第203射:お互いの主張
お互いの主張
Side:ナデシコ・ヤマト
『だからといって国民を犠牲にしてよいわけがなかろう!!』
リリアーナ女王が怒りの感情をこめてそう言います。
当然です、人を不幸にしていいわけなんてないのです。
ですが、デキラという変態は……。
『必要な犠牲だ! そうだ、必要な犠牲と言って国民を犠牲にしているのは、陛下も同じではないか!!』
『なにを言っている?』
わけのわからないことを言い始めました。
『陛下。一つお聞きします。なぜ、この場に私以外の四天王たちがいないのでしょうか?』
『話の意図がわからないが、各四天王には指示を与えて行動をとってもらっている。デキラ。お前の後始末でだ』
そうです。各四天王は……ゴードルさんだけが畑に残っていて、残りの二人は行方不明中なので、そういうことになっています。
……というか、下手をするとデキラの一派に殺されている可能性もあるのですが。
すると、いきなりデキラが笑い始めて……。
『ふははは!! なんという嘘をつかれるのか!! 四天王のザーギス、レーイアに指示を出して、聖女を殺させたのは陛下でしょう!!』
『何を証拠に……』
『証拠ならある!! 私たちの部下が、リテア近くの大森林で、妖精族の村が襲われた痕跡を発見した。その魔術の後から、四天王レーイアの炎の魔術だと判断した。他に証拠として、この武器を見ろ!』
そうデキラが言った後にガチャンと音がしたことから、恐らく証拠品を提出したのだろう。
『……これは、レーイアの剣』
『認めましたな! 妖精族の里を襲ったのは間違いなく四天王のレーイア殿。普段陛下の傍を離れないあの彼女がなぜあのような場所にいたのでしょうか?』
恐らく話しているのは、私たちが発見した妖精族の廃村のことですね。
あそこを襲撃したのが四天王のレーイアという痴女?
なぜ? いえ、確か状況的には、四天王のもう一人ザーギスを探しに行った後の事ですから……。
『彼女は戻ってこないザーギスの捜索を任せていたのだ。この妖精族の村に関しては何も聞いていないし、指示を出したことなどもない』
『違いますな。陛下は知っていたのではないですか? 聖女様の暗殺を図り、我々に協力しようとしない妖精族の村を焼き払った。違いますか?』
『なぜ私がそのような事をする必要がある?』
『陛下も、近年の人共の動きは気になっているはずです。そして、今回ルーメルの勇者召喚。これに聖女という強力な人間が手を組めば苦戦は必至。ですから、それを阻止するために聖女たちを排除し、支配下にはいらない妖精族の村を焼き払えと四天王たちに指示したのですよね?』
ああ、そういうことですか。
『知らないといっている』
『では、なぜレーイアの剣があの場に落ちていたのでしょうか? 陛下が秘密裏に敵の戦力を削るために指示を出したのでは?』
『……知らないといっても、信じないだろうな』
『ええ。信じられませんな。そして、私たち軍部も大戦に発生しかねない聖女たちの暗殺などできません。一人一人の力の差はあれど数が違いますからな。で、私たちが行っていないとすれば、陛下しかおられませんでしょう。聖女を単独で仕留められるほどの強さを持つのは、四天王ぐらいのものですからな』
『……』
……意外とデキラのいう話は筋が通っています。
いやな流れです。ここで、内輪もめの責任を魔族に押し付けた付けがきたようです。
一気に女王の立場が悪くなっているのが、マイクから伝わる空気からわかります。
というか、本当にデキラたちは聖女の暗殺をしていないですから、証拠は挙がらないのです。
今更犯行を押し付けるわけにもいかないですし、何より現場にレーイアの剣が落ちていたのが致命的です。
いや、本当に落ちていたかは不明ですが、デキラが見せて、女王がレーイアの剣だと認めてしまったのが厳しい。
もう、流れ的に、否定するのはなかなかキツイものがあります。
『和平を進めている私がそんなことをするとでも? そして、そのレーイアの剣が本当に妖精族の場所で見つかったとは言い切れません。国民を犠牲にして強行偵察や情報封鎖を行っていたデキラたちの言葉をそのまま信じろと?』
ですが、流石はリリアーナ女王。正論を持って鋭いカウンターを放ちます。
ノールタルさんたちをさらった上に、家財道具一切を強奪、そして凌辱をしたのです。
これを行った連中の言葉を信じるわけがありません。
『『……』』
お互いににらみ合いをしているのでしょう。
沈黙がしばらく続くかと思っていたら、デキラからその沈黙を破りました。
『確かに、私たちの行動を見ると信じられないのはわかります』
『そうだな。私たちの責任とするのは無理がある』
『ですが、聖女暗殺が起こり、それを魔族が行ったということになっているのは事実です。これに対して陛下は何も行動をおとりにならないのでしょうか? このままでは聖女を殺したと言って我が国へ迫ってくるでしょう』
『言って聞くわけがなかろう。ルーメルが侵攻してきた時と同じように砦にこもって迎撃していれば、大森林の魔物や物資の枯渇で撤退する。それ……』
『それでは駄目だ!!』
リリアーナ女王が言い切る前にデキラが大きな声で否定する。
『今回はルーメル一国だけではない。リテアとロシュールの二国の聖女が魔族に殺されたということになっている。しかもロシュールは聖女が原因としてガルツと戦争も起こっている。奴らは大連合を組んで、こちらに攻め入る! それを防衛で持つと思っておられるのか!!』
『かといって、攻め入ったところで、解決するわけでもあるまい』
『いや、解決する! いや、今ルーメルに攻め入らなければ、我が国は敗北する!!』
『……なぜそう言い切る?』
『逆に私が聞きたいくらいだ。陛下! 相手はルーメルが勇者を召喚し、それを旗頭としてやってきます! 大昔の勇者様の伝説を信じる気ですか!? 無理です! 勇者たちは何も知らずに召喚され、魔族は敵だと教え込まれているのです! それを証拠に、私たちが放っていた斥候も殺されています。伝承の勇者様なら逃がしてくれたはずです!! 違いますか!!』
『……』
その話にリリアーナ女王も何も言えないようです。
まあ、素直に勇者と組んでいますとか、信じていますとか言うわけにもいきませんからね。
言ったとしたら、最悪、敵と組んでいたとか言われかねません。
ここは何も言えないのではなく、何も言わないのが正解でしょう。
『陛下の和平。それが叶えばそれは素晴らしいことだと、私たちも理解しております。好戦派といえど、無駄に死にたいわけでも、国民たちに無理な負担を強いることは心苦しく思っております。ですが、今回は手を打たなければ、この国は滅びてしまうのです!』
『だから、その前にルーメルに進軍して、ルーメルを落としてしまおうと?』
『そうです。そうすれば、勇者たちを殺し、他国の足並みも乱れ、まとまるのに時間もかかるでしょう。その間に各国を潰せばいいのです』
なるほど。電撃作戦でしょうか? いや、この場合は作戦司令部の強襲作戦ですか?
