第216射:作戦の全容
作戦の全容
Side:タダノリ・タナカ
意外なことに、メルの回収は戦闘無く終わった。
デキラの状況を見るに情報封鎖をやめたんだろう。
おそらく、リリアーナ女王の後すぐにアスタリの方に侵攻を開始して、手薄になった本国の防衛力を強化したんだろう。
あとは、メルの逃亡阻止のためも考えられるが、メイド一人のためにそこまで兵力を集める理由もないから、やはりアスタリ侵攻による本国の防衛力の低下を防ぐために情報封鎖を解いたとみていいだろう。
「しかし、情報封鎖を解いて戦力を集めたとなると、本国の防衛能力が上がるのではないですか?」
「あがるだろうな」
「それでは、連合軍の被害が大きくなりませんか?」
そう、この戦力強化は俺たちルーメルとは別方向から侵攻する予定の連合軍にとっては厄介なことだろう。
とはいえ……。
「そこは向こうが何とかしてくれるだろう。俺たちは本隊を相手にしているし、そこまで面倒は見きれん。むしろ本隊をおびき寄せているからこっちが援軍欲しいぐらいだけどな」
ここまでお膳立てしてるんだ。失敗する理由もないだろう。
「ま、それもそうだよねー」
「俺たちで頑張っているのに、これ以上はきついよな」
「……確かに、ここまでやっているのですから、あとは何とかしてほしいですわね。まあ、リリアーナ女王もいるのですから、そう簡単に負けるわけもありませんか」
俺の説明に納得する3人。
そうそう、俺たちはなんでもできるスーパーマンじゃない。
そこを理解してくれているのは俺としても非常に助かる。
ここはひとつ、現地の人にも頑張ってもらおうじゃないか。
ついでに、あいつが裏で関わっているから、連合軍が瓦解する心配もない。出来レースもいいところだ。
あ、それで思い出した。あいつ、事前に乗り込んでデキラを叩くとか言ってたな。
一応、俺たちが本隊を倒して、魔族の街に乗り込んでからとは言ってたが……。
監視のドローンをギリギリまで近づけて確認しておくか。
一番の懸念はデキラを倒せるかどうかだからな。
何か弱点が見つかるのならそれに越したことはない。
「あ、でもこのままじゃ、デキラが下着泥ってことを伝えずに倒されちゃうってこと? それっていいのかな?」
「難しい問題ですわね。下着泥の罪も含めて、今までのことを全部世間にさらしたうえで処刑してほしかったのですが、連合軍と一緒に攻めるのであれば、そういう余裕はなさそうですね」
「あー……そうだね」
2人の会話にただ相槌を打つだけの結城君。
下着泥であるということを世間にさらしたうえで処刑っていうのは、デキラを殺さずに捕縛ということになる。
それは、流石に厳しいのではないかと思う。
というか、そもそも死刑が確定する男に対して、下着泥棒という罪状を読み上げるのかという疑問もある。
まあ、罪は罪なのだが、それを読み上げた瞬間私怨でもあると言われかねない。
国の為に動いたというリリアーナの立場が悪くなるんじゃないかという心配もある。
だが、そこは本人たちに任せるしかない。
意外と、下着泥に対しての法案の設立きっかけにもなったりするかもな。
しかし、俺たちが心配しないといけないのはそっちよりも……。
「さて、そっちの事はいいとして、問題はゴードルがいる本隊だな。おそらく食中毒で軍の数を減らして、俺たちの負担を減らそうって考えなんだろうが……」
「どこまでうまくいくんだろうね。というか、魔物が食中毒って言うのがいまだに不思議だよ」
「しかも、その食べ物が果物だからなぁ」
「普通に美味しいのですけれど」
そう、3人が言うように、その食中毒作戦は甚だ疑問ではあるが……。
「事実です。リンゴは魔物が体調を崩す食べ物として有名です」
「メルの言う通りだよ。大森林の魔物はリンゴを食べると体調が悪くなるんだ。ふらふらとして、立ってられなくなるんだ」
俺たちの疑問を払拭するように、メルとノールタルが説明してくる。
「ふらふらねぇ。というか、毒物なら、魔物が食べるとは思わないんだが?」
「その理由については、存じませんがリンゴ自体は魔物が好んで食べるものです」
「だから、リンゴは大森林の中では希少品なのさ」
作戦はいたって単純。
そのリンゴを食べさせるというもので、森の中に大量のリンゴをばらまくという単純な作戦だ。
あとは勝手にリンゴを見つけた魔物が食べるという話だ。
何かに混ぜてというわけではない。
だからこそ、疑問が浮かぶのだが……。
ゴードルから詳しく聞ければよかったが、向こうも忙しいようで、概要を話してそれから連絡は取れていないからな。
ともかく、作戦だけを実行している状態だ。
確認を取っていたら本隊がかなり近づいてきているからな。
森にばらまく時間が無い可能性があるので、先に作戦を実行しているというわけだ。
まあ、無理なら無理でいい話だしな。
アスタリの防衛でミンチにする敵が多いか少ないかの話だ。
というか、なんでリンゴで魔物がふらふらになるのかが不思議でならないが、異世界だしそういうこともあるだろう。と、納得しておこう。
調べるには時間が足りないからな。
おそらく、地球でいう動物にだめなネギ系統ということにでもしておこう。
「しかし、食中毒で減らせたとしても、そこまで多くはないだろうな」
「そりゃ、数が数だし……」
「魔物を含めて……30万に近い軍勢だったっけ、撫子?」
「晃さんは間違っていませんわよ。で、その30万全体にいきわたるようなリンゴは用意できませんでしたからね」
そう、いくらリンゴが有用だと分かっていても、数が揃わなければ意味がない。
一応、ゴードルからこの情報を得たあとに子爵やソアラに言ったら即座に動いてくれて、リンゴを集めてくれたが、せいぜい1万に届くかどうかというところ。
とりあえず、半分に割って香りがでやすいようにして、森に撒いている。
これで最大2万匹の足止めができる。
……無理だな。
自分で言っては何だが、そんな最大数の足止めは不可能だ。
落ちているリンゴを一人一つずつ食べるような律儀な魔物はいないだろう。
だから、せいぜい足止めができるのは4分の1以下ってところか?
