第24射:お隣さんとは仲良く
お隣さんとは仲良く
Side:ヒカリ・アールス・ルクセン
「いやー、凄かったね。ダルゼンさんのお屋敷」
「ああ。鎧とか剣とか見せてもらったけど、なんかすごかったよな」
「ええ。やはりと言うかお城とはまた違う趣があってよかったですわ」
僕たちはそんなことを話しながら、ガルツの国境の町へと馬車で向かっている。
昨日お世話になったダルゼンさんは貴族の中では、僕たちに一番親しみやすかった。
最初は、今日向かうガルツの話で真面目だったけど、その後は、僕たちが異世界から来たということから、色々と気を遣ってくれて、屋敷の見学に付き合ってくれたり、コレクションの鎧とか武器を見せてもらったりして、わいわいやった。
『勇者殿たち、そしてタナカ殿やリカルドたち。無理せず、何かあれば頼ると良い。あの王都の連中ぐらいなら適当に追い払ってやれるからな』
そんな頼もしいこと言って、僕たちを送り出してくれた。
まあ、昨日から話を聞いていたけど、やっぱりルーメル王都の貴族って駄目なのが多いんだね。
「でもさ、ダルゼンさんが言ってたけど、ガルツの案内で来るっていう、ローエル第二王女だっけ? 大丈夫かな?」
「王女だからねー」
「……あんまり王女という単語にいい印象はないですわね」
そう、ガルツで僕たちの案内をしてくれるという人は、ガルツのお姫様なのだそうだ。
うち、ルーメルのユーリアお姫様は露骨だったからね。
もうさ利用する気満々な態度だったし。
まあ、田中さんがいたおかげでわかったんだけどさ。あれはなかったわー。
そんな話をしてると、横で静かに僕たちの話を聞いていた田中さんが口を開く。
「気持ちはわからんでもないが、会ってもない人を勝手に想像して、失礼な態度はとらないようにな。そんなことをすれば、今言っていたユーリア姫と変わらないぞ?」
「わかってます」
「うん。大丈夫だよ」
「そこまで腐ってはいませんわ」
「でも、ダルゼンさんから聞いたローエル姫の話は驚いたよな」
「うんうん。確か、女の身であって、将軍を務めているってすごいよね」
「それどころか、将軍になる前は普通に兵士と一緒に前線で剣を振るっていたという話も聞きましたわね」
ルーメルのお姫様とはくらべものにならないくらい、腕っぷしの強いお姫様らしい。
僕としては、そういう面ではあこがれるね。強い女性ってかっこいいし。
「まあ、アレだな。レベルというわかりやすい強さの指標があるんだ。女性でも戦えると証明出来ているんだろう。しっかり戦えるなら、兵士にとっては偉い人と肩を並べて戦うのは気合いが入るからな」
「なんか、勇者って感じですよね」
「いやいや。僕たちが勇者だから」
「とは言っても、まだまだ新米もいいところですが」
「そのために、ガルツに行くんだ。気に病むこともないだろう」
そうだ。ローエルお姫様に会うとか二の次で、僕たちの目的は強くなることだ。
面倒なルーメル王都の貴族連中から手を出されなくするための強さを。
「そういえば、ローエルお姫様のことはいいとしてさ。なんか、ガルツの方の国境の町に行くはずなのに、思ったよりも人が多いね」
ダルゼンの町に行くときと同じように、自然と隊列を組んで多くの馬車がガルツの国境の町へと歩いて行っている。
「戦争中なのに、なんでだろうな?」
「ねえ、田中さんなにか知ってる?」
「ん? そういうのは、リカルドの方に聞け」
「それもそうですわね。リカルドさん、よろしいですか?」
そこで、撫子が隣のガルツの国境の町に向かう大勢の人々はなに? と聞くと……。
「ん? ダルゼンの町と同じですよ。いや、より商売を求めて行くのです。戦時中はよく物が売れますからね」
「危険なのに?」
「いえ、そこまで危機が迫っていないからこうして移動しているのです。そもそも、元から国境で面する町同士は戦争中でもない限り、普通は良好な関係を保っていますから」
「そうなのですか? 失礼ではありますが、国境となると争いが絶えないような気がするのですが? ガルツとロシュールの争いも国境争いですわよね?」
そうそう、撫子のいう通り。
戦争にもなりうる原因の国境なのに、なんで仲がいいの?
