第240射:合流
合流
Side:タダノリ・タナカ
「作戦第一段階終了。無事に門を突破した」
俺は、門を突破したあと連絡を取っていた。
『了解。なら、予定通りあと30分後に突破する。街中に潜伏しているレジスタンスの連中を頼むぞ。襲い掛かってくる奴は対処するように言っているからな』
「わかってる。統制は成るべく利かせる。だから、メルの親父さんは殺すなよ」
『ああ。そんなことなったら、レジスタンスの統制が取れなくなるからな。そんなのは勘弁だ。じゃ、頑張れよ』
向こうもどうやら順調のようだ。
しかしながら、作戦段階を見るとギリギリだな。
遅延こそ起きていないが、シビアなタイムで作戦第一段階をクリアした。
思った以上に門の制圧に時間がかかったのが問題だ。
メルの親父さんの息がかかった連中がそこまで多くなくて、抵抗されたのが原因だな。
「作戦が上手くいかないのは当たり前だが……」
こんなところで躓くとは思ってなかった。
リカルドとキシュアが門を確保してくれているのが唯一の救いか。
これで、撤退路は確保してある。
問題は、町の中のレジスタンスと予定通りに合流できているかってことだ。
ドローンで確認する限り、まだ俺たちが到着してないから外には出ていないようだ。
メルの親父との話では、俺たちが平民区の中央広場に集まったところで合流すると聞いているが……。
「どこまで集まるか……」
平民区、貴族区に関しては俺たちは完全にノータッチだからな。
メルの親父さんの手腕だ。
多ければ多いほどまとめる時間がかかるし、少なければ少ないで、背中を心配しなければいけないというどっちでも面倒だという地獄。
貧民区で強制労働させられていた連中と、平民区のレジスタンスと上手くやれるかも心配なんだよな。
意思を統一して、仲良く協力できるかというと、現実はそんなにうまくはいかない。
「……だめだな。上手い方法は思いつかん。勝手に動かれたら、やっちまうのが一番だな」
結城君たちにはデキラ派がいるかもとは言ったが、勝手に暴走する連中がいるかもとはわざと伝えてなかった。
そんな連中の対処法なんかない。
ルールを守らないやつはしょっ引く。それだけ。
それが腕っぷしになるか、鉛玉になるかは状況次第だな。
「おっと、さっそくお出ましか」
俺が持つドローン監視映像には、城からこちらに向かう兵士と魔物が映っていた。
このままだと合流中に襲われるな。
……向こうも演技なんだから、手を抜いてくれてもいいだろうに。
まあ、ここでデキラ派の戦力を一気に削ぐつもりではあるんだろうがな。
普通なら、合流前に叩くのがセオリーだが……。
結城君たちが気が付かない限りは、このまま放置だな。
襲われた方がレジスタンスとして結束しやすい。
俺はそう判断して、レジスタンスの合流を優先して、中央広場に向かい到着すると即座に周りの建物から、粗末な武器?を持った人々が集まってくる。
「お前たちが、伯爵様の言ってた人たちだな?」
「ああ、そうだ。これから一緒に行動することになる。よろしく頼む」
「ああ、こっちも頼む。私たちが向かってもやられるのが目に見えているからな」
どうやら、平民区、貴族区の統制は意外としっかりしているようで、代表者たちの受け答えには理性を感じられる。
「さて、さっそく連合軍の所へ……と行きたいところだが、お客さんが来ている。数は約30人と魔物が60匹。戦える連中はいるか?」
「ああ。すぐに集めさせよう」
「補佐程度の連中は後方だな」
俺の言っていることを素直に信じて、すぐに行動に移してくれる。
いやぁ、こちらとしてはありがたい反面、デキラ派は本当に嫌われているなと実感できる状況だな。
と、そこはいいとして、俺たちも動かないとな。
「ノールタル。敵が後ろから追いかけてきてる。俺と結城君、そして合流した連中で戦うから、貧民区の連中を後ろに誘導してくれ」
「わかった。任せてくれ。よし! みんな移動するよ!」
「「「おう!」」」
そして、俺たち貧民区のレジスタンス連中もノールタルの号令にしたがって移動を開始する。
「えーと、私たちはどうしましょうか?」
そう困った顔でいうのは、ヨフィアだ。
後ろの結城君たちやお姫様も困った顔をしている。
「何、簡単なことだ。ここで、迎撃するぞ。結城君たちを主軸に魔物とデキラ派をたたいて、一気に士気、やる気を上げるぞ。ここで負けたら、みんな逃げ散る。気合を入れろ。もともとそのつもりだろう?」
俺がそう言うと、全員顔を見合わせて直ぐに頷く。
「よし! やるぞー! ここでようやく勇者としての出番だね!」
「……物足りないとは言いつつ、こう矢面に立つとなると緊張しますわね」
「大丈夫。いつもの訓練通りにやればいいんだよ。撫子」
ルクセン君はやる気に燃えている。
まあ、この戦いが始まってまともに戦うことはなかったしな。
逆に撫子君は、実戦ということで、武者震いをしているようだ。
そして、結城君は
「私もここでルーメルの姫として参戦すれば、魔族とよりよい関係を築けるというわけですね」
「その通りです姫様。ここで連合軍よりも我がルーメルが魔族のために立ち上がったのは何よりも重要です」
「そうなれば、陛下も姫様のことを認めてくれるといいんですけどねー。って、そういえばルーメルの本隊はどうなっているんでしょうか? アスタリの町で防衛していることは知っているはずですよね?」