「ま、どのみち、俺たちが好戦派の連中を倒さなければ、ゴードルたちに道はない、というか俺たちもな。だからさっさとアスタリに戻って防衛の準備に取り掛かるぞ」
「そうだね。リンゴ以外にもやれることは沢山あるもんね」
「確か、森の中に落とし穴作るんでしたっけ」
「私たちも手伝う予定ですわね」
一応ゲリラ戦法を展開するつもりだ。
個人的には、そのまま本隊で来てくれた方がやりやすいのだが、全体の作戦としては本隊のひきつけが必要なわけだ。
連合軍がデキラを倒すまでではなく、ゴードルが好戦派本隊の主権を握るために。
まずはこうしたゲリラ戦法で敵の軍を疲弊させて、本隊をまとめる好戦派のトップの失敗として失脚させればゴードルが主導権を握りやすくなるだろう。
それで、ゴードルが主権を握れば、和平派を誤射せずに戦えるだろう。
いまの状態はゴードルに主権がなく、配置がいまいちはっきりしないからな。
仲間にできる連中を殺すのはまずい。
無理なら仕方ないが、殺さずにすむならそれに越したことはない。
ということで、俺たちはそんなことを話しながらアスタリの町へと無事に戻り、落とし穴の制作をしているころにゴードルから再び連絡があった。
『おう。遅れて済まねえだ』
「気にするな。そっちも何事もなくて何よりだ。で、意外と進軍が遅いなどうした? まさか、連合軍の進軍が勘づかれたとかないよな?」
そう、ゴードルたちの動きが思ったよりも遅いのだ。
今までの進軍速度ならもうそろそろアスタリの近くのはずだが、まだ10日以上離れた場所にいるのだ。
『ないない。別に大したことねえだよ。和平派のみんなに頼んで演技をしてもらっただ』
「演技?」
『んだ。和平派の連中が好戦派に文句をいって反発している所を、俺が間に入って止めた。ってのをやっただよ。おかげで、好戦派の連中はおらを疎んじ始めたって感じだな。おかげで、和平派の監視役みたいになっただ』
「おお、そりゃいいじゃないか。無事に和平派と好戦派で分かれたってことじゃないか」
これで、好戦派の排除はやりやすくなったわけだ。
落とし穴作戦はもう必要ないな。
『んだ。アスタリについたら、おらが和平派を率いてしかけろってさ』
「はぁ!? それ、ゴードルのおっちゃん、捨て駒にされてるよ!?」
「だよなぁ。それ、引き受けたんですか?」
『ああ。こっちにとっては好都合だべ。ま、向こうもおらが邪魔だったみたいだべだからな』
「……その言い方だとわざとですか」
『そうだ。いやぁ、ナデシコは話が早くてたすかるだよ』
「「へ?」」
ルクセン君と結城君はゴードルの事は理解できなかったようだが、大和君は理解したようだ。
ゴードルはわざと和平派を引き連れる立場になって、先陣を切ることなったわけだ。
「しかし、ゴードルの事はデキラからよくしろ、そして警戒しろって言われているだろうに、よく前線を任せられたな」
『ま、そこはおれが四天王の立場にもどっちゃ困るやつがいるだよ』
「はぁ、こんな現場で権力争いねぇ。どこの世界も大変だ」
『だべな。でも、うまくいっただよ。これで完全に和平派と好戦派で分けられただ。あとは、リンゴ作戦で動員する数を減らせば、何とか行けそうか?』
「ああ、行ける。これで完璧だ」
『そうか。後は、任せただよ』
「おう。ゴードルの方は先陣を切って指定するルートを通ってくれ。あとはこっちで処理する」
『処理なぁ。悪い顔してるべ』
「そういうお前もな」
「『くくくく……』」
これで準備は整った。
連合軍の方は、あいつが先発隊と戦っているシーンを隠し撮りしていたみたいで、それを使って俺たち、ルーメルに心配はいらない、今しかないと発破をかけて進軍を開始した。
ここも俺たちの予定通り。
これで、ルーメル本隊、つまり王都のバカ共は俺たち、アスタリ防衛にも間に合わず、連合にも参加できなかったという間抜けをさらすことになる。
ついでに、魔族とは和解だ!
和解が成れば、そのあとルーメルへ攻め寄せた魔族の政治的不安の理由がルメールの侵攻に端を発するということと、デキラが指示したこととなる聖女暗殺につながることになる。
つまりルーメルが原因! それを庇う俺たち!
これで、俺たちの優位は確立される!
これを笑わずに言われるか!
「うわぁ、悪い顔してるよ」
「だなぁ。頼りになると思えばいいのか?」
「……おそらく。ゴードルさんも笑っていますし」
週一になって申し訳ない。
でも、頑張らせていただきます!
こうして、田中はルーメルとの決別というか、手出しができないよに手配をしているのであった。
魔族も助けるという裏にはこういう事情もあるのでした。
次回投稿予定日は14日となります。
よろしくお願いいたします。




