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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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201/522

第200射:みんなで力を合わせれば

みんなで力を合わせれば



Side:タダノリ・タナカ



「それで、魔族の女王。あなたはこれからどうする?」


俺はためらいもなくそう聞いた。

外交官などはもっともったいぶるのだろうが、俺は外交官ではないし、国民の代表でもない。

ただ、協力関係にあるだけだ。


そして、何より行動をどう起こすかによって俺たちの行動も変わってくるのだから、早い回答が欲しいのは当然の話。

そして何より、この状況で判断を保留するような真似は自殺行為でもある。

それは、リリアーナ女王もわかっているようで……。


『……私はまだこの国を離れるつもりはありません。レーイア、ザーギスがいなくとも、味方はいます。その方々たちを見捨てて、逃げるわけにはいかないのです。そもそも、逃げた時点で、私の政権は破綻します。せめて、デキラが行動を起こしてからです』

「なるほどな。何もないまま逃げちゃ、今後の復帰に問題がでるか」

『はい。ですので、私はぎりぎりまで逃げるわけにはいきません』


ただ国を見捨てられないとかいうなら、さっさと見捨ててたが、残る理由は筋が通っている。

確かに、表面上は何も起こっていないのに逃げ出せば、国を立場を放棄したようにしか見えない。

そうなれば、デキラを倒したとしても、国民が女王だと認めないだろう。

だからこそデキラが事を起こして、それに対応して、どうしようもなくなって逃げるという選択を取る必要があるわけだ。

律儀だ。

だからこそ、今まで国のトップで信頼も厚かったんだろうな。

だが、その選択は……。


「覚悟は分かった。だが、俺たちの支援はかなりしにくくなるぞ?」

『わかっています。命を優先するのであれば、即座に行動に移した方がいいのもわかります。ですが、私の命が助かっても国民の命が救えません。そんな選択を私は国主としてとるわけにはいかないのです。なので……私は見捨てていただいて結構です』


リリアーナ女王はそう言い切った。


「ちょっ!? ダメだってリリアーナ女王がいないと、ノールタル姉さんたちが悲しむよ!! 僕たちだって!!」


その発言を聞いていたルクセン君が慌てて口を開き、リリアーナ女王は申し訳なさそうにしながら……。


『……ヒカリさん。魔王として勇者に心配されるのは光栄です。私はいつかの伝説を再現しているかもしれませんね。ですが、私は逃げるわけにはいかないのです。勇者様たちが多くの人を救おうとするのと同じで、私もわずかばかりではありますが、命を懸けて国民を守らなければいけないのです』


最後にはキリッとした表情で言った。

それを聞いたルクセン君が何か言いたいけど何も言えないという感じで口を閉じる。

分かったんだろうな。何を言ってもリリアーナ女王の決意は変わらないと。


『姉さん。私たちの、勇者の妹を頼みます』

「ああ。安心して任せておきな。今まで魔王の妹の面倒も見てきたからね」

『ふふ、そうでしたね。で、今後の予定でしたね。この話の裏を取ってから、デキラを軍事裁判にかけます。勝手な情報封鎖や勝手な戦力の導入。これで十分に押せるでしょう。私とて死にたいわけではありません。全力で戦い抜いて見せます。いつか、ヒカリさんたちと会ってみたいですからね』


