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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第277射:海より来たる者

海より来たる者



Side:ナデシコ・ヤマト



「ふっ、ふっ……」


私はそんな息をしながら、訓練にいそしんでいます。

ただ走るだけ。ですが確実に体を鍛えることができ持久力もつきます。

そして何より、精神が鍛えられます。つらいと思う心を乗り越えるのです。

戦いで足を止めることは死を意味します。

それを私はこの世界に来た頃よりより強く理解しています。

だからこそこの訓練に手を抜くことはありません。

つらければつらいほど、私は過酷な状況でも止まることはないでしょう。

そして、この訓練をしているのは私だけではなく……。


「ほっ、ほっ、いやー、昔よりかなり余裕があるよね。かなり速度出しているのに」

「そりゃー、レベルとか上がっているからだろう?」


そう、光さんも晃さんも一緒に訓練をしています。

というか、私たちはおまけで訓練しているにすぎません。

私たちの後ろには……。


「はぁはぁ……」

「ぜぇぜぇ……」


多くの人たちが息も絶え絶え走って?います。

彼らは故郷奪還を目指すレジスタンスとなった人たち。

……私たちはレジスタンスと縁があるようですね。

と、そこはいいとして彼らがなぜそんな状態になっているのかというと……。


「歩くな常に走る態勢だけでも維持しろ。これができなけりゃ故郷には連れていってもらえないぞ」


そんなことを言って指導しているのが我らが田中さんだからです。

初めてルーメルでリカルドさんたちを指導したときのことを思い出します。

いえ、あの時訓練していたのは職業軍人、兵士さんだったのでここまでひどくはありませんでした。

今は軍人でもないただの避難民の人たちを戦えるようにするために訓練しているところです。

元々体力づくりも何もしてなかった状態だったのですから、走るだけでも一苦労な状態です。


「そうだ! この程度軽くこなせなくてあの怪物たちに勝てると思うな! これがこなせなければ仲間の命を悪戯に奪うだけだ! 気合を入れろ!」

「「「お、おう!!」」」


ゼランさんの言葉に少しだけやる気を取り戻す人たち。

でもすぐにまたバテテしまうでしょう。

それが現実です。

ですが、それでいいのです。

そのつらさが明日の力になります。

今日一日で立派な兵士になるなんて田中さんたちは思っていません。

ここからが始まりなのです。……地獄の。



とはいえ、そこは故郷を取り戻したいと思う人たちです。

私たちのように巻き込まれて強制されて仕方なく訓練に参加しているわけではありません。

自分たちの意思で戦うと決めた人たちなので、根を上げることなく淡々と田中さんの出す基礎訓練をこなしていきます。

ひたすらノルマンディーの町を走ることと、筋トレをこなしていきます。

ですが、それは着実に彼らに力を与えていきます。

気が付けば、最初は一日かかかっていたメニューを半日でこなし、最終的には1,2時間で終わらせ、戦闘訓練へと入っていくようになりました。


ここまでわずか一か月程度。

まあ、それにも理由があります。

それが私たちです。

通常そこまで訓練を詰め込みすぎると筋肉などは回復する前に確実に損傷を起こし動けなくなるのですが、私たちにはそれを治す手立てがあります。

そう、回復魔術です。ちゃんと筋肉痛の原理を知っている私たちは毎日訓練に付き合いながら魔術の練習という名目のもと田中さんに言われて治療にあたってきました。


避難民の訓練もはかどり、私たちの魔術の実力向上にもつながるというなんて得な行動だと田中さんは言っていましたが、どう考えてもモルモットに色々やってみようとする感じにしか見えませんでした。


なぜなら回復魔術は治療する。つまり元の状態に戻すということ、ですから訓練の意味はなくなるのではないか?

という疑問を解消するために田中さんを回復魔術をするように言っていたのです。

幸い、回復魔術は筋肉痛だけを取り除き、鍛え上げた時間を無駄にするものではありませんでした。

ですので、短期間のうちに訓練の内容が向上していきました。



そうやって、彼らが訓練をしている間に私たちはヨーヒスさんから人魚と話ができるように調整してもらい、その日を迎えました。


「いやー、人魚ってどんなだろうね」

「光、普通に人魚は人魚だろう。上半身は人で、下半身は魚」

「ですわね。光さんはどんな人魚がいると思っているのですか?」


道中光さんがやけに不思議なことを言います。

人魚のイメージなんて、晃さんが言うように上半身が人で、下半身が魚でしょう。

ヨーヒスさんのように、上半身が魚に近く、下半身が人の場合は半魚人といいます。

まあ、ヨーヒスさんは顔は人で、少し鱗が付いているくらいでそこまで人との違いは感じませんでしたが、話を聞けば顔が魚に近い人もいるようで、そっちの方が私としては興味深いのですが、そこは失礼に当たるかもしれないのでそういうことはいいません。

と、そんなことを考えていると、光さんはこちらを信じられないって感じで見ながら。


「誰もそんな当たり前のことなんて聞かないよ。僕が気になっているのは、美女度合い! ほら、人魚って全員美女っていうじゃん! どんな美人さんか興味あるよね! ね! 晃」

