第214射:裏取引と合流
裏取引と合流
Side:タダノリ・タナカ
「おー、早い早い!」
「流石車ですね」
「快適だよなー」
後ろではしゃいでいる勇者3人。
「はー、これが車かー。話には聞いてたけどすごいなー」
「ですよねー。あ、ノールタルさん飲み物はどうですか?」
「ああ、もらうよ」
で、ヨフィアやノールタルといった現地の人も車には驚いてはいたが今ではすっかりのんびりくつろいでいる。
まあ、乗っているだけだからな。
で、ただいま、メルを迎えに行くためにルーメル、リテア間の国境へと移動中。
理由は、今後の展開のためなんだが……。
『ま、そっちはそっちで動いてくれ。その方が助かる』
『は? 鳥野の方で何とかしろよ。結局お前の後始末だろう』
現在の鳥野、いやユキだった。
コイツの保有戦力というがでたらめすぎる。
ダンジョン等という洞窟を作り放題、現代地球の物資も呼び出し放題、無論こっちの世界の物も呼び出し放題、戦力も魔物を呼び出し放題。
ま、色々制限はあるそうだが、それでもこれで負ける方がおかしい。
どこに俺が手伝う必要性がある。
『それを言ったら、魔族が今回こんな行動に出たのは勇者が召喚されたのと、以前にルーメルが攻め込んだのが原因だろう。安全のためだ。先に乗り込んで、レジスタンスでも結成して行動を合わせてくれると助かるんだが』
『そのために命の危険を冒して乗り込めと? 割が合わん』
そう、この作戦、わざわざ俺たちが出る必要はない。
ユキ一人で完遂できるのに、手伝いを出す必要性はない。
『お前な。俺がしくじったらそれこそ総力戦だからな? そこらへんの安全予防策だよ。お前なら銃で狙撃もいけるだろう』
『そこまでデキラは強いのか?』
『レベルでは300超えているな』
『レベルは当てにならん』
『いや、強さの基準ってことな。俺たちが負ける可能性もある』
『はっ、それは笑える冗談だ。お前が負けるという前提が間違っているからな』
そういう奴らなんだよ。
このユキと名乗る、鳥野とその他3人の四人組は。
『ま、ダストがどう思っていようが、予防線は張りたい。わかるな?』
『話は分かる。まあ、そっちの予定じゃ、先に乗り込んでデキラを討つだったか? ダンジョンっていうのはつくづくでたらめだな』
ウィードから直接地下をトンネルのようにつなげて、直接敵の城に乗り込む予定らしい。
こんなことを簡単にされた日には、地球の戦略なんぞ吹き飛ぶ。
ファンタジーは恐ろしいわ。
こんなことをされるから、ダンジョンは魔王を超える災厄とか言われるんだろう。
というか、ここまでの出鱈目能力があって、今までダンジョンマスターとかいうのが討たれた記録があるのは驚きだな。
そいつらはよほど無能だったんだろう。
『だが、ただ働きをする気はない。こっちは、俺たちが保有する戦力を見せつけたいだけだからな。それで俺たちに危害を加えようとするのもいなくなるしな』
そう、俺たちの今回の大規模な行動は、戦争を阻止することと、魔族の保護? そして、俺たちの存在、強さを示すことによって、今後動きやすくするというのが目的だ。
その目的に照らし合わせると、戦争阻止は失敗。魔族の保護はウィードが行う。俺たちの存在の誇示は既にアスタリ防衛戦で証明済み。あとで来る本隊の撃破取り込みで十分だ。
これ以上、俺たちがわざわざ戦うメリットは存在しない。
だが、鳥野がこんなこともわからないバカではない。
『もちろんこっちからも支援を出すし、報酬も出す』
ほらきた。
さて、どこまで報酬をねじ込むのが適当か、悩むところだな。
『内容は? それ次第だな』
とりあえず、向こうが出せる報酬を聞くか。
俺たちがどこまで価値があるのか、向こうがどう思っているのかを知るのは大事だ。
『ちっ、こっちの懐具合を図るか』
『当然だ』
『ま、別にいいか。ダンジョンコアとダンジョンの構築権利をくれてやってもいい』
『裏がありそうな商品だな』
『ダンジョンを作るのもただじゃないからな』
『有料かよ』
ほら、そういう裏があった。
契約書を見ると、下の方に小さく注意事項が書いてあるってやつだ。
『世の中そううまくはない。だけど、悪くはないだろう? ゲートを設置するぐらいの費用とか、何か必要な物資はこっちが持ってやるさ。あ、因みにこれは支援だな』
『随分太っ腹だな』
と思えば意外と条件はいい。
『こっちもそれで助かるからな。で、そっちへの報酬は、帰還の方法だろう? こっちでも調べてやるよ』
『……で、俺の方は、魔力枯渇を調べるためのそっちがいけない場所への捜索ってことか』
『そういうこと。そっちの方がメリット多いだろう?』
『お互い様のような気もするが、支援の内容を考えると……』
まあイーブンか。
向こうは向こうで調べてくれる。
俺たちは俺たちで調べる。
ゲートや物資を支援してくれること考えるとプラスか。
と、そんな裏取引があったからこそ、俺は今メルを迎えに行っているわけだ。
「さあ、今日中にはメルと合流して、さっさとアスタリに戻ろう!」
「だな。ゴードルさんやドローンがまだアスタリに到着するのは時間があるとはいえ、いつ行軍が早くなるかわからないしな」
「ええ。予定外の出来事っていうのはよくあるのは、嫌というほど経験しましたからね。連合がどうなるかもまだ不確定。メルさんとの協力は必要不可欠ですわ」
結城君たちは、俺の言った出まかせ、というわけでもないが、それを信じてリテア国境へと向かうことに正義を燃やしている。
