第253射:さっそく戻ってきました!
さっそく戻ってきました!
Side:ナデシコ・ヤマト
「おー! 見えた見えた!」
「本当だ!」
そういう光さんと晃さんが見る先には、かつて私たちが攻め込んだ城が見えていました。
「いやー、以前よりも楽でしたねー」
「そりゃ、以前は森を迂回してたからね。今回は街道を堂々と使えるからね」
ヨフィアさん、ノールタルさんの言う通り、今回は本当に楽でした。
「砦にも泊めてもらえただべ」
「それは、ゴードルさんのおかげだと思いますけど」
そう、普通に宿もとれて、のんびり街道を歩いて元魔王城、いえ、ラスト王国へと私たちは向かっていて、視界に城が映る地点までやってきました。
もう少し進めばラスト王国を囲む防壁が見えてくるでしょう。
でも……。
「結局一か月とちょっとで戻ってきたのがちょっと恥ずかしいですね」
「あー、わかる。あれだけお別れして、あっさり戻ってくるとかなんかねー」
これから帰るための方法を探すために冒険しますって感じで連合軍や魔族の皆さんとは別れましたからね。
勢いよく出ていったのに、忘れ物があって戻ってきたような感じが否めません。
いえ、まさに忘れ物があって取りに戻ったという状態ですけど。
「だな。ちょっと恥ずかしいよな。でもさ、知り合いに会えてうれしいじゃん。なあ、ノールタル姉さん」
「そうだね。リリアーナに会えるからうれしいよ」
「はい。みんな元気かな」
でも、晃さんたちのいうとおり、ラスト王国で別れたメルさんやリリアーナ女王たちとまた会えることはうれしい限りです。
あれから一か月。連合軍はまだ残って復興の手助けをしているようなので、運がよければ、ローエル将軍たちとも会えるかもしれません。
と、そんなことを話しながら道を進んでいると……。
「……い。おーい」
「あら?」
何か呼んでいるような声が聞こえてきます。
気のせいでしょうか?
もう一度耳を澄ませてみますが、その声は聞こえてきません。
「どしたの、撫子?」
「いえ、何か呼ばれた気がしまして」
「後ろに? 前じゃなくて?」
そう、光さんの言う通り、呼ばれた方向はラスト王国の方向ではなく、なぜか私たちが通ってきた後方なのです。
「何か忘れ物でもあったか?」
「そのようなものはなかったはずですが……」
「気のせいじゃない? だって後ろからは誰も……」
と、光さんが言いかけたとき。
ガサガサ……!!
街道ではなく、脇の森から激しい音が聞こえきました。
「おっと、魔物かな? みんな気を付けるんだよ」
「んだ。こんなところでけがをしちゃつまんねーだ」
即座に戦闘態勢をとるノールタルさんとゴードルさん。
私たちもそれに倣って、身構えているのですが、なぜか田中さんだけはたばこを咥えたまま構えることなくぼーっと立っています。
なぜと問いただしている暇なく、ついにはその音が目前までやってきて、茂みが激しく揺れ、ついにその正体が……。
「おっ。街道に出たな」
「あ、ローエル姉ちゃん」
光さんが言ったように、なぜか茂みから現れたのはガルツ王国の王女であり将軍であるローエル様だった。
それでなぜ、光さんが姉ちゃんなどと呼んでいるのかというと……。
「おお!! ヒカリじゃないか! 元気そうだな我が妹よ!」
「うひゃぁ」
そういって光さんを抱きしめてほおずりを始めます。
「こら、ローエル将軍。うちの妹をとるんじゃないよ」
「いいじゃないか、ノールタル。こんなにかわいいんだから」
「わーい。これって両手に花ってやつだよね」
「……全然うらやましくないのはなんでだろうな」
「あー、どう見ても愛というか親愛ですからね。それに、ノールタルさんもローエル様も妹が独立してしまっていますから、姉という単語に弱いのでしょう」
