエルボーが飛んできた。
「な、なにを……」
「晃さん。私を見て何を考えましたか? 言ってください。それで間違いであれば謝りましょう」
「……」
「あれ? 晃なんでだまっちゃうのかな? 問題がなければ言えばいいんだよ?」
くそっ、光のやつわかってて言ってるな。
俺も流石に体重の事を素直に言うつもりはない。
だって、追加の制裁が来るのは目に見えているから。
ここは素直に……。
「すみませんでした」
「はい。よろしい。女性の秘密は考えるだけでも駄目なんですよ」
「そーだよ。晃はデリカシーなさ過ぎだよー。ヨフィアさんも気をつけないと変なこと聞かれるよー」
「別にアキラさんになら何でも答えてあげますよー。と、そこはいいとして、結局あの化け物の一撃はどうでしたか? それは私というメイドとしても気になるのですが」
ナイスヨフィアさん。
話を戻してくれた。
「そうですね。あの一撃に関してというのであれば、不意打ちでも反応できましたから、ヨフィアさんでもなんとかなるかと思います。私で何とかなったんですからね。私よりも上の実力をもつヨフィアさんにできないわけはないと思います」
「えー、なんか私を持ち上げてくれるのは嬉しいですけど、勇者であるナデシコ様たちよりはつよいですかねー?」
「ステータスじゃ一応僕たちの方が上だけど、実戦となると別じゃん。ヨフィアさんって強いと思うよ」
それは俺も同じ意見だ。
ヨフィアさんは今でこそメイドだけど、フクロウさんとかギルド長から一目置かれているだけあって戦闘の技術は凄い。
「褒めてもらってアレですが、私の見た目でもあの化け物を倒すのはなかなか難しいと思いますよ」
「そうですか?」
「ええ。ナデシコ様が言ったように不意打ちには反応できたのですから、確かに戦えるとはおもいますが、アレを殺すのはなかなか難しいでしょうね。あの甲羅みたいなのが固すぎます。ナデシコ様が吹き飛ばされたときに牽制でナイフを飛ばしたんですけど弾かれちゃいました」
「え、そんなことやってたんだ」
俺も気が付かなかった。
というかそれを考えるとやっぱりヨフィアさんは凄いんだということがわかる。
「今の所攻撃が効いたのはタナカ様の銃のみ。あの武器の威力を人の身で出すのは無理かと」
「「「あー」」」
納得の理由だ。
ヨフィアさんのナイフ投擲で傷つかず、銃しかきかないとなると、それはタナカさんから銃を貰っている人たちしか対応できないってことになる。
つまり、ゼランさんたちがいくら訓練をしても魔族を倒せる可能性は低いってことになるのか。
いやいや、まだあれが魔族って決まったわけじゃないし、ちゃんと確認して田中さんと話し合えば何とかなるはずだ。
と思っていると、田中さんがマノジルさんと一緒に戻ってきた。
「そろっているな。どうだった? 死人はそれなりにいたと思うが? 詳しい数はわかるか?」
「「「……」」」
そういわれて、俺たちは答えられないで沈黙する。
そういえば、数なんて数えてなかった。
「はい。死者は23名にも上ります。いえ、それで済んだというべきでしょうか? けが人の方は私や勇者様たちの手助けで大けがの人たちも今は落ち着いています」
おお、流石は聖女様。
こういう報告はちゃんとしているんだな。
というか、俺たちがちゃんとしないといけないよな。
「死者の方は領主殿が出て対応にあたっています。後で事情を説明することになるでしょう。タナカ殿の方はあの化け物の情報は得られたのですか?」
「ああ、あったなマノジル」
「はい。姫様、聖女様。あれから私たちは化け物の遺体を倉庫に持ち運び、ゼラン殿に来てもらい確認をしてもらいました。結果、あれは間違いなく向こうで攻めてきた魔族だったそうです」
「「「……」」」
マノジルさんの言葉に沈黙する俺たち。
別に意外じゃない。最初から予想はしてたけど、やはり告げられるとなんていっていいかわからなくなる。
「そうですか、そうなると無視するわけにもいかなくなりますね。タナカ殿の方は何か情報は得られましたか?」
「まあ、多少は情報は得られてな。あれだけぶち込んだのにも関わらず生きてたからな」
