第237射:それぞれの覚悟と役割
それぞれの覚悟と役割
Side:アキラ・ユウキ
「……ということで、俺たちはメルの親父さんたちが連合軍と戦っている間に動いて、デキラ派の気を引く」
そう言いながら、タナカさんが昨日メルさんのお父さんと話した作戦を伝えてくれた。
どうやら、メルさんのお父さんは連合軍を引き入れるためにレジスタンスを連れて、わざとデキラ派と連合軍の間に入るみたいだ。
「なんで、そんな危険なことしてるのさ! 田中さん止めなかったの!?」
「そうです! わざわざ危険を冒さなくても、連合軍の方たちが頑張ってくれるはずです!」
でも、その作戦に光や撫子は反対のようで、非難の声を上げる。
まあ、俺もメルさんのお父さんが危険なことをするのはどうかと思う。
メルさんは帰ってきてから、どうも表情が硬いと思ったら、これが原因だな。
なのに、メルさん自身は何も言わないでいるのが不思議だったけど……。
「ここで連合軍に被害がでても困るからな。そして、自分たちがやりたいって言っているんだ。俺たちが口を出すことじゃない」
田中さんがそう言うけど、俺たちには不思議でたまらない。
なんで命を懸けることをやりたいっていうのか。
「やりたいって……」
「どういうことでしょうか? 連合軍が来ているのに、無理をする必要は……」
俺たちの疑問に撫子が質問して、言葉をつづけようとしていると、メルさんが。
「あるのです。血を流してまでリリアーナ様を助けている連合軍の方々がいるのです。それを勝手にやってくれているといって何もしなければ、魔族は人からの信頼は得られないでしょう。そして、ロシュール側の砦もリリアーナ様の声に応じて、連合軍の損害を減らすため、命を懸けて、連合軍を手助けいたしました兵たちがいます。……私たちは絶対にその兵士たちの遺志を無駄にしてはならないのです」
「……あ、う。で、でも、メルのお父さんが」
メルさんの言葉に、光が何とか言葉を発するけど……。
「私の父だけではありません。皆、命を懸けています。きっと連合軍がやってきて、デキラが倒れて新しい未来がやってくると。信じて戦っているのです。父だけ安全な場所にいろと言うのは無理です。私だってこうして戦っているのですから。何より、ヒカリ様たちを戦わせて、何もしないなど、魔族として恥です。違いますか? ヒカリ様たちはタナカ様に全てを任せて平気なのですか?」
「「「……」」」
そう言われると何も言えない。
俺たちだって何かがしたくて、田中さんに無理を言って、時には言うことを無視してついてきたんだ。
「勝負ありだな。あとは、メルの親父さんを死なせないために、このレジスタンスを動かしてデキラ派の気を引くってことだな。あれだ。俺たちが失敗すればメルの親父さんが死ぬと思えばいい。やる気がでるだろう」
「ちょっと!? タナカさんその言い方はダメだって!」
「なんだ? お前たちは自分の行動で誰か死ぬのが嫌なだけで、動きたくないって言ってるのか?」
「そんなことは言っていませんわ。でも、わざわざそんな言い方をしなくても……」
「そうですよ。……俺たちのせいで死ぬなんて、メルさんが……」
俺がそう続けようとすると、田中さんは大きなため息を付いて。
「はぁ。結局の所、自分のせいで知り合いを殺したくないってことか。お前たちがここに来た時点で、多くの人の命を左右するに立場にいるんだ。俺たちだけが戦えばそれで済むなんて最初から思ってなかったはずだが? 自分の責任で誰か死ぬのはいやか? というか、人様の命を自分たちが決められるような言い方だな」
「あう、そんなつもりは……」
「田中さん。わかって言っているでしょう? 人の心配をするのはいけないことですか? そのような言い方をされて、気にしない人などいませんわ」
「だよな。田中さんは何で……」
なんか言い方にとげがある気がする。
「何でって、お前らな覚悟を決めているメルの前でグダグダ言っている方がひどいからな。それを忘れるな。本人が決めているんだ。メルの親父さんたちも覚悟を決めている。なら、できることはこっちの仕事をきちんとこなして、全員助けるぐらい言ってやれよ」
そんな簡単に言えるわけがない。
人の命がかかっているんだ。
そう思っていると、なぜか光がポンと手を打って。
「あ、そういうことか。なら、全力で頑張るよ! ねえ、撫子、晃!」
「え? あ、はい。そうですわね」
「なんか話の流れをぶった切っている気がするけど、まあその通りだよな」
いきなり光がポジティブすぎる回答を出してしまって、賛同せざるを得なくなった。
「そうそう。それでいい。結局、周りが何と言っても、自分の命の使い方は自分が決めるだけだ。だからこっちも勝手にやればいい。死ぬと決めた連中を逆に死ぬのが馬鹿らしくなるレベルで助けてやればいいだけだ」
「そうだね! 頑張って僕たちでデキラたちを引き寄せれば死ななくて済むんだしね!」
……なんか色々違う気がするけど、光の言う通りでもあるので、その場は何も言えずに終わることになる。
そして、作戦会議は終わったあと俺たち3人は集まって改めて戦いが近いってことで話すことになった。
「あれだね。田中さんに言われて色々と悩んだけどさ。みんなを見ているとそんなのって自分勝手だなーって思ったよ」
「ええ。そうですわね」
「だなー」