なるほど。
ヨフィアさんのおかげで原因がわかりました。
なぜあそこまで妹という言葉に執着するのかと思っていましたが、ヨフィアさんの言うように、ローエル将軍の妹はみな独り立ちしているはずですし、ノールタルさんの妹はラスト王国の女王。
これでは妹としてああいう風に愛でるのは無理でしょう。
だからノールタルさんを姉さんと呼んでいる光さんを見て、私も姉と呼ぶがいいといったわけですね。
私もそう納得していると、ようやく満足したのか、ローエル将軍が光さんを解放します。
「ぷはー。で、ローエル姉ちゃんはなんで森からでてきたの?」
「ああ、私たちガルツはここ最近、ラスト王国周辺の魔物掃討任務にあたっているのだ。そちらのゴードル将軍が、好戦派が操る大規模な魔物の方は光たちと協力して殲滅してくれたようだが、どうしても残っているものはいるからな。何より魔物は湧いて出てくる」
そういうことですか。
ガルツの皆さんはお仕事で森に入っていたのですね。
「というか、ゴードル将軍はわざと多くの魔物を引き連れてきたのではないか? ラスト王国の民たちが襲われないようにするために」
「んだ。そうでもしないと、畑を耕しているみんなとか襲われて大変なことになるだよ。おらたちもいなくなってたから」
「「「ああ」」」
そういえばそうです。
私たちが強制収容所に来た時魔物の遭遇はほとんどありませんでした。
それはゴードルさんのおかげだったんですね。
本当によく気が利く人です。
「だが、それも昔の話だ。あの戦いからすでに一か月。自然発生の魔物との遭遇が増えてきたわけだ。具体的には畑仕事をしている人々が襲われることが多い」
「よくある話だね。森の中を切り開いて作っている畑だから」
「んだ。それをオラや兵士たちで守っていたんだべだが、その兵力も減ったからなぁ」
「そこで、私たちはしばらく魔物の間引きをやっているという事だ」
「そっかー。でも、ローエル姉ちゃん。この森の魔物って強いって聞くけど大丈夫なの?」
「ええ。確かにこの森の魔物は強力と聞きますが」
ここは元魔王が住む国、そして森は屈強な戦士でも抜けられないといわれた強力な魔物が生息する大樹海。
事実、ルーメルの軍は以前魔王討伐を掲げ向かいましたが、魔王城にたどり着く前に瓦解しました。
それほど困難な場所なのです。
確かに、ローエル将軍が強いのは知っていますが、たった1人危険なのではないでしょうか?
そう、光さんや私の心配を察したのか……。
「ああ、心配するな。私だけで来ているわけじゃない。ちゃんと軍を引き連れているし、装備も一新しているからな」
「え? 軍? でもローエル姉ちゃん1人だけじゃん?」
私の目にもローエル将軍は1人に見えます。
と思っていると、ローエル将軍が現れたところがまたガサガサと音が、しかも大量になり始めてそこから出てきたのが。
「姉さん! いや、ローエル将軍、いい加減先行するのはやめてください! 何のための軍隊だと思っているんですか!」
ローエル将軍の弟さんで副官のヒギル様です。
そして、後ろからやれやれという感じで兵士の皆さんも続々と出てきます。
ヒギル様の言葉から察するに、勝手に1人で動き回っていたようですが……。
「ほら、いただろう?」
当の本人はどや顔で胸を張っています。
いえ、それじゃ軍を連れてきている意味はないのでは? と突っ込まなかった私はすごいと思います。
「いや、人連れてきた意味ないじゃん」
ですが、光さんがツッコんでしまいます。
「でしょう? あなたからも我が将軍に言って……って、ヒカリさんではないですか。それに皆様も」
「よっ。ヒギル殿下」
「いや、それはやめてくださいって言ってるじゃないですか。姉さんの妹に収まっているなら呼び捨てでかまいませんよ。というか勇者様ですから、私のほうがヒカリ様というべきですか?」