「「「あ」」」
今更その事実に気が付く一同。
本当に今更過ぎるな。
こいつらに戦略は無理だな。と俺は思いつつ、俺も戦略を考えるのには向かないと思う。
とはいえ、ここまで無頓着でもない。
「フクロウから連絡が来ている。現在王都の方は、魔族が侵攻してくるって報告を受けて続々と王都に戦力を集結中のようだ」
「は? 侵攻ってアスタリのことだよね? もう終わってるよ?」
ルクセン君の言う通り、アスタリの戦いは既に終わっている。
アスタリ側の勝利で。
「そうなんだが、軍っていうのはいつでもどこでも足が重たくてな。アスタリ子爵から連絡を受けて、魔族を撃退したことは知ってはいるが、今更軍の招集場所を変更するわけもいかないし、事情の説明も追い付いていないわけだ。ま、電話なんて便利な機能はないからな」
「「「ああー」」」
と納得する結城君たち。
この世界の情報連絡環境は劣悪だ。
ギルドが多少ましなものは持っているが、それでも俺たちが扱っている、ドローン及びタブレットでの即時通信できる道具には遠く及ばない。
「つまり、あのババアの話が本当だとすると、ルーメル本隊はいまだに動けないってことでいいんですか?」
「そうだ。連合軍との合流も出来ないように、情報封鎖も丁寧にされていたし、足が一番遅い。もう、連合軍は攻め込んでいるし、ルーメル本隊の出番はないだろう。つまり、ルーメルでこの場に参戦しているのは、お姫さんだけってことだ。その意味は大きいから、頑張れ。親父さんに大きな顔ができるぞ」
「魔族との友好だけではなかったのですね。カチュア、私についてきてもらえますか?」
「もちろんです。私だけでなく、リカルド様、キシュア様、そしてヨフィアも戦います」
「うぇ!?」
やる気をさらにたぎらせるお姫様。
そして、いつもながら、ヨフィアのやつは忠誠心が低い。
まあ、冒険者ギルドの回し者だしな。
とはいえ、俺たちとしてもお姫さんの発言力、影響力が上がるのはうれしいことだ。
戦後にルーメルに妙な横やりを入れられる可能性は減ってくるだろう。
だが、そんなことを想像する前に……。
「さて、仕事の時間だ。敵さんがお出ましだ。わざわざ剣や槍を打ち合わせる必要はないぞ。遠距離で一気にやる。構え」
「「「はいっ!」」」
俺の指示に結城君たち、そしてお姫さんたちも一斉に構えて、通路の先に見える魔族と魔物の集団に狙いを定める。
「さて、敵か味方かの判断だが……」
「あいつらが報告にあった反逆者だ! 魔物を先行させろ!」
「「「はっ!」」」
こちらにまで聞こえるほどの声で部下に指示を出す。
いや、この世界では声が大きければ部下のへの指示が届くからいいんだろうが……。
「敵対勢力、デキラ派と断定する」
俺にとっても敵味方の判断がしやすくて非常にありがたい。
味方のフリして近づいてくる奴が一番厄介だからな。
正々堂々ということだ。素晴らしいね。
だから……。
「撃て!」
俺の合図で一斉に結城君たちが魔術をぶっ放す。
そこに遠慮などない。
ズドドドーン!!
爆音があたりに響き、煙が晴れた場所には残骸が転がっている。
「「「おおおー!!」」」
その結果を見て、歓声を上げるレジスタンスたち。
そして、初めて人を殺めた結城君たちだが……。
「……あんまり実感ないや。いや、ショックが少ないのかな?」
「……ですわね。でも、これが戦争なのですね」
「ショックが少ないのがショックだけど。これならやれる」
人を殺すのを躊躇していた結城君たちだが、集団戦、しかも魔術で一気に吹っ飛ばすのは、自分で人を切り殺すとは違うようであまりショックはないようだ。
もっと嘔吐でもするかと思っていたが、予定よりましだな。
ま、油断はできないが。
さて、いろいろ考えるのは後だ。今は……。
「よし、全員聞いてくれ! このまま俺たちはロシュール側の門を開けるのを手伝う! 連合軍と一緒にデキラを倒す! 間違って連合軍を攻撃するなよ!」
「「「おーーー!!」」」
俺がそう言うと、全員が声を上げる。
よし、さっきの勝利で俺たちを信じてくれているな。
「今から、移動を開始するが、ゆっくり移動する。大きな声で戦いに参加していない人たちに家の中にいれば安全だと言うんだ。他の人たちを巻き込みたくないだろう?」
「「「おう!」」」
こうして、俺たちは、レジスタンス、反乱軍に参加していない人たちに注意を促しつつ、移動を始め……。
「全員止まれ!」
漸く俺たちは、連合軍を目の前にしていた。
どうやら、連合軍の先方は既に城の方に向かっているようで、横っ腹を付く感じになったようだ。
連合軍はこちらを警戒しているようで、槍と盾を構えている。
さて、あとは……。
「俺たちはレジスタンスだ。連合軍を助けに来た! 俺たちも戦わせてくれ!」
俺がそう声を張り上げると。
「皆さん!!」
そんな声が聞こえてきて、兵士の間から……。
「「「リリアーナ女王!!」」」
そう。魔族の女王様が出てきた。
「ま、待ってください!」
なんか、後ろからひょろっとした貴族の娘が出てきたんだが、結城君たちは全然気が付いてないな。
あれは何だ? なんであんな戦えなさそうなのが付いてきてる?
ついにレジスタンスと連合軍が合流を果たす!
そしてそこで再会したのはリリアーナだけではなく……。
あの少女は誰かわかりますか?




