第228射:これからどうしようか?
これからどうしようか?
Side:タダノリ・タナカ
……はぁ、厄介なことになった。
いや、戦力はかなり増強できたと考えればいいのか?
そんなことを考えながら日が昇った明るい青空を眺めている。
「まさか、デキラたちがそこまでやっているとは思いませんでした」
「だな。ま、おかげで味方が増えたしこっちを拠点にするっていうのは悪くない」
俺はそんなことを結城君と話しながら、強制収容所と化している食料保管庫の近所を歩いている。
あの後、すぐに結城君たちにはノールタルの家からこっちに移動してもらった。
ノールタルには悪いが、あの家よりも、戦力が集まっているこっちの方が何かとやりやすいからな。
「それはわかりますけど、遺体とかはどうするんです?」
「ちゃんと燃やす予定だ。魔物になってもらっても困るからな」
「あー、そうか。この世界だとアンデッド、魔物になるのか」
「地球でこの現象が起こったら土葬が主流な国はすぐに亡びるな、ああ、いや、骨もスケルトンになるから、日本もだめか?」
「いや、供養しているから大丈夫じゃないですか?」
「ああ、それもそうか。となると、どこかのゲームみたいな科学暴走が怖いか」
「あっちもあっちで嫌ですねー」
そんな雑談をしながら、俺たちは一つの倉庫へと入っていく。
「お、戻ってきた。おーい!」
俺たちが入ってきたことに気が付いたルクセン君が手を振ってこっちだとアピールする。
「連絡がなかったということは上手くいったのですね? ドローンで確認するかぎり、すぐに帰ったようですけど」
「ああ、普通に兵士さんたちが上手くやったよ。ま、何人かはやっぱり鞭で打たれたから、治療がいるけどな」
「見てたよ。すぐにこっちに来るように言ってよ。治療するから」
「わかってる。もう来るはずだよ」
そう、既に兵士の巡回を何とかやり過ごすことに成功していたのだ。
不味いことになれば、行方不明になってもらうつもりだったが……。
敵さんには日課や規律を守るという意識が欠如しているようで、賄賂をちょっと渡しただけで、適当にやって帰ってしまった。
こんなのが上にばれたら、地球の軍隊じゃ下手すると処刑ものだな。
とはいえ、こんなところで人をいたぶって殺しているような連中が、正常な判断もできるわけもないかと納得もする。
戦争ってのは、人を狂気に染めるからな。
ま、今は俺たちにとってありがたい腐敗だから文句なしだ。
デキラの統治は既にボロボロだというのも確認できた。
下手をすると勝手に自壊するんじゃないとも思う。
「ほら、あれだ」
結城君が言う先には、支えられてこちらに歩いてきている人が数人。
先ほど話した鞭で打たれた人だ。
「よーし。みんなこっち! 倉庫に来てね!」
「はい。すぐに治療いたします」
そう言って、すぐにルクセン君と大和君はすぐに治療用の倉庫の方へ駆け出していく。
もうすっかり医者だな。
「で、ここの人たちを仲間にしたのはいいですけど、一体どれぐらいずっと潜伏しているんですか?」
「そりゃ、連合軍が到着するまでだな。先に反旗を翻しても、ここだけの戦力じゃ潰されるのがオチだ」
確かに戦力は増えたが、デキラたちを倒すほどは戦力は集まっていない。
デキラは本隊をアスタリの町に向かわせはしたが、ちゃんと城を守れるだけの、暴徒を鎮圧するだけの戦力は残している。
こういうところはしっかりしているんだが、末端の調整が上手くいっていないんだよな。
まあ、そういうリリアーナ女王の体制を嫌った連中の集まりだから、そういう蛮行はある程度見逃す必要はあるのはわかるが、ここまで反発を招いては意味がないんだよな。
しかし、こういう民衆の反乱、蜂起する内戦は現代の地球でもよくあることだからな。
上と下の意識がずれているってやつだな。
「連合軍がいつ到着するかわかるんですか? あまり長いようだと……」
「まあ、その心配はあるが、そこまで長くはないだろうさ。もう動き出している様だし、一か月以内とはいわないが、半年以内には到着するだろうさ」
「半年って長くないですか?」
「いや、結城君。あの森を少人数じゃなく、軍で進んでくるとなるとそういうわけにはいかないだろ」
「あ、そうか」
そう、ただ少人数で来るならそこまで時間はかからない。
だが、今回は軍として多くの人数で動いているから、必然と速度は落ちる。
「しかも、未踏の土地だしな。警戒して、慎重に進むことになるだろう。それを考えるとやはり一か月で到着っていうのは厳しいな」
見知らぬ土地を進むっていうのはそれだけ危険が伴う。
物資の補給にも気を使わないといけないし、この世界だと魔物の襲撃もある。
おそらく、普通の平地を進むのとはわけが違うから、かなり行軍速度は落ちるとみていいだろう。
「……それまで、みんなが我慢してくれると思いますか?」
「さあな。人の心なんて判らないからな。だが、治療をしてくれたルクセン君や大和君の声を無視するとも思えないな」
「あー……」
「微妙だろう?」
そう、微妙。
ルクセン君と大和君が助けて、俺が物資を渡すということで、強制労働で死にかけていた人たちはひとまず命を取り留めた。
そして、生活水準も俺が物資をスキルで出しているので枯渇する心配もない。
なので、恩があるルクセン君や大和君の言うことを無視することもないだろうが。
それは今のところだからな。
今は一杯一杯で、余裕がないが、治療が終わり、物資が潤っているなら、人々に余裕が生まれてくる。
その時、ルクセン君たちの声を聴いてくれるのかというと、正直わからん。
「まあ、このままデキラたちの方が何もしなければ、大人しく連合軍が来るまで持つだろうが、そうもいかない。毎日毎日誰かが代わりに鞭に打たれることになる。それを毎日毎日見せられて我慢できるかどうかは、本人たち次第だからな」
耐えられる奴は耐えられる。
耐えられないやつは耐えられない。
それだけの話だ。
「……なんとかできたらいいんですけど」
「そう都合のいい方法もないからな。ま、俺たちの拠点にしてはいるから、なるべく何とかはしたいけどな」
俺だって、このどっちに転ぶかわからない時間を過ごすのは胃が痛い。
まあ、本当に胃が痛いわけでもないが、気を使わないといけないという方の面倒だ。
この状況になってようやく判ることだが、地球上で内戦をしているやつら、特に国軍じゃない、レジスタンス、解放軍とかのやつらはよくこんな連中をまとめているな。
あれか、ゲリラみたいな使い方でもしているのかね?
