第212射:田の中と雪
田の中と雪
Side:タダノリ・タナカ
「クソ!! 人間どもが!! 何をしたかは知らんが、私に勝てると思うなよ!! なにせ次期四天王の……」
ドンッ。
ドサッ。
「棒立ちしたままベラベラ喋るなよ。つい撃っちまった。おい、生きてるか?」
バカが殺気をまき散らして喋るから撃ってしまったが、情報収集する必要があるのを忘れていた。
まあ、基本的にゴードルの言うように推移しているから、確認に近いんだがこういう確認作業をさぼるわけにはいかない。
というか、この自称次期四天王はゴードルから聞いていた、ザーギス、レーイアの後釜で用意していたやつだな。
いや、そうなると自称じゃないか。
そのための先発隊を率いていたんだが、あっさり全滅だからな。
コイツの出世の目は消えたわけだ。
ついでに命も消してもらうけどな。
好戦派は全部消えてもらう予定だ。
と、そんなことを考えていると、一応生きていたらしく……。
「……ぐ、ごほっ。お、れを倒したところで、すぐに本隊がやって、くる。はは、一時の勝利によいしれていると、いい」
「お前に言われたくはないわ」
ドン、ドンドン。
本隊が来ることもこいつの口から聞けたし、頭と心臓に弾丸を打ち込んで止めを刺すと、体が消えて魔石だけが残る。
「……本当に魔族ですわね」
「でも、ほかに残っている人の残骸はなぜ消えない?」
「さあ、条件でもあるんじゃないか? 一瞬で爆散した場合は肉体が残るとかな。あとは、魔族の中に人がいたとか」
「「「……」」」
俺の軽やかなジョークには誰も反応してくれない。
ま、そこはいいとして、実際の所、魔族は種族だからな。体の中に魔石のあるなしが魔族の判定方法ではないらしい。
なので、魔石を体内に持っていない者でも魔族はいる。
そして、魔石を体内に持っている魔族は一際強力な力を持っているらしいと、リリアーナやゴードルから聞いている。
それが、たった今始末した次期四天王だ。
そしてバラバラになっているのが体内に魔石がないタイプの魔族だったんだろうな。
とりあえず、今回目的の先発隊の指揮官はさくっと死亡確認できたというか、俺の手で始末できたので、ゴードルに安心して報告できる。
「ぼーっとしている暇があったら、さっさと戦利品集めて引くぞ。本隊とやらがくるみたいだからな」
「わ、わかっています」
「よし、急いで物資を集めろ。散乱しているが、まだ使えるものはあるはずだ」
あー、爆風で吹き飛ばしたから、物資の回収は面倒か。
今度は物資積載所は狙わないようにやるか。
そんなことを考えながら、俺は吐いている結城君たちを担いで、アスタリの町に戻っていくのであった。
「……以上。これで会議は終わりだ。今日は疲れているだろうから、各員ゆっくり休んでくれ」
俺がそう言うと、無言で席を立って出ていく結城君たち。
町に戻った俺たちは会議を初めて日が暮れる前には解散した。
まあ、吐いていた結城君たちを無理に会議に参加させても意味がないしな。
今は休んでもらって本隊が来た時や魔王城にいるデキラを討伐するための戦力温存をしてもらおう。
しかし、やっぱりというか、メンタルがなぁ。
「やっぱり戦場は早かったか?」
「……いえ、あの惨状を見れば誰だってああなるかと思います」
「だな。タナカ殿はああいうのは見慣れていたのか?」
「まあな、よくある光景だよ」
砲撃が常時あるところは、バラバラ死体なんて珍しくもないからな。
「厳しい世界ですな」
「どこの世界も厳しいってことだ。さ、俺たちも体調を整えないとな。指揮官が体調不良で動けないとかアホらしいからな」
「ですね。私も休ませてもらいます。流石に色々起こりすぎて疲れました」
「こっちはもうちょっと現場の片づけをしてから休むよ」
「では、私もルーメルとの援軍確認がありますので失礼します」
そう言って、ソアラ、イーリス、アスタリ子爵も出ていく。
普通そうに見えても、意外とダメージがあるな。足元が不安定だ。
