第218射:森を進み新しい未来を
森を進み新しい未来を
Side:タダノリ・タナカ
「で、タナカさん。具体的にレジスタンスを作るってどうするの?」
「そうですわね。そういう組織を一から作るのは大変ではないですか?」
「あー、そう言われるとそうだな。何か当てはあるんですか?」
俺たちがラスト王国へ進んでいる最中にルクセン君たちがそう聞いてきた。
そう言えば詳しくは話していなかったな。
「前も言ったと思うが、もともとデキラの無理やりな政変に不満を抱いているやつは多い。無理やり従わせているだけだからな。だから、俺たちが何かを言う前に、もう何かしらの反政府勢力が出来ているはずだ」
そこまで言えばわかったようで、ルクセン君が口を開く。
「ああ、その勢力とコンタクトを取って、レジスタンスを作るわけだね」
「その予定だ。そして、その繋ぎは……」
一緒にラスト王国へ向かっている魔族の女性、ノールタルたちだ。
「私たちに任せておいてくれ。私はもちろんセイールたちも仲間集めに協力するよ」
「なるほど。確かに、ノールタルさんたちが協力してくれるなら見つかる気がしますわ」
そう2人は納得するが……。
「でも、田中さん。そのレジスタンスが出来ているなら、別に俺たちが誘わなくても勝手に情報を渡していれば動くんじゃないんですか?」
結城君がいいところに気が付いた。
「そうだな。動くと思う。だが、それだけじゃ、無作為に連携も取らずに動いて、連合軍の邪魔になる可能性もある。そしてなにより、無駄な犠牲を減らすためだ」
そう、レジスタンスが完璧な連携が取れている組織ならともかく、この世界のレジスタンスというのは、ただの一揆に近い農民の反乱みたいなものだ。
作戦も何もなく暴れることが多い。
農民の一揆なんざあっという間に鎮圧される。
俺たちにとっては今後の展開に必要な和平派だ。
アホな戦闘で減らす理由もない。
「そっかー。なんか、レジスタンスっていうと、こうしっかりしたイメージがあるんだけどな」
「……確かに、光さんのいうレジスタンスをイメージしていましたが、田中さんの言う通り、そこまですごいレジスタンスがこの世界にいるわけないですわね」
「あー、こっちの常識を忘れてた。なんかすいません田中さん」
そうレジスタンスのイメージを語ってくれる結城君たちだが、別に地球のレジスタンスの大半はそこまですごくはない。
映画の見過ぎというやつだ。反政府勢力が肥大化していて組織化し命令系統がしっかりしている方がびっくりだ。
そんなレジスタンスが存在すれば、その国は末期ということだ。
レジスタンス、反政府勢力なんて少ない方がいいに決まっている。
とはいえ、そんなことを言って水を差す理由もないので……。
「いや、謝らなくていい。そういう可能性に気が付いたってのも成長の証だ。それに今回は和平派を守るってことで必要な連携なだけで、ただ敵を混乱させるなら、そういう手もありだ」
とはいえ、味方の状況を把握しようとするのは立派だ。
味方が無敵と思わないだけましだ。
レジスタンスの連中には自分たちが正義で負けるはずがないって思うやつも結構いるからな。
ともあれ、これで、連合軍はレジスタンスと呼応して動くことができて、町の制圧は簡単になるだろう。
しかし、これで終わりじゃない。というか、ここからが本番で……
「で、そのあとは、連合軍がデキラを倒すための援護だな。俺たちは勇者ってことはばらさずに、助ける役だ」
そう、魔王退治の手伝いだ。
「僕たちが目立ちすぎるとだめなんだよねー」
「ええ。そうですわ。ルーメルが横やりを入れますからね」
「でもさ、そこまでになったら、デキラを倒すのに俺たちの助けが必要かな?」
「念のためだ。負けてもらっても困るからな」
そんなことを言うが、デキラとぶつかってどこまで無事かわからないってのもある。
まあ、俺の方はあいつが負けるとは思わないが。
問題は、あいつが用意した後釜の魔王を連合が倒すってことだが。
この後釜の魔王が問題だ。こいつを連合で倒してハッピーエンドという予定なのだが、こいつを用意したのはあいつだ。
並みの化け物じゃないのは分かり切っている。
それを連合の精鋭が倒せるか? という問題が残っている。
悪ノリだけは宇宙一だからな。というか、俺が本当に協力する気があるのかを見るんだろうな。
おそらく俺が手伝うこと前提で倒せるって感じか?
