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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第258射:条件

条件



Side:タダノリ・タナカ



俺は今、月を眺めながらのいつもの一服を楽しんでいる。

今日も一日が終わる。

相変わらず成果のない日々。

いや、銃の訓練はやっているから、戦力的には成長しているだろう。


「いっそのこと小銃の方も教えてみるか? いや、ないか」


小銃までになると本当に面倒だからな。

ハンドガンはなんとか覚えられたが、小銃、アサルトライフルまでになってくると、さらに分解整備が面倒になってくる。

まあ、整備は俺が毎回新品を渡せばそれで事足りるんだが、そういう楽を覚えるといざという時何もできなくなるからな。


「そもそも、ここに来たのは帰る方法というか、魔術の国に行くための中継点だからな……」


いつまで訓練できるかわからないので、長期的になるであろう訓練はまた今度にするべきだろう。

そんなことを考えながら煙草をふかしていると……。


「あ、あのっ」

「こんばんは。タナカ殿」


そんな声をかけられて振り返ると、聖女さんと魔王さんが……いや、女王さんが立っていた。


「よお。こんばんは」


とりあえず、挨拶をされたので返しておく。


「何か見えますか?」

「ああ、住んでいたところは夜中こんなに星が見えなくてな。毎日飽きなくて済む」


俺はそう言って夜空を改めてみると、満天の星空が広がっている。

こんなのをゆっくり見ているというのも驚きだが、やはり地球より空気が澄んでいるんだなと実感できる。

兵器はこういうのも駄目しているんだな。

そんな的外れなことを考えていると、聖女さんが話しかけてくる。


「あのっ」

「ん? どうした聖女さん。何かルクセン君が迷惑をかけたか?」


この聖女さん、結城君たちと仲良くしているようで、特にルクセン君とは仲が良く日中はよくつるんでいる。

一緒に銃の訓練もしているぐらいだからな。

あいつが教えているのか、銃の扱い方は最初から達者で驚かれていたな。

銃が使える聖女とかどういう状態かと聞きたくはなるが、異世界だしそんなもんだろうと思おう。


「いえ、ヒカリさんは関係ありません。ちょっとタナカ殿にお話がありまして」

「私はその付き添いです」


わざわざ女王様が付きそいで聖女さんが来るとは何か厄介事か?

俺が再び視線を聖女さんに戻すと改めて話し始める。


「魔術の国の件なのですが、まずはタナカ殿に話しておいたほうがいいかと思いまして」

「ああ、なるほど。進展があったか」


ようやく事態が動いたか。

ザーギスはよくやってくれているが、やはり強制転移の効果範囲を広げるぐらいしかできていない。

だが、やっぱり緊急離脱には使えそうなので、結城君たちには覚えてもらっているから、無駄ではないが。

その緊急離脱を使わなければいけない事態にならないことが大事だよな。

しかし、ここまで時間がかかったとなると……。


「はい。簡潔に答えを言いますと、魔術の国への訪問は認められました」

「そうか。で、条件は?」


素直にただ行けるなんてのはないだろう。

ただの観光旅行ではないのだ。

相手の技術を欲しているのだから。


「えーと、その条件が少々私だけでは判断できないものでして……。その召喚されたときの資料を拝見したいと」

「なるほど当然だな。どういう方法で呼び出されたのかというのを調べるのが帰る方法を探すことにつながるからな」

「はい。その通りではあるんですが、ヒカリさんたちを呼び出したのはルーメル王国です。つまり……」


ああ、言いたいことが分かった。


「勝手に情報開示するのは問題があるという事か?」

「はい。ヒカリさんたちを呼び出した召喚技術はルーメル独自の技術です。それを開示しろというのは、タナカ殿だけの判断では厳しいかと」


確かにな。

召喚技術はルーメルの資産だろう。

まあ、俺たちを誘拐したものだから、俺たち……結城君たちからすれば許可を取る必要もない。

と、思いたいがそうもいかない。


「俺たちが許可をもらっている。じゃ、厳しいか?」

「……はい。ヒカリさんたちが帰る方法を探しているのも、そのための行動も認可してもらっているとはいえ、モノがモノです。ちゃんと許可がないと、ルーメルから変な突き上げをされる可能性があります」