……まあ、俺が積極的にデキラとの勝負をしなかったのは、この正義に身を燃やしている結城君たちにも原因がある。
使命、仕事に真剣になる、やる気を入れるというのは別に悪いことじゃないが、どうも自分たちがやらなければならない。という勘違いをしているんだよな。
元々、勇者として呼ばれたんだから、そういう勘違いをするのもわかる。
というか、俺が色々手助けしてきた弊害だな。
俺を使えば何とかなると思っていやがる。
若い兵士にありがちなことだ。
作戦が上手くいくことが当たり前だと思っている。
だからこそ、自分たちだけでラスト王国に行って、デキラを自分たちで倒すとかいうすごい発想がでるわけだ。
頭の中物凄いことになっているんだろうな。
デキラ一人と俺たち全員って感じで。
そんなのは状況的に無理です。
デキラ好戦派多数と俺たち少数っていうのが現実。
成功の裏には、膨大な労力が使われているからこその結果なんだがな。
尤も、作戦を現場で実行する兵士のお陰でもあるから、全部間違いってわけでもないのもあるから、矯正が難しいんだよなぁ。
ということで、今回は俺たちに主導権がないことを教えたって感じだ。
不本意な命令を聞いて戦う兵士の役割も知らないといけない。
というか、おそらくだが、鳥野から得られた情報やリリアーナ女王との戦闘から察するに、俺たちでデキラと真正面からぶつかるのは自殺行為だな。
やるなら、狙撃や爆撃での一撃必殺を狙うしかない。
だから、鳥野、じゃなかった、ユキの提案はむしろ助かった。
お陰でデキラやその他大勢の相手をしなくて済む。
ルクセン君や大和君は下着泥棒として一発入れる気みたいだが、そんな暇はない。
そんなことをしたらおそらくあの世行きだ。
間違ってもするなよというが、心もとない。
ま、だから……。
俺はでかい宝石を取り出して眺める。
ダンジョンコア。
これがダンジョンを作り出す核。
作り方は既に教えてもらって制作ソフトをもらっているからいつでもできる。
だから、何かあった場合即時撤退できる用のアイテムは確保している。
これがあれば逃げるぐらいはできるだろう。
因みに、結城君たちにユキの事は伝えていない。
今の状態だと、何でもできるだろうって思考がさらに突き進むだろうからな。
そんな危なかっしい連中をあいつが預かるわけもない。
俺だってお断りだ。
今は、まだ面倒を見ているが、将来的にどうなるかはまだわからん。
最悪の事態になることは避けたいよな。
「……ガキどもが原因で、あいつとぶつかるとか勘弁してほしいからな」
そんなことになれば、確実に俺が死ぬ。
だが、もちろん簡単に死ぬつもりはない。
その時は徹底的にやってやる。
俺がどこまであのバケモノたちに追いつけているかってのを確認する最初で最後のいい機会でもあるしな。
というか、死んだらまた当分ただ働き決定だろうからな。
やっぱり何としてもやつと顔を合わせる方向は無しだな。
「……え、ねえ、田中さん」
「ん? どうした、ルクセン君?」
おっといかん。
あいつとの今後を考えていて、声を掛けられていることに気が付かなかった。
「いや、あれからリリアーナ女王がどうなっているのか、もうちょっと詳しく話してほしいなーって。ほら、晃とか撫子はあまり知らないままじゃん」
「そういえば、そうだったな」
ルクセン君にはメルの手前多少詳しく話したが、結城君と大和君には簡単にリリアーナ女王がウィードに無事について連合を作ったぐらいしか話してない。
いい機会だ。ついでにあいつが作った作り話と予定を詳しく説明するか。
ということで、俺はあいつから聞いた表向きの話をメンバー全員に聞かせたわけだが……。
「すごいな。リリアーナ女王。あの混乱の中聖女エルジュ様を助けてたんだ」
「そういうことがあったからこそ、ロシュール方面に逃げたのですね」
「納得。というかリリアーナ女王すげー。既に聖女エルジュを助け出してたんだ」
簡単にいうと、死んだはずの聖女エルジュを助けていて、その助けた聖女の助力を得るために、ロシュールへと逃げて成功しているという話だ。
「そして、ウィードの女王の説得に成功して、連合を組めたわけですか」
「あとは、その連合がラスト王国のデキラを排除するまで、私たちが敵本隊を引き付ける必要があるわけですね」
「それか、さっさと蹴散らして、リリアーナ女王と連合のみんなで協力してデキラを倒しやすいように援護するってことだね」
「ま、そういうことだな。そうなれば、魔族はデキラという魔王に無理やり動かされていたってことになるからな。聖女エルジュもそういう風に魔族を守るように発言するらしいし、今後は安泰だろう」
「すごいですね。それがうまくいけば、みんな幸せですよ」
「なんとしても成功させないといけませんわね」
「だね。頑張ろう!!」
そんなことを言って盛り上がる結城君たち。
正直なところ、完全にデキラを倒せるか?ということ以外はすでに出来レースに近いのだが、わざわざ言って水を差す理由もないか。
と、そんなこと考えていると。
『……多分あれでしょうか? 変な鉄の塊が見えます』
「こっちからもドローンを確認した。メル、移動を開始してくれ」
『かしこまりました』
こうして、俺たちは無事にメルと合流するのであった。
あとは、本隊をさっさとぶっ潰すことだな。
こうして田中とユキの協力体制ができるのであった。
とはいえ、まずは目の前の魔王退治。
ここを切り抜けてから。
田中とユキはどうやってデキラを倒すのか。




