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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第272射:絶望のお話

絶望のお話



Side:タダノリ・タナカ



「いやぁ、助かったよ」

「いえ、暴動が起きる前でよかったです」


ゼランの言葉に聖女さんがそう返す。

このゼランという女が避難船団の代表者。

あれから俺たちは避難船団の方へ物資の運搬を行い、落ち着いたところで船の船長室で話をしていた。


「……ああ、正直危ないところだった。食べ物は十分に足りてなくて、どうしたもんかと思っていたところだったよ」

「だから、貴方自ら交渉に来ていたわけね」

「そうだよ。いつもの配給量じゃ足りないから何とか増やしてくれってね。この町が限界なのはわかっていた。でも、頼まないと餓死者がでそうだからね」


態度は堂々としていて、代表者を務めているだけあるんだろう。

まあ、地球の常識が強い俺としては女リーダーっていうのは珍しいけどな。

しかし、俺の周りには女リーダーが聖女に魔王、そして王女といるからこの世界の常識じゃないんだろう。


「そこまでですか」

「ああ。これでもこの町に迷惑はかけられないって切り詰めていたんだけどね。どうしても足りなくてさ。だから本当に助かったよ。で、約束の話だったね。今ここで聞くかい?」

「はい。お願いできますか?」

「わかった。夜は長い。飲み物を頼む」

「はっ」


ゼランは部下にそう指示を出した後、椅子に深く座りなおす。


「さて、聖女様たちが聞きたい話だけど。さて、どこから話したものかね。本当に色々あったからね」


国から逃げ出してきたんだ。

そりゃ色々あっただろう。

だから、当の本人はどう話していいか困るってわけだ。

どこから話せばいいと声をかけてやればいいんだが、こういう情報を聞きだすのは聖女さんたちは慣れていないようだな。

まあ、軍や国のトップが尋問に慣れているっていうのもおかしい話か。

ということで、俺から切り出すことにしよう。


「色々あったみたいですね、ゼランさん。じゃあ、私の方から質問をさせていただいても?」

「ああ、いいよ。こっちもどう話せばいいかわからないからね。そっちの方が助かる。えーと、タナカ殿だっけか?」

「ええ。タナカで結構ですよ。では、まず基本的な情報として……」


俺はそこからまず、前提となるゼランたちが暮らしていた国の規模を聞いて書き留めることにする。


国の名前:シュヴィール王国

政治形態:王政、合議制

国家の方針:港を使っての外国との物資のやり取りを主とする収益体制、現状維持。

歴史:300年の歴史を誇り、シュヴィールの現国王は現在11代国王

魔族が来るまでの国の状況:国とぶつかることはなく、落ち着いていた。


「なるほどな。国民はどれだけいたとかわかるか?」

「さあ、そういうのはお役所の仕事だからね。私は交易船団の取りまとめの娘だっただけさ。まあ、どこまで正しいかはわからないけど、父さんの話を聞けば大体王都だけで20万ぐらいだったかな?」

「意外と大きな国なんだな」


ルーメルと同じぐらいだ。

つまりは、この大陸の4大大国と同レベルの国だってことだ。


「ああ、船を使った交易で繁盛していてね。世界一の造船技術を持っているんだよ。まあ、船を使った交易だから船が作れて当然だけどね」


納得の回答だな。そうでもないと海に逃げようなんて思わないだろう。

さて、今までは彼女にとって誇らしいことだったが、これからは嫌な話になる。

俺はあえてお茶を飲み一息入れて口を開く。


「ふう。じゃ、ここからはちょっと辛い話になる。その平和で交易が盛んな国で何が起こってここまできた?」

「……」


俺が単刀直入に聞くとゼランの顔から笑みがなくなる。


「言いたくないのは重々承知だ。何せ故郷を捨ててまであてのない船旅に出るんだ。それだけひどいことが起きたってことだ。とはいえ、話で聞いている魔族がこちらに来る可能性もある。ここのメンツは国を背負う連中だ。ただ単に大変でしたゆっくりしてくださいで済ませるわけにはいかない」


俺はそういうと、聖女さんもお姫さんたちもうなずく。

そう、ただの善意では動いてない。

こちらの平和を乱されるようなことは何としても止めたい。

ようやくこっちも落ち着き始めているからな。

で、ゼランの方だが覚悟を決めた感じで息を吐く。


「ふぅー。当然の話だね。来るかもしれない脅威は知っておかないといけない」

「そういうことだ。で、その魔族っていうのが現れたのはいつだ?」

「そうだねー。始まりはあるうわさだった」

「噂?」

「ああ、私たちのシュヴィール王国はさっき話した通り、海に面した国だ。主に海に対して強い国っていうのはわかるよね?」

「ああ。それはな」

「だけど、逆に手が届かないところもある。森深くの山脈とかさ」

「内陸ってことか」

「そう。海ではめっぽう強いけど、陸地の方はてんでダメというか線引きしていたんだよ。シュヴィール王国は海、ほかの国は内陸ってね。そうでもしないとずっと戦争だよ」


なるほどな。

すみわけをちゃんとしていたわけだ。

平和ってのは妥協も必要だからな。

多くを持つものはねたまれる。各国から袋叩きだ。

そういうバランスが自然と取れていたわけだ。


「と、話をもどすけど、その内陸の国から変な噂が流れてきたんだ。大山脈の向こうから怪物がやってきたってね」

「怪物? 魔物?」

「ああ、ヒカリの言う通り私も最初はただの魔物だと思った。実際よくある話だからね。海でも見たことのない魔物に襲われて船が沈没するなんてのはよくある話さ」

「やっぱり、海にも船を沈没させるような魔物がいるのですね」

「あはは。ナデシコそんなに警戒しなくていいよ。そういうのは稀さ。そうでもないと、海で漁もできない。まあ、人を食う魔物程度は山ほどいるから、ちゃんと手練れじゃないといけないのは確かだけどね」


