表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/523

第25射:盾のお姫様

盾のお姫様



Side:タダノリ・タナカ



「待たれよ。その馬車。ルーメル王都より来られた、勇者様御一行とお見受けする」


意外や意外。

まさか、お姫様自ら、お出迎えをしてくれるとは思わなかった。

しかも、本日中に来るのはわかっていただろうが、正確な時間は誰もわからない。

つまり、ある程度時間を予想して、この場でずっと待っていたというわけだ。

なので、ルーメルのお姫さんとは、まったく違う印象を持った。

まあ、見た目からして、ユーリア姫とは違うんだが、まずお姫様という感じではなく、キシュアみたいに女性騎士という印象が強い。

立派な鎧を着こんで、将軍という役割を忠実にこなしているように見える。

そして、最初も俺たちが勇者の一行であるのか丁寧に確認してきた。

しかも、他の旅人に軽く挨拶をしてだ。

本当にユーリア姫さんとは大違いだ。

そんな感じで、俺を筆頭に、結城君たちは驚いていて固まっていると、そこはリカルドが動いて無難に答える。


「はっ。その通りであります。ローエル王女殿下。私は勇者様たちのお供を務めておりますルーメルが騎士、リカルドと申します」

「リカルド殿。王女殿下はやめてもらおう。この場においては、1人の将軍である」

「失礼しました。ローエル将軍閣下」

「うむ。わざわざ訂正させて申し訳ないが、有事の際は私も戦うことがあるのでな。気持ちはありがたいが、将軍と名乗らせてもらう」


なるほど。お姫様としてではなく、戦う将軍として来たというわけか。

つまり、お飾りではないという意味か。

そんな挨拶をリカルドがしているうちに、キシュアが結城君たちを馬車から降ろし、ローエル将軍の前へと案内する。

無論、俺も付いていく。


「さて、そちらの若者たちが、異世界より来た勇者殿たちかな?」

「はい。ですが、その前に、この度はローエル将軍閣下自らのお出迎え。ありがとうございます。一行を代表してお礼申し上げます」


そう言って、キシュアが頭を下げると、結城君たちは学生だった性なのか一緒に頭を下げて。


「「「ありがとうございます」」」


と素直にお礼を言う。

それを見たローエル将軍は少し驚いた顔をするが、すぐに元に戻り……。


「いや、わざわざお礼を言われるまでのことでもない。人として、客人を迎えるのは当然だ。しかし、勇者殿たちは丁寧なのだな」

「あ、何か変でしたか?」

「うーん。ごめんなさい。僕たちの所では、挨拶とかお礼は普通に言う所なんだけど……」

「申し訳ございません。ローエル将軍。私たちはまだこの世界に来て一か月ほどなので、こちらの常識には疎いのです」

「ああ、いや。何か問題があったということではない。その態度は好ましいものだと思う。ただ、魔王と戦うために異世界から呼ばれた者と聞いていたから、なんというか、武人のようなイメージがあったのだ」


なるほど。

まあ、よくよく考えれば当然の話か。

戦うために呼び出されたものが、威厳や威圧もなく、挨拶をしてきたら拍子抜けだろう。

強者としての風格も結城君たちにはありはしないからな。


「ああ、なんとなく言いたいことはわかります。でも、僕たちは学生だったんで、そういうのは……」

「まだまだ、リカルドさんたちよりも弱いからね」

「ええ。戦いなんていう命のやり取りはここに来てから初めての経験でしたわ」

「なるほど。勇者殿たちは未だ学生であったか……」


ローエル将軍は呟いて、苦々しい顔つきになり……。


「すまない。私たちの世界のことで呼び出してしまい。学生だからという意味だけではない、向こうでの生活も家族もあっただろう。本当に申し訳ない」


そう言って、頭を下げた。


「お、王女様!? そ、そんな頭を上げてください。別にローエル王女様が悪いわけじゃ……」

「そうだよ。じゃなくて、そうですよ。呼び出したのはルーメルだし、王女様は何も悪くないよ!!」

「ええ。2人の言うようにローエル将軍には何も罪はありません。これから私たちが魔王と戦うために色々協力してくれると聞きましたし、どうかお顔を上げてくださいませ」


そう3人に言われてようやく顔を上げるローエル将軍。

この将軍の真意はわからんが、これで3人のローエル将軍への印象は良い方向に傾いたな。

俺としてもユーリア王女よりはましだと思う。


「ありがとう。本来であれば罵倒されてもおかしくない。勇者殿たちの優しさに感謝を。そして、よければ勇者殿たちのお名前を聞いてもよろしいだろうか?」

「あ、すいません。俺は、結城晃っていいます。ああ、結城が家名で晃が名前です」

「僕はヒカリ・アールス・ルクセンって言います」

「私は大和撫子と申します。晃さんと同じように、家名が大和、名前が撫子と申します」

「これはご丁寧に、改めてご挨拶させていただきます。私は、ガルツ王国第二王女であり、ガルツの将軍職を賜っている、ローエルと申します」

「第二王女ってことは、お姉さんがいるのですか?」

「いえ。兄がいます。この近隣では、男女で分けて数えることはしておりません。一番最初に生まれた子供に第一とつけ、後に王子か王女となります」

「へー。ああ、ローエル王女様みたいにしっかりしてるからかー」

「ははっ、ヒカリ殿。お褒めいただき光栄ですが、よければ王女ではなく、将軍と呼んでいただけるとありがたいです。私は今将軍として来ていますので」

「あ、ごめんなさい。ローエル将軍。これからよろしくお願いします」

「はい。これから、ガルツ国内での安全は私たちが確保いたします故。ご安心ください。では、そろそろ移動しましょう……と言いたいのですが、そちらの男性を紹介していただけますか?」


