第260射:情報網
情報網
Side:タダノリ・タナカ
「今日はお世話になるぞ、アスタリ子爵」
「かの有名な盾姫様をお迎えできること誠に光栄でございます。手狭な屋敷ではありますが、どうぞおくつろぎください」
「うむ。感謝する」
そういって挨拶をしているのは、ローエル将軍とアスタリ子爵だ。
俺たちは今、アスタリの町まで到着して、一休みをしているところだ。
正直に言えば、俺は冒険者ギルドの方で世話になりたかったが、周りがどうしてもというのでアスタリ子爵の屋敷に泊まることになったわけだ。
「しかし、この町に魔族と魔物が押し寄せたというが、その痕跡はないな。てっきりエルジュが遺体の浄化や治療をしないといけないかと思っていたが」
「ですね。大きな戦いがあったと聞いていましたから、けが人も大勢いるかと思ってたんですが」
ローエルとエルジュがアスタリに寄りたいって言ったのはこういう理由もあったのか。
てっきり貴族のあいさつだけかと思っていたが、戦後処理手伝いも考えていたわけか。
なるほど、そういうフォローをすればルーメル国内での評判も上がるわな。
これも外交ってやつか。
しかし……。
「ご配慮感謝いたします。ですが、そちらの勇者様たちのおかげで被害を最小限に抑えられましたので、ご心配には及びません」
「ほう。ヒカリたちが頑張ったわけか」
「あ。そういえば、ここって戦車を……」
そうつぶやいた聖女さんはこちらに視線を向けてくる。
おっと、そういえば奴の知り合いだったな。
となると戦車の存在も知っているはずだな。
とりあえず釘をさしておくか。
「聖女さん、そっちのほうはあんまり口に出さないでくれると助かる」
「はい。それは重々に承知しています。ですが、あまり意味はないかと……」
「どういうことだ?」
「えーっと、アスタリでの戦いはあの人が映像記録を各国の王たちの前で……」
「まじか」
「はい」
あの野郎。
……しかし、各国が下手に干渉してこないのはそのおかげもあるか。
ま、こっちの戦力を知って手を出してくる可能性もあるだろうが、今後の交渉を考えると俺の戦力をばらされているほうがやりやすいか。
「え、えーと、下手にルーメルと勇者様たちに干渉するなって言ってくれたのはあの人なので……」
「ああ、わかっている。ある意味正しい牽制方法だ」
とはいえ、俺の手札がさらされたってことになる。
まあ、あれだけが手札じゃないが、その方向性で予想されるだろうからな。
……ち、編成の考え直しだな。
そもそも砲撃しか指示できないというのも致命的だ。
何とか動くように操作できればいいんだが。練習する場所にも気を遣うからな。
と、そんなことを考えているとアスタリ子爵がこちらにやってくる。
「今度はこちらによって頂き何よりです」
「俺の意見じゃない。周りがアスタリ子爵の家に出向くべきだっていうからな」
「そうですか。それは皆様に感謝しなくてはいけませんね。それでルーメル王都に向かう理由は?」
「聞いてないのか? 普通に連合軍のあいさつのためだ。あとは俺たちが帰る手段を探すために許可をもらいに行くってところだな」
「帰る手段の許可ですか? すでにそれは頂いているのでは?」
「まあな。後出しでもいいだろうが、それだと揉めそうでな。俺たちを呼び出した技術の解析をしたいって申し出があったんだよ」
隠そうかとも思ったが、どうせ王都でいうことだから素直に伝えることにする。
このアスタリ子爵はルーメルに忠誠を誓っている軍人だからな。
下手をすると暗殺されかねん。
ま、やられるつもりはさらさらないが。
「ああ、そういうことですか。確かに勝手に情報提供してはルーメル王都の連中はいい顔をしないでしょうな」
「おかげでこんな大物たちを連れて移動だよ」
「はは、それは大変ですな。で、その旨の連絡は?」
「すでに連合軍の方から早馬が行ってるが、子爵の方からも頼めるか?」
「わかりました。出しておきます。しかし、ここまで徒歩ですか?」
「あの森を馬車で抜けるのは無理だしな。今後の道中は馬車でも用意するさ」
正直ローエル将軍は走っていくとか言いそうだが。
「ルーメルのメンツにかかわりますので、私の方から馬車と護衛を出させて頂きます」
「今更メンツとかいるか? と言いたいがいるんだろうな」
「ええ。連合軍の代表たちがアスタリの町に寄ったのに徒歩で王都に到着などというのは、アスタリの町の評判もおち、ルーメルの名も落とすので配慮していただきたい」
「そこは俺じゃなくて、将軍たちに言うんだな」
結構ローエル将軍は肉体派だからな。
ああ、でも聖女さんに話をすれば通るかもな。
あっちは押しに弱いから。
まあ、度が過ぎれば周りが守るだろうが。
そこらへんはよく編成しているとは思う。
「じゃ、あと上手くやってくれ。俺の方は冒険者ギルドの方に顔を出す」
「ああ、彼女たちと顔を合わせないのは不義理ですからな」
「そういうのじゃないんだが。ま、そういうことにしておいてくれ」
という事で、俺は結城君たちにも冒険者ギルドの方に顔を出すといって屋敷をでる。
結城君たちはついてきたがっていたが、聖女さんや将軍の付き添いもあるのでそうもいかない。
何より、ソアラとイーリスに挨拶って言うのもないことはないが、本当の目的は別にあるしな。
