第22射:秘密を知る
Side:アキラ・ユウキ
ボウッボウッボウッ!!
そんな爆音を聞いて、俺たちは体をこわばらせて構える。
「なんの音?」
「さあ、晃さん。田中さんとは連絡はとれませんの?」
「それが、無線のスイッチ切ってるみたいでさ」
「と言うか、なんで無線機なんて持ってるんだよ。なんで、電気がもってるんだよ」
「そうですわね。何か聞いていないんですの?」
「全然なにも……」
俺たちは、ガルツへの国境へ向けて移動中に魔物の群れに襲われてしまった。
どうやら、他の冒険者たちが戦っているらしく、こっちまでは被害がないが、魔物の数が多く、逃げている人も多い。
俺たちも立ち向かうか逃げるかを判断するために田中さんが様子を見に行ったのだが、連絡用に渡された無線機を見て混乱してた。
なんで、こんなものを?
それを問いただす前に、田中さんは行ってしまい。
こうして、不安な時間を過ごしている。
攻撃を開始するって言って聞こえてきた爆音……、まさかね。
銃はもっと軽い音だし、他の冒険者の魔術だよ、たぶん。
そんな風に不安に思っていると、俺たちの付き添いで一緒にいるリカルドさんたちが話しかけてくる。
「そこまで心配する必要はないでしょう。あのタナカ殿が戦場で判断を誤るわけがありませんからな」
「ですね。私たちは、タナカ殿が言ったように、冒険者たちが相手にしているのとは違う魔物の襲撃に警戒しましょう。陽動と言う可能性も捨てきれませんから」
「ですねー。逃げてきた人たちによれば、魔物が多種多様の集団で襲ってきたらしいですから、普通はそうそうないですし、魔族が関わっているかもしれませんねー」
「魔族って、ヨフィアさん。もしかして、魔王が?」
「まさか……」
「……」
ヨフィアさんの言葉で俺たちはさらに不安になる。
この隊列が襲われたのは、もしかして俺たちのせいなのか?
だって、ほら、勇者だし……。
と、妙な被害妄想を抱いていると……。
ぺシン。
「あいたー!?」
「あいたー、じゃねぇ。新人の不安を煽ってどうする」
「「「田中さん!?」」」
ヨフィアさんの頭を叩いたのは、田中さんだった。
「どうでしたか、タナカ殿。随分激しい戦闘音が聞こえてきましたが?」
「ああ、冒険者の中に腕のいい魔術師がいてな。魔物集団はいい的だったよ」
「そうですか。と言うことは、魔物の集団は無事に撃破されたんですね?」
「そうだ。キシュア、リカルド、3人の面倒を見てくれて助かった」
「あれー? 私はー?」
「もうちょっと、新人に気を遣え。メイド」
「ぶー」
「ま、そこはいいとして、魔物はいなくなったが、どうする? 他の連中が戻ってくるまで待つか? それとも単独で向かうか?」
田中さんはすでにこれからどうガルツとの国境へ向かうことを考えているが、俺たちはそうはいかない。
「ちょ、ちょっと待ってください!! 田中さん。この無線機のこと!!」
「そ、そうだよ!! これって一体」
「今まで持っていた様子はなかったですわよね?」
この無線機、機械はこの世界で用意できるものじゃない。
一体どこから、もしかして、元の世界に戻る何かを知っているのではないかって……、焦って俺たちは田中さんに問いただす。
「まてまて、先ずは移動を始めてからだ。ここで立ち話をして時間を潰す理由もない。話すだけなら馬車に乗った時でいいだろう? また、魔物に襲われてもアレだしな」
「う。わかりました」
「でも、絶対後で話してよ」
「ええ。貴重な情報になるかもしれませんわ」
しかし、この場で聞き出すことはできず、俺たちは他の人たちが戻ってくるのを待つことなく、出発することになった。
その途中で放棄した馬車から、適当に荷物をいただくのにはためらいがあったのだが、所持を放棄して逃げ出しているので、問題ないとのことらしい。
まあ、個人の馬車からではなく商人の馬車から食料とか水を拝借しているのが、せめてもの俺にとっての救いか。
この世界のルールにはまだまだ慣れないようだ。
そして、田中さんが出発を進めた理由もこの時に聞いた。
この国境までの列の中央付近に魔物たちは襲撃をかけたらしいので、先の方はそのまま馬車で逃げている人もいるだろうと、それに追いつけば、魔物や盗賊に襲われる可能性が低いという判断もあったらしい。
