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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第238射:出陣

出陣



Side:タダノリ・タナカ



世の中、まだ先の事かと思っていると、気が付けば既にその日だったりするんだよな。

そんなことを考えつつ、あいつと連絡を取ると。


『こっちはもうすぐ攻撃を開始する。リリアーナの方からも連絡させるからよろしく頼む』


もうすぐ連合軍とデキラ派の戦いが始まるようだ。


「了解。で、準備は整っているんだろうな?」

『そりゃもちろんだ。これが上手くいけば魔族の確執は一気に減るだろう。特に現場ではな』

「だといいがな」

『別にゼロにするってわけじゃないからな。後は当人たちのやり方次第だよ。じゃあな』

「おう」


俺がそう言うと、連絡が切れて、新たに連絡が入る。


『どうも、タナカ殿。しばらくぶりです』


タブレットの画面に映っているのはリリアーナ女王だ。

あいつに連絡を取ってもらって、タブレットを渡してもらった。

……見たところ、デキラにつけられた怪我は全て治っている様だ。

エルジュとかいう聖女様に治してもらったと聞いていたが、あの傷をここまで治すっていうのは、やはり魔術ってのは俺の理解の外にあるな。

と、そんなことより話だな。


「ああ、元気そうで何よりだ。メルを預けられた時はどうなるかと思ったが、上手くいったようだな」

『……あの時は申し訳ありませんでした。あのままではメルが……』

「それは分かっている。で、あいつから今後の予定は聞いているな?」

『はい。私たち連合軍がロシュール側の門を攻撃。それと同時にレジスタンスも行動を開始して、城を攻める前に合流して、そちらを指揮下に置く』

「そうだ。それで、魔族の一般人とも手を取り合ったことになる」

『はい。その事実がなければいけません。今後の魔族の未来のためにも』


いよいよ大詰めだ。

みんなで協力して、あいつの用意した魔王に仕立て上げた魔物を倒して、ハッピーエンドを迎える。


「今のところは連合軍にとって魔族は味方って認識か? 正直なところが聞きたい」

『……今のところは、反乱を起こし、身を挺して連合軍に協力した魔族がいたので、信じてくれていますが、安心はできません。ですから、メルの父。ミーゲ伯爵の協力が必要不可欠です。……彼の方はどうなっているのでしょうか?』

「もう配置についている。そっちの情報は既に把握しているな?」

『……はい。しかし、前に出て指揮を執るなど。彼が倒れてしまえば、レジスタンスの指揮が取れなくなる可能性があります。何とかできないでしょうか?』


やっぱりそこは心配か。

メルの親父さんは連合軍を招き入れるために、一緒に門の防衛に当たることに変更はなかった。

つまり、連合軍と演技とはいえ一戦交えるのだ。

事故でメルの親父さんが死んでしまえば、その分レジスタンスの連中は混乱するだろう。

その心配は分かる。

だが……。


「もう連絡を取れる時間は過ぎている。男の覚悟を無駄にするんじゃねえよ。お前さんを信じたんだ。あとは、一刻も早く、連合軍と一緒に門を突破しろ。そうすれば、メルの親父さんは助かるだろうさ」

『男というのは……』

「それはお前もだろう。女王として変に頑張ってメルを押し付けたんだから」

『ぐっ。……わかりました。では、タナカ殿たちもどうかご無事で。特に勇者様たちはこんなことで命を落とすなどは……』

「わかっている。ここでガキどもが命を落とせば、人への魔族の不満は高まるだろうからな。そこらへんは調整する」

『よろしくお願いします』


そうは言ったが、本人たちはやる気満々だけどな。

同じ釜の飯を食ったんだ。そしてノールタルを筆頭にかなり仲良くなっているやつもいるからな。

全力で助けるっていうのは目に見えている。

……ま、仕掛けはしたから何とかなるだろう。

結城君たちに死んでもらっちゃ困るのは俺も同じだしな。


「じゃ、今度会うときは端末越しじゃなく、直に顔を合わせよう」

『はい。その時を楽しみにしています。では、ユキさんに替わります』


そう言うと、華のある女性から見慣れた憎たらしい奴の顔になる。


『おい。露骨に顔をゆがめんなよ』

「喜ばれたかったか?」

『そっちも願い下げだ。で、こっちはもう攻勢を始めるから頼むぞ』

「わかった。俺たちの方も動く。そっちが門に手こずっていると、デキラの偽物が倒された後かもな」

『それは冗談にならんからな。というか、勇者たちに手を出させるな。こっちの予定は知ってるだろう? 魔王になる予定の化け物は連合軍のローエル、クラック、デスト、そしてエルジュが倒すことになっているんだから』

「その化け物が、リリアーナ女王の政敵をまとめて殺害してだろう? やることがえげつない」


こいつ、この混乱に乗じて、デキラ派の連中もついでにあの世に送る予定なんだよな。

だからこそ、勇者たち、俺たちに先を越されるわけにはいかない。

手柄は連合、魔族と力を合わせた結果というのが大事なんだ。

勇者という異世界の特別な人が魔王を倒したでは意味がないということだ。


『必要なことだよ。その後スムーズにリリアーナが政権復帰するためにもな。処罰もいるが事故で先にいなくなってた方が手間が省けるし、逃げられても迷惑だからな』

「ま、そうだな。と、そろそろ俺たちも移動を開始する」


時間も良い所だ。

今から出発すれば


『おう。何とかレジスタンスをまとめててくれ、連合軍と敵対したら助けられないぞ。デキラ派とみなされるからな』

「分かってる。そこはうまくやるさ」


そうしないと、こいつとぶつかることになるからな。

それは命がいくつあってもたらん。


「だが、正直な話、統率で精いっぱいで、化け物退治に加われるか微妙なところだぞ? メルの親父さんが生きてなければなおさらだ」

『ああ、レジスタンスの貴族筆頭だったな。それが門で指揮をとっているって話か。まあ、そこはうまくやるから、合流したら、その伯爵にレジスタンスの指揮権預けて、サポートについてくれ。メインは連合軍だが、勇者様たちが何もしなかったのは、それはそれで心象悪いからな』