「おいっ!? そっちに話を持っていくかよ!」


ああ、なるほど。そっちの方向でしたか。

確かに人魚は美人であるという話はよく聞きます。

どんな美貌を持つ女性が現れるかは確かに気になるところです。

そして……。


「晃さん。美人に目が行くのは光さんの様子を見てもわかりますが、ヨフィアさんがいるのにあまり露骨にしてはだめですよ」

「撫子お前もかよ!」

「そうですよー。人魚は確かに美女と聞きますが、私のことを忘れないでください―」


そう言ってヨフィアさんは晃さんに飛びつきます。

最近こういうスキンシップを見慣れてしまったのは、ヨフィアさんが晃さんの彼女さんであると認めたからでしょうね。

と、私たちにはそんなことを話ながら進んでいるのですが、後ろからついてきているユーリアは不思議そうな顔をして……。


「なんでアキラ様はこまっているのかしら? 勇者様なのだし、財力も問題ないのですから妻は複数娶って当然ではないでしょうか? エルジュはなぜか知っているかしら?」

「えーと、平民は一夫一妻が基本みたいですし、そういうのはだめだと思っているんじゃないですか?」

「ああ、なるほど。勇者様とはいえ、向こうでは普通の学生といっていたものね。あれ? でも学生って貴族ってことですよね? それなら複数の妻や妾は当然じゃないかしら?」

「うーん。私たちの常識が、勇者様たちの常識ではないって感じだと……」


……なるほど。そういうことですか。

エルジュさんは私たちの常識を理解しているようですが、ユーリアさんは私たちのことを理解できていないのですね。

まあ、ハーレムみたいなことをヨフィアさんも言っていました。

晃さんはこれからそういうことを迫られるということですね。

はぁ、欲望にまみれるとは思っていないですが、注意はしないといけないかもしれません。

まさか人魚に手を出すとは思えませんが、仲間にすると言われても下半身が魚の人を連れて歩くわけにも……。

そう考えていると、突然港の方角から叫び声が聞こえてきました。


「きゃぁぁ!!」

「ば、化け物!」


そんな声が聞こえたと思ったら、その方角から多くの人たちがこちらに向かって走って逃げてくるのが見えます。


「意外と人魚が不細工だったのかもな」

「「「……」」」


田中さんの言葉に全員が沈黙します。

確かに人魚は美女だとはいいましたが、あくまでそれは私たちのイメージ。

ヨフィアさんたちも実際に会ってはいません。

そうなると実際は今のように人が逃げ出すほどの怖い容姿なのでしょうか?

そんな不安を抱えつつも私たちは港にたどり着くとそこで見たのは……。


「ひゃはははは! こんなところに港があるとはな! 逃げた連中もいる! これは戻って報告しないとな!」


化け物が上半身だけになった人を握っている姿でした。


「「「……」」」


それはあまりにもいびつ。

魔物というには無理があります。

無理やり付け足したような人の腕らしきものに、怪物の腕、足も人の足もあれば馬のような足もくっついています。

ただいびつ。そんな化け物がたたずんでいて……。


「その前に、ここを掃除しておかないとな! あっちでは不完全燃焼だったからな!!」


そういうなり、化け物はこちらに視線を向け。


「じゃ、死ねよ」


ゴッ!


「ぐぅう!?」

「「撫子!」」


化け物がいきなり目の前に移動してきてその手を振るいます。

私はとっさに剣を盾にしますが、あまりの力に壁まで吹き飛ばされてしまいます。

とはいえ、そのまま壁にたたきつけられるような間抜けではありません。

とっさに体をひねり壁に足から着地して衝撃を和らげます。


「一体なんのつもりですかっ!」


私は剣を引き抜きつつ化け物に対して、反射的に質問をします。

しかし、化け物はこちらの言うことには興味がないようで、私に視線を向けつつ……。


「あん? 生きてんのか? へぇ。本当にあいつらの言ったとおりだな。厄介なのがこっちにはいるみたいだ。だが、俺ならヤレル! あの臆病者たちとは格が違うんだよ!」


そう言って襲い掛かってきました。

しかし、戦闘態勢をとったいま、その動きはしっかりととらえています。

周囲にいる晃さんや光さん、そしてヨフィアさん、ユーリアさん、エルジュさんも構えています。

全員が反応できています。

これなら対処できる。


そう思っていたのですが……。


ズドン!


そんな発砲音と共に、化け物はピタッと止まります。


「なるほど。体に風穴を開けられるのはやっぱり駄目なのか」


田中さんの声がそう聞こえたと思うと。


ズドン、ズドン……。


続けざまに二回の発砲音。

そして化け物は。


「これ、は……じ……」


最後まで言葉を言うことはなくそのまま倒れ伏します。

流石に胴体に、大きな穴を三つも開けられれば死んでしまうようです。


「さてこの化け物の処理は俺がやるが、結城君たちはどうする?」

「え? あ、はい! けが人の治療に当たります!」

「あ! 了解! 任せて!」

「はい。すぐに治療にあたりましょう。ヨフィアさん、領主様に連絡を」

「はいはーい! お任せください!」


こうして私たちは慌ててけが人の治療にあたるのですが、あの化け物は、まさか……。



ついに到着しました。化け物が!

とはいえ、田中さんの容赦ないオーバーキルで絶命。

こいつらの正体はなんなのか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 渡ってきたってことはそこそこ体力あるのかぁ 使う側か使われた側か 場合と状況によってはユキ案件だな 一部の特殊要員貸してもわらわんと
[良い点] 銃知ってるっぽいかな。
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