いうことを聞かない連中をそうして使う方しかないからな。
……いやまて、意外と使えるかもしれないな。
「……田中さんなんか変なことを考えていませんか?」
「変なことかどうかは分からないが、言うことを聞かない連中は、適当にたきつけて、デキラたちにぶつければいいんじゃないかってな」
「だめでしょう!!」
「駄目か? このままこの強制労働者たちが敵と認められるよりはましだと思うが?」
「それは……」
ただの足し引きの問題だ。
全滅するのが10か100かって話。
このままでは勝てる見込みは低い。
こんな状況でデキラたちに喧嘩を売りたいとかいうやつは、俺たちを巻き込まず勝手に向かって行ってほしい。
ただそれだけの話。
「ま、そういうやつは貧民区の方に逃がして、デキラたちに色々仕掛けてくれっていう作戦もあるけどな」
そうすれば、この強制労働者たちに被害は及ばないだろう。
だがこのやり方は……。
「いや、完全にゲリラのやり口じゃないですか。下手したら貧民区が全滅ですよ」
「そうなんだよな。拠点を与えるとその一角がなくなりそうなんだよな。そうなるとノールタルの家も含まれるからそれはなー」
そう、ゲリラのやり口で、これを鎮圧しようとなると、その区画を全て潰すしかないわけだが、そうなると、いざというときの拠点もなくなる可能性があるというわけだ。
ノールタルはもちろん大和君やルクセン君が激怒するだろう。
今回の事を見てたやすく想像できる。
「ま、ここでとやかく話すよりは、当の本人たちを集めて話をしてみよう」
「そうですね。俺たちだけで話しても意味ないですし。もうそろそろ治療も終わったでしょうから」
ということで、治療が終わったであろう倉庫へと入っていくと……。
「ふぅ。つかれたー。あとは無理しないようにね。傷が治っても体力とかはなくしてるからね」
「はい。これで大丈夫です。しかし、2、3日は絶対安静です。あれだけのケガをしたのですから、傷が魔術で治ったとはいえ、体や心の方は疲れていますから。いいですね?」
なんとも、対応が違う二人の医者が存在していた。
ルクセン君はとりあえず簡単に済ませるタイプ。
そして、大和君はきっちりとしっかり話していくタイプだな。
医者としては、大和君が優秀なんだろう。
とはいえ、ルクセン君のさっぱりした対応も悪くはない。
そんなことを思いながらルクセン君たちに近づき。
「よう。治療は終わったか?」
「あ、田中さん。うん、終わったよ」
「はい。処置が早かったので、重症といえば重症ですが、昨夜ほどのけが人はいませんでしたわ」
「そっか、よかった」
さっきの怪我人は歩けるほど余裕はあったからな。
しかし、これからも続くとなると色々考えないといけない。
「よし、治療が終わっているなら話がある。ノールタル、強制労働者たちの代表と話がしたい。兵士のやつは兵士長を呼んで来てくれ。これからの事だ」
「わかったよ」
「わかりました!」
返事をして席を立つ二人を見送りながら、俺はルクセン君と大和君に話しかける。
「とりあえず。2人にはここにいる人たちの説得をお願いしたい」
「説得?」
「そう。これからはまとまって行動する必要があるからな。勝手に行動されても困ることは多い。勝手に動かれてここにデキラが軍を派遣してくることもあり得る」
「……それは避けたいですね。戦えるような戦力はありませんわ」
「そうだ。まだ準備が整っていないのに、暴走されたらみんなに迷惑がかかる。今は治療したばかりで落ち着いているが、これから連合軍がくるまで待機することになる」
「だから、その間に暴走しないように、2人に説得してほしいんだよ」
先ほど話したことをそのまま2人に伝える俺と結城君。
「そっかー。勝手に動かれたら困るもんね!」
「……光さん、自分たちの首を絞めていますわ」
そ、この2人にとっては耳の痛い話だろう。
今回の件も勝手に動いた結果だからな。
ともあれ、無難に話し合いがまとまるといいんだがな……。
「予定を早めた方がよさそうだな……」
「え? なんの予定?」
「タバコを吸う時間を」
「……もうちょっと、禁煙をなさってはいかがですか?」
「次を吸うまでは禁煙している」
「「「……」」」
おいおい、ジョークだろう?
笑えよ。
ひとまず、拠点を移したけど、この人たちをまとめる必要がある。
組織化されてくるとこういうのがとても大変なんだよね。
田中はこれがいやだから、人任せだった。
そして、デキラは田中たちに気が付くのか?




