第217射:結果と傭兵の在り方
結果と傭兵の在り方
Side:アキラ・ユウキ
「よぉー!!」
「おー!!」
そう言いながら、田中さんと体の大きなゴードルさんが……。
ガシッっと抱擁し合う。
「いやぁ。会えてうれしいぞ、ゴードル!!」
「おらもだよ。タナカ!!」
そして、バンバンとお互いの背中をたたき合って笑い合う。
というか……。
「田中さんがあそこまで笑うってのも珍しいよね」
「ああ。本当にうれしそうだ」
「まあ、気の合う方だったんでしょう。ですが……」
撫子はそう言って、振り返り……。
「片付けがさきですわよ。お二人とも」
「「あ、はい」」
と、好戦派だった残骸を見つめながら田中さんとゴードルさんの出会いで喜んでいるのを止めるのだった。
「よーし、この肉は使えるな。持っていけ!」
「おう」
「おにいちゃん!! これお金になるかなー!」
「なるなる。持っていけ」
ワイワイ、ガヤガヤ……。
そんな感じで、好戦派本隊の残骸の片付けが行われていた。
30万に近い軍勢の後片付けとなると、流石に冒険者や兵士だけでは手が足りないので、アスタリの町の人たちを総動員でやっている。
もちろん見つけた報酬はそのまま自分の物にしていいということになっている。
まあ、危険物があるかもしれないから、ちゃんと見せてからということにはなっているが。
「はぁ」
で、そんなことを考えている俺は、現在休憩中。
なんか、たった二回の戦場で俺は普通に思考出来ているのが不思議なんだが。
「おー!! 剣だ!」
「すげー!!」
そんなことを言って死体から武器を剥いでいる子供たちをみて、俺たちが貧弱だったのかと思いたくなる。
……世の中慣れるもんなんだなー。
と、そんな風に色々考えて黄昏ていると……。
「アキラさん? 大丈夫ですか?」
「また気分でも悪くなったのかい?」
ヨフィアさんとノールタル姉さんが俺の顔を覗いてくる。
その手には何か色々荷物をかかえていることから、2人も片付けをしている最中だろう。
「あ、いや。別に気分は悪くないんですよ。ただ、なんか二度目の戦いはあっさり終わったなーってさ」
そう、この惨状からわかるように、好戦派の本隊は文字通り全滅した。
もちろん和平派だった人たちは無事だ。
予定通りゴードルさんが和平派の先鋒を率いて突撃させられて、後方には好戦派だけが残った。
あとは、田中さんが予定通りに後方の好戦派を遠隔操作の爆弾で、足元から消し飛ばした。
砲撃よりも設置型の方がこの場合はいいといって、せっせと埋めていたのが、見事に、というやつだ。
「あはは。普通、あの数を相手にたった半日で終わるわけないですよ。先発隊と同じぐらいの時間とかありえないですからね」
「いや、正直先発隊の時より早かったね。後方のバカ共を消し飛ばして、こっちに来てたのはゴードルたちの味方だからね。勝負は一瞬であっというまだよ。まったく、恐ろしい限りだね」
ヨフィアさんやノールタルさんの言う通り、30万に届こうかという軍は先発隊と同じように半日経つうちには全滅しており、軍が崩壊した速度でいうのなら、むしろ本隊の方が早かったぐらいだ。
まず的確に本陣を吹き飛ばし、指揮系統がなくなって、魔物があばれだすかと思えば、即座にゴードルさんたちの和平派がある程度魔物をテイムしていたから、半数ほどの魔物は大人しく、残った好戦派の魔物たちだけが暴れて、それを田中さんが追撃して終わりとなったわけだ。
残っている魔物もいたんだけど、ゴードルさんたち和平派と俺たちのアスタリ防衛軍が協力して倒して、今は後片付けとなっているわけだ。
……現代兵器の凄さを改めて思い知った。