そう、国の財産を俺たちが勝手にどうにかしていいわけがない。

ま、許可が出ていると押せないことはないが、反発してくる連中もいるだろう。

そうなれば、下手をするとルーメルからまた面倒なことになりかねない。

確かに逃亡する手段も考えてはいるが、それはあくまでも最後の手段だ。

あの連中が呼び出したのだから、最後まで責任を取れといいたい。

そうなると、俺たちがとる手段は……。


「一度戻って許可をもらってこいってことか」

「はい。私も同道して説明しますので、どうかご検討いただけないでしょうか」


勝手に情報提供するのがダメなら、許可を取ればいいじゃない。

至極ごもっともな意見だ。

さらに、今回の連合軍の総大将である聖女さんも説得に協力してくれるという。

ここまで手札がそろえば、ルーメルは頷ずかざるを得ない。

なにせ、勇者である結城君たちはおろか、連合軍までも敵に回しかねない状況だからな。

とはいえ……。


「そこまで聖女さんが頑張ってくれるのか。気持ちはありがたいが、なぜそこまでと聞きたくなるな」


善意を疑いたくなるのが大人の悪いところか。

政治が絡んでいるんだ。それを考えないわけにはいかない。

だが、その質問をした聖女さんはきょとんとしたあと、即座に……。


「それは、タナカ殿が一番ご存じかと。一番敵対したくないといわれていますから」

「あ、そっちか。納得。そういえば、ずっとこっちにいるから関係者だったの忘れてた」


それだけ、この聖女さんはヤツの気配がないのだ。

あれといると厄介事が起こる。それがないからすっかり抜け落ちていた。


「あはは。まあ、こっちにいるのは私の意志でもありますから」

「意志?」


俺がそう疑問を口にすると、聖女さんは頷いて……。


「はい。自分の意志でこの場に来ることを望みました。この戦争がここまで拡大したのは私も少なからず原因があってのことですから」

「その責任を取るためにってことか」


どんな理由があるかはわからんが、俺が口を出す理由もない。

ただ本人は真剣だからそれでいい。

迷いがあるなら周りを殺すからやめてほしいが、後ろにあいつがいるなら何も心配ないだろう。

そんなことを考えていると、聖女さんはうーんとなぜか首をかしげていて……。


「せきにん、セキニン、責任? いえ、間違いではないのですが、私にとってはようやく見つけたやりがいといいましょうか?」

「ん? ああ、贖罪のためにやっているわけじゃないのか。だから意志か」

「あ、そうです。私がやっているのは間違いを正すためではありません。私が歩いてきた道が、犠牲になった人々が、のちの未来を見て喜んでくれるように頑張ると決めたんです。亡くなった方たちに謝り続けるのは間違いだと気が付かされたので」


おー、びっくりだ。

こいつ意外と心が強い。

普通は自分のミスで死なせてしまったら引きずる奴が多い。

しかも一生涯。

いや、この聖女さんも引きずってはいるんだろうが、後ろを振り返ってはいない。

背負って、それでも前に進むと決めた奴が。


「ま、死者に向かって謝ることは死んでしまったことは間違いで無駄な犠牲でしたって意味だからな」


そんなこと墓前で言われても成仏できんだろう。


「あはは……。同じことを言われました」

「あー。奴も言いそうだな。だが、これで信用できる。聖女さんは自分のわがままで手助けしてくれるんだな」


俺がそういうと、またきょとんとした表情になり、今度は満面の笑みで・・…。


「はい。私は私の意志、我がままを貫くために、勇者様たちの、いえ友人であるヒカリさんのために手助けがしたいんです。あの人は色々考えているでしょうけど」

「そりゃな。いざというときの伝手があればいいとは思うだろうな」


というか、そういうことを考えずに動くわけがない。


「しかし、俺たちについてくるのはいいが、ここはいいのか? 女王さんも?」


そう、聖女さんは魔族との人のつなぎ役だ。

そんな重要人物が簡単に魔族の女王のそばから離れていいわけがない。

仲違いをしたとか思われれば、荒れる原因だからな。


「そこは問題ありません。というか、勇者様たちを助けるのは連合軍、そしてラスト王国の総意です。このままルーメルを無視して動くのもまずいだろうというのもありますから」

「そっちも考えてか。だからついていくってことか」

「はい。私もちゃんとトップに立つ人なんですよ」


そういって胸を張るが、どうにも……。


「まだ中身が追い付いてないな。だから女王さんが付いてきたわけか」

「はうっ!?」

「彼女にはお世話になっていますからね。そしてその姉にも。なにより誰だって初めてはあるものです」

「そりゃそうだ。で、付き添いは何人だ? 連合軍の大将様が一人で勇者パーティーに加わるのはあれだろう?」


要人が、というか国のトップレベルの人物が、一人で他国の者に警護されて向かうとかありえない。


「そうですね。一応連合軍からの訪問ということで、私以外にはこちらのリリアーナ女王に、ガルツからローエル将軍、リテアからはデスト副将軍が同行する予定です」

「……おい。連合軍に参加しているほぼトップたちじゃないか」

「ちゃんと残る人もいますんで大丈夫です。ヒギル副将軍からは是非ともローエル姉さまは連れて行ってくれと言われまして。ローエル姉さまがいると捜索隊が大変だって……。私も大変なんですけどねぇ」


それって体のいい厄介払いじゃねえか。

いいのかよラスト王国の女王さんよ?

という意味を込めて視線を送ると女王さんも苦笑いしながら。


「私たちがいなくても協力できることが大事だという名目もありますし、私たちがルーメルに訪問すれば、嫌とはいえないでしょう?」

「おう確かにな。だが、それって各国からの威圧ともとられかねないと思うが?」


下手すれば連合軍VSルーメル勃発だ。

いや、ルーメル王がそんなバカな選択はしないだろうが、どちらにしろ馬鹿にされたと騒ぐ連中が出てくる。


「そんなことはしませんよ。連合全体でルーメルで魔王軍の主戦力を引き受けてくれたことにお礼を言うんです。そろそろ支援物資も届いたころですし、それをそのまま引き渡すという事にすれば、召喚技術の開示に否とは言わないでしょう」

「と、奴からいわれたか?」

「はい。って、ち、違いますよ!!」


こりゃ、そう動くように言われたな。


「タナカ殿。それぐらいで。別に悪い話ではないでしょう?」

「まあな。話は分かった。結城君たちには明日の朝にでも話を通しておく」


さて、結城君たちはどんな反応をするのかね?



ついに魔術の国への道が開けたが、まあ、お約束。

新しい国に行くには条件がいるのだ!

RPGのお約束だね!

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