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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま


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第199射:それぞれの思い

それぞれの思い



Side:アキラ・ユウキ



ガタンゴトン……。



そんな振動を伝えてくる馬車の中、俺たちは乗り物酔いも忘れて、タブレットの画面を見つめている。

すでに日は落ちて暗くなっているけど、それでも休むことなく馬車を進めているし、馬車も4台から2台に減っている。

商品を乗せていた馬車2台は処分して、載せていた商品を売り切る暇はなかったので、適当に田中さんがばら撒いてくれた。


その理由は明白、一刻も早くアスタリの町に戻って、デキラの動きに備えるためだ。

幸い、まだタブレットを見る限りは、デキラとか、国境の砦に異常は見られない。

リリアーナ女王と連絡が取れれば、まだ安心できるんだけどな。

……だけどまだリリアーナ女王とは連絡が取れていない。

まあ、まだ夜とはいえ、仕事をしている時間だからな。

そんなことを考えつつタブレットを見ていると不意に光が口を開く。


「……馬車遅いね」

「光さん。気持ちはわかりますが、馬に罪はないですよ」

「さすがに車と比べるのはな……」


馬は生き物だ。

車みたいに燃料があればずっと走るわけじゃない。

休憩だって必要だ。

ま、撫子の言うように気持ちはわかるけどな。


「わかってるけど、こういうときってもどかしいね」

「ですわね。早くアスタリに着いたからといって何かできるわけではないんですが」

「それでもって思うよな。というか、いつか田中さんが言っていた、真っ先に魔王城に乗り込んでた方がよかったのかもな」


そう言った瞬間にヨフィアさんが目の前に現れて、顔をパンッと両手でたたいてきた。


「いって!?」

「はいはーい。色々悩んでいるようですが、そういうのはだめですよ? 何も知らない状況で突っ込んでも死ぬだけです。あの時の判断は何も間違っていません。だから、アキラさん、ヒカリさん、ナデシコさん、もっと自分を大事にしてください。ね?」

「あ、はい。ごめん」


そう悲しそうな顔をして言われたら男は謝るしかない。


「ごめんね、ヨフィアさん。ちょっと、極端になってたよ」

「ですわね。私も内心、晃さんの意見が正しいかもって思ってしまいましたわ」

「若者ならよくあることです。今後に活かせばいいのですよ」

「ですね。リカルド殿の言う通りです。大事なのは、もしもではなく、今からどうするのかです」


リカルドさんとキシュアさんもそう言って微笑んでくれる。

そうやって俺たちを安心させてくれている。

そして、ノールタルさんたちも……。


「そうだね。私たちはアキラたちの旅に付き合うって決めたからね。死ぬつもりで突っ込んでもらっちゃ困る。ヨフィアと一緒で、アキラたちの故郷を見るつもりだしね」

「ノールタル姉さん!!」


そう言った瞬間、光がノールタルさんに抱き着く。


「はいはい。ヒカリは甘えん坊だからね。大事な妹をほっとけるかっての。あと、無理はしないように」

「うん、うん」


なんというか、本当にノールタルさんと光は仲良くなっているよな。

まあ、いいお姉さんなのは認めるけど。


「あ、私ならいつでもあれ以上のことしてあげますよ?」

「あー、それはせめてこの問題が終わったあとで」


ヨフィアさんも相変わらずだ。

こんないい人たちを残して、無謀な戦いはできないよな。


「しかし、このお姫様はこの状況にどう動くのでしょうか?」

「あー、お姫様は、どうするんだろうね」

「まあ、田中さんと一緒の馬車だし、変なことはしないと思うけど」

「ですね。というか、今更お姫様が動いても、魔族の内情の方はどうしようもないですし」


と、そんなことを話していると、馬車の速度が落ちていることに気が付く。


「そろそろ、限界だな。馬車を止めます。タナカ殿!! 停止をお願いします!!」


リカルドさんがそう叫ぶと、田中さんもわかったようで、馬車を止める。

俺たちも馬車から降りて野宿の準備を始める。


「よーしよし。ちょっときついけど、明日も頼むねー」

「ヒヒン」

「ありがとな。ゆっくり休んで。明日も頼むよ」

「ひん」


もちろん馬たちにも、水と干し草を与えてしっかり労う。

すでに一か月近く一緒にいるから、馬が返事をしてくれているというのがわかる。

この旅で唯一の良いことと言えば馬と仲良くなったことかな。

そんなことを考えていると、田中さんも馬を引っ張ってこっちに来た。


「結城君、乗換のあとでは連絡はなかったけど、動きは無しか?」

「ええ。一応、見た目は平和です」

「そうか」

「田中さんの方はどうでしたか? あれからクォレンさんやグランドマスターから何か連絡は?」

「あれからはないな。代わりに、ドローンの方での一帯の捜索は済ませた」


田中さんはグランドマスターたちと話したあとは、リリアーナ女王たちとは連絡が付きにくいってことで、もう一つの馬車にのってドローンでの一帯の調査を優先していた。


「何かあった時は、逃げるところはありそうですか?」

「一応、グランドマスターの爺さんとは話をつけた。リテア方面へ逃げた時は優先的に保護してもらえるようにしている。だが、逃亡ルートに関してはドローンを使って捜索中だな。人がそこまで問題なく進めて、追手の心配がないっていうのはなかなかないな」

「それは、そうですよね」


そんな都合のいいルートがあれば、既に他の誰かが使っているだろう。


「一番問題なのが、リリアーナ女王が襲撃された場合、どこまで支援をするかってことになるんだよな」

「え? 助けるんじゃないの?」

「ルクセン君。助けるにしても、どこまで堂々と助けるのかって話だ。ドローンにはできることは限られる。しかも、一度目立って助けてしまえば、今後ドローンは使えないだろうな」

