第21射:平和な安全な道中
平和な安全な道中
Side:タダノリ・タナカ
ピョーヒョロロ……。
そんな鳥の声が辺りに響く。
「トンビですかね?」
「トンビがこの世界にもいればな」
俺はそう結城君に返す。
空には一羽、大空を羽ばたいている鳥の姿が確認できる。
遠方に魔王が住むという山群を中心に広がる森があるので、おそらくはそこから出てきたんだろう。
「平和ですよねー。俺てっきり、次の場所にいくまで戦闘の連続かと思っていましたよ」
「案外そうでもない。外に出るだけで戦闘なら、町と町の貿易、商売が難しくなるし、外で畑を育てることもできない。そうなれば、人は生きていけない。村って言うのも存在しているようだから、つまり、そこまで頻度は高くないってことだ。せいぜい数年に一回ってところだろう。それも迎撃できる程度の。俺たちみたいに、わざわざ魔物が住んでいる場所に行かない限りは、そうそう出会うことはないんだろうさ」
「なるほどですね。言われてみればそうですよねー」
「特に国境まで続く道っていうのは、国境の防衛に必要な人員、物資が行き来する場所だ。そんなところの防衛を怠るわけがない。国の危機につながるからな。ちなみに戦争が起こってない今の状況だと交易の為の大事な主要道という意味もある」
「と言うことは、俺たちが国境に行くまでは、何も起こらないってことですか?」
「いや、案外ガルツとロシュールの前線視察まで、目だったことは起きないと思うぞ。言っただろう? 交易の為にも必要な道だって、戦争していないなら、お互いの主要都市までの安全は確保してないと物資が回らないからな」
「うへー。と言うことは、一週間じゃなくて、それ以上平和な旅路ってことですか?」
「別に訓練したいなら。普通に並走しているといい。相手に合わせて走るっていうのはなかなかいい練習になるぞ」
「うぐっ……。大人しく馬車の動かし方を勉強します」
「そうだな。まずはそれがいい」
「とは言え、これがまだ3日も続くのかー」
そんなことをぼやく結城君を見て苦笑いする俺。
本人たちは戦いが嫌いだと言いつつ、何かを期待しているのか、ルクセン君、大和君も退屈だとこの4日の旅路でぼやいている。
いや、ここ2日か。流石に旅に出てから1日2日は馬車の操作や見慣れぬ世界に興味深々だったのだろうが、それが3日4日となれば飽きてきたのだ。
人間慣れる生き物だと、再度認識させられる。
さて、結城君たちのことはいいとして、俺は旅の行程を改めて思い出す。
ルーメル王都を出てはや4日。予定ではあと3日ほどで国境予定だ。
道中は結城君たちの反応を見てわかるように、何事もなく安全に過ごしている。
というか、旅は道連れ世は情けといったところで、他にも国境へ向かう旅の人たちがいて、前後に見えている。
ヨフィアに聞くとこういうことはよくあるそうだ。
固まっていくことで、魔物や盗賊に襲われる確率を減らすらしい。
まあ、大人数の中に突っ込んでいって生きて帰れるとは思わないよな。
地球とは違って、基本的に一般人もそれなりの武装はしているからな。
襲われるのは、その集団から外れたおまぬけな奴らというわけだ。
「ふぁー。馬車の練習じゃなくて、乗馬の練習の方がよかったかも」
「馬なー」
退屈している結城君は馬に乗る練習をと言ってくる。
まあ、この世界なら馬に乗れて損はないだろうが、乗馬ってのは楽なことじゃないんだよな。
馬車よりも圧倒的に体力は使うし、馬の損耗も考えないといけない。
それに落馬によるけがの危険も馬車よりも圧倒的に上だ。
それよりも、時期をみて、俺の魔力代用スキルを活かして、車で移動って言うのも考えているんだよな。
車が出せるのもちゃんと確認しているからな。
ルーメルから出てきたことだし、近々この力を話そうとは思っているんだ。
リカルドたちもそれなりに信用できるようになってきたし、別に裏切るならパンッとやればいいだけだ。
こっちがルーメルを潰すいい理由になる、まあ潰さなくても、他国に亡命するにはうってつけの旅だからな。
そんなことを考えていると、荷台にいるルクセン君と大和君が顔を出してきた。
「晃。馬ってそんな簡単に乗れるもんじゃないよ」
「ですわね。みっちり訓練したとしても、一ヶ月でようやくといったところですわ」
「ええ? そんなに難しいのか? こう、パーッとかっこよく……」
