第278射:化け物の正体と実験
化け物の正体と実験
Side:タダノリ・タナカ
「……とりあえず、とっさにマグナムで撃ったが、3発撃っても喋る余裕があるとはな」
普通の人なら当たるだけで即死しかねないのがだ、原型をとどめているのは流石化け物とほめるべきなのか。
もう二、三発ぶち込んだ方がいいだろう。
そう判断して、追撃を入れる。
どうせ弾薬は腐るほどある。確実に死んだと思うことをしてからこいつには近づく。
ズドン、ズドン。
さっさと追加の鉛弾を浴びせた後ゆっくりと近寄る。
というか……。
「マノジルの爺さんも来るのか?」
「もちろんですな。こんな化け物を放っておくわけにもいかないでしょう。私の知識が少しでも役に立つかもしれません」
「そうだな。とはいえ、無理はするな」
「わかっておりますよ」
マノジル爺さんは俺のさらに後ろからゆっくりと近づいてくる。
魔術をいつでも撃てる態勢だから、結城君たちよりは頼もしいな。
さて、異形の化け物の手の部分まで近づく。
コンッ。
とりあえず蹴ってみる。
うん、なんだこの固いものを蹴った感覚。
まあ、一番長い細長い昆虫の甲殻部分だからそういう感じなのだろうが。
もう一つの短い、人の手に見える部分を蹴ってみる。
ブニッ。
こっちはそのまま人の肉体の感覚だな。
付け根を見るとなんというか縫い付けたような跡がある。
……どういう理屈で動いていたのか不思議だな。
縫い付けただけで、動くとかミラクルすぎるだろう。
いや、まて、縫い付けたように見えて、そういう擬態、デザインなのかも知れない。
とりあえず、こいつをばらしてどんな生き物かを知らべる必要があるな。
そう思ってまずは面を改めて拝んでやろうと視線を向ける。
「……ごほっ。ば、けもの、が」
「おいおい。元気だな。そしてご挨拶だな。俺にはお前の方が化け物に見えるぞ」
まだ息がある。
急所を狙って撃ち抜いたつもりだったが、この怪物は違うらしい。
とはいえ、眼球をこちらに向けてくるだけでそれ以上は動かないところ見ると死ぬ一歩手前のようだ。
ま、生きているならやることはある。
俺はためらいなく化け物の顔に銃口を向け……。
「で、お前これ知ってたよな?」
「ははっ、そんな、ちんけ、な、……かて、ない」
「そうか。なら潰しに行かないとな。じゃあな」
ズドンッ。
俺は聞きたいことを聞いたのでさっさととどめを刺す。
頭に一発は流石に効いたようだ。
もう動かない。
「死んだのか?」
「ああ、胴体よりも頭が弱点みたいだな。いや、これだけ穴が開いてるから違うかもしれないが。まあ、次があったら試してみよう」
「本当にタナカ殿は淡々としていうのう」
「得体のしれない奴はずっと得体のしれないままでいると次は死ぬんだよ。だから調べる必要がある。戦いの常識だろう?」
「まあのう」
戦車から正面で撃ち合うのは自殺行為だ。
中に乗っている運転手を殺す方法をとった方が確実だ。
それか、戦車を落とし穴に落とすか、地対地ミサイルでもぶち込むかだな。
この化け物と同じってことだ。
内容を知ればあとは攻略法を編み立て確実にやっていく。
それが戦いには必須だ。
馬鹿の一つ覚えで真正面から戦うなんて馬鹿しかいない。
「とはいえ、俺は学者や研究者じゃない。ばらしたところで正確な数値もわからんし、正しいばらし方なんてしらないからな。そこは謝っておく」
「そういう所は律儀じゃな」
「死体を意味もなく損壊させるのは方々から不信を買うからな。礼儀だけは守っておかないといけないんだよ。こっちだってそうだろう?」
「それもそうじゃな」
死体を放置する奴と、バラバラにするやつ、そして銃で撃ったりして遊んでいるやつ。
この中で誰が一番ましだと思うかってはなしだ。
傍から見れば、死体をばらして遊んでいるんだ。とっても狂気に映るだろう。
だが、やらないとこっちが死ぬ。
ついでに服らしいものも着ていることだ。何か情報がないか調べる必要もある。
ということで、俺はまず死体を兵士に運ばせてから、まずはゼランを呼んでこの化け物をどう呼ぶか確認してみることにする。
「魔族!!」
「やっぱりか」
答えは予想通りだった。
まあ、それらしき言葉をいってたからなこいつ。
「なんでここに」
「話を聞く限り逃げた連中を探してここにたどり着いたらしい」
「まさか、どうやって……」
「あー、こっちまでやってきた方法は聞いてなかったな。その前に始末したから」
そこは失敗だったな。
もうちょっと情報を訊きだしてから殺すべきだったか。
いや、あの時はさっさと始末しないと被害が拡大しそうだったからな仕方ないか。
なにせ攻撃してきた相手にわざわざ手加減しながら話している勇者様たちがいたからな。
まずは動けなくしてから話を聞けばいいものを。
と、そこはいいか。すでに終わったことだ。
「こ、殺した? 魔族を? まさか……」
とはいえ、ゼランは認識が追い付いていないようで驚いた表情になっている。
それでは話が進まないので、正気に戻ってもらうか。
「この状態で生きているとは思えないが。ほら」
俺はそう言って魔族(仮)を蹴る。
やがり死んでいるようで反応はない。
