第226射:作戦が上手くいくことはない
作戦が上手くいくことはない
Side:タダノリ・タナカ
「ふむ、なるほど。既に連合軍が侵攻中なのか。そして私たちはこのままではデキラと一緒に殲滅させられる可能性があるということか」
「そういうことですお父様。リリアーナ女王陛下が連合軍へ説得をしていますが、敵対すればそれ相応の対処を取られるでしょう」
「それは当然だな。敵対してくるものを味方とは思わないだろう。だからこそ、レジスタンスを結成して国民をまとめる必要があるわけか」
「はい。連合軍とリリアーナ女王陛下がデキラを倒すのに、レジスタンスが介入してはどう転ぶかわかりません。義勇兵は組織化されていませんから」
そう、レジスタンスを結成する意味はそこにある。
手伝っているつもりが邪魔になっているという可能性もある。
というか、大抵邪魔になる。
軍隊というのは訓練されて、群れとしての動き方ができるから効率的に動けるわけだ。
そこに素人集団が入ってきてもまともに動けるわけない。
その結果足手まといとなり、デキラを倒す戦いの邪魔となるわけだ。
結城君たちには、人々を守るためといっていたが、俺としてはこっちが本当の理由だ。
あのデキラの無茶苦茶に大人しく従う連中はいないだろうからな。
いつか爆発するのは目に見えている。
それが、連合軍がやってきたときに爆発する可能性は非常に高い。
援軍がやってきてデキラを倒せると思えるからな。
そして、その足手まといを背負って、デキラたちを倒せるのかという不安もある。
ま、デキラのやつは事前に消えてもらうわけだが。
「話は分かった。この機会を逃す理由はない協力しよう。連合軍やリリアーナ女王陛下の事が本当かどうかは判断がつかないが、メルが嘘をいう理由もない。そして、反デキラ派を集めるにはちょうどいい情報だ。ゴードル将軍もこちらに向かっているというさらにいい情報もあるからな。連合軍の事が嘘だとしても勝算は十分にある」
「ええ。本隊が全滅しているのですから、万が一の場合はゴードル将軍の到着をまって、疲弊したデキラや連合軍を叩くのもいいでしょう」
メルは平然とそんなこという。
いや、戦略上は当然のことだが、メイドがここまでの事を考えるとは怖いね。
さて、俺が説得することもなく話は上手くまとまったわけだが……。
「具体的にはどう動かれる予定ですか?」
そう、協力してくれるのはいい。
だが、その方法次第では、こちらを危険にさらしかねない。
まあ、そこまで心配することもないだろうが、聞いておかないといけない。
何も確認せずに失敗しましたというのは、こっちの落ち度でもあるからな。
「ふむ。時間はそこまでないが、性急に進めては流石のデキラも勘づくだろう。それは避けなくてはいかない。まずは、反感を持っている知り合いの貴族に声を掛けておく。それから、国民の方へ通達をしたいが、デキラが城を離れない限りは厳しいな」
それはそうだろうな。国民に通達とか、国を上げての行うことだ。流石にデキラにばれる。
となると……。
「では、そこは家に閉じこもっておくようにという通達でいいのではないですか? デキラには警戒すべき相手もいますし、外を出歩かれるのは嫌うはずです」
「なるほど。家に閉じこもっていればこちらの足を引っ張ることもないということか。ふむ、その方向で検討しよう。そして、それを良しとしない者たちをこちらに引き込むという感じか」
「はい。動きを制限することによって、反発している者たちの動きを掴みやすくもなります。それで討伐や捕縛という名目で乗り出してもデキラにはばれないでしょう」
「いい考えだ。捕縛する名目で保護するわけか」
「その通りです」
ばれるような行動をするのではなく、当たり前の行動の延長で味方を作る方がいいに決まっている。
別の行動をするから怪しまれるのであって、怪しくない、当たり前の行動をすれば怪しまれないという当然の話だ。
「あとは、連合軍やゴードル将軍が戻ってくるのを待って、一緒にということか」
「その通りです。合わせて動けばデキラと一緒に討伐されることはないでしょう。無理に徴兵されることもあるでしょうが、その場合は……」
「敵に寝返ればいいわけか」
「はい。というか、その時は友好的にデキラの軍に志願したほうがいいでしょう。後ろから弓を引かれる可能性もなくなります」
「ふむ、確かにな。下手に反発していれば、デキラに使い潰されるのは目に見えている。ゴードル将軍のようにな」
信頼されるというのはそれだけ大事なわけだ。
そして、いざというときに裏切る。これが一番効果的だ。
ま、傭兵がこれをやれば今後雇ってくれるところがなくなるけどな。
今回は別に問題はない。こっちには大義名分があるからな。
デキラの極悪非道な行いに感謝ってところだ。
「よし。ではさっそく明朝より行動を開始するとしよう。で、メルはどうするのだ? 一緒に来た仲間をこちらに連れてくるか? もちろん安全は保障するぞ」
「はい。それはありがたい提案ですが……。どう思われますか? タナカ様」
「気持ちだけありがたく受けてとっておきます。メル殿もデキラに襲われているという事実があります。そのメルが帰ってきたなどといえば、警戒されるでしょうし、この屋敷の出入りに不審な人物がいてはいけません」
「ふむ。屋敷にずっと閉じこもっていればいいというわけでもないのだな?」
「はい。私たちはゴードル将軍やリリアーナ女王の命がありますので、その任務を遂行しなくてはいけません。まあ、メルは家族と会えたんだから、ここに残っても問題はないぞ」
