第262射:内部の蠢き
内部の蠢き
Side:タダノリ・タナカ
「よかったです。そこで帰る方法を探すうえで魔術の国に行って召喚術を解析すれば光明が見えるかもしれないという話があります。そこでルーメルで行った召喚術の技術を開示していただきたいのです。勇者様たちを故郷に返すために」
途中まで笑顔で話していたのに最後にはしっかりした顔つきになった。
おう、流石は連合軍の大将をやっていたわけじゃないな。
のほほんお嬢ちゃんがここまでやるということは、よほど奴に絞られたらしい。
ま、俺にとっては問題ないからいいんだが。
さて、ルーメル王の返事はわかりきっているが、問題は周りの連中だが……。
「「「……」」」
ちっ、顔をしかめつつも文句を言ってくる連中はいない。
ちゃんとルールは守っているか。
まあ、お姫さんを操っていた魔族滅ぼすべし筆頭の宰相も講和がなってから動くわけにもいかんよな。
それぐらいの良識があって残念だ。
何か動けば始末できたんだがな……。
俺がそんなことを考えていると、ルーメル王は口を開き。
「先ほども言ったが。勇者殿たちとは帰る方法を探すと約束をしている。もとより人をさらってくるような召喚という方法はこれ以降使わせる気もない。よって召喚技術は勇者殿たちと聖女殿に託し連合全体で今後の召喚の廃止を呼び掛けてもらおうと思っている。自由に研究してもらうとよい。確かに魔術の国であれば何かしらヒントが得られるかもしれない」
「ありがとうございます」
こうして無事に会談は終了した。
ここで否定とかルーメル孤立パターンだしな。
ここまでルーメルを持ち上げてくれた相手の要求を断るとか今後周りが全部敵になりかねない。
つまり、この話し合いは出来レース。
ルーメルが否定したくてもできない状況なわけだ。
まあ、ルーメル王はコチラと戦争なんてしたくないだろうから、この答えはわかりきっていた。
部下の方はどうかは知らないけどな。
「しかし、勇者殿、いやタナカ殿たちはこれから魔術の国に向かうというわけか」
ちっ、このまま和やかに終わればいいものを。
俺に話を振るんじゃねーよ。
……と言えればいいが、ここで迂闊なことは言えないな。
「ええ。準備が整い次第魔術の国とやらに向かってみるつもりです。まあ召喚技術の情報を集めるのにどれだけ時間がかかるか分かりませんが」
「そこは、姫に責任をもって手伝わせよう。そして関係者である姫、マノジルも同行させよう。そのほうが手間が省けよう」
そうルーメル王がいうと、控えていたお姫さんがこちらに向かって貴族の仰々しい挨拶をする。
……お荷物を持って行けと。
いや、また面倒がありそうだから連れて行けってことか?
逆か、勇者側のメンバーを追い出して自由にやるってことも考えられるか?
とはいえ、大事な情報と人材はこちらに預けた後だしな。
何か企んでいるのは間違いないだろうが、俺たちにはあまり関係なさそうか。
と、いかん。
一応王様が俺たちに気を遣ってくれたんだった。
「感謝いたします。王様」
「うむ。では、これにて連合との謁見は終わりとする。あとは戦勝祝賀会を行うので皆の者、楽しみにしておくように」
「「「おー!!」」」
最後にさらに厄介なことを言って去っていく。
戦勝祝賀会ね。
……俺は遠慮願いたいわ。
そう考えていると、マノジルの爺さんがこちらにやってくる。
「不満そうな顔をしておるのう」
「こんな場所での戦勝祝賀会なんて、面倒な政治のやり取りの場所だ。のんびり飯を食べられるわけがないのに何で不満にならないと思っているんだよ」
「ま、そういう側面もあるのう。とはいえ、メインはあちらの聖女様や将軍ではないか?」
爺さんはそういって聖女エルジュとローエル将軍に視線を向けると、そこには聖女様、将軍様とお知り合いになりたい人々が群がっている。
爺さんの言うように一番人気はこの二人だ。
どちらとも立場も権力もものすごいものがあるからな。
とはいえ……。
「メインじゃなくても勇者っていうネームバリューが欲しい連中もいるだろう?」
俺はそういって今度は結城君たちの方に視線を向けると貴族に囲まれている結城君たちが存在していた。
「まあ、そういう輩もいるじゃろうな」
「これで戦勝祝賀会でゆっくり飯が食えると思うか?」
俺の質問に肩をすくめて苦笑いをする爺さん。
「で、先に連絡していただろう? 準備はどうなっている?」
「いつでもでられる。資料の方は出る前にタブレットに記録しているからのう。まあ、ワシまで旅に放り出すとは思わなんだが」
そんなことを話していると不意に後ろから声がかかる。
「仕方ないだろう。意外と裏では動いているみたいだからね」
「そうか。だが、その情報は聞いてないが?」
「今日会う予定だったからね。まとめて話せばいいと思っていたのさ」
後ろに振り替えると、きれいなドレスを纏ったフクロウが立っていた。
「誰かと思うたら、フクロウ殿か。もうちょっと爺さんをいたわってくれい。びっくりして死ぬかと思ったわ」
「はっ。そう簡単に死んでくれるならありがたいんだけどねぇ。死んだって裏付けの情報だけでどれだけ売れるか。と、そこはいいとして、まさか爺を放り出すとは思わなかったわけさ」
「となると、ルーメル王は爺さんの首が危ないと思っているわけだ」
「だろうね。とはいえ、詳しい話はまた夜にするよ。タナカ殿も人気のようだしね」
