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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第267射:今だからこそ

今だからこそ



Side:アキラ・ユウキ



「それって、本当に魔族が襲ってきたってこと?」


マノジルさんの何かから逃げ来たという言葉に、まず反応したのは光だった。

その瞳は絶対に嘘だといわんばかりだ。


「光さん落ち着いて。まだマノジルさんは断定していません。逃げてきたといっているだけですわ」

「そうそう。いい加減落ち着けよ。向こうで言う魔族がこっちで言う魔物かもしれないだろう?」

「あ、そっか。そういうことも考えられるよね」


撫子と俺の言葉で意外とあっさり納得する光。

こいつ、知り合いのことになると瞬間で沸騰するよな。

で、その光を落ち着かせる言葉はお姫様には別の意味できこえたようで……。


「なるほど。認識の違いがあるということですね。確かに別のところからやってきたのならありえそうなことですね」


勝手に納得するユーリア姫。

いや、まあそういう勘違いもあるとは思うけどさ。


「で、サザーン王国としてはこの状況を連合とルーメルに預けていいってことで良いのか?」

「ええ。難民600名の受けいれなどできませんからな。連合の方々に難民の管理をお願いしないと我が国は破綻してしまうでしょう。下手をすれば避難民を殺してでも排除しようとするでしょうな」

「わかりました。物資の供給を最優先にいたしましょう。その後、避難民の行き先を決めます。よろしいでしょうか?」

「はい。ですが、なるべく早くお願いいたします。この城の貯蓄も供出しておりますが、底が見えて来ている状態です。今はまだ船で何とか逃げてきたという経緯での同情から支援をもらえていますが……」

「そうも長くは続かないってことだな」


田中さんがそういうと否定することなくサザーンの王様ははっきりとうなずき苦笑いをしながら……。


「もともと小さな漁港から起こった国です。今では町と港を持ってはいますがそれでも大したことはありません。一時的に助けを求める人を養うことしかできない」


自分がダメな人だという王様。


「民を守るものとして、他所から、しかもあの大海を超えてきた者たちの手を振りほどくことを情けなく思います。私にできることはせめてあなた方のような大国への支援を頼むことです。色々問題を抱えていることも承知です。どうか、かの者たちに剣ではなくパンと暖かい住まいを」


でも、俺の目にはそういって頭を下げる姿は人の上に立つ者だと思う。

誰かのために何かをしようとする。それは王様の姿だと思った。


「サザーン国王の思いは確かに。……私たちにお任せください。必ずや」

「お願いいたします」

「で、方針はまとまったとしていいが。現状はどうなっているんだ? 避難民は話を聞く限り、友好的だと聞こえるが?」

「ええ。今は先ほども言ったように同情的な意見が多いため特に問題はありません。雨風をしのぐ場所も船がありますから」

「そうか。話を聞く分は問題ないわけか。となると、あとは向かって交渉か」

「そうなります。こちらの方から港へ早馬を出しますので、皆さまはこちらで連合軍が追いつくの待って……」


王様は援軍が来るのを待ってノルマンディー港へ向かってはどうかって言いたかったんだろうけど、エルジュがそれを遮って。


「いえ、事情を聴いて争いの気配がないのであれば、早急に向かうべきです。私たちは明日にでもノルマンディー港へ向かいます」

「しかし、聖女様たちだけが向かって……ああ、そういうことですか」


俺や光はよくわからずに首をかしげていたが、エルジュは笑顔で口を開く。


「私は聖女ですから。癒しを求める方は大勢いるでしょう。そして、こちらのヒカリも回復魔術の腕はかなりの物です。私たちが先行する意味は大いにあるでしょう」


あ、そういうことか。

隣で光もうなずいている。

そうだ。回復魔術が使えるならそれだけで人助けができる。

長い航海だったんだ。体調を崩している人だっているはずだ。

それを先行して助けに行く意味はある。

いや、援軍を待っていたら助けられるはずの人も助けられない。


「確かにその通りですな。いや、強かなお方だ。確かにあなた方が先に動けばのちに来る連合軍も受け入れやすいでしょう」


なるほど。そういう意味もあるよな。

助けてくれた人の味方が来るなら受け入れやすい。

いきなりごつい軍が来て助けに来ましたといっても最初は警戒するだろうしな。


「うん。任せてよ。僕たちがけが人を治してみせるからさ」

「はは。気持ちの良い勇者様だ。では、そのためにも早めにお休みになったほうがいいですな。食事を用意いたしましょう」



ということで、話は終わって狭くはあるが部屋に案内してもらって一休みという事になった。

とはいえ、男で一部屋、女で一部屋という状態だ。


「ゴードルさん、狭くない?」


体の大きいゴードルさんはこの部屋は俺よりもいっそう狭く感じているはずだ。


「はは。大丈夫だ。こういうのは慣れているだ。それより、マノジルさんはどうだ? 無理してないか?」

「ほほ。大丈夫ですよ、ゴードル殿。タナカ殿からよい枕や寝袋は頂いていますからな」

「そういえばそうですね。って、そういえばその田中さんがいませんね」


この狭い部屋の中で、田中さんが隠れるっていうのは不可能だ。

どこに行ったんだろう?


