第222射:住人はどこへ
住人はどこへ
Side:タダノリ・タナカ
さて、朝食が終わってからは、辺りの状況把握を始めたわけだが……。
「……ねえ、この人」
「駄目だね。……死んでいるよ」
「……」
やっぱりというか、俺が昨日の夜に見た死体はあれだけじゃなかったようだ。
ルクセン君や大和君はノールタルの家を中心に上空から道を確認していると、どう見ても人が転がっている映像が届けられているようで、同じような会話を聞いている。
一応、何か情報にならないかと、上空から発見した場合、ドローンを派遣して生存確認をしているが、今のところ全敗中だ。
しかもほとんどが暴行を受けての死体だから、見た目も非常に悪い。
女性の死体の時はルクセン君や大和君はやめた方がいいとノールタルが言ったほどだ。
ま、妙なオブジェになってたしな。
それをうっかり見てしまった結城君が吐いてダウン。
トラウマになってないといいけどな。
「……どこかに、生存者はいないのですか? まさか、アウシュビッツなんて……」
あまりの死体ばかり見てるもんだから、大和君は世紀の大虐殺を思い出しているようだ。
このありさまは別に戦場じゃ普通なんだけどな。
とはいえ、初めてこんなシーンを見れば当然か。
さて、早いうちに見つけないと、結城君だけじゃなくて、ルクセン君と大和君も参ってしまうな。
とりあえずは、声を掛けて……。
「落ち着け。まだここら辺一帯を調べただけだ。というか、見つけたぞ。生存者を」
「「「え!?」」」
いや、タイミングがいいな。
幸先がいいというべきか、遅かったというべきかは迷うところだが。
まあ、そんなことはいいとして、発見した場所だが……。
「城壁外の畑だな」
「あ、本当だ。かなりの人がいる」
「しかし、ここはゴードルさんが耕していた畑では?」
「大和君流石だ。正解。ここはゴードルが耕していた畑の一つだな」
そう、見つけた場所はゴードルが管理していた畑だった。
「おそらくは、表向きは食料の生産だろうな。管理しているゴードルが今最前線にいるからな」
「じゃ、裏は?」
「そりゃ、反抗的な連中を外に追いやって、しかも食料も生産できるならいいことだろう?」
「最低ですね」
「だね。デキラマジで許さない」
2人は映像を見せてさらに眉間にしわを寄せる。
それもそのはず。
畑を耕している人たちは、ご丁寧にぼろ服を着せられて、両手両足に鎖付きの腕輪足輪の拘束具付きだ。
鎖があるせいで、両手両足を全開まで伸ばせず、武器をふるうどころか、畑の手入れをするのも大変だろう。
そして、その拘束具を子供にもつけて働かせている。
しかも、転んで泣く子供に鞭を打つバカもいる。流石に他の兵士に止められるが、かばった母親の背中は皮膚が裂けて血が出ている。
鞭打ちってのは結構シャレにならないからな。
鞭打ち100回っていう刑罰が存在したが、100回真面目に打たれたら、普通の人は死ぬ。それぐらいの罰だったりする。
そして、傷への治療を誤ると死ぬ。
刑罰としては、かなりの物だ。
それを用いているということは、かなりきつめの統治をしているってことだな。
デキラのやつ、ここまで無理なことをしているとなると、なるべく早くしないと死体が増えそうだな。
あー、そういうことか。リリアーナ女王が万が一戻った時に手を貸す連中がいない、もしくは力がないようにするための一環か。
悪手のように見えるが、方法としてはありだしな。
と、そういうことは今はいいか。
大事なのは……。
「さて、後はこの連中を収容している場所がどこにあるかってことだが……」
「ここまで、大人数を収容できる場所ってかなり大きな建物だし、すぐに見つかるんじゃない?」
「そうですわね。この畑までには結構な距離があったはずですし……」
そう話していると、メルが口を開く。
「それでしたら、穀物倉庫ではないでしょうか? 最近はデキラが国防のための食料を持っていくので、ほぼ空な状況に頭を痛めていました」
「なるほどな。となるとあそこか」
俺はすぐに察しがついて、ドローンを移動させる。
森が途切れたところに倉庫が存在していたんだが……。
「あそこか。……確かに、見張りの兵士がいるな。今は日中だから人がいないってことか」
「田中さん、近づいて様子を見てみない?」
「いや、夜にしておこう。ルクセン君の気持ちは分かるが、ドローンの存在はデキラにばれているからな、迂闊に近寄れない」
ドローンの存在がばれているのが面倒だよな。
リリアーナ女王を援護したのが後を引きずっている。
まあ、そうでもないとリリアーナ女王が死んでいた可能性もあるから、今更文句を言っても仕方ないか。
「今は場所が分かっただけでも良しとしよう。だが、これだけが町の住人全てってわけじゃないだろう。ほかの連中は……」
「こっちも見つけたよ」
どうやら、ノールタルの方も見つけたようだ。
「え!? 姉さんどこ!?」
「意外に近いよ。場所は、私の家の近くの大通りを挟んで路地にある……ここだ」
ノールタルの操るドローンのモニターに視線を向けると、確かに窓際から顔を覗かせている人の顔が見えている。
こっそり、辺りを窺っているように見える。
「よく見つけたな」
「人の気配がないなら、隠れていると思ったからね。私たちと同じように」