そんなことを思い出していると、どうやら襲撃があったところにたどり着いた。
酷く荷物が散乱していたり、血や、人や魔物の死体が転がっていた。
大人はもちろん、子供も無残に死体を晒していた。
「ひどい……」
「……ええ」
それを見た光や撫子はそう言って顔をしかめる。
「ま、非戦闘員の遺体は見るのは初めてだからな。だけど、これも仕方のないことだ。こんな魔物が出る旅をしてるんだから、覚悟の上だろう」
その様子に田中さんはそうドライに返す。
「「……」」
その返答が気に入らないのか、睨み返す2人。
「こんな事とは言わんが、これからよく見ることになるぞ。地球でもよくある光景だ。日本では珍しかったが、非戦闘員、民間人が戦闘に巻き込まれて死ぬなんてのはよくあることだよ。と……」
そんな話していると、散乱した馬車の片づけをしていた冒険者さんたちがこちらに近寄ってきた。
「君たちは?」
「俺たちはこのまま国境の方へ行くつもりだ。先頭を行っていた連中がいるはずだろう?」
「……ああ」
「そういえば、あの集団相手によくこれだけの被害で済んだな。いい腕の冒険者なんだなあんたたちは」
そう、田中さんが言うと、冒険者さんたちは微妙な顔をして……。
「……いや、なんと言っていいのかわからんが。知らない魔術師が手助けをしてくれたらしい」
「らしい?」
「正直、100を越えようかという魔物の集団に勝てるような腕じゃない。適度に時間を稼いだら撤退するつもりだった。だが、囲まれてな、さてこれまでかと思ったら、ファイアー系の爆発音に似た音が響いたと思ったら、いきなりオーガたちの胴体に風穴があいた。そして、ウィンド系の無音に近いもので次々に囲んでいた魔物が小さい穴が開いて倒れていった。あんなことが出来るのは、凄腕の魔術師しかいない。だが、姿はとらえられなかった」
「そうか。運がよかったんだな」
「ああ。お前さんたちも冒険者みたいだし、そんな魔術師を見かけたら礼を言っておいてくれ。あれだけの魔術だ下手に関心を持たれても困るって言うのはわかるからな」
「ああ。見かけたら礼を言っておく。あんたたちは?」
「今回の襲撃はおかしいことが多い。ここの片づけをしたら、国境や王都にある支部に報告だ。と、すまないな。旅、気を付けてくれ。ガルツはロシュールと国境争いが激しくなっていると聞く」
「忠告感謝する。ああ、うちの新人が、そちらの親子?の遺体を見るのが忍びないらしいから、ちゃんと葬ってやってくれ」
「ん? ……ああ、慣れてないか。ま、アンデッドになってもらっても困るし、余裕があるから今回は後始末はするが……、新人。そんな心持ちだと、持たんぞ。じゃあな」
そう言って、冒険者は片付けに戻り、俺たちは国境の方へと向かう。
「「……」」
しかし、光と撫子は先ほどの言葉を気にしているのか、ずっと沈黙している。
……気まずい。
まあ、気持ちはわかるけど、こっちはこっちのルールってのがあるからな……。
確かに俺もショックだったけどさ。田中さんの言う通り、日本で起こらなかっただけで、地球の戦地じゃよくあることで……。
いや、民間人が魔物に襲われるって、動物に襲われるような話だし……。
あ、違うか? 今回のは魔族が関係してるとか、そんなことを考えつつ、手に持っているものに気が付いた。そう俺の手には無線機が握られていた。
「あ!? そういえば、田中さん。これ、コレ!! 無線機!! これ一体どうしたんですか!?」
「ああ!! そうだよ!! これ教えてよ!!」
「ええ。なぜ、このような物を持っているのですか? 詳しく聞かせてくださいませ」
気が付けば、2人も復帰して、田中さんに詰め寄っていた。
「ん? ああ、無線機とは言ったが、送受信が同時にできるから、トランシーバーだな」
「いや、そういう説明はいいんで……」
「そうだよ。こんなのこっちで持ってなかったよね。一体どこで?」
「しかも、電源が入っています。充電する設備があるということですわよね?」
「うーん。話してもいいが、ヨフィア。これは他言無用な」
「え? その魔道具がどうかしたんですか?」
「いいから、黙っとけ。わかるか?」
「はいー。従順なメイドは約束を守りますよー」
