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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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257/523

第256射:成果は?

成果は?



Side:タダノリ・タナカ



「ふぅー……」


俺がそう息を吐くと、それと同時に煙が夜空に舞う。

やっぱり、一服はいいね。

最近は朝から昼までは復興手伝いで、午後からは帰る方法を探すために情報収集。

そして夜は明日の英気を養うために休みという、きわめて健康な生活を送っている。


「日本だとこうもいかないからな」


電気がある暮らしは便利なことだが、不便なことも増える。

仕事がいつまでもできるから残業とかな……。

と、嫌なことを思い出しても仕方がない。

気持ちを切り替えて……。


「ここしばらくは成果なしか」


ま、そう簡単に帰る方法が見つかるとは思っていないが、やはり見つからないようだ。


「もともと、ここで見つかるとは思ってなかったけどな」


本命は魔術の国の方だ。

この魔王城、いやラスト王国で帰る方法が見つかるとは思っていなかった。

とはいえ、成果がゼロというわけでもないがな。

ザーギスが初日に見せてくれた、勇者を送還する魔術。

内容はひどいものだったが、こっちとしては、いい教訓になったと思う。

帰る手段が見つかったからといって、それが絶対ではないということ。

遠くに飛ばされて、そのまま死ぬこともあり得るわけだ。

今回の魔術はせいぜい1キロ単位だから、地下や上空にでも投げ出されもしない限りはそうそう死なないだろう。


「上手く使えばいい移動手段になるかもしれないな」


敵に囲まれたときの緊急離脱には便利だろう。

たった一キロだが。一瞬で移動できるのであれば脱出手段として使える。

ザーギスにそこら辺の改良ができないか相談しておくか。


「……あとはどのぐらいで魔術の国とやらに行けるか」


ロシュールを頼らないといけないから、結構難しいか?

こういう窓口が少ない国っていうのは入国はもちろん、中を調べるのも苦労するんだよな。

そんなことを考えながら煙草をふかしていると後ろから声をかけられる。


「おや。そちらにいるのは、タナカ殿ではないですか」


振り返ると、そこには顔色の悪い、いや色白の白衣を着た男が立っていた。


「ザーギスか」

「ええ。そうです。元四天王のザーギスです」


そう、この具合が悪そうな男は、リリアーナ女王の部下であり、ゴードルの同僚でもあった男だ。

俺たちがラスト王国に到着した時から色々召喚技術に関して協力してもらっている。

そして何より……。


「向こうはどんな感じだ? 奴は死んだか?」

「彼がそう簡単に死ぬとは思っていないでしょうに」

「そうか。残念だ。死んでれば一週間ぐらいはゆっくりできただろうに」

「……死亡が一週間で解除されているのはなんですかね?」

「アレが死んだって話が出れば身を隠しているからな。それぐらいは静かだろうってことだ」

「ああ、なるほど。って、結局死んでないんですね」

「アレを殺せるなら殺してくれ。そうなれば俺にとって、いや、世界にとって平和になる」


文字通り、全世界がな。

冗談みたいな笑い話結末にならなくて済む。

そして、それに巻き込まれる俺もいなくなる。


「気持ちはよくわかりますが、無理ですね。私ごときではとても。まだ、タナカ殿の方がお分かりでは?」


どうやら、この男も奴のことはちゃんと把握しているようだ。

あれは殺しても死ぬような奴じゃない。

というか、死んでもよみがえるタイプだから厄介だ。


「わかってるよ」

「しかし、そこまで毛嫌いをしなくてもいいでしょう。ユキがいるから笑い話で済んでいるのですから。彼がいなければ今頃、私とあなたは殺し合いをしていても不思議ではなかったでしょう。ま、私が死亡で終わりでしょうが」

「あっさり自分の敗北を認めるな」

「タナカ殿の使用武器はユキから教えてもらいましたからね。どうひっくり返っても勝てませんよ」


ちっ、やっぱりこっちの情報は筒抜けか。

勝負にならん。


「で、平和はだめでしょうか?」

「あー、それはな。確かに平和なのはいいことだ。間違いない。だが、ザーギスお前自身は平和か?」


俺がそう聞くと、ザーギスを少し驚いたような顔をした後、首をかしげて自分の立場を振り返り、苦笑いになる。


「いえ、平和というか怒涛の日々ですね」

「だろう? あいつらは知り合いを巻き込んで騒動を起こすんだよ。周りが平和でも俺が平和じゃない」

「なるほど。だから来ないのですね。帰還を望むのであれば、一緒にいたほうが確実だと思ったのですが」

「気が付けば、他の魔王とか、国とか戦っていそうだからな」

「ご名答ですね。すでに通り過ぎていますし、今の国とやりあっていますね」


……まじか。すでに次の厄介事か。

あー、なんかタブレットで連絡を取り合った時に話が出たな……。

このことだったか。

やっぱり、本当にあいつらとかかわりあうと面倒にしかならん。

合流していたらそっちのほうに引っ張り出されたに決まっている。

とはいえ、俺個人の意見を言うのはあれなので……。


「俺だけならともかく、結城君たちを巻き込めるか。まだまだ未来があるんだ。平穏に暮らせる未来がな」


とりあえず、結城君たちを盾にしておこう。

こういえば……。


「意外と優しいのですね。聞いた限りでは兵士だと聞き及んでおりましたが」


ほれ、勝手に勘違いしてくれた。

俺が実際やっているのは弾除けなんだがな。

何事も言い様ってことだ。

さて、それっぽい返事をしておくか。


「雇われ兵士だからな。傭兵だ。そこは勘違いするな」

「傭兵ですか。冒険者の確か、戦争専門のことでしたか」

「こっちではそういう言われ方をされているな。だが、残念ながら、地球じゃ冒険者っていう職業が存在しない。傭兵はただ戦争するときの数合わせだ。ま、たまに金持ちの私兵として雇われるときもあるがな」

