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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第235射:穏やかな日々

穏やかな日々



Side:ナデシコ・ヤマト



早朝の涼しさと爽やかさ、そして穏やかな日が差し心地よい風が吹く森の中。


「よーし、撫子。いっくよー!」

「はい。光さん!」

「「せーの!」」


私と光さんは協力して……。


ずぽっ!!


「うひゃっ!?」

「きゃっ!?」


ごろんっと地面に転がっていました。

何をしているのかというと……。


「おー、大きなお芋が取れましたねー」

「しかし、これがそんなに美味しいのかな?」


そんなことを言いながら、私たちが掘り起こしたジャガイモを籠に入れているのはヨフィアさんとノールタルさんです。

そう、私たちは今、畑仕事をしているのです。


「……なぜ私たちが畑仕事など」

「よいではないですか。こうして糧があることが生きることなのです」

「こうして、食べ物はできているのですね!」

「姫様。もう少し優しくお願いいたします」


この収穫作業にはリカルドさん、キシュアさんはもちろん、お姫様とカチュアさんも参加しています。

まあ、お姫様とカチュアさんは初体験という感じでしょうが。


「あいたた。撫子大丈夫?」

「ええ。少し土を被ったわけですわ」


私と光さんは土を払いながら立ち上がり、お互いの無事を確認しつつ……。


「平和だねー」

「ええ。本当に平和ですね」


そんなことを言いながら空を眺めます。

晴れた空、今日は畑仕事をするにはいい日です。

と、思っていると、不意に光さんが口を開きます。


「でもさ、平和過ぎない? 僕たちってレジスタンスを揃えて、連合軍と合流する予定だよね?」

「そうですよ。でも、私たちはやることが無いので、こうしてみんなの生活を支えるための畑仕事をしているのです」


そう、私たちにはやることが無かったのです。

レジスタンスの活動はメルのお父さんに任せて、私たちは今を維持することが唯一できることでした。


「……いや、わかっているけど。なんかレジスタンスのイメージとは違うなーって」

「言いたいことはわかりますわ。でも、それは私たちが知っている一場面でしかないんですよきっと」


私はそう言いながら、足元にある蔓を握ります。

すると、光さんも同じように隣の蔓を握りながら。


「ま、戦ってばかりじゃ、ご飯をいつ作ってるのって話だよね」

「そういうことです。どんな人にも戦いだけじゃない日常があるんですよ。当然のことです」


こんな世界でも、あったのです。

日々を生きるための、大事な積み重ねが。

それは前から知っていたはずです。

リテアでの孤児院たち、酒場で食事に来る人達。

多くの日常を見てきたはずです。

すると、不意に横から影がさし。


「そうそう。どんな人にも穏やかな時間ってのはあるもんさ」


一番穏やかな時とは縁遠かった人、田中さんがそう言います。


「田中さんにもそういうのはあったの? ってうぉ!?」


また、芋がいきなり抜けて転がる光さん。

そして、それを片手で支える田中さん。


「何やってるんだか。大丈夫か」

「あ、うん。ありがと」


なぜ片手かというと……。


「田中さんも芋ほりですか?」


田中さんの手には芋がにぎられているから。


「ああ。俺もこういうときに普通に働かないとな。心が荒む」

「田中さんもそういう事ってあるの?」


光さんがそう失礼なことを聞いてしまいます。

まあ、私も同じようなことを思ったので、同罪ではありますが。

で、そう聞かれた田中さんは、苦笑いしながら。


「そりゃな。俺だって人だ。人死にを見たいわけじゃないし、気を張り詰めているのは疲れる」

「それは分かるけどさ、傭兵さんも畑仕事するんだって驚き」

「いや、普通はしないぞ。職業はあくまでも傭兵、兵士だからな。とはいえ、一個人だ。人ぞれぞれの息抜きっていうのはある。そして、現地の人と仲良くする必要もあるからな。こういう畑仕事は仲良くするにはうってつけなんだよ。そういうのが最後には自分を救うからな」

「うわ、最初はいい話だったのに、なんか戦いの話になったよ」

「傭兵だからな。敵ばっかり作っちゃ生きていけないんだよ」

「確かにその通りですけど、そこまで露骨に言ってしまうのはいいのでしょうか?」


一緒に畑仕事している魔族の人たちに聞こえているでしょうし……。


「裏があると人は警戒するからな。最初から目的を言っていればそれでいい。まあ、罠にはめようとするなら、それだけ俺たちも抵抗するともいうしな。というか、それを言うなら、今の状況だってそうだ。俺、というか大和君たちを捕まえて、デキラに差し出してもいいんだ。だが、それをしないのは……」

「そんなことするわけないじゃん。ここの人たちはデキラにひどい目にあわされているんだし、今は仲良しなんだから!」

「そうです。私たちがヒカリ様たちを裏切るわけがございません!」

「そういうこった。状況的に裏切るとは思ってないしな。……よっと」


田中さんはそう言いながら、近くにある芋を引き抜きます。


「これもいい出来だな。こうして、生活を過ごしてりゃ情もわく。それがいざというときに役に立つのさ。まあ、足を引っ張るときもあるけどな。で、この収穫はデキラの方にまわすんだったか?」