ちっ。こっちの世界でもファイアーボールとか似たようなのはあるんだから、一々あの程度の遺体で驚くなよ。
まあ、ファイアーボールに砲撃レベルの威力はないんだよなぁ。
ちょこっと爆発して火傷がせいぜいレベル。
だからこそ、今回の対人弾とグレネードの威力に驚いて、それが雨あられと降ればフラフラもするか。
おかげで、相手は一気に混乱して、本陣は一人をのこして全滅という大戦果を挙げることに成功したのは間違いない。
だが、こちらも勇者様たちに甚大なメンタルダメージだ。
地球でもフラッシュバックでPTSD、トラウマになる奴もいるから、別になっても不思議じゃないんだが。
戦えなくなるのはこまるので、あとで意図的に回復魔術でもかけるように言うか。
「さて、あとはゴードルとの連絡だが、向こうから連絡が来るのを待つだけだしな。ドローンで進軍具合でも……」
と、思っていると不意に窓がノックされる。
この会議室は二階だ。
ノックされるわけがないんだが。
不思議に思いつつも、特に殺気も直感も働かないので、木戸の窓を開けると、そこには……。
「鳩か」
そう、鳩が窓際に止まっていた。
コイツが窓を突いたんだろうと理解した瞬間……。
『よう。ダスト。久しぶりだな』
そう鳩が喋った。
「おいおい、なんで鳩が俺の傭兵の時の名前を知っているんだよ。鳩に知り合いなんぞいない。撃つぞ」
『撃つなよ。動物には優しくしろ。というか、鳩は喋ってねえよ。魔力での通信の一種だ』
鳩が喋ったことで驚いていたが、俺の威嚇になにも気にした様子もなく言葉を返すのんきな声に俺は聞き覚えがあり、銃を下げる。
「……ちょっとまて、その声、鳥野か」
『大当たり』
うわぁ、やばい。
この世の中で一番関わっちゃいけないのがいた。
「よし、お前らがこんな変な世界に俺たちを連れてきたんだな」
俺は今回の異世界召喚の原因を突き止めた。
俺が巻き込まれてる時点で、こいつらが係わっていると思うべきだった。
前もこんなことがあったからな。
『残念ながら違う。それの証拠にここ数か月平和だったろう?』
「……平和の基準を教えてほしいが、お前たちが係わっているなら確かに騒ぎが小さいな。ということは、鳥野だけか?」
『その通り。あの3人も一緒だったらもう終わっている』
確かに、あのバカ共3人と鳥野がいればもう世界の常識とかないも同然だからな。
とはいえ、なんで鳥野だけここにいるのかって話になるな。
「こっちにいる理由は?」
『まあ、自称女神を名乗る奴に連れてこられた。そっちは召喚だったか?』
「ああ、クソ迷惑な話だ。とりあえず、殺すわけもいかないから、色々やっている。で、お前一人だということは、帰る方法はわからんってことか?」
『わからん』
「正直で助かる。役に立たないな。鳥野はいつもの通りオマケか」
『おまけで結構。ま、そこはいいとして、そっちは面白い状況になっているみたいだな。リリアーナ女王から話を聞いたぞ』
おいおい。なんか物凄い情報が聞こえてきたぞ。
「おい。なんでリリアーナ女王の名前を知っている?」
嫌な予感が頭を駆け巡る。
『そりゃー、ウィードに逃げ込んできたからな。魔王様が。ルーメルが襲われているから助けてくれって』
「そっちに逃げ込んだのか。というか、ウィードに関わっている日本人はタイキとかいうやつじゃなかったのか?」
『おう。ウィードに関わっている日本人はタイキ君で間違いないな』
「……二人いるわけか。と、まて場所を移す。ここだと誰に聞かれるかわからん」
『そうだな。屋根にでも行くか』
ということで、俺と鳩は場所を移して、話を続ける。
それで、こっちに来たいきさつを詳しく聞いて……。
「……世界の魔力の均衡をな……。無理だろ。それ、環境破壊を止めろっていうのと同じだ。せめてあの3人連れてこい」
『やなこった。あの3人が関わったらこの世界がぶっ壊れる。知り合いならともかく、こっちの人に迷惑を掛けたくない』
「おう。それで正解だ。しかし、そうなるとその女神を脅して元の世界に戻るか、ほかの方法を探し出すってことになるが……」