「そっちの世界は平和だとききましたが?」

「日本は平和だな。だが、どこでも戦争は起こっているってだけの話だ。まあ、魔物なんて物騒な生き物はいないから、相手は人だけに限られるがな」

「それはそれで、せつない話ですね」

「どうだろうな。その人の争いがなければ、俺はこの場にいなかっただろう」


俺がここまでこれたのは戦争の経験があるからこそだ。

いや、ここに来れた理由は主に奴に巻き込まれたという感じがしてならないが。


「で、そっちの話はいいとして、調べ物の方はどうだ? これ以上進展はありあそうか?」

「申し訳ないですが、初日以上の成果はなさそうですね。まあ、私が読んだことのない本や資料がこの城のどこかにあれば可能性はありますが……」

「実質可能性はゼロだな。そんな書庫にないような資料を探しに来たわけじゃないからな」

「でしょうね。狙いを絞ってきているのに、別の場所を調べていては時間が幾らあっても足りません。正直、魔術の国とやらに行く方が早そうですよ」

「やっぱりか」


ここで改めて話を聞いてみたが、やはり帰る方法はそう簡単に見つからないようだ。

期待はしていなかったが、奇跡は起こらないようだな。


「なにせ、召喚魔術ですら確立していない魔術ですし、その逆の送還魔術を探せというのもなかなか難しいものですよ。と、それはそちらも把握していたと思いますが」

「把握はしていたが、結城君たちがどこまで持つかと思うとな」

「ああ、若者たちにはつらいことですね。なら気休めの希望でも見せますか? あと何年後とか?」


ああ、そういうのも手かもな。

それならその数年は踏ん張れるだろう。

だが、そのあとは信頼が崩れて人を信用しなくなる可能性もあるし、自暴自棄になりやすい。

その後始末をすることになるとか俺も流石に面倒だ。

……メリットとデメリットのバランスが難しいな。


「いや、まだ早い。疲れてきたらその時には相談させてもらう」

「わかりました。その時は遠慮なくどうぞ」


これで結城君たちが不安定になった時の後押しもできたわけか。

俺が大丈夫というよりもザーギスやマノジルの爺さんに見当が付いたと言わせるほうが説得力があるしな。

よし、これでラスト王国での方針が決まったな。


「さて、そうなると。帰る方法を調べることより戦力アップが重要だな。トラブルに見舞われて死んだじゃ、目的を達成できない」


トラブルがないことが一番いいことだが、結城君たちは勇者だからな。

トラブルとは無縁とはいいがたいだろう。


「ということで何か戦力アップ出来そうなことはあるか?」

「戦力アップですか……。方向性は、勇者殿たち単体の戦力アップでいいですか?」

「それで頼む。結城君たちが人をぞろぞろ連れていくわけにもいかないからな」

「ま、そうでしょうね。それで勇者殿たちの戦力アップですか。しかし、私は勇者殿たちの実力は知らないのですが、どんなものなのですか?」

「あー、それを言わないと確かに話にならないか」


なので、ザーギスに結城君たちの戦闘スタイルを説明すると……。


「いや、なんで銃を装備してないんですか?」


ものすごく不思議そうな顔をそう尋ねられた。


「銃の方は露見を避けるためだ。銃がばれたときのほうがトラブルが多いのは目に見えているからな」

「あー、そうでした。いえ、迂闊でしたね。こっちは隠蔽が完璧だったのを忘れていました」


ああ、確かに奴なら簡単にやってしまいそうだな。


「まあ、そろそろ教えてもいいかなとは思うが、フレンドリーファイアとかを考えるとな」


というか、銃を簡単に使えるみたいに話しているが、その前の訓練も相当時間がかかるしな。

銃が使えるというのは、引き金を引いて敵を撃つだけではない。

整備やトラブルの知識を吸収してようやく使えるものだ。

生兵法は大怪我の元っていうしな。

素人に迂闊に渡せない。


「そういうところを考えると、銃を装備させるのはちょっと悩みますね」

「それなりに火力のある魔術もあるからな。下手に手段を増やすのもどうかと思ってる」

「なるほど。魔術が達者なら下手に銃を覚えるよりはいいでしょうね」

「ま、渡してもハンドガン程度だな。ライフルとかは無理だ」

「それがいいでしょう。ライフルなどの武器はスティーブに見せてもらいましたが、そう簡単に扱えるものではないというのはわかりますから」


ライフルなんてのはそれなりに訓練をしないと扱えもしない。

リコイルがひどいからな。


「ということで、ちょっと結城君たちの強化案を考えるのを手伝ってくれ」

「ええ。わかりました。ああ、物資の補給などはいいでしょうか?」

「便利な道具があるならそれに越したことはないな」


こうしてザーギスと結城君たちの訓練を考えていくのであった。



とりあえず、新たな拠点では基礎力を上げることになりました。

RPGの基本だね!


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― 新着の感想 ―
[一言] ザーギスってこんなに冷静に話が通じる奴だったのか。なんか新しい一面が見えたな。
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