僕たちの地球でも国境とかなんか物騒な話が多いのに。
「そうですね。納得してもらえるかはわかりませんが、私たちルーメルと戦争中ではないのです、ガルツはロシュールと事を構えていることにより、ロシュールとは交易を停止しているでしょう」
「ああ、交易がルーメルだけになっているから、人が多いのか」
「アキラ殿のいう通りです。商売相手が一か所とは言いませんが、大国相手ではロシュールが減ってルーメルとリテアになりますからね。そしてリテアと交易するのは、ルーメルかロシュールを経由する必要もあります。なので……」
「そっかー。リテアからの物もルーメルを通ってくることになるんだ」
「はい。そして昨日も言いましたが、国境の町というのは交易の要の場所でもあります。友好を結んでいるのであれば、積極的に交易するわけです。つまり、領主同志も……」
「それ相応に仲が良いというわけですね?」
「はい。お互いの利益のこともありますが、それでも友好がなければ交易などできません。辺境伯は国境を任されているというのは、他国との交渉も長けているということです。敵を作るより味方を作るべきだという話です」
はぁー、納得と言えば納得の話だ。
好き好んで戦争なんかする人はいないよね。
「まあ、それでもガルツとロシュールのように、何か行き違いなどがあれば戦わざるを得ないですがね。その時、一番割を食うのは国境を任された領主たちです。しかし、その分ダルゼン様、国境や防衛拠点を任されている領主はそれに応じた、戦力を保持して、王都や周辺の領主たちに対して大きな発言力を有しています」
「いい思いもしてるってことかな?」
晃が納得して良いのか悩んだそぶりでそう言うと、田中さんが口を開く。
「どっちもどっちだ。国境の最前線を任されたというのは、名誉や利益もあるがそれ相応の危険も伴う。高ランクの冒険者が難易度の高い仕事を受けていると思えばいいだろう。ランクが高ければ実力があると思われる。その分報酬のいい仕事もできるし、ギルドからの信頼や援助もそれなりにあるが、危険もその分増すというやつだ」
「「「あー」」」
そう言われると納得。
「つまり、あれだね。お金を稼ぐのは大変だってことだね」
「ああ。誰もかれも、働かなくては食ってはいけないんだ。やり方でリスクの高い低いがあるだけさ。ここに来ている商人たちは、ルーメル国境までに移動するときに魔物に襲われるというリスクを背負って、さらに戦争が起こっているガルツ国境での商売を。それよりも大変な国境の町の管理と防衛を任されているダルゼン辺境伯はそれ以上に大きなリスクを背負っている」
「生きるって大変ですわね。お父様もそうだったのでしょうか?」
撫子のお父さんは大和グループの社長だからねー。
きっと、ダルゼンさんと同じ、いや、それ以上に大変だろう。
なにせ、ルーメルと違って、地球の大企業は全世界の国で経済活動しているからね。
そんな話をしながら、あることを思いだした。
「あ、そういえば、ガルツ側の国境の町ってどれぐらい行った先なの? また、一週間ぐらいかかるの?」
「ああ、そういえば聞いてなかった」
「ですわね。どのぐらい日数がかかるんですの?」
そうリカルドさんに聞くと……。
「そうですね。ルーメル王都ほど離れているわけではありません。お互いに監視しあう目的もあるので、そこまで離れていません。大体馬車で1日といったところでしょうか?」
「ちかっ!?」
意外と近かった。
「監視か。そう言われるとそうですよね」
「ええ。お互い動向を簡単に確認できる距離というのは、理に適っていますわね」
まあ、そうだけどね。
なんか、中世ヨーロッパだから、他国の侵入は厳しく制限とかしてるかと思ってたんだよなー。
「と言うことは、今日中に着くってこと?」
「ええ。ギリギリではありますが夕方頃には」
「リカルドさん。今日中に着くとなると、今日そのままお姫様と会うことになるんでしょうか?」
「うーん。それはわかりませんが。一つだけお願いがあります。私が言えたことではありませんが、多少失礼なことを言われても、我慢していただきたいのです。情勢的にルーメルと事を構えるとは思えませんが、絶対ないとは言えません。そして、ガルツ国内でもありますので、下手な反論は捕縛される理由ともなります。勇者様たちの安全のためにもどうかよろしくお願いいたします」
「おっけー。話は分かったよ。まあ、話を聞く限り横暴そうな王女様じゃないみたいだけど」
「だなー。兵士と一緒に戦うってタイプみたいだし」
「ユーリア王女とは違うでしょう」
「ははは……」
僕たちが同意したと同時にユーリア王女を酷評するとリカルドさんは苦笑いをするが、まあ、仕方のないことだ。
「問題がなければ、リカルドのいう通り我慢していただければ幸いです。ですが、身の危険が迫ったのならば、話は別です。私たちが囮になりますので、その隙に皆様で町を脱出してください」
そんな物騒な事をいうのはキシュアさんだ。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよー。キシュアさんの言っていることは万が一の時ですからー」
「だな。未熟な結城君たちが残るのは無意味だからな。戦えるリカルド、キシュア、ヨフィアが押さえて俺たちが撤退したあとに、リカルドたちも逃げるって話だ。見捨てるってことじゃないからな。リカルドたちを死なせたくないなら、さっさと言うことを聞いて脱出することだ」
「あれー? なぜか、メイドさんである私も囮にされてませんかー?」
「そりゃ、戦えるからな。ま、そこはいいとして、あれがそうか?」
田中さんにそう言われて、行く先を見ると、壁が見えてきていた。
「あそこが、ガルツの国境の町かー」
「そういえば、名前は何て言うのでしょうか?」
「あ、聞いてなかった。キシュアさんなんて言うの?」
「ウォールの町ですね」
ウォールって壁か。
捻りも何にもない気がする。
けど、こういう名前って案外多いよね。
そんなことを考えていると、あることに気が付く。
「ねえ。なんか、門の前に武装した人たちがいない?」
「ん? ああ、なんかいるな」
「いますわね」
僕たちがそう言うと、リカルドさんたちもその集団に目を向けて……。
「白のラウンドシールドの旗ということは……」
「間違いでなければ、ローエル姫殿下……でなく将軍の旗ですね」
「うわー。あれが、ガルツ最強の守りと言われる部隊ですか!?」
どうやら、僕たちの案内をしてくれるお姫様が待っていてくれたらしい。
そうして、僕たちは馬車と共に門へと近づいて行って……。
「待たれよ。その馬車。ルーメル王都より来られた、勇者様御一行とお見受けする」
そう聞いてきたのは、凛とした、とがった犬耳がでている立派な鎧を着た美女だった。
そしてガルツへ。
ローエル王女との邂逅。
それは何を意味するのか?
そして、必勝ダンジョンとの時系列は明らかになるのか?