第239射:魔王討伐戦 作戦第一段階
魔王討伐戦 作戦第一段階
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
世の中、何ていうのかな?
理不尽? そんな言葉を思い出していた。
なぜなら……。
「よし、門を制圧しろ」
「「「おー!!」」」
既に門は破られて、占領を開始しているから。
そう、僕たちは命を懸けて、デキラから魔族の国を取り返すべくレジスタンスと共に、ルーメル側の門を突破するためにやってきたんだけど……。
『あの裏切者どもを絶対に中に入れるな! 近づいてきたら矢で射殺し、魔術で吹き飛ばせ!』
そんなことを言って、門を守っている隊長さんみたいなのがいて、これは被害覚悟で盾を構えながら近づくか、魔術で門をどうにかしてみるかなーって考えていると、田中さんが口を開いて。
『開門するのに戦力を使うのはもったいないからな。細工はさせてもらったぞ。全員耳を塞げ。10、9、8……』
いきなりカウントダウンを初めて、咄嗟にやばいと感じた私たちは真っ先に、耳を両手でふさいで衝撃に備えていると……。
ズンッッ!!
いきなり門が爆発した。
いや、正確に言えばちょうど開閉する金具があるところが爆発した。
そして……。
『もういっちょ』
ズドン!!
そんな田中さんの言葉の後にさらに爆発が起こって、門が内側へと吹き飛んでいった。
『よし、門を制圧しろ』
『『『おー!!』』』
となったわけ。
「ちょっと!? いったい何してるんだよ!?」
「ん? 普通に犠牲を少なく門を制圧できるように小細工してただけだぞ?」
「それは分かるって! でも、いつの間にやってたんだよ!」
「そりゃ、作戦開始前の夜だな。あまり前に設置するとばれるしな」
「ぬぐぐ……」
なんという、こちらのやる気を吹き飛ばす作戦を……。
「別に犠牲がないからいいだろう。必要のない死者は出す必要はない。カッコつけの為に死ねなんていえないからな」
「……はぁ、話は分かりましたわ。でも事前に教えていただきたかったですわ」
「作戦が成功するとも限らないしな。こっちにスパイがいるとも限らないから、黙ってただけだ」
「……」
あまりの見事な返しに無言になる撫子。
「ま、まあ、いいじゃないか。おかげで白旗上げているやつらもいるし」
「だね。タナカ殿のお陰で、敵の方はすっかりやる気をなくしたみたいだ」
そう言われて、門の上を見ていると、先ほどまで僕たちを狙い撃てとか言っていたおっちゃんは……。
「こ、降参する! だから、殺さないでくれ!」
そう叫びながら、既に門に突入していたレジスタンスのみんなに囲まれて降伏していた。
「……えーと、侵入からまだ時間も経っていませんから、いくら何でも早すぎせんか?」
ヨフィアさんの言う通り、確かに早すぎる。って、よく見れば……。
「門の上にいた兵士がそのまま、先ほどの男に弓を向けていますわね。既にそこも手を回していたんですか?」
「そのようですね。流石タナカ殿というべきでしょうか」
お姫様とカチュアさんは半目で疑いのまなざしを田中さんに向けている。
きっと僕たちも同じような顔をしているんだろうな。
それだけ、あっけなさすぎる。
「あの兵士たちはメルの親父さんの仕込みだよ。まあ、作戦は一緒に考えたけどな」
あ、そういうことね。
既に内も外も仕込みたっぷりってこと。
「さすがに、連合軍が来ると予想される場所だけ作戦を立てるわけにもいかないからな。博打が過ぎる。連合軍が予定変更で、進路を変更する可能性もある。そのために、ある程度仕込みはしておいたってわけだ」
「あー、うん。話は分かったけど、あまり早く中に入るのもダメなんじゃなかったっけ?」
そう、僕たちだけでデキラのクソ野郎を倒しちゃダメなんだよね。
みんなで協力しないと、魔族の人たちが味方ってみなされない可能性があるから。
「ああ。一気にラスト城に殴り込みをかけるのはダメだ。ちゃんと廻りを固める必要がある。勝手に暴走されたら困るからな」
ああ、先に町の中に入るのはいいのか。
そんなこと言ってた気がする。
「確か、平民地区の方とも合流するのですよね?」
「その予定だ。俺たちの目的はここを突破することだけじゃない。連合軍がメルの親父さんと押し問答の演技をしているうちに、内部に潜伏しているレジスタンス、及び、デキラ派を倒さないといけないわけだ」
「ちょっ!? ちょっと待ってください! レジスタンスの人たちと合流するのは聞いていますけど、デキラ派の連中を倒すってのは聞いてないですよ!?」
うんうん。晃の言う通りだ。
何か余計な仕事が増えている気がする。
「いや、向かってこなければ別にいいんだけどな。結城君たち。門を破ったからって、デキラ派の連中が俺たちの移動とか合流を許すと思うか?」
「「「あ」」」
そう言われて、気が付いた。
絶対邪魔しにくるに決まっている。
そうしないと、自分たちの命が危ないんだから。
「気が付くのが遅いぞ。街中なら大丈夫というわけじゃない。下手をすれば、仲間のふりをするやつもいるだろうから、連合軍とは距離を取っておかないとまずいわけだ」
「……そのデキラ派のやつが仲違いのために攻撃をするのかもしれないのですね」
「そうだ。そのためにも、俺たちはレジスタンスを集めて、勝手な行動は控えさせないといけない。ここで、連合軍の足を引っ張ったりすると、敵とみなされるからな。そうなれば……」
連合軍と戦うことになる。
味方同士なのに……。