「「「えっ」」」
全員で田中さんの言葉に驚く。
なぜならあの怪物、魔族が生きていたというからだ。
「まって、田中さん。確か3発は撃ちこんでたよね?」
「おう。よく覚えているな。正確にいうならルクセン君たちが行った後にさらに2発撃って、ついでに頭を撃って止めをさした」
「計6発!?」
光が驚くのも無理はない。
というか、俺や撫子の方が驚きだ。
実際にジョシーって女傭兵に撃たれたし。
正直一発もらうだけで動けなくなる。それを計6発受けてようやくとか信じられない。
「ま、最初の3発で行動不能。追撃の2発で致命傷で、頭部の一発で送ってやっただけだ。だから耐えたとかじゃない」
「いや、十分に耐えてるともうけど。まあいいか。で、田中さん。情報ってどんなのが得られたの?」
「ああ、どうやら、向こうの魔族っていうのは……」
田中さんはそういうと言葉を切ってホルスターから拳銃を抜き出す。
「なぜいきなり銃を?」
「あいつはこの銃をみてちんけといった」
「は? まさか……」
「え? 嘘」
「まじか」
「どういうことでしょうか?」
「何をそんなにヒカリたちは驚いているのですか?」
エルジュやユーリアは分かっていないようだけど、俺たちにはその言葉の意味が分かった。
銃をみてちんけっていうことは……。
「向こうには銃があるってことですよね」
「ああ、しかもこの銃がちんけっていうぐらいだ。大型の銃、つまり大砲とかあるかもしれないな」
「「「!?」」」
俺の答えにうなずきつつ田中さんが言った言葉に、流石にエルジュやユーリアたちも言っている意味が分かったようだ。
「えーと、タナカ様。それって魔族っていう連中は銃を持っているってことになりませんか?」
「なるな。俺が相手してきた奴は持っていなかったようだが。ということで、それを踏まえると、ゼランにはまだ言ってないが。俺たちも一緒に向こうの大陸に行くべきだろうな。銃という技術の他にこういうのもあの化け物から出てきた」
田中さんはそう言って何かをポケットから取り出してテーブルの上に置く。
「これは何でしょうか?」
「細長い鉄っぽいプレート? まて何か英語?が書いてあるぞ」
撫子と俺は見慣れないモノをみて首をかしげていると、光が青ざめた表情でそれを見つめている。
「光、これが何かわかるのか?」
「……わかるよ。田中さん。これってIDタグ。認識票だよね?」
ドッグタグ? 認識票? なんか聞き覚えがある気はするけど、思い出せない。
当然エルジュやユーリアも首をかしげている。
「そうだ。これは地球の軍人がよく付ける認識票だ」
「「「はぁ!?」」」
田中さんの答えに全員が驚きの声を上げる。
「ちょっと待ってください。その認識票というのを持っていたというのですか? あの化け物が? つまり、あの化け物はヒカルたちやタナカさんの同郷の人だと?」
「いや、確定したわけじゃない。あんな化け物は地球にはいなかったからな」
そうだ。田中さんの言う通りあんな化け物が地球にいたとか聞いたことがない。
いるならもっと騒ぎになっているはずだ。
「でも、どこかでこの認識票というのを手に入れて化け物が持っていたということですわよね?」
「そうだ。大和君の言う通りだ。だから俺はゼランたちと一緒に別の大陸に行くべきだと思っている。明らかに地球の痕跡があるからな」
「でも、海を渡るなんて……」
光の言う通りだ。
魔物がいる海を渡るなんて、しかも場所もわからない海を進むとか自殺だ。
それに……。
「魔術の国で帰る方法を調べるのはどうするのですか?」
そうだ。俺たちはこの後魔術の国に行って帰る方法を捜すはずなんだ。
一度海を渡ってしまえばそう簡単に帰れない。
「ああ、そこについてはちょっと考えがある」
でも田中さんは俺たちが言った問題を特に気にしていない様子で、話を続けていく。
一体どんな考えがあるんだろう?
持っていたIDタグ、認識票。
昔の言い方はドックタグ。
これが意味すところとは?
そして海を渡ってもいいという田中の案とは?