「下手に落馬すると死ぬからね?」
「そんな気持ちや知識で馬に乗るのはおすすめしませんわ」
「……すいません」
結城君が可哀想に見えるが、2人の言うことも尤もなので、何も言えないでいると、不意に前の馬車が止まっているのに気が付く。
「ん? 何かトラブルでもあったか?」
「また、馬車の車輪でも穴に落ちたんじゃないですか?」
「かもな。ま、旅は道連れ世は情けというし、手伝いに行くか」
「はい」
「じゃ、俺たちで行ってくるから、大和君たちは馬車を頼む」
「はい。わかりましたわ」
「行ってらっしゃーい」
そう言って、俺と結城君は止まっている理由を探ろうと前に進んでいると空からまた……。
ピョーヒョロロ……。
ピョーヒョロロ……。
そんな鳴き声が聞こえ空を見て見ると、トンビの数が増えていた。
なんでだ……?
トンビの主食は基本的に、死肉……!?
「結城君、構えろ!! 敵だ!!」
「へ?」
状況を把握できていない結城君が呆けていると、前から走って逃げてくる人たちがやってきた。
「何が起こった!!」
「森の方から魔物の群れだ!! 多い!! 護衛の冒険者たちが頑張ってくれてはいるが手に負えん、逃げろ!!」
そう言って、彼らは荷物も持たずに走り去っていく。
その姿を見てようやく緊急事態だと気がついた結城君は慌てて俺に指示を仰ぐ。
「ど、どうすんですか!?」
「状況が詳しくわからん。逃げるにしても、馬車はその場で反転できないから、捨てていくしかない」
「え!? 馬車捨てるんですか!?」
「まだそうと決まったわけじゃない。戦っている冒険者がいるみたいだから、様子を見てくる。結城君はこれを持って、大和君たちに状況を伝えろ」
俺はそう言って、無線機を取り出して結城君に放り投げる。
「え? これって……」
「無線機だ。使い方はこのボタンを押して話すだけだ。上のダイアルは弄るな。既に俺と合わせてある」
「え、え?」
一々説明するほど余裕がある状況でもないので、さっさと前へと様子を見に走る。
まだ結城君は止まっているか。
……仕方ないので、無線を使って連絡をする。
『正気に戻れ』
『あ、あの!?』
『さっさと、大和君たちと合流しろ』
『わ、分かりました!!』
混乱しつつも、無線で叱責すると正気に戻ったのか、ちゃんと無線を使って返事を返す。
さて、俺の方はすっかり人のいなくなった馬車を辿り、魔物の群れを拝みに……。
ドーン!!
そんな爆音に咄嗟に身を屈める。
爆発音。該当は手榴弾かロケット弾ぐらいだが、音の規模から手榴弾か?
いやいや、この世界に手榴弾はないから、あれか、マノジルに見せてもらったファイアー系の魔術か?
俺はそんなことを考えつつ、魔力代用スキルでAKMを取り出して馬車を盾に騒ぎの中心を確認すると……。
「もう一回いけるか!!」
「持たせて!! 詠唱に時間がかかるわ!!」
「クソ!! なんで、こんなところにオーガが!!」
「そんな悪態つく前に、周りを片付けろ!!」
「くそー!! 数が多い!! オーク、ゴブリンの矢に気をつけろ!!」
そんな一杯一杯の会話をしつつ、冒険者のチームが4組み程戦闘をしている。
相手は、俺たちがよく狩ったゴブリンやウルフ、それ以外は初見だな。
まあ、マノジルや冒険者ギルドでの説明が確かなら、あのでかい図体はオーガ、そして猪が二足歩行したようなのがオークだな。
数はぱっと見て100近く。
冒険者4チームで20人ほど。
近づくゴブリンとウルフ程度は難なく倒しているが、おかしい。
明らかに、あのゴブリンやウルフにしては統率が取れすぎている。
弓矢を使った援護が的確なのだ。散発的に撃っているのではなく、号令をかけている奴がいる。
そのおかげで、ただのゴブリンやウルフの集団を殲滅できずに、負傷者を数人出している。
平原のおかげで遮蔽物が皆無だからな。
さらには、巨体のオーガの攻撃にも注意しないといけないオマケつきだ。あの棍棒を食らえば人は一撃でミンチだろうからな。
「つられるな!! 深追いすると、やられる。まとまっていくぞ!!」
「「「応!!」」」
しかし、そこは慣れた冒険者たちもいるのか、どっしり迎撃しているチームもいる。
が、これは無理だな。弓を持った連中、徐々に展開してやがる。
囲んで十字砲火にするつもりだ。
指揮官は……、あのオークか?