「しかし、ちょうどいい時間だな」
外はすでに夕焼けに染まっていて、そろそろ酒場が繁盛する時間帯だ。
冒険者たちも戻ってきて金をもらっているころだろう。
俺は空を眺めながら足早に冒険者ギルドへと向かうと……。
「「「かんぱーい!!」」」
どうやら、仕事が終わった冒険者たちがギルド備え付けの酒場で盛り上がっているようだ。
おかげでこっちも気にせずに話ができるってもんだ。
仕事している連中に話しかけるっていうのはどこでも気まずいからな。
と、そんなことを考えながら冒険者ギルドのドアを開けて中に入る。
「あ、タナカさん」
「「「タナカさん!?」」」
受付の女性がそう叫ぶと、酒盛りをしていた冒険者たちも全員こっちを見る。
「よう。元気そうだな」
「「「おおー!!」」」
俺がそう挨拶すると、全員が雄たけびを上げる。
いやー、躾しすぎたとは思うが、これはこれでやりやすいのでいい。
とはいえ、俺のことを知らない冒険者もいるようで。
「え? なんだあのおっさんがどうかしたのか?」
「お前知らないのか? アスタリ防衛戦で取り仕切った人だぞ」
「あー、魔物数万相手を相手どって守り切った? え、でもその人って将軍じゃないのか?」
「将軍じゃねえよ。ただの冒険者。しかもレベル1」
「レベル1!? 流石にそれは嘘だろう?」
なんか向こうは向こうで盛り上がっているな。
「タナカの旦那! 今日はどうして?」
「いや、仕事の途中で寄っただけだ。お前たちも景気よさそうだな。防衛戦の金がまだ残ってるか?」
「ああ、残ってるちゃ残ってるがもう心もとないな」
「ま、いつ死ぬか分からない職業だ。金の使い方には文句は言わんが、下らん死にかたはすんなよ」
「おう」
そんな感じで冒険者たちの酒の席で色々話して情報収集をする。
俺たちがラスト王国に再び向かったあとは特に問題なくこの冒険者ギルドは稼働しているようだ。
取りこぼしの魔物をちらほら討伐しているという話が主だな。
そんなことを考えていると、不意に珍しい女性から声をかけられる。
「下が騒がしいかと思えば、あなたが来ていたのですか」
「おや、今日は子爵の屋敷に泊まるんじゃなかったか?」
声のしたほうを向くと、二階から降りて来たソアラギルド長とイーリス副ギルド長がいた。
「ああ、結城君たちは子爵の家に泊まる予定だ。俺は連絡で抜け出してきただけだ」
「連絡? ああ、なるほど。あれですね」
「とはいえ、ここに来る前にルーメルには連絡しているんだろう?」
「してはいるが定期連絡は必要だからな。子爵のところからも早馬を出してもらっている」
「まあ、当然のことではありますね」
「連絡は大事だしな。で、なぜ冒険者たちと飲んでるんだ?」
「そりゃ、仕事の息抜きは大事だよな? なあ、お前ら?」
「「「おう!」」」
俺の言葉に反応して笑う馬鹿ども。
「はぁ。あなたに言う必要はないかもしれませんが、後ろの馬鹿どもは飲みすぎないように。閉店で寝こけていたら外に放り出しますからね」
「ま、程々にな」
そういうとソアラとイーリスは階段を上がっていく。
「ギルド長たちはまだまだ大変らしいぜ」
「そうなのか?」
「ああ、タナカの旦那が倒した魔物の素材の処理とか大変らしいぜ?」
「そうそう。あれだけいい魔物素材だからな。俺たちも随分稼がせてもらったが、それを引き取るギルドはあちこちから融通してくれって言われているみたいだな」
「なるほどな」
俺からすれば、供給が不安定な材料を使う武器とか整備性に難ありで絶対に使わないんだが、冒険者たちはそういうレアな武具を好む。
まあ、勲章みたいなものなんだろうな。
確かにそれ相応に性能があるのは認めるが、俺としてはナンセンスだ。
で、この素材を集めている場所がどこかってところだな。
集まっていなければそれはそれでいいが、どこかに集中的に物資が集まっているなら、厄介事だからな。
「情報集め感謝する」
俺はそういいながら金貨を一人一人に渡す。
「おいおい。タナカの旦那。これはもらいすぎじゃねえか?」
「いや。お前らの冒険者としての情報はそれだけの価値がある。ま、これからの情報集めもあるしな。よろしく頼む」
「おう。任せとけ! っていっても、俺たちは普通に冒険するだけでいいんだよな?」
「ああ。生きて情報を持って帰ってこい。結城君たちが家に帰る方法を探すためだからな。お偉いさんが信用できないとは言わないが……」
「まあ、あの兄ちゃんや嬢ちゃんたちを素直に手放すとは思えないか」
「そうだ。お前らは商売敵なんだ。いなくなってくれたほうがいいだろう?」
「はっ。そこまで腐っちゃいねえよ。帰れるところがあるならそのほうがいいに決まってら。なあ?」
「「「ああ」」」
「けがを治してもらった恩もあるしな。絶対見つけ出すとは言えねえが、協力はさせてもらうぜ」
「頼む。でだ。俺たちの今度行くところだが魔術の国っていうところでな。そこの情報を……」
こうして俺は冒険者という人海戦術で情報を集めるようにするのであった。
ま、精度は高くないがこういう冒険者たちは鼻が利くからな。
更新色々あって忘れてました申し訳ない。
アスタリまで到着。
そして、めんどくさい建前のために色々して。
田中はそのまま情報収集へ。
問題がなければいいけどね。