俺たちは、あの後悶々としていたけど、準備に取り掛かっている魔族の人たちを見てその考えを改めていた。
みんな、死ぬのは怖いはずなのに、それでも戦おうと頑張っている。
誰かに任せるわけでもなく、自分たちの力で、故郷を取り戻すんだって。
「僕たちだって、地球に帰る手段を人任せになんてできないのと一緒だよね。あ、信頼できないとかじゃないよ」
「わかっていますわ。まあ、信頼できないというのは、私はありますが」
「ルーメルはそこらへんがなぁ……。って、気が付いたけど、ここで魔王を倒したとして、それからどうなるんだろうな?」
魔王を倒す。
そうしないと、俺たちが戦いに巻き込まれるからだ。
でも、その魔王は倒れたなら、一体どうなるんだろうと。
「そりゃ……、国としては魔王が倒れて、魔族の人たちは助けられて、これから仲良くなっていくんじゃない?」
「そうですね。光さんの言うようになってもらわないと、私たちが頑張った意味がありませんわ」
「いやいや、国のその後じゃなくてさ。俺たちのことだよ。まあ、魔王の事が終われば帰る手段を探すんだろうけどさ。何か、ヒントとかあるのかな?」
「いやー、無いんじゃない? 帰る方法が多少なりとも見つかったなら、田中さんが言いそうだし。僕たちが無謀をしないようにって」
「ですわね。まあ、言わない可能性も同じぐらいありそうですけど、このデキラ討伐の前なら教えてくれていたでしょうから……」
「少なくとも、魔王討伐前までは、そんな情報はなかったってことか。となると、帰るための情報集めの再開かー」
「僕たちの旅はデキラとか言う、パンツ食べる変態は通過点に過ぎないんだよ!」
「その通りですわね。パンツを食べる変態にこれだけ時間をかけただけでも褒められて当然だと思いますわ」
「実家に帰っても自慢できそうにないよな。パンツを食べる変態を倒したっていってもな」
「「「あははは……」」」
そんな風に笑っていると、不意に後ろから声が聞こえてきて……。
「なんだ。意外と持ち直しているな」
「タナカ殿、言っただろう? ヒカリたちは強いんだって」
「いやー、しかしノールタルさんはすっかりお姉さんですねー。まあ、私はアキラさんのペットですけど」
「相変わらず、ヨフィアは何を言っているのですか」
「いいではないですか。それだけ勇者様をしたっているということ。アキラ様もまんざらではありませんし」
そこには、監視をしていないメンバーがそろってこちらを見ていた。
「あのー、みんなどうしたの? 敵襲とか? その割には静かだけど?」
「ああ、いやいや。ほら、昼にメルの親父さんの事で悩んでいただろう? ルクセン君のポジティブさであの場はまとまったが、言えないことがあったんじゃないかと思ってきてみたんだが」
「なるほど。それなら大丈夫ですわ。私たちも外にでて、魔族の皆さんが戦う準備をしていて気が付きました。自分たちの手でやらないといけないんですね」
「誰かに任せていいわけじゃない。俺たちが助けるって言っても仕方がないってことですね」
「同じことを俺も言ったんだがな。まあ、百の言葉よりも一つを見るって所か」
田中さんがそう言いながら、横を向き俺たちもその視線を追うとそこには、夜の警備に出ている兵士がいて、今まさに交代をしようとしているところで……。
「おい、交代だ」
「え? いえ、まだ自分は頑張れます! 先輩は、もうすぐ起こる連合軍とデキラの戦いに出られるのでしょう? ……自分はそれには、参加できません。ですから、せめて……!」
「バカ。お前がいるから俺たちは戦えるんだ。こんなことでお前に無理してもらっても何も嬉しくねえよ。戦う時にお前が万全でここを守ってくれればいい。お前の気持ちの分、戦ってきてやるからよ」
「……はい! 休ませていただきます!」
そう言って、若い兵士の人は、その場を離れていって、兵士が夜の警備につくんだけど、俺たちの存在に気が付いたようで……。
「ははっ。これは恥ずかしいところをお見せしました。皆さまは会議ですか?」
「いや、ちがうよ。同じことを話してたんだ。みんな頑張っているんだって、形はどうであれってね」
「そうですか。……ええ、そうでしょう。あいつも、本当は一緒に連合軍を助けるための戦いに出たかったはずです。でも、それを我慢して、俺たちの後ろを守ってくれています。だから、戦うことを任された私たちが逃げるわけにもいきません」
「そうですわね。きっと、上手くいきます。ですから、……難しいかもしれませんが生きてください」
「ええ。信じていますよ。勇者様にゴードル様、そして連合軍を連れてきてくれているリリアーナ女王陛下とそろっているんですから」
そう兵士のおじさんは笑ってくれた。
信頼してくれるんだ。
でも、生きてという撫子の言葉には……。
「そして、生きることに関しても、既にヒカリ様に助けていただいていますからね。また怪我をしたときは助けてください」
「いや! ケガしないようにしてよ!」
「はっはっは! 善処しましょう」
こうして、俺たちはもうすぐ来るであろう戦いの日に備えるのであった。
みんなの覚悟持って、その役割をこなしている。
戦争っていうと嫌だけど、それでもやらなくちゃいけない時があるんだよね。
別に戦争だけじゃない。生きるっていうのはそう言うことだね。
メルのお父さんも、光たちも、そして田中もそれぞれの役割を果たして、その結果……どうなるのか。