家族と再会しているのに、引き離す理由もない。
メル一人ぐらい抜けてもどうにでもなるし、このメルだけならどうとでも隠し通せるだろうからな。
ついでに、家族に気を取られて足手まといになるぐらいならここにいてほしいという、俺のブラックな考えもある。
しかし、そこはリリアーナ女王に忠誠を誓うメイド。
「いえ、そのような気遣いは無用です。お父様、私はリリアーナ女王陛下のメイドです。私は陛下に忠誠をつくします」
そうバッサリと言い切る。
父親としてはちょっと悲しいんじゃないだろうかと思っていると……。
「その心意気やよし。流石、我が娘だ。失敗などして陛下の足を引っ張らぬようにな」
「はい。お父様も失敗などして陛下の足を引っ張らぬようにお願いいたします」
いや、意外なやり取りだ、
違うか。これが貴族の在り方というやつのなのかもしれないな。
お姫さんのメイド、カチュアもこんな感じだしな。
「次会うのは、デキラを打倒した時でよいな?」
「はい。その時は私の仲間たちももてなしてくださいませ」
「ああ、その時は大歓迎しよう。そちらの君も一緒にな」
「ありがとうございます。では、私たちはこれで」
「お父様、ご武運を」
「お前もな」
ということで、メルの父親とは有益な話が出来て、約束の時間の前には帰路についていたのだが……。
『タナカ殿。聞こえますか?』
その途中で、リカルドから連絡が来た。
「おう。こっちは予想以上に上手くいった。本拠地とルクセン君たちの方はどうだ?」
『本拠地の方は問題ありません。ヒカリ殿たちの方も……』
無事で終わればよかったんだが……。
『報告いたします。タナカ殿。ヒカリ殿たちのほうで問題が発生しました』
「何があった」
リカルドからキシュアに通信が切り替わった。
はぁ、そうそう上手くはいかないようだ。
『簡潔に説明いたします。強制労働者の死体が山積みにしてありましたので、時間をかけてはいられないとのことで、交渉と治療を強行いたします』
「……止めるのは無理か?」
『無理ですね。ヒカリ様もナデシコ様も引く気はありません。無論、ノールタル殿やセイール殿もです』
最悪だ。
ばれては意味がない。
向かわせたのは失敗だったか?
しかし、死体を山積みとか、どこかの強制収容所か。
ああ、ついでに処分もしているわけか。
こりゃ完全に俺の選択ミスか。
仕方がない、俺が連れ戻すかと思っていると……。
『大丈夫です。ばれることのリスクはちゃんと把握していますので、治療を施したあとに交渉をすれば味方につけられるだろうという考えで動いています』
「まあ、そりゃそうだが、巡回の兵士とかにばれないのか? 治療されて、兵士が違和感を持たないのか?」
治療を施せば味方になってくれる確率は高いっていうのは同感ではある。
そう治すのはいい。だが、それで俺たちの思惑がばれては意味がないんだ。
『このまま見捨てるよりは、マシと言っています。私も同感です。彼女たちを救えなくては、ここに来た意味がありませんから。あのまま見捨ててはノールタル殿たちが勝手に行動します。それよりも一緒に動いた方が被害は防げるかと』
「……もう止められないってことか」
『はい。もう動き出しています。タナカ殿が慎重に慎重を重ねているのはわかります。そして合理的で効率的なことも。ですが、人はそれだけではありません。それはタナカ殿がよくわかっているのではありませんか?』
「……今までうまく行き過ぎたか」
『ええ。勇者様たちは今までよく我慢してきました。失敗するにしろ成功するにしろ、一度は自分で考え行動をすることは必要でしょう。彼らは軍人ではなく、勇者様なのですから』
「はぁ……」
確かに、俺も言った。
俺のようになるな。人殺しに慣れるな。人の死に慣れるなってな。
心をなくすな。
ま、いつか反抗されるだろうとは思ってたが……。
いや、これを反抗といっていいのか
「今まで調整はしてきたつもりなんだがな」
『調整といっている時点で勇者様を縛っているのと同じです』
「確かにな。俺は部隊長とか務められる器じゃないからな」
『は?』
なんか唖然とした声をだすキシュアは無視して話を続ける。
「所詮は一兵士ってことだよ。じゃ兵士は兵士らしく、サポートに行くとするか。メルお前は戻れ。何かあった場合は、親父さんを頼るようにな」
「かしこまりました。先ほど次会うときはデキラを倒したときと言ったばかりですが、命には代えられないということですね」
「そうだ。かっこいいことを言っても、現実は変わらないからな。文句があるなら、ルクセン君たちに直接文句を言ってくれ」
「いえ、ヒカリ様に文句など言うわけがありません。まさに勇者様ではないですか。傷ついた者たちの立ちあがる。なので、タナカ様、ヒカリ様たちをよろしくお願いいたします」
「おう」
そう言って、俺はメルと別れて森へと走る。
「さて、トラブルになっていないといいがな」
上手くばれずに、接触出来ているといいんだがな。
最悪、兵士を皆殺しにして逃亡させるしかないが……どこに逃がすかねぇ。
と、そんなことを考えながら、ルクセン君たちの所へと向かうのだった。
何事も上手くいくことはないってやつですね。
不慮の事態にどれだけ対処できるかが、人の真価を見せるときでもあります。
田中も光も撫子も完璧じゃない。だから、それを補うために動きます。
さあ、光と撫子は無事なのか!!
あ、それと、ネットで調べればわかると思うけど「レベル1の今は一般人さん」が書籍化です。
10月末に発売となります。
ユキのように拠点がなく、この異世界を生き抜くもう一つの物語をお楽しみあれ。