「レジスタンスに厳しく指導したのはそういうことだ。間違っても連合軍に攻撃を加えないようにするために、攻撃指示と攻撃停止指示を聞き分ける訓練は短い期間だが徹底した。そして、勝手に攻撃をするやつは何としても止めるようにもな」
「話は分かりましたが、それはかなり難しいことではありませんか?」
「うん。撫子の言う通りだよ。味方のフリする奴なんて、分からないよ」
敵対するならすごく分かりやすいけど、味方のフリするなんてのは僕たちには分からないよ。
「あー、そこは難しい事じゃない。俺たち貧民区のレジスタンスが外側を固めることになっている。表向きは俺たちは先頭になって戦うってことだが……」
「ああ、そういうことですか。外側を固めて、味方になった人を内側に閉じ込めておくってことですね」
「当たりだ。さえてきたな」
おー、なるほど。
そうすれば連合軍に攻撃したいやつがいてもできないってわけか。
「なるほど。そして無視して暴れる方がいれば……」
「そう。拘束すればいい。まあ、平民区のレジスタンスメンバーもメルの親父さんが手配しているから、今の内容は伝えている。腕に赤い布を巻いているのがリーダー格ってことらしいから、そいつらに基本的に任せればいい」
「いや、そこまで準備万端なら、私たちはそこまでする必要はないんじゃない?」
「そうだな。そうなれば一番いいが、何も知らなければ、いざ何かあった時に対応できないからな。覚えておいてくれ」
そう言われたら仕方がない。
僕たちの命を守るためでもあるから頷く。
「でもさ、そうなると、味方に紛れた敵はレジスタンスの人たちが抑えてくれるとして、僕たちは外からの敵?」
「そうだな。デキラ派には既に門が破られたことは伝わっているだろうし、こっちに穴を塞ぎに援軍を出してくるだろうな。まあ、連合軍がいる手前、そこまで規模は大きくないだろうが、放っておくわけにもいかない。城に魔物を配備したとか聞いているから、そこから何か来るかもしれないな」
「ああ、まあ、魔物なら何とかなるかも」
人を相手にする方がよっぽど苦手だね。
それは、晃と撫子も同じなのか、僕の言葉に同意するようにうなずいている。
ま、敵対するなら容赦するつもりはないんだけど。
そう言っているだけだからね。
実際やってみないと何とも言えないのは、今までの経験上何度もあったから。
「ま、そういう連中もレジスタンスの前衛が片付けていく予定だ。手に余るようだったら、助けてやればいい。と、門の制圧は終わったみたいだな」
「「「はやっ」」」
雑談していたと言っても、せいぜい10分ぐらい、そんな簡単に門って落ちるモノ?
いや、どう考えても、田中さんのせいとしか言えない。
門が初手で吹き飛んでいたし。
「作戦が順調に進むのは何よりだ。よし、リカルド、キシュア、予定通りここの防衛は任せるぞ」
「「はっ!」」
リカルドさんと、キシュアさんは田中さんからそう言われて、てきぱきと準備を始める。
予定では、奪取した門を守って、負けた時の逃亡ルートを維持するためなんだけど……。
「門無くなってるし、防衛って意味あるの?」
「ですわよね。取り返しても意味がない気がしますが……」
「いや、意味はあるぞ。敵は真っ先にここにくるだろうからな。敵が中に入ったとわかったのなら、ここに防衛を置いてまずは逃亡を阻止と、追加で敵が入ってこないように防衛をする。俺たちが戻ってきたときに門前に兵士がいるだけで通れないと思うだろう?」
あー、そう言われるとそう思う。
門に敵がいるだけでそれだけで圧迫感が出るんだ。
「ま、そういうことだ。そして、リカルドとキシュアが敵の情報を教えてくれることになっている。真っ先に敵と遭遇するだろうからな。相手が魔族だろうが、巨大な魔物だろうが、魔王だろうが、元近衛隊長と泣く子も黙る徴税官なんだから問題ないだろう」
「「いやいや」」
いきなりの無茶振りにすぐに無理という2人。
昔のリカルドさんならできるって言いそうだけど、すっかり染まったよね。
いい意味なのか悪い意味なのかは僕には判断付かないけど。
「いやいやじゃない。ドローンでの偵察、そして門の防壁を利用して、大人数での戦いだ。これで負ける方がどうかしているからな。相手が大軍だった場合は放棄しろっていうのは言っているだろう」
「いや、その作戦は理解しておりますが、魔王とか巨大な魔物とか無茶なことが出てきてませんでしたか?」
「私も聞こえました。元徴税官は戦闘はできませんよ。無茶を言わないでください」
うん。僕にも聞こえた。
「別に倒せとは言ってないからな。連絡を忘れるなってことだ。いや、倒せると思ったのか?」
ブンブン。
そう勢いよく首を横に振る2人。
いや、倒せって意味に聞こえるって。
「さて、冗談はこの辺にしておいて、作戦第一段階終了だ。これから町のレジスタンスと合流する。まだ勝ちが決定したわけじゃないからな。気を抜くなよ」
「「「オウッ!!」」」
こうして僕たちは、魔王を倒すために、周りを確実に固めに行くのであった。
「……わかっていたけどさ。やっぱり地味な気がするんだよなー」
「光、だまってろ。ゲームと現実は違うんだよ。勇者が斬り込み隊長じゃなくてよかったじゃないか」
「そうですわよ。光さん」
「わかってるって、特別な勇者なんて本当は必要ないんだ。平和を守りたいみんなが全員勇者なんだ」
だから、パンツを食べるような変態は絶対に倒す!
魔王討伐戦開幕
レジスタンス側の作戦行動第一段階は無事にクリア。
さあ、順調に進むのか。