「あ、そうか……」

「ついでにリリアーナ女王の追跡も不可能になるな。空を見てドローンが確認できれば、そこにリリアーナ女王がいるとばれてしまう。助けるつもりがリリアーナ女王を追い詰める結果になるしな」


確かに、田中さんの言う通りだ。

ドローンはばれていないからこそ使えるのであって、ばれてしまえば、逆にリリアーナ女王の位置を教えてしまう目立った目印になってしまう。

そして、今後はドローンは使いにくくなる。

どうしたモノかと思っていると、お姫様とカチュアさんが現れて……。


「その際は、ドローンの存在がばれてもリリアーナ女王を守るべきです。和平派の旗を無くしてしまえば、好戦派のデキラに飲まれるしかありません。そうなれば、私たちは立場上、魔族を倒さなくてはいけなくなります。それは避けるべきです」

「はい。姫様の言う通り、その場合総力戦となってしまいます。ただ、リリアーナ女王を助けたいという個人的な感情ではなく、今後の展開のためでもあります。魔族側に動揺をもたらし、上手く使えれば和平派をこちらに引き込める可能性もあります」


お姫様とカチュアさんはリリアーナ女王は全力で守るべきだと言ってくる。

内容も意外とまともな理由を言ってきたと思う。

俺も一理あると思う。


「ま、そうだな。あとでルーメルや他の大国に奴隷化されないといいけどな」

「そんなことはさせません!」

「ああ。そうならないように頑張ってくれ。ということで、いざとなればドローンでの援護ってことだな。まあ、操作を誤ってリリアーナ女王を攻撃しないようにな」

「「「……」」」


そう言われて、俺はドローンでの援護の難しさを思い出す。

一発撃つだけで、ドローンはひっくり返って使い物にならなくなる。

そのせいで、聖女様を追うことができなかった。


「ま、その援護の話を伝えていれば何とかなるだろう」


と、田中さんが言っていると、不意に持っているタブレットが震えて、その画面には……。


[着信 リリアーナ]


「田中さん!! リリアーナ女王から連絡が来ました!」

「わかった。みんなはタブレットで会話を聞いててくれ。あと、ゴードルから連絡が来るかもしれないから、気を付けておけ」

「「「はい!」」」


ここからが勝負だ。

色々万が一の時のことを考えて色々話してはいたけど、リリアーナ女王がこのままデキラを抑えてしまえばそれでいいんだ。

状況は悪い。だけど田中さんが言っていた、ここを乗り越えればデキラが動き辛くなるって。


「こちら、田中だ。聞こえるかリリアーナ女王」

『ええ、聞こえます。定期報告の時間ですが、ゴードルがまだのようですね』


そういえば、ゴードルさんが定期報告に顔を出さないとかおかしい。


「あー、ゴードルさんは今帰ってきてるよ。なんか帰り道魔物に襲われてたみたい。その魔物引きずって帰ってるし」


そう言って、光が見せる画面には大きなイノシシのような生き物を引きずっているゴードルさんの姿があった。


『無事のようで何よりです。では、先に話を進めましょう。あの様子だと、先に魔物を処置をしないといけませんからね。腐りますから』

「わかった。ゴードルの方はこっちに来てから改めて説明するとして、そっちの動きはどうだ?」


田中さんは、今の状況を真っ先に伝えるのではなく、先にリリアーナ女王からの情報を聞くことにしたみたいだ。

まあ、まずはリリアーナ女王からデキラの動きが怪しいとかわかれば、それだけ危険ってことになるからな。


『特にこれといった動きは見せていません。おそらくですが、勇者たちがアスタリの町を離れたという連絡がそろそろ届くはずですから、動くのならもうすぐというところでしょうか?』


ほっ、やっぱりというか、いつもと変わらない感じでリリアーナ女王が話しているということは、デキラはまだ動いていないってことだ。

田中さんもそれを聞いてこちらに視線を向けて頷く、これからが本題ってことですね。


「それは良かった。だが、こっちからはちょっと面倒な話だ」

『面倒? そういえば、今日はウォールの町にいるはずでは? 映像を見るに野宿しているようですが? 何かあったのですか?』

「ああ、俺たちは今、アスタリの町へと戻っている最中だ」

『アスタリの町に魔族たちが攻めてきたのですか!?』

「いや、そこまで大きな行動は起こってないが、ルーメルが情報封鎖をされてることに気が付いた」

『情報封鎖ですか?』

「ああ、ルーメルに入れなくしているんだ。魔物の群れとかが襲ってきて、国境に近付けないそうだ」

『……それにデキラが関わっていると?』

「可能性は高いな。魔族を二人、暗殺ギルドを一人仕留めたからな」


え!? 3人もいたのか!!

あ、でもそれぐらいいてもおかしくない魔物の群れだったよな。


「この前。リリアーナ女王と会う前にも襲撃されたが、あれは本来は情報封鎖のための人員だったんじゃないかと思ってもいる。リリアーナ女王はこの話は知っていたか?」

『いいえ。おそらくはデキラが動かしているのでしょう』

「……言わなくても、すでにわかっていると思うが、デキラが動く可能性が高い。四天王の二人を待っている暇はないだろう」


そして田中さんはただ事実を遠慮なく伝え……。


「それで、魔族の女王。あなたはこれからどうする?」


リリアーナ女王に決断を迫った。


『……』


女王はどんな決断をするのか……。



誰もが願う。平和であってほしいと。

そして平和を願うからこそ争いがおこる。


誰もが争いを避けて争いを決断するしかない。


まあ、なにをどう言っても下着をとったのは変態でしかないのですが!!

弁明の余地なし!!



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