サメがいっぱいいるようなものか。

とはいえ、そんなところは地球にだってごまんと存在している。


「で、噂の魔物が噂じゃなかったってことか?」

「ああ、そうそう。いつまでたってもその噂が消えないのさ。どこの冒険者が討伐したとか、軍が鎮圧したとか、そういう話はなくてさ、どんどん被害だけが聞こえてくる。ついには国が落ちたなんて話も出てきた」

「国が落ちたね。そこまでになれば状況は把握できたってことか」

「そうだよ。そんな噂が聞こえてきたからお父様が慌てて情報を集めた。で結果が……」


・敵は魔族と名乗っているらしい

・その魔族は大山脈の向こうから現れて、多数の魔物を率いている

・魔族と魔物の攻勢により、複数の小国がすでに滅亡し大国が連携して交戦している状態らしい


「えーと、大国と大国が協力して戦っているってかなりの大ごとじゃないか?」

「ですねー。大国が戦いで手を結ぶってだけでも異常ですよ。それだけその魔族っていうのが強力だったってことでしょうけど」


結城君とヨフィアの言う通りだな。

大国が協力して魔族退治とか規模が戦争レベルだ。

ただ強力な魔物が出てきたって話じゃない。


「そうだよ。ありえないぐらいの大事だ。むろん私たちがその情報をつかむころにはシュヴィール王国も支援に動き出した。一番内陸から遠いからこそ、援助を怠れば真っ先につぶされるからね」

「確かにな。ついでに、そっちの損害だけで終わらせたかったんだろうな」

「ああ。大国が手を組んで魔族と戦うようになってからは難民があちこちに押し寄せた。つまり、国土を焼かれているってことさ。そんなことになれば復興にかかる労力や資金はとんでもないものになる。早期の解決をどの国も祈ってた。だからこそ支援を惜しまなかったし、逃げてきた難民も何とか受け入れて混乱を起こさないようにしていた。いつか魔族を倒して故郷に戻ると信じていたからね……」


そういうゼランは悲しげだった。

結果は聞かなくてもわかってるからな。

ここにゼランたちがいる。

それが答えだ。


「結局、その魔族を押し返すことはできなかったわけだ」


本人から答えを言わせる前に俺がそういう。


「……ああ。魔族の連中は後方の国々が支援していることに気が付いたみたいで、後方に魔族の部隊を送り込んでからはひどいもんさ。よく大国が魔族相手に戦っていられると驚いたもんさ」


肯定してくれたゼランから言われた内容は俺に強い衝撃を与えた。

敵は組織化している。

後方遮断ができるほどだ。

しかも物資を断つとか、並大抵の戦略じゃないぞ。

地球でも敵の補給線を襲うとか、使い捨てに近いからな。

敵の後方にどうやって忍び込むか。それを考えるだけでも一苦労だ。

それを成功させるっていうのがどれだけか……。

そんな感じで俺が敵の組織化に驚いている間に話はすすむ。


「そして、ついに私たちがいる港町まで魔族が攻めてきた。たった5匹。5匹の怪物に町の兵士や冒険者はなすすべもなく殺された。どうにかなると思っていた。でも、違った。本当にどうにもならなかった。父さんや領主様たちが囮になっているうちに私たちは船にありったけの避難民と物資を積み込んで海上へと逃げたわけさ」


たった5匹の魔物に港町が壊滅とかどんな冗談だ?

どこかのアメコミの怪物でもでてきたのか?

いや、そうか、この世界はそういう世界だな。

レベルの高い魔族っていうのが攻めてきてなすすべがなかったわけだ。

あれだな。中世の世界に戦車とかなら5両もいれば壊滅するだろう。そういうものだと思おう。

とはいえ、最後は断片的すぎるな。

強襲を受けて逃げ出してた。それだけだ。

そしてなにより。


「なんでこっちにやってきた。こんなたどり着けるかわからない大陸よりも交易しなれた港に行く方がいいんじゃないか?」


そう、わざわざこっちに来る理由がない。

交易船団のまとめ役の娘だ。商人としても顔が売れている。

そっちに逃げた方がましだろう。

だが、その質問をうけたゼランは肩を落として下を向いてた。


「いったさ。よくいく港、4件まわった。全部つぶされていたよ。そのたびに増える避難民。そして減る物資。もう、この土地に逃げる場所はないってね」


おいおい。そこまで敵は用意周到か。

港をつぶすって完全に干上がらせる寸法だな。

とはいえ、つぶされていた? なのに避難民はいる?

ああ、補給路だけをつぶす作戦だから人を殺すことには執着しないか。

うん。完全に軍隊じゃん。

俺はそう深く確信する。

となると、あとは……。


「魔族っていうのは結局どんなのなんだ? このでかいおっさんや、小さい子、そしてこの女性みたいな感じか?」


俺はあえてゴードル、ノールタル、リリアーナを比較対象にだしてそう尋ねる。

すると、ゼランは顔を上げて何を言ってるんだって表情になって。


「まさか。魔族ってのは人じゃないよ。本当に化け物なんだ」


そう説明を始めるのだった。



気が付いたら撤退するしかなかった。

結構ものすごい状態です。



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― 新着の感想 ―
[一言] 田中たちがやってるのは大陸奪還かぁ......大山脈が気になる ユキ方面と繋がってないよね?
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