第255射:楽しい元魔王城
楽しい元魔王城
Side:アキラ・ユウキ
「よいしょ」
俺はそんな爺臭いこと言いながら、肩に乗せた木材をおろしていく。
一つ、二つ、三つ、四つ……。
そんなことをしていると、不意に声がかけられる。
「おー、兄ちゃん力持ちだなー」
「ええまあ。魔力操作は得意なんで」
「なるほどなー。俺よりも強そうだな」
話しかけてきたおじさんが言うように、今の俺は大体4メートル近くの板木材を10枚ほど抱えてきている。
普通なら持てるはずがないんだけど、ここは魔術が存在するファンタジーの世界なんで何とかなっている。
というか、まだまだ余裕なのは驚きだ。
まあ、これ以上は手が物理的に回らないから無理なんだけど。
と、そんなことを考えているうちに木材を下ろし終える。
「ありがとうな。兄ちゃん」
「いえいえ。こんなことであればいくらでも手伝いますよ。でも、結構復興しましたね」
俺はそういって、あたりを見回すと、あちらこちらで家屋の修理をしている人が見受けられ、一か月前の戦いの痕跡はほとんどない。
「連合の人たちも頑張って手伝ってくれたからだよ。って、兄ちゃんも連合の人だよな」
「ええ。そうです」
連合なのは間違いない。
ルーメルから来た勇者もそれに含まれるから嘘は言っていない。
「なあ、兄ちゃん。魔族って怖いか?」
「いえ全然。どこからどう見ても同じ人ですよ」
不意に聞かれたそんな質問に俺は迷いなく答える。
何も変わりない。ただちょっと肌が黒いぐらいで、何も変わらないんだ。
下手すると猫耳がある人のほうが特殊だろうって言えるぐらい。
「そっか。仲良くなれそうだな」
「ええ。仲良くやっていきましょう」
俺とおじさんは固く握手をする。
ただの握手だけなのに、とてもうれしくなってくる。
いいよな。平和って。
とはいえ、まだまだ復興中。
「おーい、アキラ。こっちで手伝ってくれだぁ!」
「はーい! 今いきます! じゃ、おじさんまた今度」
「おう! 今度は一緒に飯でも食おうな!」
そんなやり取りをして、俺はゴードルさんのところへと走ると。
「この大岩を動かすだ。アキラ、身体強化を結構強めにするだ」
かなり大きい大岩があった。
「わかりました。でも、こんな大岩どこから持てばいいんですか?」
大きい岩を動かすって言うのは、ゴードルさんの言うように身体強化をすれば物理的?にできるだろう。
でも、目の前の大岩は表面がそれなりにつるつるで持ち手が存在しない。
持てないものを持ち上げることはできない。
あとは、魔術で吹き飛ばすことぐらいだけれど……。
「あー、そういう時はこうするだよ」
俺の疑問を察したゴードルさんがわかりやすく……。
メキメキ!!
と、大岩に五本指を刺しこんだ。
「指で穴をあけりゃいいだよ。アキラならできるだよ」
「あはは。やってみます」
なるほど、ボーリングの玉みたいにすればいいのか。
うん。そんな方法思いつくわけない。
どこかのバトル漫画でもない限りやろうとも思わない。
と、そんなことを考えながら、指に身体強化を集中させて。
メキメキ!!
できちゃったよ。
失敗するかなーって淡い期待を持ってたけどうまくいった。
なんか魔術を使えるようになって人外じみてきたなー。
と、そんな現実逃避はいいとして、今はこの大岩を運ばないと。
「じゃ、いっせーので持ち上げるだよ」
「わかりました」
「いっせーの」
「よっ!」
ゴードルさんの声に合わせて大岩を持ち上げてみると……。
ゴゴゴ……。
お、浮いた。
持ててるよ。
魔術ってすげー!
……なんかどこかの有名RPGに出てくる一般人Aみたいだよ。
って、そんなことより。
「どこに持っていくんですか?」
「うーんそうだなぁ。そろそろ城に戻って調べものの時間だし、このまま大岩をもって帰るべ。城に戻ったあと石材にでもしてしまうべ」
「はい。って、お城まで!?」
普通に言ってるけど、歩いて戻るだけでも15分コースだ。
「まあ、訓練だと思うべよ。疲れたなら言ってくれればおら一人でもつだよ」
「わ、わかりました。訓練ですね」
とりあえず、ゴードルさん一人に大岩を持って帰らせれば光や撫子からの冷たい目で見られるのは間違いない。
それは避けよう。男として、人として。
ということで、なんとか身体強化を維持しつつお城まで戻ってくると……。
「おー。すごいけど、すごい馬鹿だよね」
「ええ。馬鹿ですわね」
「……はっきり言うなよ」
光と撫子からあきれた様子で罵倒された。
「魔術で浮かせりゃいいじゃん。わざわざ持つなんてどんな修行?」
「わはは。そこまでできればよかっただが、おらはこれぐらいしかできないだよ。アキラには付き合ってもらっただ」
「そういう事でしたか。うちの晃が役に立ったようで何よりです」
「おーい撫子なんかさっきとは180度態度が違ってないか?」
しかもニュアンス的にうちの子供が~みたいな感じになってるし。
俺がそう考えている間にヨフィアさんが近寄ってきて。
「まあまあ、アキラさん。お仕事も終わったんですから、のんびりしましょう」
「そうですね。休憩してから調べものをしましょう」