「……最初から分かっていたが、綱渡りだな」

『作戦なんてそんなもんだろう。じゃ、後は頼むぞ』


そう言って、やつとの会話も終わる。

さて、出来ることは全部やった。

後は、現場に出て仕事をこなす。

ただそれだけだ。

俺はそう覚悟を決めて、結城君たちが待っている外に行くと、既に今回作戦に参加するメンバーは整列していて、見送りのメンバーも揃っていた。

俺が遅刻か。

と、そんなことを考えながら、結城君たちがいるところに行くと……。


「あ、田中さん。みんな準備できているよ」


真っ先にルクセン君が俺を見つけてそう言ってくると、それに続いて大和君、結城君も口を開く。


「皆さん、全員やる気満々ですわ」

「いつでも出発できます」


今から戦争に行こうとしている割には、3人とも明るい。

昨日の夜のことで、いや、今までの経験で肝が据わったんだろう。

今更うろたえても意味がないってな。

自信満々ってわけでもないから、良い兆候だと思っておこう。


「そうか。とはいえ、ちゃんと確認は取る。兵士長どうだ?」


そう、確認は大事だ。

担当でもない人物の話をうのみにしてはいけない。


「はっ。こちらをご覧ください。物資、武装、人員、全て準備完了です。待機する非戦闘員の準備もできております」


そう言って、兵士長は俺に書類を渡し、それを確認する。


「……問題はないな。よし、予定通り出撃する」

「はっ!! では、出陣式を始めます! では、タナカ殿からお願いいたします!」

「俺が?」

「はっ! この強制収容所のレジスタンスリーダーは間違いなくタナカ殿ですから」


いや、この強制収容労働所を開放したのは、俺ではなくルクセン君と大和君なんだが。

そう思って二人に視線を向けるが……。


「僕よりも田中さんの方が気合入るからね」

「はい。私たちはただ助けただけです。そのあとまとめてくれたのは田中さんですから」


そう言って、特に俺が話をすることに文句は無いようだ。

はぁ、ここで断るのも士気にかかわるか。

俺は諦めて、即席で用意した檀上に上がり、義勇兵、レジスタンスを見る。

総勢約500名がずらっと並んでこちらを見ている。

今回戦いに参加する数だけでこれだけいる。

よくまあ、合わせて1200人もこんな扱いしたもんだなと、改めて思う。

まあ、歴史を振り返れば大した人数ではない。

大体有名な戦いは万の数をそろえて戦うからな。

さて、物思いにふけるのもここまでにして。


「よし、これから我々ラスト開放軍は、連合軍の攻撃に呼応して、ルーメル側からの門へ攻撃を仕掛ける。その目的をもう一度確認する。その攻撃目的は連合軍の被害を少しでも抑える為、敵の誘導だ。決して、独力で門を突破することじゃない」


そう、あくまでも俺たちは連合軍の負担を軽減するための陽動だ。

この少数の部隊で敵を倒すことじゃない。


「まあ、突破できるならそれに越したことはない。そこはみんなの頑張りにかかっているが、無理をして死ぬな。無茶をして死んだやつの分、ほかの連中が苦労することになる。わかったな」

「「「はい!!」」」


元気よく返事をしてくれるレジスタンス。

事前に言い聞かせたことだ。

英雄志望はいらん。生き残ることが味方を生かすことになるってな。

しかし、これを守るのは難しい。人は追い詰められた時に本性っていうのが出るからな。

軍人ですら自分たちが不利と感じたら、撤退して軍が瓦解することがある。

即興のレジスタンスなら、味方が死ねばすぐに怯えて、軍よりももろく崩れ去るのは目に見えている。

何としても死者は減らす必要があるわけだ。

その要は……。


「だから、率先して無茶をするなよ。結城君、ルクセン君、大和君」

「ちょ!? ここで俺たちですか!?」

「そんな無茶したりしないよ!」

「まあ、私たちが一番心配ですわよね。特に光さん。注意ですわよ」

「ちょっと!? 撫子も!?」


そのやり取りでレジスタンスの中で笑いが広がる。

気合もたまって、緊張もある程度解けただろう。

あとは出発するだけ。

迷う必要はない。


「じゃ、行くぞ!」

「「「おー!!」」」


こうして俺たちは、魔王との最後の決戦に向かうのであった。



「……あれ? まだ着かないの?」

「意外と団体で動くと思うように進まないものですわね」

「だな。俺たちだけならもう門についているよな」

「軍っていうのはこういうのが面倒なんだよ。我慢しろ。速攻到着してもそれはそれで問題だからな」


決戦の時は、あと小一時間後ってところだな。



そして、決戦へ。

さて、いよいよレベル1と必勝ダンジョンが交差する舞台へ。

茶番だとしても、そこには命を懸けている人がいるという、別の物語の開幕。


田中と勇者たちの運命は……。

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