「……本当に死んでいるか?」
「ああ。こいつが生きているなら、俺もゼランも生きていないと思うが?」
「確かにそうだ。本当に殺したんだな! 魔族は倒せるんだな!」
「見ての通り、死んでるからな。倒せる、殺せるってのは間違いはない」
とはいえ、マグナム弾を6発ぶち込む必要があるから、ゼランたちに再現できるか難しいところだ。
まあ、確実に殺せる方法を見つけるためにここにこうして遺体を運んできたわけだな。
「そうか! 倒せるのか! これで希望が見えてきた!」
「おい落ち着け。とりあえず、こいつの甲殻が付いている腕を攻撃してくれ」
「え? なんでだ?」
「なんでって、この甲殻を傷付けられないとダメージが通らないってことだからな。まずはここからだって話だ」
「ああ、なるほど。すまない。ちょっと興奮してたようだ」
「気持ちはわかる。難敵を倒した時は喜びたくなるよな」
戦車をおびき出して、上からRPGをぶち込んで何とか倒した時は傭兵全員で歓声を上げたぐらいだ。
ボーナスがすごかったからな。戦車自体も高く売れた。
それと同じだ。
「ま、落ち着いたらなやってみてくれ」
俺がそういうと、ゼランは頷いて腰にはいていた剣を引き抜き構える。
「行くぞ! はぁぁぁ!!」
そして掛け声と共に剣を振るう。
うん、気合は伝わってくるが、攻撃するときに声を出すのは素人だよな。
攻撃しますって合図しながら武器を振るうやつがあるか。
そんな感想を抱きつつ、ゼランの剣は魔族の腕へと振り下ろされ……。
カキンッ!
硬質の音があたりに響き、ゼランは剣を取り落とす。
「か……ったい!!」
だろうな。硬そうな音だった。
さぞかし手がしびれたことだろう。
間違って床を叩いたわけではない。
しっかりと当たったのだが、魔族の腕の方には傷は一切ついていない。
「とりあえず、この程度の攻撃だとダメージにならない感じだな」
「一体どんな攻撃をしてこいつの体に穴をあけたんだ?」
「それは魔術だな。そうだ、マノジルの爺さん得意の魔術で一発穴をあけてみないか?」
そうとっさに嘘をつく。いや、嘘でもないかゼランたちの知らない技術だ。
で、そういえばこの場には魔術の専門家が一人いた。
なのでさっそく一撃をお願いする。
「いいでしょう。では行きますぞ、ファイアボール」
マノジルの爺さんは即座に呪文をいうと、火球が現れて敵の腕に直撃する。
そのあとには、意外なことに焦げて甲殻が歪んでいた。
ああ、なるほど。だからマグナムは効いたわけだ。
銃弾っていうのは発射された時点でかなりの高熱を持ち、速度をもって敵を撃ち抜くものだ。
熱に弱い甲殻は耐えられず穴をあけたってわけだ。
そして、ゼランも俺と同じように熱に弱いと気が付いたのか、即座に魔術を使う。
「ファイアーボール」
ゼランが放った火球はマノジルの物よりは小さかったが、それでも甲殻をゆがませることには成功した。
「やった! 奴らは火に弱いのか! 早速、みんなには魔術で火の訓練を……」
「まて、まだほかの魔術が効かないと決まったわけじゃない。というか、ほかの形の魔族もいるんだろう? そこを詳しく教えてくれないか?」
「あ、ああ。すまない。また暴走しかけたみたいだ。そうだな。敵はこの姿だけじゃなかった。まずはしっかり調べてからだな」
少し暴走しかけたが、すぐに冷静になるゼラン。
ま、この調子でリーダーとして判断を鍛えてほしいところだな。
攻撃が一辺倒とか、勝利で浮かれて全滅するとかしゃれにならないからな。
ということで、俺たちは手に入れたサンプルを使って色々試した結果、今のところ有効な攻撃手段が魔術の炎と雷が有効だというのがわかった。
まあ、生物である以上、炎と雷が効かない連中とかほぼいない気はするけどな。
ああ、人の肌をしている部分は普通に剣などの刃物が通ることが確認できたので、急所ともいえるだろう。
とはいえ、戦闘での動きをみると接近して急所を狙うというのはなかなか難しいだろう。
確かに人の肌は腕だけでなく胴体にも存在していたが、胸の当たりからおなかにかけての正面のみ。
腕の甲殻でガードができる。その隙間を縫って攻撃するのはなかなか難しいだろう。
俺の所見から言うと、肌の割合は人1割、馬1割、カブトムシ8割といった感じかな?とはいえ姿は人のベースに近い。
まさにびっくり生物だ。無理やりつなぎ合わせている感じがしてならない。
そして、このびっくり生物はまだほかにも種類がいるようで、そいつらに対しても対抗策を考えないといけないというのがわかった。
とはいえ、ゼランたちもすぐに逃げ出したわけで敵をしっかり見たわけでもないので予測ぐらいしか建てられない。
「問題は、海を越えてやってきたってことだな」
「そうですな。これは一度姫様たちと話し合う必要があるでしょう」
「そうだね。こいつが死んだんだ。連絡が行くのは遅れるだろうが誰かが調べに来ないとも限らないからね」
さて、俺も気になることがある。
結城君たちをどう説得したものか……。
はい、ゼランの証言から魔族だと判明。
しっかりと実験して攻略方法を模索し、田中は色々思うところがあるようです。
それは一体何なのでしょう?