兵器というのがどれだけ効率よく敵を殺すために開発されたのかよくわかったし、これが使われる戦場っていうのは本当に恐ろしいところだ。
そして、その戦場で生き抜くことがどれだけ難しいのかも、少しわかってきた。
「いやー、こんな武器が当たり前の世界で生きてきたなら、あの強さも納得ですね~」
「ああ。肝が据わっている理由も納得だよ。本当に文字通り死線を何度も潜り抜けてきたわけだ」
2人も俺の視線を追って何を考えているのか分かったのかそんなことを言ってくる。
そうだ、俺の視線の先にいるあの人は、この地獄という戦場を、いや、これ以上にひどい戦場を駆けて抜けてこの場にいる。
「わはははっ!!」
「だはははっ!!」
わかる。田中さんがなぜ強かったのかが、何となくではなく、核心だ。
圧倒的な戦いの経験だ。
レベルアップとかいう、ただの力が強くなるとかそういうのじゃない。
命を危険にさらしてきただけじゃない。それなら、冒険者たちでもやっている。
それを遥かに上回る命の危険を潜り抜けてきたからこそ、あの田中さんがいるんだ。
と、そんな感想を抱いているうちに……。
「と、お、いたいた」
「おおー。ちっこいのがヒカリだな」
「ちっこいいうな! ゴードルのおっちゃんが大きいだけだよ!」
「だははっ。そうだな。と、こっちはナデシコだな。よろしくだ」
「はい。これからよろしくお願いしますわ。ゴードルさん」
「で、そっちがアキラだな」
そう言って光や撫子と挨拶を改めて終えて俺に声を掛けてくる。
「あ、はい。そうです。俺が晃です。こうして会うのは初めてですね」
「だな。うん。いい男だ」
「あはは。まだまだですけどね」
ゴードルさんのお世辞を軽くかわし握手をする。
本当に大きい人だ。見上げる形になっている。
だけど、そんな大きな体には似合わず、人懐っこいいい顔だ。
そんなことを考えていると……。
「ま、気持ちは分かるだ。だけど、タナカはアキラの敵じゃねえだよ。怖がらなくていいだ」
「あ、いえ、そんなことは……」
いきなりそう言われて、咄嗟に否定しようとするが、言葉が続かなかった。
俺は、田中さんのことが怖くないのか?
あれだけのことを、人の死を寛容することを。
そして、その死を自分でもたらすことをためらわない人を……。
「それが正しい。結城君は、いや、ルクセン君も大和君もそのままでいいぞ。俺みたいになる必要はない」
普通に聞いていた田中さんはそう簡単に言ってのけた。
「前も言ったがな。こういう思考は戦場でのやり方だ。平和な日本でこんな考えをする必要はないからな。俺が生きている間は、対処はするさ」
「タナカぁ、アキラたちが大事なのはわかるだが、そういう言い方は誤解されるだよ」
「だね。ゴードルももっと言ってやりな。タナカはどうも他人を突き放す癖がある」
「そりゃ、自分の所属していた傭兵団は全滅したからな。巻き込む死人はいない方がいいだろう?」
「「「……」」」
あっけからんとそんなことを言う田中さん。
そうか、俺が田中さんを素直に怖いと言えなかったのはこれか。
「大丈夫ですよ。俺は田中さんが優しいって知ってますから」
そう素直に口から言葉が出てくる。
それに続くように光や撫子も……。
「だね。散々僕たちを助けてきておいて、今更そんなこといわれてもねー」
「とはいえ、今回のは少々ショックでしたけどね」
……ああ、そうか。
たしかに怖いところもあるが、この人はしっかり俺たちを守ってくれている。
優しい人だ。
普通の人なら、俺たちみたいな聞き分けのない子供は見捨てている。
ここまでしてくれているのに悪い人なわけない。
「で、問題はこの後だ。子爵、ソアラ」
田中さんがそういうと、アスタリ子爵とソアラさんがやってきて。