「あ、はい。デキラというか、ラスト王国に納めるものが8割となっています」

「うげ、何、半分どころか8割!?」

「……戦国時代では四公六民であればいいとは言われていましたが」


何という重税。

おそらく、この貧民層の者たちだけなんでしょうけど、これは実際に税として納められるものと、自分たちのモノと分けると非常に胸が痛いです。


「独裁国家じゃよくあることだ。兵士が回ってきているだけましかね。いや、自由な方が良かったのか? ま、人それぞれってところか。とはいえ、ここの人たちは、この二割を食料にしてして生きていかなきゃいけないわけだ」

「こんな少なくて生きていけるんですか?」

「それが狙いだろ。食料を減らして、弱らせる。死んだら仕方がない。ってやつだ。こうすれば、手をかけることなく敵対勢力を減らせるからな」

「ひっど! その前に反乱起こすよ!」

「だからだ。ルクセン君。なるべく反乱させることなく、食料はある程度与えておいて、ギリギリのラインを見極めているんだ。ここの連中は、こんな収穫を何度もしているはずだぞ? なあ?」


そう田中さんが聞くと兵士の人が頷いて……。


「はい。今回が初めてというわけではなく、何度もこの割合で納めてきました。しかし、タナカ殿に言われて上手く力を奪われていたということに気が付きましたよ。はは……」


兵士の人は力なく笑っています。


「別に悪い事じゃない。反乱を起こしてもこの戦力じゃ潰されるだけだ。こうして、俺たちが到着して生活は改善しているから、耐えた意味はあったってことだ」


田中さんはそう言いながら、兵士に近寄って背中をポンと叩く。


「仲間の死に意味はあった。そうだろう?」

「……はい、はい」


すると、兵士の人は顔を伏せて……そう返事を返します。

きっと、泣いて……いえ、言葉にするのは無粋ですわね。


「じゃ、さっさと、収穫して、仕事終わらせて、俺たちは俺たちで美味いもんでも食うぞ。俺が出すものだしな」

「「「はいっ!!」」」

「酒も飲み放題だ!」

「「「うぉぉぉー!!」」」


なぜか、兵士や畑仕事をしていた皆さんは、田中さんの言葉に雄たけびを上げて気合を入れて動き始めました。


「い、いきなりなに!?」

「さ、さあ?」


私たちがそんな風に混乱していると、キシュアさんとリカルドさんがやってきて……。


「雰囲気が沈んだんで、それを盛り上げようとしたんでしょうね。そして、周りもそれに乗った」

「そうですな。しみったれた中で仕事なんてしたくありませんからな。そして、収穫したものも税として持っていかれる。それは、キツイことですから。と、私が言うのもアレですが」


なるほど。

そういうことですか、悲しさを紛らわすため。

いえ、悲しいことばかりで体が動かなくなるのを避けるために。


「別にいいとおもうよ。リカルド殿が一般人の気持ちが分かっていることだからね。でも、タナカもよくわかっているね。自分から食料だすって言っているし意図的だね」

「いやー、アレはただ酒を飲めばどうにかなるとか思っていますよー。ちゃんと子供たちが飲めるジュースやお菓子も要求しないといけません。チョコとかチョコとかチョコとか」

「ヨフィア。チョコしか言っていませんよ。しかし、戦いの前に美味しいモノを食べて英気を養うというのはよくあることと聞いています」

「よくわかりませんが、皆さんが楽しそうなのはいいことだと思いますわ」


他の皆さんも田中さんの意図をわかっているようで集まってきます。

そして、頑張っている皆さんをよそに田中さんがこちらにやってきて……。


「ま、連合軍も近づいてきたからな、明日からは忙しくなる。今日の内に結城君たちも楽しんでおけ」

「「「は!?」」」


何か物凄い大事なことを言いました。


「ちょっと待ってください! その話は本当なんですか!?」

「そりゃな。というか、連合軍の動きはドローンで追っているだろう?」

「あ、いやそうだけどさ。なんで明日から? まだそんなに近くないよね?」


そうです。光さんの言うように、まだ連合軍は7日ほどかかりそうなところにしかいません。

それなのに、なぜ明日という話が……。


「ロシュール側の砦から逃げ出したデキラ派の兵士が城に逃げ込んだからな。それに合わせて食料を集めたらあとは人を集めて戦いの準備になると思うぞ。メルの親父さんや俺たちにも声がかかるはずだ」

「「「あ」」」


そういうことですか。

あの砦の生き残りが情報を伝えたのですね。

そして、戦うには、生きるにはご飯が必要です。

私たちの食べ物を取った後は、戦いに備えるというわけですか。


「ま、詳しくはまだはっきりとしないが、ゆっくりできるのは今日までなのは確かだ。しっかり飲んで食って騒いでおけ」


田中さんはそう言うと、また兵士や畑を耕している人たちに振りむき。


「物資は倉庫前に置くから、各員、ほかのみんなに連絡と、机とテーブルの準備をするぞ! 焚火の用意も忘れるな!」

「「「おー!!」」」


こうして私たちは、明日からの激動に備えて美味しいモノを食べて英気を養うのでした。



「ねえ。晃、撫子」

「なんだ?」

「なんですか?」

「頑張ろうね! みんな揃って地球に帰るんだ!」

「おう!」

「はい!」



こうして、穏やかな日々は終わりを告げ、戦いが始まる。

最後の仕上げのためにみんなが動き出す。


表では簡単に終わったけど、裏ではこんなに色々な人の努力があったのです。

戦いは簡単じゃない。そういう話。



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