頭を潰すことで、相手を混乱させて連携をとれなくする戦法です。
ですが、結局の所、デキラが言っているのは……。
『デキラ。お前が言っているのは結局、各国全てを相手にするといっているようなものだが? 戦力や物資はどう考えているのだ?』
そう、結局敵は全員潰すといっているのです。
どう考えても無理があります。
リリアーナ女王の言うように特に物資。
枯渇して、身動きが取れなくなるのは目に見えています。
『それこそ、落とした国から戦力や物資を賄えばいいのです』
『物資はともかく、戦力はあてにならん。逆に不安の種になる。そもそも、国を落とした際の捕虜や民衆の管理はどうするつもりだ? そんな戦力、人員は我が国にはない。だからこそ、攻められないということは前も説明して、それはデキラたちのほうのはずだが?』
結構忘れがちですが、戦争というのは戦って敵を倒して終わりではありません。
その土地を確保することによって、その一帯の支配権を得るというのが大事なのです。
支配をおろそかにしていたら、反乱などを起こされて土地を奪い取った意味がありません。
だからこそ、戦後の処理が一番大事で、一番気を使うところなのですが、そこを理解していてデキラが話しているとは思えないです。
まさか、それとも……。
『それは問題ありません。落とした国の人は全て奴隷として、戦力に壁として組み込み、使えない者は殺してしまえば、統治に問題はありません』
『『『!?』』』
……ある意味正解の方法ではあります。
今回デキラの言う、他国を攻めようとする場合、絶対的な人手が足らないと分かっているなら、全て殺してしまえば解決します。
とはいえ、このやり方は反発を生みます。
私の考えが間違っていないと証明するように、魔族も動揺している声が聞こえます。
『……デキラ。正気か? 幼子も、子を育てている親もいるだろう。戦う術を持たない者もいるのだ。それを全てか?』
『はい。もとより原因は人の方にあります。人に情けをかけて、こちらが危険になるのは馬鹿らしい。それなら、元からの原因を絶つべきです。まあ、ルーメルなど4大国を下した後で、小国が降伏してきた場合は多少の生存を認めるつもりですが、大国に力を残すなど考えてはいけないと思っております』
デキラは言い淀むことなく、はっきりと、そう言い切ります。
……覚悟だけは本当なのでしょう。
本気でやる気だからこそ、今まで動いたってことなのでしょう。
『しかし、今までの蛮行を認めたうえで、そんな行動認められるわけがない』
『そうだ。国民の財を奪って、それで何が国を守るだ! 恥を知れ!!』
リリアーナ女王の発言を後押しするように、他の参加者が言うと……。
『馬鹿が!! もう既に人共は動き出しているのだ。対策を打たねば我らは滅びる! それを分かっていない方が問題だ!!』
今度はデキラの肩を持つ参加者が発言をして、それからはお互いの主張の応酬が始めってしまう。
このままでは収拾がつかなくなるかと思っていると……。
『静まれ!! お互いの主張は分かった。だが、この判断を今日一日でする必要もない』
『陛下。恐れながら、先延ばしはできません! 今すぐ、判断を下さなければ、敵が迫ってくるのです!』
『デキラ。お前がこの国を思っての行動だというのは分かった。色々納得できないこともあるが、それだけは事実だと認めよう』
『はっ。そこをご理解いただき感謝いたします』
『だからこそ、明日、多数決をとる。その答えで私も国民の意思としてルーメルを攻めることを認めよう。だが、和平が多数を占めれば……』
『もちろん。その判断に従います。罰も受けましょう』
『ならばいい。では、本日はここまで。明日までに皆答えを決めよ。これは王命である』
『『『はっ!!』』』
最後は上手くまとめてくれました。
これで、明日結果が出ることになり、デキラたちは動くのでしょうか?
「どうぞ、来てください。私たちが痛い目にあわせてあげましょう!!」
と、今日の夜への警戒を始めるのでした。
まあ、デキラの主張は無茶苦茶というより、危機感に煽られてという感じですね。
だけど、リリアーナはそんなことをする連中の言うことは信用ならないし、国を任せられないと。
デキラの行ってきたことは言語道断とするとして、それ以外はどうなんだろうね?
この場合、攻めた方がいいのか、守る方がいいのか。
そして、運命の夜へ。