魔物の群れの中に、動かず冒険者を監視している部隊がいる。
というか、これだけの集団で冒険者を最優先に狙っているということが、この魔物たちは統率されていると答えが出ている。
あれだけの集団だ、ただの群れなら今頃この旅の列は大混乱の大乱戦だ。
「……魔物を操る魔族ね。と、今は考えても仕方がないか」
今は情報が少なすぎる。
まずはこの状況を脱することか。
あの統率の取れた魔物を相手に、結城君たちが対処できるわけがない。
いや、できないことはないだろうが、楽して倒せるのに、危険を冒す理由はない。
幸い、騒がしくやり合っているんだ。十分に利用させてもらうとしよう。
俺は、AKMを背中にまわし、武器に対物ライフルバレッ○M82に切り替える。
と、その前に、俺は結城君に連絡を取ることにする。
ピ、ガッ……。
「こちら田中。目標を確認。敵の掃討に協力する。結城君たちはその場で待機。陽動も考えておけ」
『え、攻撃って……』
返事を待たずに、馬車の荷台に上って射線を取る。
「馬が暴れるかもしれんな」
俺は引き金を引く前にそれに気が付いて、俺が乗っている馬車から馬を取り外す。
さて、準備は整った。
が、既に冒険者たちは囲まれつつある。
どれを撃つか悩んでいる暇ないな。
俺はすぐに引き金に指をかけて、力を入れる……。
ボウッ!!
物騒な音が辺りに鳴り響き、指揮官と思しきオークの頭を粉砕する。
俺はそれを確認して、すぐに次の目標に切り替える。
でかいオーガを3匹立て続けに狙う。
ボウッボウッボウッ!!
的がでかいだけあって、外すことなく胴体にぶち込める。
そして、人を想定したハンドガンやアサルトライフルならあの巨体に弾をぶち込んでも致命傷にはならんだろうが、これは、対物。装甲車や戦車を想定したライフルだ。
ちょっと大きいぐらいの生物が耐えられる威力じゃない。
オーガという魔物は俺の予想に違わず、あっという間に崩れ落ちる。
「「「……」」」
いきなりの事に、冒険者たち、魔物たちは立ち止まって茫然としているが、俺にとっては好都合だ。
的が動かないんだからな。
即座に俺はアサルトライフルに切り替えて、棒立ちしている的へと次々に弾丸をプレゼントする。
サプレッサー付きなので、先ほどのように目立つことはない。
そして、倒れ始めた魔物をみた冒険者がようやく再起動して、魔物へと攻撃を始める。
それでようやく魔物たちも自分たちのおかれた状況を把握したのか遠く見える森の方へと撤退を開始する。
「よし。性能試験も出来たし。俺はさっさと結城君たちの所に戻るか」
冒険者たちの中には発砲音を聞いて俺が乗っている馬車を目視している奴もいた。
銃の事はばれたくないし、さっさと証拠を隠滅して、結城君たちの所へ戻る途中……。
ピョーヒョロロ……。
「今日の一番の役得はお前たちかもな」
空のトンビを見てそう思う俺なのであった。
ね? 平和でしょう?
こうして、田中が使う重火器の有効性が確かめられた。
だが、無線機の存在はばれてしまう。
さあ、どうなるのか。