「よし。わかったヒギル。だから様づけとかやめような」
実は私たちとヒギル様……ではなくヒギルさんはローエル将軍を通じて出会い、王族でありながら私たちとこうして気軽に接してくれているのです。
「わかっていただけて何よりですよ。ヒカリさん」
「で、ヒギルたちと一緒に魔物退治してたってこと?」
「いや、ヒギルたちがチームで私が単独」
「いやいや。結局ローエル姉ちゃん単独じゃん! 危なくね?」
「そうなんですよ。ヒカリさんから、いやアキラたちからも言ってください。無謀はやめろって、一国の将軍が単独で魔物退治に出るなって」
ヒギルさんの言うことはどう聞いても正しい話です。
ですが、言われている当の本人は全然気にした様子もなく。
「別に私1人で苦戦しないからな。というか精鋭は連れてきているぞ」
ローエル将軍がそういうと、さらに茂みから、ガサガサと音をたてて10人ほどの兵士が出てきます。
どの人たちも隙がありません。
ものすごく強そうです。
「というかなヒギル。お前が率いている軍はあくまで数で包囲して戦うのが基本だ。私が率いる精鋭部隊は単独で複数の敵を、あるいは強力な敵を倒すことを目的としている。同じように同道していては意味がない。それは前も言ったはずだ」
「それはわかっていますが、ローエル将軍が出る必要はないでしょうに。と、これ以上は不毛ですね。で、ヒカリさんたちは、リリアーナ女王に用事だと伺っていましたが?」
ヒギルさんはローエル将軍の説得をあきらめてこちらに話を振ってきます。
「あ、うん。ルーメルでの用事も終わって、帰る方法を探してたら、なんかロシュールの地方に魔術の国ってあるみたいだからそこに行ってみたらって言われてさ」
「ああ、なるほど。そういえばありましたね。確かにあそこなら、ヒカリさんたちが帰る方法、いえ行き来できる方法がありそうですね」
「知っているのですね。私たちはその伝手を頼るため、あとはラスト王国に残っている魔術の知識を調べるために来たのです」
「そういうことですか。実に理にかなっていますね」
光さんと私の説明にすぐ納得してくれるヒギルさん。
しかし、魔術の国は結構有名なようですね。
これはマノジルさんが教えてくれたことに間違いはなさそうです。
多少は希望が持ててきましたね。
「つまりだ。ヒカリたちは魔術の国と縁のあるエルジュを頼ってきたわけだ。いいぞ。私が案内してやろう。どうせ、帰るついでだったんだ。あ、ヒギルお前の方はそのまま警戒だぞ」
「はいはい。わかっていますよ。では、ヒカリさんたち、こんな姉ですがよろしくお願いします」
「おっけー。任せといて。こっちには田中さんもいるからね。ということで田中さんよろしくぅ!」
光さんがそういうと、あくびをしていた田中さんが即座に動き出し。
「ま、まて!?」
「またん。これ以上長話や騒ぎを起こされてもこっちが面倒なだけだ。暴れるなら向こうで付き合ってやるから、おとなしくしてろ」
即座にローエル将軍を組み伏せて、ヒギルさんからロープをもらい簀巻きにします。
「タナカ殿。うちの軍にいてくれませんか? この馬鹿姉を抑えるために」
「こんな仕事はごめん被る。じゃ、行くぞ」
「ちょっと!? 引きずってる! 引きずってるから! 私将軍! 将軍だよ! お姫様でもあるよ!」
今更自分の身分を盾にしようとしますが、田中さんには疎か誰にもその言葉は響きませんでした。
アスタリの町はすっ飛ばし、さっそく戻ってきた元魔王の住処!
いやー、なかなか珍しいよね。
魔王城にとんぼ返りする勇者って。
ん? 最近のなろうではそうでもないか。
とりあえず、ローエル。お前は落ち着け。