『博打はしたくない。あの女神を下手に刺激したら、それこそ俺とお前以外は死ぬからな。嫁さんもできたし死なせるわけにはいかん』
「それだよ。なんで嫁さんなんてお前がとっている。お前、一生結婚しないとか言ってただろう?」
そう、一番の驚きはあの鳥野がこっちで女に手を出して結婚しているという話だ。
『色々事情があったんだよ。ウィード建国とかでな』
「はっ、お前も随分悪くなったもんだな。女はお前の目的を達成するための道具か」
『否定はしない』
「というか自制心のためか。お前もあの3人と暴れていた口だからな。その嫁さんたちがストッパーか。感謝しないとな」
鳥野がぶっ飛んだ行動を……してはいるが、それでもまだ大人しいのはその嫁さんたちのお陰というわけだ。
『それをお前がいうか? こっちは戦場ばかりで楽しいんだろう?』
「バカ言うな。傭兵やめてしばらく経っているんだ。しかも3人のガキの子守りつきだ。大変でたまらん」
『お前もお前でストッパーかけてるじゃないか』
「こっちは子供を助けて戻るっていう、大人としての矜持と義務があるんだよ」
『はっ。こっちに来てからすでに数か月。もう戻るのは絶望的だってのはわかっているだろう。というか、今まさに戦争に利用されているくせに』
「うるせえよ。これを機にルーメルの使い走りから脱出する予定だったんだよ。都合がいい大舞台だからな」
『なるほどな。しかし、リリアーナ女王はお前たちのことは一切言わなかったのは、こっちを信頼してなかったからか』
「そりゃそうだろう。あの女。画面越しでしか話していないが、強かだぞ。それを証拠にお前さんに頼み込んで、連合を動かそうとしているんだろう?」
『そうそう。いや、いきなり魔王が我が家にやってきたらから驚いたな。まあ、義理堅い性格なんだろうな。私のことはどうなってもいいから、ルーメルをってさ』
そこまでの覚悟で動いたか。
ま、勝手に作戦変更して、メルを押し付けたんだからな。
「で、それを受けたのか?」
『受けたぞ。心優しいからな』
「はっ、馬鹿いえ。お前がまさか女の涙に流されたとかはありえんしな。裏はなんだ?」
『裏というか、当初の目的だな。まずは世界が平和にならないと調査もクソもないからな。それに、そっちに話が届いているかわからんが、聖女エルジュ、俺の義理の妹が殺されているからな。そこはきちんとしないと面目が立たん。その後の統治できそうな女王もおあつらえ向きにいるからな』
「うそつけ。お前がいて身内が殺されるようなことは起こらん。お前の仕込みだろうが」
死んだかもしれんが、こいつらなら蘇生ぐらい余裕でやってのける。
『ちっ、そこは騙されろよ。まあ、元々四天王2人をこっちで捕縛したのとか、聖女暗殺を魔族のせいにしたのが原因だからな。そこは多少責任を感じているのもある。あ、ついでに魔族とも和解できるならいいかなってのは嘘じゃない』
「お前がほぼ原因じゃねーか!!」
あまりの情報に思わず大声で突っ込んでしまう。
やっぱり、こいつはあの3人と組んでいただけはある、状況を引っ掻き回すのはお手の物だな。
「ったく、これから本隊を潰す作戦も変更しないといかないか」
『おう。俺もまずかったら助けてやろうかなーと思ってたしな。細かい打ち合わせしようか』
「こっちの条件は飲んでもらうぞ?」
『話し合い次第だな』
ということで、ここにきて、鳥野との共闘が始まった。
もう、この戦争の行方は決まったも同然だ。
というか、整った舞台で踊るだけだな。
『あ、今は偽名でユキって名乗ってるから。そこでよろしく』
「……リテアに乗り込んだあれはお前か」
出現する謎の鳩。
知り合いという鳥野。
彼は一体何者なのか?
えらく田中とは親しいようだか?
敵か味方か。
はい、ということで、向こうを知っている皆様、お待たせしました。
これが、あの時の裏のお話となります。
各国に映像を見せていた時は、既に……。




