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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第252射:再確認

再確認



Side:タダノリ・タナカ



『はぁ。なるほど、今度こちらに来ると』

「そうだ。聖女エルジュはそっちにいるんだろう?」

『ええ。彼女はよく頑張ってくれていますよ。聖女と呼ばれるのに納得の人物ですね。魔族の中でも人気は高いです』


どうやら、あの吹けば飛びそうな女性は立派に聖女を務めているようだ。

正直、ルクセン君や大和君のほうがまだ戦えそうなイメージがあるくらいだ。

ま、奴の傘下なんだから見た目と中身は一致しないか。

と、そこはいいとして、本題は魔術の国に連絡をつけることだ。


「ならよかった。先ほどの話伝えてくれないか?」

『はい。ロシュール王国経由で紹介してほしい国があるということですね』

「ああ、魔術の国っていう妙な名前だが、そこでなら帰る方法が見つかるかもしれないって言われてな」


マノジル爺さんがそういっただけだが、情報はほかにない。

大国の情報をあさるのはそのあとでもいいだろう。

いつでも連絡してくれって言われてるしな。

そう思っていると、なぜかタブレット越しのリリアーナはいぶかしげな表情になり……。


『タナカ殿。周りに人は? 勇者様たちは?』

「いや、いない」

『そうですか。ならば質問があります。それはユキ殿に手伝ってもらってはどうでしょうか? あの方の方が確実に調べてくれるとは思いますが? わざわざなぜエルジュ殿を頼るのですか?』


ああ、そういえば、リリアーナはこっちと向こうのつながりを知る一人だったな。


「別に難しい話があるわけじゃない。なんか、奴の方は色々忙しいみたいでな。嫁さんたちが妊娠とか、新天地とか言ってただろう?」

『ああ……。そういえば』


どうやら、リリアーナの方もこういう情報のやり取りはしているらしく、納得してくれたようだ。


「それにさっきも言ったと思うが、どちらかというと、ウィードではなくロシュールの方に用事があるからな。それなら聖女エルジュの方が都合がいいかと思っただけだ」

『納得しました。確かに、今ウィードに頼るよりも、直接ロシュールに働きかけるほうがいいかもしれません』


ま、俺の本音はあれに協力を要請すると、見返りで面倒な仕事が待っていそうだからというのがある。

あれを絡ませると面倒にしかならんのは今までの経験で知っている。

あれは傍から見て、あとで報告を受けるぐらいがちょうどいい。


『しかし、帰る方法はなかなか見つかりませんか』

「まあな。簡単に見つかるようなら、誰も問題にしてないだろうしな。そういえば、そっちに寄るんだ。何か帰る方法についてしらないか? 魔族って魔術とか達者なんだろう?」


