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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第209射:防衛という決断の意味

防衛という決断の意味



Side:ナデシコ・ヤマト



「リリアーナ女王と連絡はつかないのでしょうか?」


そう聞いてくるのは、アスタリ冒険者ギルド長のソアラさんです。

あのデキラのラスト国乗っ取りから、すでに一週間が経っていますが、未だに……。


「……まだ、女王とは連絡がつきません」

「……そう、ですか。彼女がどこかにいるのかでもわかれば、できることがあるのですが」

「すみません」


そう、まだあの逃亡で連絡が取れなくなったリリアーナ女王は見つかっていません。

あの時、敵の対処だけでなく、追跡にもう一台でもいればと思うばかりです。


「いや、ナデシコが悪いってことじゃない。というか、ソアラ。そういう言い方はするな」


と、私がそんなことを考えていると、副ギルド長イーリスさんがそう言ってソアラさんの頭をたたきます。


「あたっ!? と、そういうつもりはありませんでした。申し訳ございません」

「いえ、分かっていますから」


誰だって、今の状況に文句の一つでも言いたくなるのは当然です。


「しかし、預けられたメイドのメルだったか? その人はすでに砦を越えたんだろう?」

「ええ。彼女の方は、問題なく、女王が全ての敵を引き付けてくれたみたいです」


あの女王の行動は予定外のことではありましたが、メルさんというメイドの命を救ったのは間違いありません。

そして、その行動を私たちもうれしく思いました。

ですが、その結果が……これです。

分かっていたつもりです。

迫るデキラの好戦派と戦う。

それはわかるのですが、それ以降の道がわかりません。

耐えれば解決するのか、それとも敵を皆殺しにしなければいけないのか……。

せめて、リリアーナ女王が無事とわかるのなら、どう動けばいいのかわかるのにと……。

そう思っていると、不意にイーリスさんが口を開きます。


「いいじゃないか。ナデシコたちの判断は間違っていない。まだリリアーナ女王が死んだと決まったわけじゃない。メイドのメルも生きている。それでいいじゃないか」

「イーリスさん」

「それに、タナカ殿は色々動いているようだし、私たちが心配するだけ無駄かもしれない」

「ですね。あの人は全く動じていませんから」


そう言ってソアラさんは不満そうにします。

……確かに、ここ一週間田中さんは、アスタリ子爵やソアラさんたちと防衛の話をしています。

特に方針に変更はないと言っていますが、好戦派の先発隊は2万。

こっちはたった5千。

普通に考えれば勝ち目はありません。

銃を使えればあるいは、と思ったのですが、田中さんは銃を渡す様子もありません。

このまま、アスタリの防壁を盾に、普通に戦いを挑む気なのでしょうか?

しかし、そうなると、危険は格段にあがりますし、後続から来ている本隊との戦いを考えると、とても持つとは思いません。

負けるとわかっていて、戦うことをするような人ではないのは確かですが……。


「ですが、そろそろ、敵の先発隊が冒険者たちの偵察に引っかかるはずです。その前に具体的な防衛方法を提示しなければ、数に驚いて冒険者が逃げてしまいます。タナカ殿には一度説明をしていただきたいですね」

「だな。私たちの強制よりもタナカ殿の言葉の方が冒険者たちにとっては一番効くからな。ナデシコ頼めるか?」

「わかりました。私も、どう戦うつもりなのか気になります」


……ここ数日リリアーナ女王の行方不明に気を取られて、そっちのことを詳しく聞いていないことに、ソアラさんたちに言われて気が付きました。

なんてまぬけ。

いえ、これに気が付けたことを幸運に思いましょう。

イーリスさんも言ったではないですか、間違っていなかったと。

人を見捨てて、得るものなんて私たちはお断りだといったんですから。



「……ということで、迫る2万の軍勢、そして更に迫る本隊の軍をどう防ぐおつもりなんですか?」

「ん? ああ、大和君か。リリアーナ女王は見つかったか?」

「……いえ。それで、ソアラさんたちにどうなるのかと心配されまして」

「そうか、ま、そこに関しては問題ない。そろそろ公表しようかと思ったところだ。敵の数を知って逃げてもらっても困るからな。そろそろ工事も完了するし、ちょうどいい」

「工事が完了?」


田中さんはいったい何を言っているのでしょうか?

もうアスタリの防壁をこれ以上どうにかするのには、資材も時間も足りないから、私たちが作った堀だけで終わったはずですが?


「あれ? 知らなかったか? 戦車を置く場所を用意してたんだよ」

「は?」


何か物凄い単語が聞こえてきた気がするんですが、おそらく気のせいでしょう。

まさか、戦車なんて呼び出せるわけがありません。

そんなことが可能なら、魔族の軍勢がいくらいようが負けるわけがないと私だってわかります。


「気のせいでしょうか? 戦車と聞こえた気がしたんですが?」

「いや、聞き間違いじゃないぞ。M1 エイブラムス、A2型だ」

「すいません。戦車の名前を言われてもさっぱりわかりません。ですが、本当に戦車を呼び出せるのですか?」

「ああ、前に実験はしていたからな。あとは何台出せて同時に稼働できるかってところだ」

「……」


あまりの予想右斜め上の回答に固まってしまいます。

田中さんが自信満々の理由がわかりました。

戦車をこのアスタリ防衛に使うから、余裕だったんですね。

しかも同時に稼働って……。


「……はっ!? ど、同時に動かせるんですか?」

「そりゃできなければ、被害が大きくなるからな。まあ、そういうのは元々、M1 エイブラムスには相互データリンクシステムがあるからな。その関係だ。どこかをピンポイントで狙えはしないが、対人用の砲弾でも撃ち込めばどうにでもなる。数で補えばいい」