「もー、アキラさんはまじめですねー。休憩の時ぐらいのんびりしてもいいんですよ? ねえ、ノールタルさん」
「そうだね。休む時はしっかり休むってのは大事だね。今日は城の厨房を貸してもらえたから、私お手製のパンだし、味わってほしいね」
おっと、それは是非とも食べないといけない。
「よし。休もう」
「露骨だよ。晃」
「ですわね」
「2人に言われたくないよ」
「「「あはは」」」
こんな風に俺たちは、ラスト王国に戻ってからは日々を過ごしている。
ルーメルより正直過ごしやすいって思うのは気のせいじゃないだろう。
「はぁ。あの大岩を持ってきたのはアキラさんとゴードルさんだったのですね。力持ちですねー」
「ゴードルに力があるのはしっていましたが、アキラさんも力があるのですね」
「あはは、勇者の技能ですかね?」
「別にスキルでもなんでもいいだべよ。こうして手伝ってくれるのがありがたいだ」
昼食の席には、聖女エルジュさんに、魔王……じゃなくて女王リリアーナ様がいるのはもう慣れたことだ。
「でもさ、あれぐらいならエルジュも持てるんじゃない?」
「ああ、エルジュならできそうですね」
「え、流石に無理ですよ」
「と言いつつも、これぐらいは持ち上げそうですから怖いですね」
「ええ!? って、リリアーナ様も何を言っているんですか。それを言うならリリアーナ様だって持てると思いますよ?」
「そりゃ、持てるさ。私の妹なんだし」
「んだ。リリアーナ様ならそれぐらいできる」
「姉さん、ゴードル、女性に対して力持ちは誉め言葉ではないですからね?」
こんな感じで、もう仲良しでのんびり会話をしながら昼食をしている。
普通、王族とかこういうのは礼儀的にダメというかと思ったんだけど……。
『いえ。ちぃ姉さまたちとはいつも、食卓を囲んでいたのでこちらがいいです』
『そうですね。私もこういった場は話を持つにも必要かと思います』
と、普通に受け入れてくれた。
どうやらウィードでは食卓を囲むのが王族でも普通のようだ。
いつか行ける時が来るといいんだけどな。
と、そんなことを考えていると、ドアが開いて一人の男が入ってくる。
「……なに、皆さんで楽しく食事をしているんですか」
「あれ? ザーギスさん? たしかレーイアさんが伝えに行ったはずですけど?」
エルジュさんが言ったように彼はザーギスと言って、なんとゴードルさんと並ぶ魔王の四天王だったりする。
「というか、そのレーイアもいないべな」
「あ。レーイアさんなら、牧場で牛のお世話をしていましたよ。私たちも手伝わせていただきました」
「そうそう。なんか牛が産気づいたとかで、慌ててた」
「ああ、それで話が言ってなかったんですね。すみませんザーギスさん」
「いえ。エルジュ殿が謝ることでは。あの乳でかの頭が空っぽなだけです」
そして、今話しているレーイアさんというのも……。
「くぉら! 誰が乳でかだ! そんなんだからお前は女に逃げられんだよ!」
胸が超大きい色黒のお姉さんであり、四天王の一人だ。
「ザーギス。貴方とレーイアの仲が良くないのは知っていますが身体的特徴で人をけなすのは褒められたものではありません」
「わかりました。胸に罪はありませんからね。言われたことを3歩歩いただけで忘れるレーイアの頭の中が悪いのでしょう」
「喧嘩なら買うぞ!」
で、見てわかるようにザーギスさんとレーイアさんは仲が悪い。
まあ、本気で嫌っているわけではなく、なんというか体育会系と文化部系って感じかな?
「いい加減にしなさい2人とも」
「「はい」」
流石にリリアーナ女王に逆らうことはなくおとなしく食卓に着く。
「で、遊びが終わったようだが、ザーギス。調子はどうだ?」
そんなにぎやかな食卓を一瞬で静かにさせる田中さんの質問。
以前、この2人が中庭で騒いだ時に、やっぱりというか田中さんが一瞬で鎮圧した。
その結果、この2人は田中さんには逆らわなくなっている。
うーん、四天王を従えるってところ見ると、田中さんが魔王にって、そこよりザーギスさんの話が大事だな。
「そう簡単にみつかれば苦労はしませんよ」
「やっぱり書庫にはなさそうか?」
「やはり初日に見つけたもモノよりまともそうなのはないですね」
「初日っていうと、勇者送還の魔術?」
「ええ。そうですヒカリ殿」
実はザーギスさんと顔を合わせた初日に即座に見つけてくれたものがある。
それが今言った勇者送還の魔術だ。
でも……。
「中身はただ遠くに人を飛ばすだけの魔術でしたが、あれから何か別の使い方でも見つかりましたか?」
「いいえ。まあ、ある程度飛ばす位置を調整できたぐらいでしょうか? 転移の魔術の簡易版といいましょうか」
「飛ばせて、せいぜい1キロだもんなー」
そう、この送還魔術。ただ人を遠くに飛ばすだけの魔術なんだ。
まあ、そういう意味ではテレポートだからすごいとは言えるんだけど……。
「ま、本命は魔術の国だしな。聖女さん。そっちのほうはどうだ?」
「えーと、まだ本国から連絡は来ていませんね。今しばらくお待ちください」
ということで、俺たちのラスト王国住まいはまだ続くみたいだ。
ルーメルよりも楽しい魔王城。
顔見知りも集まってきて、調査は進んでいきます。