田中さんにそう言われたヨフィアさんは、すぐにおとなしくなる。
そして、田中さんは御者の方を向いて……。
「リカルドとキシュアもだ。聞き耳を立てるのはいいが、ばらすなら相応の覚悟をしとけ」
「「はっ」」
リカルドさんにキシュアさんも聞いてたのか。
いや、当然か。離れていてもすぐに連絡が簡単に取れる道具っていうのは、ここの人たちから見れば凄い物だろうし。
「さて、周りにも注意したことだし。ネタ晴らしといこう。このトランシーバーはな……」
「「「……」」」
田中さんの次の言葉に俺たちは固唾をのんで待っていると……。
ゴトゴト……。
そんな音を立てて、いきなり空中から数個のトランシーバーが落下してきた。
「「「は?」」」
いきなりの衝撃的事実に、目を点にして驚いた。
「あれー? タナカ様はアイテムボックスのスキルでも持っていましたか?」
驚いて固まっている俺たちに代わって、ヨフィアさんがそう疑問を口にする。
そういえば、アイテム袋と同じようなスキルがあるっていうのは、聞いた。
でも……、田中さんにはそんな……。
「いや、そんな便利なスキルはないな。あるのは魔力代用スキルってやつでな。どうやら……」
そう言って、田中さんは今度は俺たちに手のひらを見せて……。
「こんな風に、道具を作りだす? 呼び出すことが出来るみたいだ」
その手には拳銃が取り出されていた。
「ちょ、ちょ……」
「す、すごっ!?」
「も、もしや携帯電話なども?」
「出せるが、電波は繋がっていないから、連絡はできんぞ。そもそも契約したものじゃないと意味ないからな携帯電話は」
「「「……」」」
その答えに一気に暗くなる俺たち。
「まあ、そう落ち込むな。ほれ、食べて落ち着け」
そう言って出すのは、板のチョコレート。森○の定番の奴だ。
素直に受けとって、包装を破いて、チョコをかじる。
「……チョコだ」
「本当にチョコだね」
「チョコですわ……」
間違いなくチョコだ。
森○のチョコかと言われると、森○のチョコを意識して食べたことがないのでわからないが、これはチョコだと判断できる。
「とまあ、面白い能力ではあるんだが、どこまで効果の範囲があるのかわからなくてな。色々個人で調べていたんだ。銃とかも見せたから判ると思うが、使い方によっては便利になるが、逆に脅威にもなる。銃を奪われて向けられたとか言えばわかるな?」
流石の俺たちも馬鹿じゃない。
それぐらいはわかる。
特にルーメルの貴族なんかに見せたりすれば、とんでもないことになっていたと思う。
「ま、こうしてルーメル王都を出てこられたし、トランシーバーは各自で一個ずつ持っとけ。使い方を教える」
そういって、荷台に転がったトランシーバーを手に取ると、光が思いついたように口を開く。
「そうだ。田中さん。それなら車とかだせないの? 銃は僕たちがまだ使えるとは思えないけどさ。車は移動が楽になるからいいんじゃない?」
「この世の中に、車が一台だけってのは怪しまれるからな」
「あー、そうか……。がっくり」
「ま、人目のない所でならいいだろうがな。キャンピングカーでも出してのんびり野宿もできるだろう」
「「おー」」
それはいい。
この4日間、フライパンとか魔術のおかげで温かいご飯にはありつけたけど、寝床はどうしても荷台や地面に横になるだけの辛いものだった。
それが改善される!?
そう思って俺と光は喜んで騒ごうとするが……。
「ということは、人目につく今回は、なしということですわね?」
「だな。初めての遠出でもあるし、こういう野宿は慣れないとな」
「「ノーッ!?」」
俺たちの淡い希望はこうして砕かれるのだった。
「不意に思いだしましたが、田中さん。先ほどの正体不明の爆音はもしや?」
「おお、大和君は勘がいいな。そう、俺が銃の試し打ちで出た音だ」
「「えー!? というか、そっちの方が大事な話でしょ!?」」
と、さらっと大事な話をしている田中さんはやっぱり、ただ者じゃないよなーと思ってしまった。
こうして、田中さんの能力を知ることとなった3人だが、楽になることはなかった。
人生に近道無し。
そして、田中さんは、3人に教えたので、ある程度自由に武器を使えることになった。
さあ、国境、そしてガルツで一体何が待ち受けるのか!?




