第261射:過剰な歓迎
過剰な歓迎
Side:アキラ・ユウキ
「「「うわー……」」」
俺たちは目の前の惨状を見てそう声を漏らしていた。
「仰々しい迎えはいらないといったんですけどねぇ」
エルジュはそういいながら苦笑いをしている。
それもそのはず。なぜなら目の前には……。
「お待ちしておりましたわ。聖女エルジュ様、そして連合の方々。ルーメルはあなた方の訪問を歓迎いたします」
と、ユーリアお姫様が後ろに大勢の兵士を控えて出迎えてくれていたからだ。
「我慢してくださいませ。エルジュ。訪問前に早馬を出したのです。我が国も面子上こうせざるを得ません」
「なはは。なれだなれ。こういうのは気にせず、放っておけばいい。あとで練兵場でアキラと訓練だな」
「うえっ!?」
なんか気が付かないうちにローエル将軍の対戦相手に指名された。
この道中でローエル将軍とは何度か手合わせしたけど、まったく勝てる気配がしない。
剣も魔術も綺麗に盾で捌かれてしまう。
剣とか盾にぶつかったのか分からないほどだ。
まあ、高火力で広範囲の魔術を使えばどうにかなると思うけど、それって訓練じゃないもんな。
「やめてください。ローエルお姉さまが訓練を始めればただではすみませんから。将軍としてルーメルに来ているのを忘れないでください」
「将軍だからこそ、隣国であり友好国の力量は把握するべきだとは思わないか? 勇者に将軍が手ほどきをする。素晴らしいことではないか」
「ええ。その通りですね。ただ今回はちゃんとこのように……」
そう言ってお姫様は一つの書類を取り出し……。
「シャール様、ヒギル様、シェーラ様にも面倒があれば簀巻きにして放り出してよし。と許可を頂いております」
「あいつら!?」
お姫様であり将軍に対してなんつー扱いだと思う反面。
それぐらいしないとこの人は止まらないような気がするのはわかる。
「あはは……」
「ほら、エルジュも否定していませんし?」
「エルジュ!?」
「え、えーと、ローエル姉さま。……少しおとなしくしてください。私の方もちぃ姉さまに今後腕試ししないわよって、言えと」
「がーん!」
どうやらローエル将軍の味方はいないようで、その場に膝をついてがっくりするのをみんなして見ているだけになる。
「さ、連合の皆様。こちらへどうぞ」
「無視するなぁ!」
「はいはい。ローエル姉ちゃん、私が相手になるから」
そういってローエル将軍に手を差し伸べたのは光だ。
「ヒ、ヒカリー! お前だけが私の味方だー!」
「ぐえっ!? ちょ、ギブギブ!」
「はいはい。そこまでだよ。ローエルいい加減に遊ぶのはやめな」
「はぁノールタルがそこまで言うなら仕方がない」
「そんな風に遊ぶから扱いがひどいんだよ」
「遊んでたの!?」
「いや、8割は本気だったかな?」
「「「なお悪いです!」」」
うん。一斉に全員が突っ込む。
「なっはっはっは! まあ話は分かったし、ユーリア案内してくれ」
「まったく、本当にお変わりありませんね」
「おう。このような大歓迎を受ければノールタルやゴードルも認識されるというのはわかるがな。もっと前もって連絡をしろ」
「……それについては申し訳ありません。以前のようにこっそり来られると紹介をする機会をなくしてしまうので」
「「「あっ」」」
そういえば、そんなことあったな。
いや、俺たちがどう扱われるか分からなかったからなんだけどな。
ノールタルさんセイールさん、ゴードルさんはなおのことだし。
「何をヒカリたちが悪いように言ってるんだ。お前たちがやってきたことは把握済みだ。せめてヒカリたちぐらいには優しくしてればいいものを」
「……そういわれては何も言えませんわ」
「ま、ユーリアだけが悪いわけでもないがな。ルーメルというか、今まで魔族のことをほったらかしにしていたツケってやつだ。だからこそ、私はヒカリたちに手を貸す。野暮なことは考えるな」
ローエル将軍がそういうと一気に辺りがものすごい殺気に包まれる。
その気配に飲まれて誰も……。
ズビシ!