「まさか、魔族を分断して、こちらの味方に付けるとは思いませんでしたよ。昔から繋がりがあったわけですか」
「というか、昔からアスタリの町に魔族に踏み込まれていて気が付かなかった子爵の落ち度ですわ」
「これは耳が痛い。そして、私に話がなかったのは、上への報告を恐れてですか」
「当然です。このまま何も知らないで戦争に投入などバカらしいですからね」
どうやら、アスタリ子爵は俺たちが魔族と繋がっていたことを知ったようだ。
まあ、状況的につながっていませんとは言えないしな。
「そういうことだ。子爵。別に子爵と敵対したいわけじゃないが、お互いの立場というのがある。そして、俺たちはこのまま連合軍の進軍を助けるためにゴードルたちと一緒に戻る。だから、あとからくるルーメルの本隊が襲わないように王に宰相を抑えるよう言ってくれ」
「そうしないと、3大国から非難の嵐というわけですな」
「非難で済めばいいけどな。ついでに、俺の方からもプレゼントするからな」
「なんとしても止めて見せましょう」
あはは、田中さんから鉛玉のプレゼントなんてもらった日には、好戦派の連中と同じだな。
でも当初は、ゴードルたちを一旦アスタリに置いてという案もでたんだけど、情報が遅れているルーメル本隊がゴードルさんたち和平派に襲い掛かる可能性が捨てきれないということで、疲れている和平派のみんなには悪いけど、このままラスト王国にとんぼ返りすることになった。
本人たちも故郷をデキラから取り戻すってやる気を出してくれているのが幸いだ。
「あとは、ソアラ、イーリス、万が一の時は報告頼む」
「ええ。任せてください」
「ああ。ルーメル本隊の動きは私たちが監視しておく」
「信用がありませんな」
「子爵を信用してないというわけじゃないが、宰相はな」
うんうんと頷く俺たち。
流石に、あの宰相は信用ならない。
そのためにもソアラギルド長とイーリス副ギルド長に監視を頼む。
「さて、そろそろ雑談は終わりで、行動を起こすか。連合軍の方も進軍を開始している。俺たちも先にラスト王国に入って、レジスタンスを作る」
「「「はい」」」
そうだ、まだまだ戦争は終わっていない。
アスタリでの戦いは終わったけど、まだデキラはラスト王国にいる。
あいつを何とかしないと、俺たちが安心して帰る方法を探せない。
「よし、ゴードル。そっちはどうだ?」
「こっちはいつでも行けるだよ。ま、魔物の大半は逃がしただけどな」
「それでいい。どうせ食料は持ってきてないんだろう?」
「んだ。好戦派の連中はアスタリの食糧に期待していたみたいだからな」
「俺たちも餌だろう?」
「だな」
「「「……」」」
改めて、好戦派は何とかしないと本当に人類の敵だ。
「じゃ、俺たちは先行する。ゴードルの方は和平派の連中を連れて砦の方の制圧頼む」
「まかせるだ。ま、おらも殴り込みに参加したかっただが」
「ゴードルは目立ちすぎるからね。私がゴードルの分まで暴れてくるよ」
「ああ。たのんだだ。ノールタル姉さん。そして、みんなもたのむだ」
そう言って頭を下げてくるゴードルさんたちのためにも、俺たちは必ずラスト王国を取り戻す。
俺たちが主役じゃなくていい。連合軍が入ってこれるように準備を整える。
こうして俺たちは、アスタリを離れて、魔族の国、ラスト王国へと進むのであった。
第二次アスタリ防衛戦は当たり前のように田中とゴードルの連合軍に敗北。
そして、そんなわかり切ったことは省略して、ラスト王国へ向かうことになる田中、じゃなくて勇者一行。
こうして、勇者たちは魔王の居城へ。
RPGとしてはラスボスだけど、一体どうなることやら?




