第242射:決着
決着
Side:タダノリ・タナカ
俺は今、兵士たちを見下ろしながら、屋根伝いに城へと走っていた。
「思った以上に進軍が早いな」
『メルの親父さんだったか? その人が上手くやってくれたおかげで門を突破できたんだよ。お前からお礼を言っておいてくれ』
「そういうのは、リリアーナとか、あのセラリアとかいうのに任せた方がいいだろう」
俺からのお礼なんて、何の足しにもならんからな。
そういうのはちゃんとしたやつに評価してもらってこそだ。
『それもそうか。しかし、そっちも意外と早くレジスタンスを連れてきたな』
「こっちもメルの親父さんに仕掛けてもらってたんだよ」
『嘘つけ。門が吹き飛んでたって、かく乱役の騎馬隊が驚いてたぞ。お前が仕掛けたんだろう?』
「その事前準備もあったから上手くいったんだよ」
『ああ、そういう事か』
「で、現在の状況は? 俺の援護がいらないなら戻るぞ?」
そう、俺がわざわざ屋根伝いに城へと向かっているのは、魔王もどき退治のためだ。
今、まさに連合軍が城へと近づいて、魔王デキラを倒そうとしているのだが、その状況ははっきりわかっていない。
『いや、まだ倒してない。というか、いまからお待ちかねのラスボス戦だな。デキラが今喰われたところだ』
「演出もばっちりか。で、兵士の一団が下がっているのが見えるが……」
『ああ、魔王の役をやってもらっている魔物に吹き飛ばされただけだが、結構重傷者がいるな。そこは後ろにいるエルジュに任せればいいだろう』
「はっ。連合軍の総大将を呼び捨てとは偉くなってるな」
『そりゃ、姉の方が嫁さんだしな』
「……お前が結婚したとかジョークにしか聞こえないな」
『俺もだ。っと、そこはいいとして配置についてくれ。一応、連合軍の指折りの連中が戦っているがどうなるかわからん』
はぁ、結局俺は仕事をしないといけないか。
「場所は?」
『城の前の跳ね橋入口だな』
「狙いやすい場所でありがたい限りだな」
『おう。俺に感謝しろ』
「やなこった」
俺はそう言いながら、城の前へとたどり着くと、そこには妙な人型をした怪物と、それと対峙している人物たちを見つけた。
「あの女はガルツのローエルだったか? それと、あの男たちはリテアのクラックとデストか。そして……一人は分からん。ロシュールの国章を付けているからロシュールのやつか」
『ああ、アレスなんとかっていうレベル100越えの強い奴らしいぞ』
「そうか。レベルとか言われてもわからん」
『お前はレベル1だしな。この世界は分からん事ばかりだよ』
「お前たちの方が俺からすれば意味不明なんだよ」
奇想天外の4人組が。
と、そこはいい。
今は各国の強い奴が魔王もどきと戦っているのをフォローしないといけない。
しかしながら、敵のパンチで地面が陥没したり、踏み込みで地面にひびが入ったりするのを見ていると、どこかの2流SF映画を見ているようだ。
だが残念なことに眼下で行われている戦闘は事実だ。
とはいえ、一発貰えば終わりのような攻撃をかいくぐって、ダメージを与えているように見える。
「敵のバランス悪くないか? こっちは一発でも貰えば死にそうだが?」
『いいんだよ。ここで簡単に勝利されてもそれはそれで困るからな』
簡単に魔王もどきに勝ってしまうと、自分たちは強いんだと誤認してしまうバカはいるからな。
それが魔族への侮りと差別につながりかねないってわけだ。
しかし……。
「それもそうだが、下手するとあの連中死ぬぞ?」
そう。前線で頑張っているあの4人が死ぬのはそれはそれでまずくないか?
『まあ、不味いが。美談に出来るしな。俺としてはどっちでもいい。助けたいなら助ければいい』
「薄情なことで」
そんな会話している間にも眼下で戦いは繰り広げられている。
おっと、今のは危なかったな。
とはいえ、紙一重で躱しているあたり、まだ余裕があるという事か?
『俺が裏で糸を引っ張っているとばれるほうが問題だからな』
「ま、こっちは適当にやらせてもらう」
『おう。精々現代兵器つかって助けてやれ』
「それは断る。俺が警戒されるからな。というか、しれっと面倒を俺に押し付けるんじゃねえよ」
『お前がそのまま引き受けてくれたら色々助かるんだが。そうもいかないか』
「こっちも今後の予定っていうのがあるんだよ。ルーメルに縛り付けられたり、他国に警戒されるのはごめんだからな」
俺たちは魔王を倒せば全てが終わるわけじゃない。
これから帰る方法を探さないといけないわけだ。
その妨げになるような行動は避けたい。
『帰る方法ね。俺の方も探ってはおく』
「頼むと言いたいが、こちらに被害のない方法限定だからな」
『わかってるよ。若者連中に苦労させるのは本意じゃないし。俺としてもアレは嫌だからな』
そう帰る手段を選ばなければきっと簡単に帰れるだろうが、それが死体での帰還になっちゃ笑い話にもならん。
と、そんな風に話をしているうちに、戦闘は激しさを増していき。
「ちっ」
とっさに俺はアンチマテリアルライフルを構えて、引き金を引く。
ズドン!