そう言って、ローエル将軍はこちらに視線を向ける。


「どうやら、お付きの騎士やメイドと言うわけではなさそうなのですが?」


やっぱりスルーはしてくれないか。

ただの付き人で済ませてくれたら楽だったんだけどな……。

俺はあきらめて、素直に自己紹介を始める。


「初めまして。田中忠則といいます。3人のように勇者として呼ばれたわけではなく、巻き込まれる形で呼び出されたものです。幸い、自分が一番年上なので、交渉事などを請け負っております。彼らはそういう経験も少ないので」

「なるほど。そういうことでしたか。言い辛いことを聞いて申し訳ありません」

「いえ。聞かれなければ黙っていたままだったかもしれませんから、聞いてくれてよかったのかもしれません。私はどうやら、レベルが1から上がらないようなので、ルーメルの方では冷ややかな目で見られまして……」

「ああ、話では聞いたことがあります。そうですか、そんな不利を背負って……。ここまで来られたのですね。タナカ殿の在り方は褒められるべきものなのに、評価されないとは……。レベルだけで全てが決まるわけでもないのに」


そう言って、顔を曇らせるローエル将軍。

この人は根っから真面目のようだ。

だからこそ、こういう立場に立っているのだろうな。

気持ちのいい人物は、国の広告塔として使いやすい。


「と、すみません。タナカ殿の紹介をしていただけましたし、ウォールの街へようこそ」


そうしてようやく俺たちはガルツの国境の街、ウォールへと足を踏み入れたのであった。

町中は特にダルゼンの街と変りはない。

同じように活気がある町だ。


「今日はウォール伯爵の屋敷でご宿泊となります」


そう言いながら、ローエル将軍は案内をしてくれる。

その道すがら……。


「ろーえるしょうぐんだー。また、剣おしえてねー」

「ああ、ちゃんと素振りを毎日するんだぞ?」

「また肩車してねー」

「はは、その時には肩車などしたくないと言うかもしれないな」


そんな感じで、気の良いお姉さんという感じだった。

将軍であり王女でもある彼女がこんなに気安くていいのかと思ってしまう。

というか、ユーリア姫さんとは大違い過ぎて、どっちがこの世界のお姫様の在り方なのか混乱してしまう。


「ねえ。キシュアさん。ローエル将軍みたいなのが、普通なの? ユーリア王女は稀?」

「え、えーと、どうでしょうか?」


聞きづらいことを躊躇いなく聞く、ルクセン君。

キシュアが答えられるわけないじゃん。ユーリア姫を肯定すれば、ローエル将軍が変だと、ローエル将軍を肯定すれば、ユーリア姫が変だということになる。

その話を聞いていたのか、振り返り……。


「どちらも間違っていませんよ。私はスキル的に王女をやるよりも、戦闘に向いていたのでこのような立場を取りました。ユーリア姫はユーリア姫で、自分のなすべき立場としてあのような立場をとっているだけですよ。どちらが優れているとか変という意味ではありません。今は、戦争中で話し合うことはないですが、友人であるロシュールの第二王女であるセラリアは、私と同じ戦場で戦う将軍でありますし、私の妹には内政を頑張る者もいます。まあ、ユーリア姫は1人で御兄弟がいないので、姫の座に座るしかなかったのかもしれませんが」


なるほど。レベルやスキルって言うのは、女性の社会進出に大分貢献しているようだ。

地球じゃありえない話だな。こんな中世ヨーロッパ程度の文明で女性が活躍しているってのは。

ローエル将軍とか階級の高い人たちだけじゃない、キシュアもそうだし、ローエル将軍に付き従う兵士は半数は女性だったりする。マジでスゲー世界だ。

そして、ユーリア姫さんの兄弟の話を聞いたことが無いと思ったが、なるほど、兄弟がいないわけか。

だから、あの立場にいるかもしれないって話か。

まあ、あの態度で同情はできないが。

だが、ローエル将軍はそこまでユーリア姫さんを嫌っているようには見えないな。


「失礼ですが、ユーリア王女とは面識が?」

「ええ。まあ、そんなに頻度は高くないですが、定期的に会っていまして、良く懐いてくれ、私も妹のように思っていますよ。私が将軍なのも喜んでくれたぐらいですし」

「なるほど」


ユーリア姫さんにとって、ローエル将軍は敵ではないのか。

俺は敵、結城君たちは味方、その違いは何だろうな?

そんな雑談をしているうちに、ウォール伯爵の屋敷へとたどり着く。


「皆さまようこそ。そして、ローエル将軍閣下、わざわざ出迎えありがとうございます」

「何、私がこれから案内するのだ。当然のことだ。ウォール伯爵は町の仕事もある。気にせず任せてくれ。町を国を、そして臣民を守るのは王族の務め、そして盾姫と言われる私がやるべきことだからな」

「はは、相変わらずですな。ローエル王女は。しかし、御身を軽く見てもいけませんぞ」

「分かっている。だからこそ、こうして前線ではなく、勇者殿たちの案内をしているのだ」

「ほほう。では、魔物退治にウキウキして装備を整えさせていたというのは気のせいですかな?」

「……それは、勇者殿たちが安全に経験を積めるように準備をしていただけであり、私が戦いたいという気持ちがあったわけではない」


顔を背けながら、そんなことを言うローエル将軍にみんなが苦笑いをしたのは致し方あるまい。

もしかして、俺たちがローエル将軍の面倒を見ないといけないとかないだろうな?

そんな不安が出てきた出会いであった。





ローエル王女は相変わらず?いや、昔から武闘派。

そして、妹はシェーラ、シャール、エルジュだけでなく、ユーリアも妹扱い。

妹狂いの姉ローエル。


ユーリア姫とは違うタイプの王女出現で、田中はどう動くのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