魔族は魔力の使い方が上手いものが多い。

つまり魔術を上手く使えるという事だ。

それならあるいは、帰る方法につながるものがないかと思ったわけだ。


『むむむ。申し訳ございません。確かに魔導書などは沢山あるのですが、帰る方法と絞るとそこまで私は把握していません』

「まあ、そりゃ女王様だしな。魔術の専門家とかいないのか?」

『……いましたが、今は』


そう言ってリリアーナ女王は口を噤む。


「そうか、この前の戦争で死んだか」


まあ、地球でもよくあることだ。

欲しかった人材は、気が付けばもうくたばっていましたとか。


『あ、いえ。まだ生きています。それは私の目で確認いたしました」

「ん? じゃあ、なんでそんな難しい顔になっているんだ?」

『それが、その魔術の専門家なのですが、元四天王でザーギスといって……』

「ああ、なんか行方不明になってたな。でも、それって死亡扱いじゃないのか?」


所謂MIA、作戦行動中行方不明、または戦闘中行方不明。つまりは死亡が濃厚ってことだ。

この場合、地球じゃ通常の行方不明よりも早く死亡と判断されるため残った家族に遺族年金が支払われるんだが、今回は関係ないか。


『あ、いえ違うのです。どうやら、実験の最中ウィードと交戦したようで……』

「あー。捕まったか」

『はい。しかも、懐柔され、引き抜かれまして……今ではウィードで技術開発を担当しているようです』


そっちかよ。

……なんともひどい話だな。

いや、あれがかかわるなら、研究者や技術者にとってあの環境は涎がでるほどうれしいだろうが。


「まあ、それなら話が早い。そのザーギスも呼び寄せてもらえば蔵書の方で何かヒントになるものがあるかもしれない。頼めるか?」

『わかりました。ザーギスの方も呼んでおきます。では、到着予定はいつごろでしょうか?』

「すでにルーメルは出てて、アスタリの町によって物資補充してからだから、一週間ほどだろうな」

『もう出ているのですか? セラリア様の話だとずいぶんもめる可能性があるといっていましたが』

「ああ、そっちは根性無しどもばかりだったから、何もなかった。おかげで情報集めもスムーズにいっている」


デジタル化は強かったってやつだな。

これで、奴らが放火などしてマノジル爺さんの家を焼いても情報としては問題ない。

物資に関してはマノジル爺さんの私物だからな。持っていくわけにもいかなかったから、襲撃の際の喪失は仕方ない。

まあそっちは別で補えるだろう。

大事なのは知識だからな。


『そうですか。ナデシコたちが無事でなによりです』

「ま、いつそういう政治抗争に巻き込まれるか微妙なところだがな」

『その時は遠慮なく、我が国を頼って下さい』

「ああ、逃亡先に指定させてもらう」


ルーメルよりも外国の方が安全っていうのは皮肉極まりないな。

英雄は戦いが終われば邪魔って奴だろう。

と、そういうのはいいとして……。


「で、そっちに戻るのはいいとして、実際町の方はどうなんだ? 一時的にとはいえ、デキラに占領されていたんだろう?」


こうして普通に女王リリアーナは話しているがつい一か月前までは、その王座を奪われ半年近く王都を空けていたのだ。

俺たちが王都に潜入した時には、貧民街の方はひどい有様だったし、強制収容所も存在していた。

むろん、死体置き場も。


『……嘘を言っても仕方がありませんね。被害は甚大です。物損ではなく人的被害が特に』

「そりゃそうだろうな。でも、抑えられたほうだと思うぞ」

『わかっています。ナデシコたち勇者様たちが先に乗り込んで強制収容所を確保し、我が配下たちと連携を取ってくれたおかげで、この程度で済んだのですが……被害を、家族を失った者たちにとっては、私は国民を、家族を守れなかった無能に過ぎません』


その気持ちはわかる。

よくそういうやつをヤッテきたからな。

理屈じゃないんだ。ただ、感情が先行する。

誰かにこの理不尽をぶつけたくて仕方がない。

その感情をぶつけやすいのが国のトップだ。

いや、分かりやすいというのかね?

まあ、とはいえその反対に、リリアーナ女王がいたからこそ助かったと思う人たちもいるので、そうそう問題にはならんだろうが。


「で、一部の感情は分かったが、全体的にはどうだ?」

『失礼しました。感情的になりましたね。確かに国民は減りましたが、デキラたち好戦派から解放されたこと、また連合軍が快く復興に協力してくれているおかげで、国民はやる気があり、国の機能は一か月ほどでほぼ取り戻しつあります』

「へえ、そりゃすごい」


こういう内乱があった国はしばらく揉めるものかと思うんだがな。


『まあ、もともと国の規模は小さいですから。ほかの村とかもありませんし』


ああ、そうか。

もともとラスト王国はその王都一つだけの小さな都市国家だ。

連合軍が万単位で、しかも救援と復興も前提に物資運んでたんだからそりゃ復興ははやいよな。

そんなことを考えていると、リリアーナ女王の方から質問が飛んでくる。


『しかし、こちらの復興と何か関係があるのでしょうか?』

「いやー。困っているなら、結城君たちは手伝うって言いそうだからな。ノールタルやセイール、ゴードルもいるしな」


地元の人が仲間にいるのに、困っている地元を放っておいて調べたいことを調べられるほど結城君たちは心が強くないからな。

お人よし、人助けをするのが当たり前の日本人の悪いところというべきか……。

で、俺の言葉はしっかり理解できたのか、リリアーナ女王は苦笑いをして。


『ああ、なるほど。では、こちらで手伝って欲しいことを用意しておきましょう。その成果として本のデジタル化を許可いたしますということで』

「それだと助かる。どうも本人たちは大したことをしていないって思いが強くてな。って、なんかデジタル化の言い方がスムーズだな」

『あはは、こちらもユキ殿からお話を聞いてこっそりやっていますから。まあ、魔術関連はそこまで優先度は高くはありませんが』


なるほど。

そっちもあいつが動いているか。

となると、別にそこまで手あたり次第情報収集する必要はないか。

やつの厄介ごとが終わったころに、俺の方から何か情報がないか聞いておけば手間は省ける。

いや、データを回してもらうだけでもいいか。


「お互いまだまだ苦労は絶えないようだ。女王陛下は無理をしないようにな。おっかないお姉さんに怒られるぞ?」

『あはは、そうでした。姉さんも帰って来るのでしたね。そして、私の妹であるヒカリも』


勇者が妹の魔王か。

まったく、面白い相関図だ。


「さて、長々と話に付き合ってもらって悪かった」

『いえ。有意義な時間でした。勇者殿たちが無事なのは、こちらにとっても朗報ですし、また我が国に来てくれるのは喜ばしい限りです。エルジュ様、ザーギスの繋ぎは承りました。どうか、道中気を付けて』

「ああ、また近くなったら連絡を入れる」


そう言って、タブレットの通話を切る。

残るは夜の静けさと、パチパチなる焚火の音だけだ。


「……さて、リカルドにキシュアは魔王討伐任務が終わって昇進して俺たちとは離れて。お姫さんとカチュアはマノジルと一緒に帰る方法を探すために城に残ったか」


俺は改めて現有戦力の確認をする。

何事もなく、というのは事実だったが、結局リカルドとキシュアという使い走りは引きはがされ、お姫さんは約束を守るために、城に残ることを選んだ。


「手数が減るのは痛いがルーメルが何もこちらにつけてこなかったのが不思議だな」


てっきり、こちらの戦力を引きはがしたついでに誰か監視でも送ってくるかと思っていたがそれもない。

これだと、俺たちがほかの国に亡命しても止めようがないと思うがな。


ああ、ヨフィアが連絡役とか思ってるのか?

いやー、あのメイドがそんな忠誠心があるとも思えないな。


「ま、要注意しつつ、帰る方法を探すとしよう」


俺はそう呟いて、夜番を続ける。

設置しているドローンの映像を見続けるのはつらい。


「あー、リカルドとキシュアがいなくなったのは本当に手数として痛いな」




リカルド、キシュア、ユーリア姫、カチュア、メンバーから離脱。

この戦力で、再び魔王の城へ。

彼らは無事にお城にたどり着けるのか?

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