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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第244射:それぞれの目指すもの

それぞれの目指すもの



Side:タダノリ・タナカ



気が付いたら夜になっていた。

魔王退治が終わってから、城を制圧した後は、リリアーナ女王がすぐに陣頭指揮を執りあっという間に治安は回復した。

まあ、どれだけデキラ派がくすぶっているかは分からんが、レジスタンスの連中や、家の中に閉じこもっていた国民はリリアーナ女王のデキラからの解放宣言で、大歓声を上げていた。


……どれだけ独裁政権だったんだか。


もうちょっと、状況を見極めればよかっただろうに。

と、動いたのは結城君たち勇者が召喚されたからだったか。

デキラもある意味被害者か。まあ、パンツ食べた罰だと思えば笑えて天国に行けるだろう。

魔王なんだから、地獄よりも天国の方が堪えそうだしな。


そんなくだらないことを考えているうちに……。


「では、今日の会議はこれにて終了いたします。既に夜になってしまいました。長い時間ありがとうございました」


そう言って、聖女エルジュが会議終了を宣言する。

俺たちは、魔王を退治した後、城に入場してこれからの事を話し合っていた。

ああ、俺たちじゃないな。俺を除いた、国のトップたちが会議をしていただな。

俺はただ、お姫さん……ってここにはお姫様って立場の連中は多いな。

あれだ、ルーメルのお姫さん、ユーリア姫さんが変なことを言わないか。

あるいは、外交圧に屈して変な約束を結ばないかを警戒して一緒に来たのだ。

なにせ、ルーメルはこの戦争では、俺たち勇者しか投入していない状況だからな。

俺からすればざまあみろ。というところだが、国としては顔真っ青だろう。

連合軍にも参加していない。結城君たち勇者からもいい感情を持たれてはいない。


ルーメルで今回発言力を持つのはお姫さんと、リカルド、キシュアぐらいだ。

これで俺たちの行動にケチをつけるのは難しいだろう。

……まあ、この状況を考えると既に魔王を倒してしまったのだから勇者にはいてもらう意味がない。

素直に帰す方法を提示するか、さっさと暗殺したほうがルーメルにとっては簡単か。

戦争状態の方がある意味、結城君たちは安全だったかもな。

いや、そんなことを言い出したらキリがないか。


「タナカ殿?」


そんなことを考えていると不意に声がかかる。

そこには会議が終わってこちらにやってきていたユーリア姫とメイドのカチュアが立っていた。


「ん? どうした?」

「いえ、もう会議が終わりましたので、皆様の所にもどろうかと」

「戻るのか? そっちのローエル将軍や聖女エルジュと話さなくていいのか?」


俺がそう言って視線を向ける先には、ガルツのローエル将軍に、連合軍の総大将である聖女エルジュが何かを話し合っている。

会議が終わっただけで、個人的な話し合いが終わったわけではない。

今から話すことはいくらでもあるだろうしな。

ああ、あいつの嫁さんであるセラリア女王はさっさと会議室を出て行ったようだ。


「ええ。今日のところはこれで終わりです。まずは勇者様たちに会議の内容を伝えなくてはいけません」

「伝えるって別に何か問題があったわけでもないだろう」


今日の会議は戦闘による被害確認と、今後の予定を軽く話しただけだ。

方針としては、ゲート技術を使って今後は物資の運び込みなどをして、食料供給の安定化を図るようだ。

つまり、この時点で魔族の国、ラストは連合から国として認められたって感じだな。

これでルーメルが私怨で攻めるようなことはできなくなったわけだ。

そうなれば、連合から袋叩き決定だ。


「はい。問題はありませんでしたが、この会議の結果を伝えてノールタルさんたちを安心させないといけません」

「ああ、建前上必要か」


俺がそうつぶやいていると、ローエルとエルジュが近寄ってきて……。


「忙しいだろうが、頼まれてくれ。私たちよりお前たちの方が魔族の人たちと仲がいいだろう?」

「私たちのお知り合いはリリアーナ女王とレーイアさんだけですから。布告自体はリリアーナ女王から後日改めて行いますが、まずは勇者様たちから魔族の皆さんに連絡をお願いできますか?」


こういう大規模な話っていうのは、事前に根回しをして周知の事実としてからじゃないと混乱するからな。

ま、レジスタンスと連合が手を取り合ってデキラを倒したんだから、今更ではあるが必要なことか。


「わかった。結城君たちなら喜んで協力してくれるだろう。でも、一つ頼みたいことがある」

「なんだ?」

「何でしょう? あまり難しいことはできませんが……」

「いや、そこまで難しい話じゃない。俺たち、そこのユーリア姫さん、そして結城君、勇者たちご一行はルーメルの意向を無視したわけじゃないが、独断専行している状態だ。だから、ルーメルに対するけん制と何かあった時のフォローをお願いしたい」