「……対人用の砲弾?」

「ん? そういうのも知らないか。戦車の大砲には、色々な種類があるってことだ。もちろん人用のもな。ショットガンってわかるか? 細かい銃弾が詰まった弾丸でな。撃った瞬間拡散して、相手を穴だらけにする」

「……それは、わかります。その戦車用の対人弾があるということですか?」

「そういうこと。それをぶっ放せばやれるだろう。ああ、もちろん対戦車用の砲弾を撃つのもいいと思うけどな」


……つまり、アスタリでの防衛戦で負けはあり得ない。

田中さんが余裕だったのはこれが理由ですか。


「……話は分かりましたが、なぜ今まで黙っていたのに、ここでそんなことを?」


そうです。田中さんは戦車どころか銃器の存在を知らせようとはしませんでした。

警戒されることや、暗殺を恐れて、黙っているようにと言っていたのになぜここで?

私がそう聞くと、田中さんはなぜか、あきれた顔をして……。


「大和君。ここは出し惜しみする場面じゃない」

「え?」

「生きるか死ぬかの状態だ。そして、この大一番で目立っておけば迂闊なことはしないだろうさ。それは大和君ならわかるだろう?」

「あっ」


そう言われて、ようやく状況が理解できました。

つまり、田中さんがここで戦車を出すということは、アスタリを守ることや、デキラを追い詰めることだけではなく、ルーメルや、下手をすれば他の国への牽制でもあるのです。

ここまで強力な力を持っていると、魔族という、強大な敵を相手に見せつけ、それを傍観していた諸国に対して、敵対しようとは思わせないための行動に。

そして、ここで名を馳せるということは……。


「ここで、大々的に勝利できれば、ラスト国を救うことに繋がるのですね?」

「そうだ。俺たちたった5千人で2万の先発隊、そして後続の本隊という魔族の軍勢を退ければ、各国は俺たちの存在を強く認識する。今までの魔物退治とかとは比較にならないレベルでな。ノールタルたちの故郷を守るのにも必要だろう。女王がどうなっているのかわからんしな」

「……そこは生きていると言ってほしいのですが」

「そんな、不確定要素を待って台無しにするつもりはない」


……確かに、リリアーナ女王がいること前提での作戦は今は機能しません。

それなら、自分たちだけで成り立つ作戦、デキラたち好戦派だけを倒し、和平派の魔族を守る必要があるという条件を満たす方法。

私たちに逆らうとどうなるのかという、絶対的な力を見せつけての方法。

この状況だからこそできる。


「……でも、それは」

「先、未来がないか? 俺たちが故郷に帰れば魔族がどうなるかわからない。だが、わからないだ。なんで悪い方向に考える? いい方向に転ぶこともあるだろう?」

「それは、そうですが……」


確かに、これがきっかけで、仲良くなってくれる可能性もゼロではありません。

しかし、人の歴史は……。


「その様子だと分かっているみたいだな。ついでに、正直に言おう。俺たちがいなくなった後の事なんて考えるだけ無駄だ」

「……」


その通りです。

私たちがいなくなった後のことを考えるのは不毛です。


「まあ、自分たちが作り出したと思っている平和が崩れるのは嫌だな。だが、それもある意味傲慢だ。大和君たちの押し付けの平和だ。というか、俺が戦車を持ち出す時点で、俺の武力に頼った平和といえるな」

「……はい。その通りです。ですが……」


ですが……。


「平和を求めるのはだめなのでしょうか? 人が笑いあって、一緒に過ごすことはそんなにダメなことなのでしょうか?」

「……ダメってことはないだろうな。だが、それを受け入れられない人も多い。そして、それをどうにかするのは、俺たちの仕事じゃないってことだ。地球でも同じさ。大昔は国とかいう前に、小さい村で争い合って、今度は町、そして国が出来て、今度は世界大戦」

「……」


田中さんの言うことは事実です。

事実、地球に住む私たちの祖先はそうやって多くの争いの下に今を積み上げています。

だから、この行動も一時の平和を生むものであって、結果的には無意味。

そう、ただの自己満足。

と、思っていたのですが。


「ま、こうやって戦いの規模は大きくなっている。つまり、逆に考えると徐々に和解が進んでいるってことだ。というか、今現在の地球では、国と国同士の戦争っていうのはほぼない。内戦にかこつけての援軍とかでの派兵がせいぜいだ。攻め込んだら国際社会から総スカンだからな」

「え?」


なぜか、田中さんの物言いはまるで……。


「大事なのはあきらめるなってことだな。ま、大和君たちの手で世界平和は厳しいだろうが、その一歩となると思えばいい。というか、いつまでも喧嘩する子供たちの面倒を見る親もいない。後は勝手に育っていくもんだ」

「……田中さんは、信じているんですか? この世界の人たちがいつか分かり合えるって?」

「いや、それは俺の飯が食えなくなるから勘弁だな。まずは、この場で強制的に平和にしないと、ノールタルたちが困るってことだ。それでいいじゃないか。難しいことは、本人たちに任せておけばいい」

「なるほど。そうですね」


色々難しいことを考えましたが、結局の所答えは簡単です。

私たちは、助けてくれた周りの人たちに悲しい思いをしてほしくない。


ただそれだけなんです。


「では、さっそく戦車を配置しましょう」

「いきなりやる気になったな」



防衛するというのは、守るだけじゃなくて、諸外国に自分たちの名前を売るということでもある。

こうして、撫子たちはこの世界ではっきりと勇者として表舞台に立つことを決意。

田中も問題の解決にはもともと遠慮はしない。


こうして、色々な思惑が重なり合って防衛戦が始まろうとしている。


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