そのためにも、レジスタンスを味方につけて、絶好の狙撃ポイントを見つけないといけない。
「とはいえ、その前に砦を迂回する必要があるんだが……」
「見えてきたね。あの砦を迂回するのって大変そうだよね」
ルクセン君の言うように、遠くではあるが、砦が見えてきた。
ゴードルと一緒なら楽だったろうが、ゴードルは和平派を率いて軍での移動中。
俺たちは先行している状態だからな。こっそり砦を抜けるしかない。
「よし、一旦森の方に入るぞ。見つかって戦闘になるのは避けたい」
俺がそう言うとみんな頷いて、森の方に入る。
脇道というレベルではない。
完全に森の中だ、原生林の中。
草も生い茂って人が進むことすら拒む天然の防壁。
「……物凄いですわね。これは、森の中を進んで迂回するというのは、なかなか難しいのでは?」
「うへぇ。というか、メルはよくこんな道を歩けたね」
「いえ、流石にこういう道をかき分けていくことはありません。風の魔術を応用するのです」
「え? どういうことですか?」
「見ていてください。ウィンドカッター」
メルがそう言うと風が巻き起こって、目の前の茂みがバサッと落ちていく。
「おお、こりゃ便利だ。鉈で草木を切って進むか、無理に行くかの二択だったしな」
素直に感心する。とはいえ、ゲリラ戦の時にはこんな痕跡を残すのはバカのやることなんだが。
ここは異世界ということでいいだろう。
素直に、魔術が便利だとおもう。
「こうして、進んでいきます。まあウィンドカッターの威力にも依りますが、生い茂る草程度なら、歩く程度の速度で立ち止まることなく進めるかと」
「なるほどな。となると、結城君たち任せていいか?」
俺はそう言って結城君たちを見る。
こと魔術なら、俺よりも結城君たち勇者の方がどう見ても上だ。
「まっかせて!! 一気にここら辺を平地に……ってあいた!?」
「落ち着いてください。そんなことをすれば、敵に気が付かれます。木々を倒さないように調整して、ですわね? 田中さん?」
「ああ、それで頼む。で、ノールタルたちとかもできたりするのか?」
「あー、まあできないことはないけど、戦闘用に残してた方がいいね。全然容量が違う」
「そうか、なら警戒の方を頼む。俺の方はドローンを使ってルートの確認だな」
「「「了解」」」
ということで、俺たちは、魔術で草を刈りながら進んでいくことになるのだが……。
「……今更だが、なんでお姫さんはついてきた?」
そう、なぜかこのラスト王国への潜入作戦にユーリア姫が参加している。
となるとメイドのカチュアも一緒だ。
俺としてはアスタリの方に残ると思ったんだが、なぜかついてきた。
ああ、もちろん森の中をドレスとか馬鹿なので、ちゃんと森歩きに最適な恰好をしてもらっている。
「本気で言っていますか? 私が今お父様や宰相と合流したら、暗殺されかねません」
「そうはならんだろう? 説得すればなんとかなると思うがな」
まあ、裏を返せば反逆罪でしょっ引かれる可能性もあるけどな。
「成功できればです。とりあえず、私はあの時見た未来は超えました。あの未来は変えられませんでしたが、その道はまだ続いています。私は、勇者様たちについていきます」
「あー……」
そういえば、そんな能力があったな。
色々ありすぎですっかり忘れていた。
「ついてきた理由は分かったが、そういう行動をとるってことは、なんか未来でも見えたか? というか、何を確信して、自分が見た未来が変わったと思っているんだ?」
「見ましたから、勇者様たちが前にたち、魔物の群れを見る姿。完全に私が見た未来と同じでした」
「……ああ、なるほど。俺は別の場所にいたから映らなかったってことか」