辺りに戦いの咆哮とは違う異質な音が響く。
その音を間近で聞いている身としてはこりゃばれたかと思いつつ、あのままではローエル姫が死んでいたので、仕方ないと思おう。
で、銃撃の結果、魔王もどきの足に銃弾は当たり大きく破損し、体制を崩したところをローエル、クラック、デスト、アレス?に畳みかけられて、ついには倒れ伏した。
しかし、俺が撃ったことは誰も気が付いていないようだ。
まあ、あれだけドッカンドッカンやっていれば、発砲音ぐらい気にならないか?
と、そんなことを考えていると、周りの兵士たちが手を挙げ……。
「「「おおー!!」」」
歓声を上げる。
のんきなものだ。勝ったと思ってやがる。
この世界の生き物は、下半身だけになっても動いた。
俺はそれを見ているからな、油断はできない。
スコープを覗きもう一発どさくさに紛れてぶち込んどくかと思っていると。
『動かないから心配するな。ちゃんと死んでる。というか、手を出したな』
「うるさい。死なれると困るのはこっちなんだよ」
あのローエル姫さんが生きている限りは、何かと利用できるだろう。
まあ、ここで助けたってことは理解されないだろうがな。
そんなことを考えていると、ローエルたちが勝利宣言をして、さらに兵士たちの歓声が響く。
いや、これは、レジスタンスの連中の声も混じっているか。
「おい。これでお守りは終わりでいいな?」
『ああ。あとは、勇者様たちに合流して、せいぜいルーメルのために頑張ってくれ』
「やなこった。あの連中のために働くつもりはない。せいぜい、ほかの連中とコネを作ってやるさ」
俺がこの戦いに参加したのは、この展開のためだ。
魔族を助けるのは二の次というとノールタルたちには悪いかもしれないが、各国への繋ぎを作るためだ。
これで、ルーメルの連中からの妨害は小さくなるだろう。
俺はさっさと踵を返して、屋根を走っていく。
『そうか。ま、そこは口添えするから頑張ってくれ。じゃあな。何かあれば連絡してくれ』
「なら、もっと物資を寄こせ。ダンジョンポイントだったか? アレは今後の安全確保には必須だ」
これからの事を考えると、あの便利道具が使える通貨は必要だ。
『あー、そこはこっちも情報集めがいるからな。必要経費としてくれてやるよ』
「気前がいいな。とは違うか……」
『そりゃな。俺たちの知らないところに行くんだ。情報を持って帰ってもらわないと困るからな。ギブアンドテイクってやつだ』
俺たちはこれからも危険な目に合うってことだ。
ったく、経費としては分捕れたのはいいが……。
ん? そうだ。
「なら多めにポイントを寄こせ。あれがあれば多少の事は何とかなるだろう」
『あー、そっちか。わかったそこは検討する。と、そろそろ俺も後始末に動くから、詳しい話はまた後でな』
「ああ。俺の方も、ガキどもの世話だ」
話をしている内に、連合軍の本隊の位置まで戻ってきていた。
結城君たちは……どうやら手厚く保護されている様だな。
リリアーナ女王やエルジュとかいう連合軍総大将もいる。
というか、俺が分かれた時と状況が変わっていないから、ただ雑談をしていただけか?
ま、どちらでもいいか。
勝手に動かれるより圧倒的にましだ。
俺は周りを確認した後、地面に下りて結城君たちに近づこうとすると……。
「で、伝令! セ、セラリア様! エルジュ様ご報告いたします!」
「話しなさい!」
「はっ! 魔王城まえで交戦している魔王をローエル様たちがついに打倒しました!」
「「「おおー!!」」」
どうやら、ようやくこっちにも魔王討伐の報告が届いたようだ。
それを聞いたセラリアというお姫さんは、エルジュ聖女に何かを告げた後、前に押し出して、後方に下がる。
エルジュ聖女は少しこわばった顔をしたかとおもえば、すぐにキリッとした表情になり
「……皆さん。ここまで長い道のりでした。多くの仲間が倒れ、傷つき、命を落としました。ですが、私たちは成しました。魔王討伐を。そして、たった今より平和が始まります!」
ワァァァァァ……!!
その宣言の後、今までとは比べ物にならない大歓声が響きわたる。
まだ、一帯の制圧も終わってないのにのんきなことだ。
まあ、敵の総指揮官を倒したってことは、軍の崩壊を意味する。
そういう点を考えると、もう勝負は決したってことか。
油断をして足元救われないといいがな。
そう思いながら、結城君たちに視線を向けると……。
「やったー! やったよ!!」
「ええ! やったんですね。私たち!」
「ああ! 魔王が倒せたんだ! やった!」
先ほどの宣言を聞いて大喜びしているようだ。
めでたいことなのは認めるが、むしろ大変なのはこれからだ。
それが分からないわけでもないだろうに。
「ま、今日ぐらいは喜びあってもいいのかもな」
周りの警戒は俺がやればいい。
ここで誰かが仕掛けてくるなら絶好のチャンスだ。
この連合軍で俺たちに敵対する奴がいないか、監視させてもらうか。
ということで、俺はわざと結城君たちと合流せず、監視することにする。
早速再び屋根の上に登ってタブレットを見つつ……。
「何事もなければいいんだがな」
と、儚い願い事を言いつつ、タバコをふかすのであった。
こうして魔王は倒された!
世界に平和が戻ったのだ!
そして勇者たちは元の世界に……。
帰れるわけがない!
これで、これでようやく、必勝ダンジョンと同期するシナリオが終わりました!
これからは……、誰も知らない物語が始まるかも?