「いったー!?」
「いちいち脅しでそんな殺気をまき散らすな」
そう言いながらローエル将軍の頭にチョップを入れたのは田中さんだった。
いや、意外でもなんでもない。
田中さんなら動けるよな。
「あと、結城君たちもこれぐらいで飲まれるな。ルーメルの兵士たちもだ」
「す、すみ……」
俺がそう謝ろうとすると……。
「「「申し訳ございませんでした! 戦技教官殿!」」」
「「「は?」」」
なぜかルーメルの兵士が一斉に敬礼をして挨拶をした。
そしてその状況に一番驚いているのはなぜかお姫様だった。
「いや、なんでお姫さんが驚いているんだよ」
「驚くに決まっています! なんでタナカ殿が教官なんですか!? そんな役職につけたことないですわ。一体何をしたのですか!」
「いや。俺も知らん。で、そこの隊長。理由は?」
「はっ! タナカ教官殿が鍛えてくれた近衛隊から指導を受けました! 私たちは弛んでおりました! それを教えてくれた教官には感謝しております」
「あー、あいつらをボコって鍛えたことはあったな。それか」
「はっ! 今ではリカルド隊長がタナカ殿の教えを守り兵士たる心得を持ち訓練に励んでおります! 武器がなくとも戦い抜く覚悟を!」
「「「……」」」
いや、立派なことだと思うんだけど。
なんか田中さんの部下に見えるのはなんでだろう。
「そうか。ま精々励んで死なないような。お前らを鍛えるのには金がかかっている。生き残って国に貢献するのが一番報いることだ」
「「「はっ!」」」
「って、タナカ。私を無視して話をするなよ。チョップしたのに無視はどうかと思うぞ!」
「別に大層なことをしていたわけじゃないだろう。殺気まき散らして相手を委縮させてただけだ。ここにずっと居座っても他の通行人に迷惑だ。さっさと行くぞ」
「「「はっ!」」」
田中の言葉に素直に従う兵士たち。
相変わらずお姫様は唖然としている。
「えーと、お姫様。一人ってまずいと思うから、一緒にこない?」
「はっ!? わ、私を置いていった!? ……はぁ、ヒカリ様。お言葉に甘えます」
という感じで、なぜか田中さんが兵士を引き連れて戻り、お姫様が俺たちを連れて戻るというなんか変な感じになった。
いや、まあローエル将軍たちと一緒に戻るんだから、相手としては間違いではないと思うんだけど……。
なんか間違っている気がするのは気のせいじゃないだろう。
「よく来てくれた。聖女エルジュ殿。そして連合の英雄たちよ」
そういって謁見室でエルジュたちと話しているのはルーメル王だ。
俺たちが来ることは連絡していたので待たされることなく、即謁見という運びになった。
「急な訪問にもかかわらずこうして謁見の機会を頂いて感謝しております」
「構わぬ。コチラもそちらと連絡を取らねばと思っていたところだ。ではさっそく話をといいたいが、まずは、ロシュール王、そしてガルツ王はご壮健であるか?」
「はい。父、陛下は今も現役です。最近はアーリアお姉さまに後を引きつぐといって少し自由になっているのかよく城を抜け出しています」
「ははっ。あの御仁らしいな。して、ガルツ王はどうか? ローエル姫」
「はっ。我が父も健康に一つも不安なく、最近ではロシュール王と遊んでいることが多いです」
「ふむ。本当にロシュールとガルツの戦争は終わったのだな?」
そう確認を取っているルーメル王はどこか安心した表情だ。
「はい。魔王デキラの戦略でもてあそばれましたが、何とか持ち直しました」
「……そうか。うむ、よかった」
あれ? なんだろう魔王デキラの戦略のところで顔がゆがんだ気がする。
……まあ、気のせいか。
「と、すまぬな。勇者殿たちに説明をしなくてはな。私はロシュール王、ガルツ王とは友人の付き合いをさせてもらっていてな。両国が争うと聞いて、どちらにつくこともできなかった。魔王の仕業だったとはな。私が間に入って止めるべきだったかもしれぬ」
ああ、そういうことか。
魔王デキラが動きだしたことに責任を感じているのか。
まあ、元をただせばルーメルが前王の時に攻め込んだのが原因だし、なんともフォローはしづらいよな。
「いえ。状況が状況でした。ルーメルが下手に動いては……」
「アスタリの町に侵攻していた魔王軍を止められなかったでしょう。決してルーメル王は間違った判断をしておりませんでした」
「はい。その通りです」
「うむ。聖女殿と盾姫殿にそういっていただけたということは決して間違いではなかったのだろう。しかしながら、連合に参加できなかったこと。ここにまずお詫びさせてもらおう。すまなかった」
そういってルーメル王が謝罪を口にする。
「それも謝ってもらうことではありません。ルーメルがアスタリで魔王軍を受け持ってくれたからこそ、私たちは勝利をつかむことができました」
「それに、そちらの一騎当千たる勇者殿たちを援軍として送って頂いたこと。忘れてはおりません。我ら連合にはルーメルも供にあったと思っております」
「そうか。各国はそう判断しておるのだな?」
「はい。ルーメルはともに魔王と戦ったと」
「なるほど。その様な気遣い感謝する」
あー、今気が付いたけど、これはルーメル王が連合からどう評価されているのかを聞いたってことか。
そして、エルジュたちはルーメルは一緒に戦ったと証言したわけだ。
これで連合に参加してないという風にはならないってことだな。
「して、少々遠回りしたが用件をうかがおう」
「はい。今回の同盟に参加したという証を作るために同盟の参加書類の署名と、その署名の証として、支援物資をガルツ国境の町に集めていますので、受け取りをお願いします」
「支援物資か。これで対外的にも物の動き的にも協力したという事になるわけか」
「これで無用な騒ぎは避けられるかと思います。そして最後にお願いがございます」
きた。
俺たちのことだ。
「ふむ。かまわぬ申してみよ」
「此度の戦い。間違いなく勇者様たちの活躍があってこそ、こうして一同顔を合わせることに成功しております。私たちは勇者様に恩があります。その勇者様たちが帰る方法を欲しているのはご存じでしょうか?」
「うむ。それは知っておる。こちらの都合で呼び出したのだ。帰る方法を探す約束はしておる」
「よかったです。そこで帰る方法を探すうえで魔術の国に行って召喚術を解析すれば光明が見えるかもしれないという話があります。そこでルーメルで行った召喚術の技術を開示していただきたいのです。勇者様たちを故郷に返すために」
そうエルジュは言い切った。
その表情は決して妥協はしないという普段の彼女とは違う厳しい顔をしていた。
意外とちゃんとできるエルジュとローエル。
そしてリカルドの手によりタナカ派閥が形成されつつあり。




