第221射:目覚めと状況確認
目覚めと状況確認
Side:ナデシコ・ヤマト
ラスト王都にやってきて2日目の朝。
私たちは……。
「眠いですわね……」
「……はい。朝日がまぶしいです」
監視のための徹夜明けで辛いです。
なんか、敵本拠地に乗り込んでなお、やっていることは変わりはない気がします。
いえ、実際変わりはないのでしょう。
これをやっていれば安全が確保できるという、田中さんから教えられた、戦いの積み重ねの形なのでしょう。
どこでも通用するというのはそれだけ物凄いモノなのです。
ただし、私たちにとっては、単調で退屈な精神的に来るものですが……。
「おーい、撫子。キシュアさーん。パンが出来たよー!」
そう言って二階に駆け上がってくるのは可愛いエプロンを付けた光さんです。
どうやら、昨日ノールタルさんと一緒にパンを作ったのが楽しかったみたいですね。
昨日も最初に徹夜でそこまで寝ていないはずなのに、早起きをしてノールタルさんと一緒にパンの仕込みを始めましたからね。
「朝ご飯だよ。さ、食べよう食べよう」
「わかりましたわ」
「はい。いきましょう」
ということで、私たちはタブレットを持ちつつ、下のリビングまで降りていくと……。
ふわっ……。
暖かい風とともに、いいパンの香りがします。
そしてリビングには既に、ヨフィアさんに晃さんが席に座っていました。
「おー、いい香りですねー。お腹すきました。と、ナデシコ様、キシュア様、おはようございます」
「起きたか、おはよう。撫子、キシュアさん」
「はい。おはようございます。キシュアさん、晃さん」
私はそう挨拶をしつつ、開いている席に座ると同時に、工房の方から焼きたてのパンを乗せたお皿を持ったノールタルさんがこちらにやってきました。
「やあ、おはよう。そして、ナデシコ、キシュア。徹夜お疲れ様。はい、出来立てだよ」
ノールタルさんはそういって、テーブルの上に出来立てのパンを置きます。
焼きたてのいいパンの香りが部屋を満たします。
「さ、出来立てだよ。遠慮なく食べてくれ。どんどん出していくからね。あ、飲み物は……」
「牛乳はこっちな。お茶、お水はこっちだ」
そう言って、田中さんが飲み物をテーブルにおいてくれます。
「じゃ、私は牛乳で」
「僕も牛乳!」
「パンには牛乳だよなー」
ということで、私たち日本人はパンに牛乳という定番で決めましたが、意外にノールタルさんたちは普通にお水を選んでいました。
昨日改めて知りましたが、パンは焼きたてに限ります。
口の中に入れたパンの美味しさはそうそう体験できるものではありません。
徹夜で疲れてはいましたが、このパンは問題なく食べられます。
そして、それは……。
「うめっ、うめっ」
「はいはい。ヒカリそんなに慌てて食べない」
光さんもおなじようで、とても美味しそうに、いえ、がつがつ食べています。
「で、食べながらでいいから聞いてくれ」
しかし、そんな楽しい朝食も田中さんの一言で、すぐに静かになります。
別に田中さんが悪いというわけではないです。
おそらくこれからのことを話すので、みんながすぐに切り替えたというだけの話です。
「まず、周りの安全に関してだが、昨日の昼過ぎ頃にこちらに到着して、一夜を明かした間に来た見回りはいないな。この地域をデキラというか、兵士たちは警戒していないようだ」
「警戒していないって、なんで?」
「さあ、理由は分からない。まあ、昨日と今日の感じから考えると、ここに人がいないからじゃないかと思う」
「……それはどういうことですか?」
田中さんのその言葉にとても嫌な予感がして、その意味を聞きます。
人がいない? なぜ?
「人がいないっていうのは、すぐにわかる。後で外を見てみるといい。朝なのに全然人の気配がない。ま、昨日も日中なのに、人に出くわさなかったしな。それなりに人がいるはずの王都でだ。なんか宗教上の理由で家から出てこれないなんてのがない限り、この時間に人っ子一人見ないのはおかしい。となると……」
「単純な話、人がこの地域にいないってことですね」
晃さんの言うようにそれしか答えがありません。
あとは、原因、理由ですが……。
「ああ。それが一番シンプルな答えだ。理由はしらないけどな。で、ノールタルやメルたち魔族のメンバーに聞きたい、どこかに礼拝堂でもあって、一定の期間ずっとお祈りするとかあるか?」
そんな答えであって欲しいと思い、私も田中さんと一緒にノールタルさんたちに顔を向けますが……。
「残念ながら、そんな行事を行うような宗教はないね」
「……はい。そんなことはありません」
全員、困ったような顔で田中さんの言葉を否定します。
「そうか。となると、デキラのやつが住民の強制移動をさせているってことになるな。ま、リリアーナ女王がやった可能性もあるが……」
「それはないよ。リリアーナがやる意味がない」
「はい。陛下はそのようなことは致しておりません」
「メルが言うならそうなんだろうな。となるとやっぱりデキラか。狙いは、反乱の防止と、労働力の確保ってところか。流石にこの地区の人を全員、ノールタルたちみたいに慰み者として送り出したわけでもないだろうしな」
そんなことをしていたら、生きていることを後悔させてやりますわ。
と、怒りを燃やしていると、不意にお姫様が口を開きます。
「待ってください。タナカ殿。そうなるとレジスタンスの結成はどうするのですか?」
「「「あ」」」
確かにお姫様の言う通りだ。