「……おそらく。そして、新しい未来の予知はありません。ですが、この状況で勇者様、及びタナカ殿から離れるというのは間違いというのはわかります」
まあ、今更、王や宰相の方に戻るっていう選択肢もないか。
俺たちとぶつかることになるんだからな。
それを避けるためと考えると妥当か。
「ま、疲れたならすぐに言ってくれ。無理をされて倒れても却ってこっちにとっては迷惑だからな」
「はい。承知しております」
ということで、俺たちはお姫さんを連れて、砦を迂回して進み奥まで入り込むが……。
「今日はここまでだな」
「もう日が暮れるもんね」
森をでて街道に出ることはなく、森の中で一夜を明かすことになった。
というか、これから基本的に街道に戻ることはない。
街道に沿って森の中を進んでいくことになる。なぜなら……。
「意外と頻繁に、街道を伝令兵が行き来していますな」
「ま、予想はしていた。なにせ戦争をしてるんだからな。経過報告を怠るようなアホなら、ここまでのことはできない」
「確かに」
俺はそんなことを話しながら、街道の様子をドローンで見ていた。
そこには馬が一騎かけている姿が映っている。
しかし、これが初めてではない。
リカルドの言うように、頻繁だ。
既に今日確認しているだけで、既に5往復はしている。
「ちぇ、デキラって意外とまともなんだ」
「人は見かけによらないよなぁ。ここまでできるのに下着泥とか」
「デキラが下着を盗んで喜ぶことは変わりありません。いくら上に立つものとして認められることがあっても、これで無意味です。と、そんなことはいいとして、田中さん。伝令の行き来を考えますと、渓谷の道はどうするつもりなのですか? あそこは身を隠せる場所はなさそうですが?」
大和君はデキラの有能さを変態であるという一刀で切り捨て、今後の予定を聞いてくる。
まあ、デキラが大したことはないと油断しているのではなく、変態だからどれだけ有能でも許さないという話だから、俺はその点に関して口をはさむのは良くないだろう。
実際、その手の犯罪者たちは、ほかの受刑者に始末されることが多い。
どの世界にでも、ルールがあるのだ。それを犯せば生きていけない。
デキラはそのルールを犯したというわけだ。
と、そこはいいとして、大和君がいう問題はこれから先の渓谷の道だな。
しかし……。
「そこは心配ない。その時点で、ゴードルの方から、伝令を出すことになっているからな」
「伝令? ゴードルさんが?」
「おう。アスタリ侵攻軍全滅の報告だ。これで、デキラたち好戦派は揺らぐ」
「なるほど。それで、敵の戦力を削るんですね」
「話は分かりますが、そういう裏切りをする者を信頼できるのでしょうか?」
「今は信じていい。あとは、国に戻ってきたリリアーナ女王の仕事だ。俺たちがやるべきは、まずリリアーナ女王を再びラスト王国に返り咲かせることだ。そこを間違うな」
俺たちが国を治めるわけじゃない。
というか、爆弾を落として廃墟にしないだけの配慮に感謝してほしいぐらいだ。
「で、そうなると、伝令は結局どうするの?」
「ゴードルの連絡があるまでは、全部の伝令は消す。それだけだ」
そう、敵は消していく。
そうすれば、砦の連中は動けないからな。
なにせ命令が来ないんだから。
そのあとは、ゴードルたちが砦を占領して、援軍になる。
とはいえ、上手くいくかね?
お姫さんの未来予知で見てもらいたいね。
凄まじい武装を持つレジスタンスっていうのはなかなかないです。
そして、ユーリア姫が見た未来は外れていないというところが不安なところではありますね。
とはいえ、こうして田中たちは決戦の地へと移動を開始。
魔王城での戦いは近い!