「なるほどな。とりあえず、俺たち以外の住人もいるのは確認できたわけだ。しかし、この様子を見ると門番をやっていたやつはどう見ても不満があるみたいだな」
「だね。ばれたら、処刑ものだからね。まあ、賄賂がなかったらダメだったというのもあるかもしれないけど」
「……そこは調べる必要があるな」
賄賂があったからこそ通してくれたのか、それもと義憤があったのかそれを見極めないとダメだな。
ま、両方っていうのもある可能性があるが……。
「田中さん。この人たちと会うのもやはり夜ですか?」
「……難しいな。夜だとこちらの姿が見えないからかえって警戒するかもしれないからな。まずはこの連中以外に人がいないか捜索と、ほかの地区の調査もするぞ。ノールタルたちが住んでいた区域だけなのか、それとも他の区域に人がいるのかも調べる。外で畑を耕しているだけじゃ少ないからな」
そう、確かにそれなりの人はいたが、流石にラスト王国の全国民を見つけたというわけじゃない。
あの畑の人々は、俺が偶然、後方の確認をしている時に見つけただけだ。
いや、ただ単にゴードルが畑がどうなっているか心配していたから見に行っただけなんだが。
あとは、ゴードルに連絡をしておくか、一応畑は無事だと。
と、そういうことで、未だに調べていない場所、区域はまだあるわけだ。
「そもそも、今調べていた区域は、……貧困地区なんだろう?」
「ああ、そうだよ。私たちのような、流れてきた魔族たちが住む地区だ」
ノールタルはそう言って地図を指さす。
そう、ここは貧困地区。
ドローンでぱっと見たが、この区域だけがやけに荒れていた。
貧困、スラムに近いだろう。
なら、貧困でない地域はどうだろう? という話なのだが……。
「とはいえ、ほかの地区はあまり信用ならないんだけどね。もともと純血の魔族だとか、力がある魔族が住める地域だから、どうしても私たちを下とみる連中が多い」
残念ながら、魔族の中にもこうして上下関係ができているようだ。
まあ、国家としての組織を考えると、社会という構造上、下層の住人が絶対に必要なわけだが……。
そこで、ある疑問も出てくる。
「でもさ、ノールタル姉さんって、リリアーナ女王のお姉さんなんでしょ? なんで、こんなって言うとあれだけど貧困地域に住んでいるの?」
ルクセン君の言うように、ノールタルがなぜこの貧困地域に住んでいたかということだ。
リリアーナ女王の姉というのなら、血縁関係でなくともそれなりの地位はもらえただろう。
というか、ここまでできる女だ。仕事もきっとできただろうに。
「そりゃ、私はあんな窮屈なところに興味はなかったからね。リリアーナと身を寄せ合って暮らしていたここが私にとっては大事だったのさ」
「納得ですわね」
大和君の言うように納得だな。
ノールタルは好きなように生きているということか。
「そして、さっきも言ったが、富裕層や一般層はあまり当てにならないよ。もともと私たちを下に見ていたし、リリアーナが追い落とされても、静かな連中だ。話を持って行ってもデキラに突き出されるのが落ちだね」
余程嫌な思い出があるのか、全く信用成らないという様子だ。
しかし、全員が全員デキラに従っているわけでもないだろう。
そうでなければ、リリアーナ女王はとうの昔に玉座から降ろされて、デキラが王になっているはずだからな。
とはいえ、無理にノールタルに調査を任せても、偏見で敵味方を見誤りそうだな。
そうなると敵になる可能性も出てくる。……それは今の状況では避けたい。
「ノールタルはそのままこの区域の捜索をたのむ。ここら辺は自分の庭も同然だろう?」
「わかったよ、このままこの区域の調査をするよ。で、タナカは他の区域を?」
「ああ、ノールタルの気持ちはわからんでもないが、情報は多い方がいい。敵にしても味方にしてもな」
そう、この町に住む人たちの情報は絶対に必要だ。
レジスタンスに入るのか、それとも消す必要があるのか。
連合軍が町に入る際、下手に住民が攻撃を加えてしまえば、連合軍は住民を敵と認めるだろう。
その結果は、軍による住民の虐殺。
で、それを黙って見ているわけもない大和君たちが連合軍とぶつかることになりかねない。
ノールタルたちを守るために戦うことになるだろう。
そういう泥沼は勘弁してほしい。だからこそ敵はさっさとまとめて置くか、サクッと消すに限る。
とはいえ、ドローンからの映像だけで判別がつくか甚だ心配ではあるんだがな。
連合軍が侵攻してくるまで一か月もないこの状況だと、一々確認している暇はないし、やっぱりサクッと消すのが一番な気がするんだけどな。
と、そういう方向で考えていると……。
「タナカ様。まずは、貴族地区へお願いいたします。私の家族、知り合いがいます。彼らならきっと……」
メルがそう言ってきた。
ああ、そうか。
メルはリリアーナ女王の側近っというわけでもないが、城に出入りを許されていたメイドだ。
それなりの生まれのはずだ。
「よし。メル案内してくれ」
「……わかりました」
こうして、貴族への繋がりを入手する俺であった。
しかし、これをやりつつ夜のお仕事もか。
つらいねぇ。
どこでも立場の弱い人たちは搾取されるのだ!
というか、まあ、作物を作る立場という人はいるんだけどね。
そして、デキラの思惑があってこうなっている。
さて、レジスタンス結成はなるのか!