そして、簡単に死ぬ気もないと。

これだけ覚悟があれば、そうそう死なないだろう。


「その調子だ。自慢の妹だよ。な、ヒカリ?」

「うん。絶対会おうね!! 僕たちも全力で助けるよ! ドローンでだけど……」


で、ルクセン君も元気が出たようで、支援の約束をする。


「まあ、支援するポイントをしっかりを教えてもらえれば、生還する可能性も増えるだろうな」

「そうですわね。リリアーナさん、その時は全力で支えます」

「ですね。任せてください」

『はい。ありがとうございます。でも、案外デキラを裁判で終わらせられるかもしれないですが。今まで姉さんたちの話を聞いて証拠もしっかり集めていましたから』

「ほかにもやらかしていたか」

『ええ、私は勿論、ゴードルの方からも探りは入れていましたから、普段なら見逃すようなものから、笑えないものまでありましたよ。流石デキラ、好戦派ですね』


そう言ってリリアーナ女王は笑う。

なるほど、向こうは向こうで勝算ありってことか。

そんな風に話していると、今度は大和君のタブレットが震えて……。


「田中さん、リリアーナさん、ゴードルさんからです」

「よし、繋いでくれ」

『はい。繋いでください』


俺とリリアーナ女王がそう言うと即座につながって、血まみれのゴードルが現れる。


『ゴードル!? いったい何が!?』

『んあ? あー、血まみれだったべな。いやー、魔物を解体しててこうなっただ。リリアーナ女王心配はいらないだ。というか、それで遅れたべ』

「獲物は随分大きそうだったな」


大きなイノシシ。

アレを解体すればそれは血まみれにもなるだろう。


『ああ、今日の晩飯は肉だ。リリアーナ女王にも明日もっていくだよ』

『……ありがとう』

『タナカたちに持っていけないのが残念だ。この魔物は結構いけるんだべが』

「ま、それはこの戦いが終わった後にでも一緒に狩りにでも行って食べよう」

『そうだな。で、なんか動きがあっただべな。この空気』

「ああ、動きがあった、説明をするぞ。といいたいが、まずは着替えろ」

『すまん。すぐ着替えるべ』


と、そんな感じで少し和んで、着替えてきたゴードルに改めて説明をして話し合いを再開する。



『まーた、面倒なことになってるべな。デキラがそこまで動いているとは思わなかったべよ。せいぜい情報収集のために部隊を動かしているぐらいだと思ってただ』

『私も同じですね。しかし、デキラが姉さんたちに行った非道な行為などで集めた物資や資金の使い道が分かりました』

『だべな。そんなことしているから、資金や物資が要るだべな』

「なるほど。ゴードルの方も情報封鎖の話は聞いてなかったか」

『ああ。まあ、仲間入りした時間も間もないからなー。信用されるのはまださきだべ』


当然の話だな。

こんな重要な話を仲間になったばかりのやつにするわけもない。


「で、話の続きだが、リリアーナ女王は四天王の帰還を待たず、デキラを軍事裁判にかけるつもりらしい。ゴードルはどう思う?」

『んー。四天王のバカ二人を待つのは間に合いそうにないしなぁ。となると、今あるモノだけでデキラをどうにかするって判断は間違ってないと思うだ。まあ、勝てる勝てないは別として』

『ゴードルは今の状況でデキラを裁判に立たせても厳しそうと判断しますか?』

『今だと厳しいと思うだ。なにせ、タナカの情報が確かなら、すでにルーメルを情報封鎖して孤立させているし、周りの国は聖女暗殺騒ぎや、戦争の事後処理で大忙しだ。これを逃すわけもないだ』


俺と同意見だな。

こいつは本当に頭がよく回る。

さて、俺も付け加えておくとするか。


「こういうやつは正論で押しても、いくら証拠を集めても力で押し込めようとするからな」


軍人にとって最大の武器はその暴力だ。

まあ、どこの世界でも、力を持つ者のほうが正論よりも強いのは真理だからな。


『……そうなれば、こちらとしてもやりやすくなるだけです。横暴を働くものに人はついてこないでしょう。その時はリテアに逃げてタナカ殿たちと合流し、再起を図ります』

『ま、それならありだべな。それなら、リリアーナ様の立場も悪くならないだ』

「簡単に言うが、かなり危険な話だからな?」

『大丈夫です。タナカ殿たちが援護してくれるのでしょう?』

『それなら安心だ』

「言ってろ。それで命を落としても、恨み言は聞かないからな』

『では、ちゃんと援護をしてもらえるように作戦を立てないといけませんね』

『んだ。タナカ殿なら邪魔になったら背中から攻撃しそうだからな』

「人聞きの悪いことを言うな」


否定はしないけどな。

抱えると不利になるのなら切り捨るぐらいして見せる。

今は、リリアーナ女王もゴードルも俺にとって生きていてもらわないと困るから、助ける。それだけだ。

これ以上わかりやすい協力関係もないだろう。

とまあ、こんな感じで、割と深刻な様子もなく、リリアーナ女王たちとのその日の会議は無事に終わった。



「よかったー。もう、デキラたちに襲われているかと思ったし」

「ええ。ドローンで確認できたとは言え、ひやひやしていましたわ」

「だな。なんというか、会話するまで生きた心地しなかったよ」


と、ルクセン君たちはほっとしているようだ。

だが、これで終わったわけじゃない。

俺が注意するべきかと、思っていると……。


「安心したのは私も同じですが、まだ終わったわけではありませんから、油断は禁物です。私たちの方は万が一に備えてドローンの練習と、アスタリの町の防衛を整える必要があります」


お姫様が代わりに注意してくれた。


「姫様の言う通りです。これからが本番ですな。ここまで準備を整えたデキラという将軍が大人しく終わるとは思えません」

「ええ。リカルドの言う通りです。デキラたち好戦派はリリアーナ女王の制止を振り切って進軍してくることも十分に考えられますから」


リカルドとキシュアも俺と同じ考えか。

というか、リカルドは上の命令を無視して俺に喧嘩を吹っ掛けてきたからな。

同族を知るってところか。


「まあまあ、お二人の言うこともわかりますが、ガチガチになっても駄目ですし、楽しくいきましょー! リリアーナ女王もゴードルさんも笑いながら話していましたし、こっちにはタナカさんがいるんですから、大丈夫ですよ」


ヨフィアはそう笑顔で言う。


「そうだね。勇者様が3人、近衛隊長が1人、徴税官が1人、お姫様が1人、メイドが2人に私たち魔族が5人。そしてタナカ殿がいるんだ。これで負けたらそれこそ笑い種だね」


ノールタルの後押しも受けてみんなでどっと笑う。

確かにメンバーだけは豪華だからな。


「お前らは自分たちのハードルを上げるのが好きなんだな。まあ、そこまでやる気があるのも悪いことじゃない」

「だよねー!」

「ええ。自信を無くしているよりはるかにマシですわ」

「頑張ろうって思えるのがまず大事ですよね!」


うん。そのやる気は確かに大事だ。

だから、そのやる気を早速使ってもらうか。


「じゃ、今から頑張るか。ドローンを使って逃亡ルートを調べるぞ。合わせて、ドローンからの攻撃訓練だ。俺たちは人数分だけしか動かせないからな。確実に目標に当てられるようにしっかりやるぞ」

「「「ええーーー!?」」」


全員そんな悲鳴を上げたが、俺の知ったことではない。

自分たちがやるといったんだ。


頑張ってもらおうじゃないか。


どのみち、デキラが動くのは確定しているからな。

リリアーナ女王がデキラを糾弾するときまでに形にしないと、本当に命を落とすことになる。



避けられない戦い、避けられない敗北。

それでもみんなで力を合わせれば何とかなる。


計画的な敗北をして、デキラを追い詰める。

さて、軍配が上がるのはどちらか?

それとも素直にデキラたち好戦派はあきらめるのか?



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