「タナカ殿なら姫様と一緒にサザーン王と面会中ですな」

「え? ユーリア姫となんでまた?」


奇妙な組み合わせすぎる。


「別に問題はありませんぞ。今回の件で物資不足はわかっておりましたから、アイテム袋とタナカ殿の力を貸してもらって物資の補充をしているはずです」

「物資のって、ああ、そうか」


田中さんのスキルか。

それなら大量に援助できるな。


「タナカの能力はアスタリ防衛線でばれたからなぁ。ま、詳しくはみんな知らないみたいだけど、変な奴はこの前の晩餐会みたいに来るだろうし、こうして人脈作ってるべよ」

「はー」


俺は感心していた。

田中さんの根回しだけじゃなくて、ゴードルさんの知識の広さに。


「ゴードル殿は本当に博識ですな。流石は将軍様だったわけだ」

「いやぁ。オラはただの農民だよ。四天王なんてのは肩書だけだべ」


でも、その気質はいつでも穏やかだ。

いいな。俺はゴードルさんみたいな大人になりたい。

田中さんは尊敬しているけど、流石にあの人のようになれるとは思えないしね。

と、そんな感じで雑談をしていると、部屋のドアが開いて噂の田中さんが入ってきた。


「おう。狭いな。ゴードルがいてなお狭い」

「わるかっただな」

「すまん。そういう意味じゃなかった。で、マノジル爺さん。どうだ? ここで寝て明日起きれそうか?」

「勝手に殺すでない。心配はいらん。おぬしがこうしてあたたかな寝具をくれておるじゃろう?」

「環境が変わると年寄りってころりと行くからな。ちょっと心配になっただけだよ。その分だと大丈夫そうだな」


そういいつつ田中さんは開いているベッドに腰掛ける。


「田中さん、ユーリア姫と物資の援助に行ってたって聞きましたけど」

「ああ、援助してきた。まあ、俺がほとんど出したからルーメルはさらにこっちに手は出しづらくなっただろうな。ついでに俺たちの立場についてもサザーン王に話してきた。いざという時は力になろうってな」

「本当ですか?」

「ああ。ここの王様は力がないからな、俺たちの立場をよく汲んでくれる。というよりわかってくれたんだろうな」

「そうですか」


俺的には優しい王様だからって感じはするんだけどな。


「んで、おらたちは明日の朝にはノルマンディー港へだべか。海ってどんなんだろうな」

「そういえば、ゴードル殿は海は初めてですか」

「んだ。俺は生まれてこの方ラスト王国で生きてきたからなぁ。意外とアスタリの町に行ったのも大冒険でたのしかっただよ」

「そりゃそうだろうな。しかし、初の海か……。俺も海に行ったのはいつ以来だっけな」

「あー、俺は去年行ってましたね。友達と一緒に」


なんか遠い昔のことのようだ。

去年、来年も行こうと話してたのにこの世界かぁ。

あ、なんか目がうるんできた。なんで今更。

このままじゃ泣きそうだな。田中さんに話をふろう。


「や、やっぱり、しゃ、社会人になると、海に行けないんですかね?」


やべ、平静を装ったつもりなのに声が……。


「そうだなぁ。結城君の言う通り社会人になると休みだからといって遊びに出るのはおっくうになるな。ゴードルはどうだ? 休みの日はどこかに行ったりしたか?」

「おらは農家だからなぁ。遊びにってのはないなぁ。ま、子供のころは城下町を駆け回ってただな。マノジルさんはどうだべ?」

「ふむ。私もタナカ殿と同じですな。休みとなると自室でゆっくりと過ごしますな。遊びに出る元気はどうにも。しかし、若いころは私はあちこちへ旅をしましたな。海を見たときはそのころです」


だけど、みんな俺ことは気にせずそのまま話を続けてくれる。

気を遣ってくれたんだろうっていうのはすぐわかった。


「ああ、若いころなら俺も海は経験あるな」

「いやまて、お主はまだ十分に若いじゃろう。何を昔のように言っておる?」

「だべな。その若いころってそんなに前だべか?」

「傭兵をやってた頃だな。リゾートの海じゃなくて、戦地の海でな。沖合で艦船がやられたみたいで海がオイルで真っ黒で、汐の香りと混ざってすごかったな」

「「「……」」」


俺も想像はつかないけど、ゴードルさんやマノジルさんはもっと想像ができないはず。

なのに沈黙しているのは深くは聞いてはいけない内容だって本能で理解しているからだと思う。


というか、沖合で艦船がやられたって戦場じゃないですか!

そんなところで海水浴……って海の思い出だった。

ここは俺が話を変えないと。


「そうだ。マノジルさんは海に行ったことがあるって言ってましたよね。こちらの世界はどんな海ですか?」

「ふ、ふむ。どんな海といわれると、後にも先にもそれだけでしたからな。とはいえ、初めて広がる海原はすごかったですな」

「海原、水平線ですね」

「すいへいせん? なんだべそれは?」

「あー、ゴードルは地平線も見たことないよな。一面視界を遮るものがなくてな空と大地しかない状態を地平線っていってな、海の場合は海と空しかない光景だよ」

「はー、そんなのがあるんだなぁ」


と、そんな感じで明日の海のことを考えながら話をしていくのだった。



今だからこそ助けるのが勇者と聖女

そして今だからこそ人心掌握を図るのは政治

いやー、人って汚いね!

でも人助けだからいいよね!

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