味方になる人たちがどこかに集められているなら、その場所を見つけないと反抗勢力の結成もできません。
「どうするって、普通に探すだけだ。単純だろう? なのに、何を全員で驚いているんだ?」
私たちの反応を見て不思議そうにそう言う田中さん。
いえ、言っていることは当然なのですが……。
「いえ、集められているということは、監視されているということではないでしょうか?」
「ああ、そうだろうな」
「えーと、そうなると、レジスタンス結成とか難しくならない?」
「どうするつもりですか?」
と、私たち3人は状況を言ってみる。
確かに、探すのは分かるけど、それでどうするのだという話だ。
状況は予定よりもはるかに厳しいモノになっているということですから。
「あー、先のことを考えていたのか。別に今は気にすることはない。まずは現場を見てからだ。勝手に想像してあきらめるのはやめとけ。動いてからだ」
「「「……」」」
田中さんは平然とそう言います。
確かにその通りです。
何も行動を起こしていないうちにあきらめるというのはおかしいです。
最初から上手くいくなんて思っていなかったはずなのに、なぜか弱気になっていたようです。
「ま、相手が大きいとそう思うのは分かる。だが、こういうのを覆してこそだと思うだろう? それとも尻尾撒いて逃げ帰るか?」
「逃げるなんて絶対いやだね! そうだ。この程度であきらめるわけないよ!」
「だな。ここまで来て何もしないで帰るわけにはいかない」
「はい。その通りですわ」
私たちがそう言うと、田中さんは頷きます。
「そうだ。その調子だ。ま、やれるってことを忘れなければやれるから、何かあっても落ち着いてな。一呼吸しろっていいたいがその間にやられかねないから、時と場合を考えろよ」
はい。その通りです。
時と場合に関わらず心を乱さず着実にやっていくのが大事ですわね。
……かなり難しいですが、それをやらねばならないのです。
「わかってるって。でも、これからどう動くの? 捕まった人を探しに行くの?」
「いや、今日はドローンを使ってまずは遠隔に調査だ。というか、これで発見してから救出とかレジスタンスの結成の相談だな。以前、リリアーナを逃がすために調べた地図を使うぞ」
そう言って田中さんは以前作った地図をテーブルに広げようとして、何かに気が付いたのか顔を上げてこちらを見てきます。
「食事の邪魔じゃないか?」
「僕は食べたから心配ないよ」
「私ももう食べましたわ」
「同じく」
こんな状況でのんびり朝食を楽しんでいる人はおらず、お姫様も含めて既に食べ終えています。
それを確認した田中さんは改めて地図を広げて……。
「まず、自分たちの位置の確認からだな。俺たちは北東方面から侵入してきて……こっちだな。一度森を迂回して、南東方面から入った」
田中さんは指を指して森をぐいっとなぞり、南東の門の所まで指を持ってきた。
「ま、この時点で変ではあった。門の警備が少なかったからな。まあ、その理由はわかった。この門を守る理由がなくなっているわけだ。住人がいないとすればな」
確かに、この門に入るためにノールタルさんたちが芝居を打つ必要があると思っていたんですが、そんなこともなく、ただ普通に門から入れてしまいました。
まあ、普通といっても食料品を賄賂として渡したのですが。
「でも、守る必要がないとはいえ、警戒を怠るわけにはいかないのでは? なのに、賄賂だけで簡単に……」
「そこがミソだ。今回の政権交代を末端の兵士も認めていないわけだ。そして、人がいなくなったはずの地域へ来る人。今回は俺たちだが、それに対しての、穏便な対応を考えると……」
「あー、わかりました。この地域に逃げて隠れている人がいるんですね?」
田中さんの言葉をさえぎってヨフィアさんがそう手を挙げて答えます。
「どうなの田中さん? ヨフィアさんの言うことはあってるの?」
「まだ、確認してないが、ヨフィアの言う通りだと思うぞ。こんなに隠れる場所があるんだ。誰かが逃げ込んでいても何もおかしくない。というかリリアーナとデキラの問答を聞いていた連中は特に従いたくはないだろうしな」
ノールタルさんたちをあんな目に合わせているような人の屑に誰が従うものですか。
従っている人たちも無理やり脅されているに違いありません。
「たしかになぁ。ということは、ここに見えないけど隠れている人がいるってことですか?」
「ま、ここだけとは限らないけどな。ひとまずは、日中人がいる場所の確認と、この一帯の捜索だな。今日はそれを調べる。あ、昨日の夜ちょっと外に出て辺りを調べてみたが、それなりに死体が転がっているから、一々動揺するな。弔いも後だ」
「「「……」」」
「そう怖い顔をするな。すべてが終わった後に弔ってやれ。今は目的を達成することを考えろ。そうしないと、誰も喜んじゃくれないからな。ただの自己満足だ。いいな?」
田中さんの言葉に私たち全員が頷きます。
……そうです。私たちに求められているのは、英雄的行動ではありません。
一人でも多くの命を救う行動なのです。
こうして、ラスト王国での二日目が始まるのでした。
日本じゃありえないけど、一つ路地を行けば、死体が転がっているっている国っていうのは発展途上国の国もでも多いからね。
こういう中世ヨーロッパではさらによくあること。
しかも、革命の中だからね。
そして、奴隷として連れさられる人々もよくあること。
これを助けるために行動して、果たして成功するのだろうか?