俺がそう頼むと、2人とも一瞬何を言っているか分からないって顔だったが、すぐに理解したようで険しい顔つきになる。


「ん? ああ、なるほど。疎まれているってことか」

「実際疎まれているかは不明だがな。ま、勇者としての役割は今日終わっただろう?」


もう、勇者が倒すべき魔王はいない。


「……まさか、勇者様たちを。いえ、考えられないことではないですね」

「ま、専守防衛と指示を出しているところで俺たちが本拠地に殴り込みに行ったからな」


ルーメルの指示を無視したことには変わりないということだ。

命令違反をするような兵士は普通処分される。


「あー、そこら辺を責められかねないってことか。しかし、お前たちは軍属というわけでもないだろう? というか、私も時折突出するがな。あっはっは!」


だが、ローエル将軍は気軽に笑い飛ばす。

やはりこういう軍の規律は現代に比べて緩いようだ。

お姫様が将軍とはいえ上の命令を無視して突出して大した処罰なしで済むんだからな。

現代では笑い事じゃない。更迭の上、強制退役させられるような案件だな。


「笑い事じゃないですよ、ローエル姉様。はぁ。ともかくお話はわかりました。では、勇者様たちの立場も考えまして、明日の会議に参加してください。そこで連合にお願いしておきましょう。今回の魔族への被害が少なかったのは紛れもなく勇者様たちのお陰ですと」

「そう言ってくれるとありがたい。このユーリア姫さんも親父さんと喧嘩してついてきた口だからな」

「……タナカ殿。それは言わないでください。とはいえ、私たちがこの作戦に参加することによって、ルーメルの面目を保つということにもなりますのでそこまで心配はしていませんが」

「ま、ユーリアの言う通りだな。タナカ殿の心配もわかるが、そこまで直接的な行動はとらないだろう。ユーリアや勇者たちの行動を否定したら、勇者たちを評価した連合まで否定することになるからな」


……確かにユーリア姫さんやローエル将軍の言う通り、あからさまに害してくることはないと思うが、ユーリア姫はともかく、ローエル将軍がしっかりと連合軍の否定にまでつながるってことを想像していたのが意外だった。

この将軍、ただの戦闘狂ではないのか?

まあ、将軍なのだからそういうことに頭が回っているのは当然なのだが、今までの言動を見るに驚きだ。


「ま、そちらの言い分もわかるが念のためだ。明日はよろしく頼む」

「はい。ローエルお姉さま、エルジュよろしく願いします。私は勇者様たちを無事に故郷に帰さなくてはいけません。まさか、呼び出したルーメルから鞭を打たれることが無いようにお願いいたします」

「はい。お任せください」

「任せておけ。明日の根回しもこちらでしておく」



そう約束を付けたあと、俺たちは無事に結城君たちが待っている場所へ帰ることにする。

既に日は落ちて真っ暗なのだが、みんなデキラが倒れたことに喜んでいるのか、松明を点けて飲んでいる連中が結構いる。

というか、珍しく夜なのに、松明の灯りで賑やかといっていいレベルだ。


「……皆さん喜んでいますね」

「そうだな。デキラはそれだけ嫌われていたってことだな」


倒されてここまで喜ばれるのもどうかと思うけどな。

勝者に従うってのが世のルールだし、この状況は当然か。

そんな感じで浮かれている連中を見ながら夜道を進んでいると不意にお姫さんが質問をしてくる。


「……タナカ殿たちはルーメルに戻ったあとはどうするおつもりですか?」

「そりゃ、さっきも言っただろう。結城君たちと一緒に戻る方法をさがすんだよ。俺たちの目的は魔王を倒すことじゃない。家に帰ることだ。お姫さんも協力してくれるんだろう?」


俺たちの目的は一切進行していない。おまけの魔王退治が終わっただけだ。

むしろ、これからが俺たちにとっては本番だといえるだろう。

それは、俺たちを呼び出したお姫さんが一番知っているはずだ。

何より、協力すると約束したしな。


「……そうですね。私は約束いたしました。必ず勇者様たちを故郷に帰すと」


そう改めて事実を確認するようにつぶやく姿はどこか哀愁が漂っている。


「なんだ。寂しくなったか?」

「……はい。ですが、この約束を破っては姫として、いえ、人として最低となります」

「姫様……」


傍についているカチュアが心配そうにお姫さんに声を掛ける。

とはいえ、俺からすればバカらしい話だ。


「別にそう悲しむ必要もないだろう。ただ帰すっていう一方通行じゃなく、こちらに来れる方法も確立するだけでいいんだからな」

「簡単に言ってくれますね」

「ただ帰して終わりってのもつまらないからな。結城君たちもそれは寂しいだろう。仲良くなっているんだしな。それぐらい叶えるのが、器ってものだろう?」

「……そう言われては、探さなくてはいけないですね。時間はかかりますよ?」

「それぐらいわかってるさ。行き来できる方法を探すなら、きっと結城君たちも喜んで協力してくれるだろうさ」

「でしたら、きっと見つけられます」


お姫さんの瞳にはやる気がみなぎっている。

いや、発破をかけて正解だな。


というより、一方通行とか誰が通るか。

誰かが戻ってこないと信用できん。

トンネルの先は海の底だったり、天空の彼方だったり、果ては宇宙だったりするかもしれないからな。


あ、このこと結城君たちにも伝えておかないとな。

帰れますよって言われてホイホイついていかないことってな。

……知らない人には着いていかないって、子供か。




そして、これから新たな目的のために動き出します。

勇者たちは帰還を目指して、お姫様は行き来できる方法を探して、田中は生きるために。


さて、これからいったい何が起こるのか。

まずは世界を救った? 勇者たちのその後が始まります!


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