「はぁ?」
フクロウは何を言っているんだと理解に苦しんでいると、さらに後ろから声をかけられる。
「タナカ殿」
敵意は感じなかったので振り返ると、勲章をこれでもかと下げたおっさんが立っていた。
「マノジル殿、フクロウ殿とご歓談中に申し訳ないが私ともお話をしていただけないだろうか?」
そういってにこやかに話しかけてくるが、その勲章と後ろの付き人を見るにどう見ても指揮官クラスの人物のようだ。
たく、向こうの世界なら写真付きの資料で調べあげていたが、こっちにはそんなのはないので、そういう軍人や偉い人物の面やプロフィールはさっぱりわからない。
優先的にも調べてなかったからな。
とりあえず、この人物が何者か問いたださないとなと思っていると。
「タナカ殿、彼はモカロ将軍じゃ。ルーメル王国の王都の総指揮官の任についている」
ああ、役立たずの国軍トップね。
というのは、言いすぎか。
将軍といっても国の命令を無視して軍を動かすわけにもいかない。
もともとルーメル王はアスタリの町が落ちると想定していたんだから、王都で待ち構えるって作戦は至極当然だ。
そして、結城君たちが……いや、それがアスタリの町で魔王軍を撃滅してしまって、軍は何をやっているんだといわれることになったわけだ。
とはいえ、そこは俺の責任ではないし、こっちの戦力を読み間違えたルーメル王に文句を言ってくれ。
なので……。
「初めまして。タナカと申します。残念ながら申し上げるべき階級もなければ、所属する国もございません」
「いやいや、貴君は勇者殿たちの護衛であり、あのアスタリの町を僅かな手勢で万の軍を打ち破ったと聞いております。今ではタナカ殿のことを守護者と呼ぶものもいるとか」
「守護者?」
意味が分からない。
何をもって守護者という事だろうか?
敵を撃滅したのは間違いないが守護者はなんの関係がある?
「ああ、タナカ殿はしらないのか。アスタリの町は無傷なのだろう? 周りの堀を掘ってそこにもほとんど魔物を近寄らせなかったと聞いている」
「それが守護者と?」
「でしょうな。古今万の軍に相対して、拠点の防壁に触れることなく撃退したという話は聞いたこともありませんからな。通常防衛とは防壁を盾に戦うものですからな」
あー、そりゃそうだな。
何のための防壁かと言いたくなる状態だ。
とはいえ、それはこっちの世界での常識だ。
俺たちの常識ではいかに敵を先に叩き潰すかが大事だ。
そもそも重要拠点に目前に敵が迫っている時点で防衛するという概念がない。
すでに防衛拠点は廃墟かもぬけの殻になっているからな。
現代の軍事拠点はいかに攻め込まれないではなく、いかに侵入者を防ぐかに重点が置かれている。
戦争方法の違いってやつだな。
で、このモカロ将軍が言っていた意味は分かった。
「なるほど。そういう意味で守護者ですか。それなら納得です。で、私に話とは?」
さっさと面倒な話を済ませたい俺は先を促す。
いちいち俺が有名になった理由とか聞いても仕方ないからな。
とりあえず、アスタリでの一件はすでに広まっているとみていいだろう。
一応口止めはしておいたが、子爵もいたんだ。国の方へは筒抜けだろうしな。
だからこそ、俺はこの将軍が次に話すことが予想できてはいたが……。
「ああ、そうでしたな。タナカ殿、貴君が魔物退治に使った道具。我がルーメルに是非とも提供してもらえないでしょうか?」
「なるほど。国防を預かる者として当然の答えだな」
簡単だ。俺が使った兵器群はすでに奴によって知られているし、ルーメルの方にも人づてに伝わっている。
何より、ジョシーが城の中でドンパチしたからな。
この王都に住んでいるなら知っていて当然だ。
まあ、だからといって提供する必要性はない。
「断る」
「なぜでしょうか?」
「逆に聞く。なんで和平が結ばれた今武器が必要だ?」
「これは異なことを。タナカ殿も兵士ならわかるはずだ和平が成ったからといって守らなくていいわけがないと」
そう詰め寄ってくるモカロ将軍だが、その顔には威圧感がまるでない。
「道理だが、こんなところで堂々と言うってことは断ってほしいんだろう」
と、小さな声で返す。
そう、このモカロ将軍はわざと聖女さんやローエル将軍の前で武器の提供を望んできた。
他国の重鎮の前でだ。
つまり和平を信用していないというのと同義。
わざわざ連合に喧嘩を売る馬鹿が将軍とも思いたくない。
ということは、わざとこんなこと言ったわけだ。
実際、聖女エルジュもローエル将軍もこちらに鋭い視線を向けてきているからな。
さて、俺の予想は正しかったのかというと……。
「ええ。ありがとうございます。アスタリの町の話を聞いて道具を……という連中も多くてですね」
「で、代わりに要求してみたってことか」
「はい。詳しいことは戦勝祝賀会が終わって夜に陛下と」
「大変だね将軍も」
「ええ、馬鹿どものしりぬぐいをするのも大変ですよ。と、そろそろ演技に戻ります」
そういうと、俺の眼前から離れて大袈裟に残念そうにする。
「決意は固いようですね。ですが、あきらめませんよ。私も国のためですから」
「勝手に頑張ってくれ」
こうしてわざとらしい茶番劇は終わりをつげ、戦勝祝賀会へと突入するのであった。
すいません。予約投稿するのを忘れておりました!
さてさて、ルーメル内部はいまだにいろいろあるようです。




