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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま
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第184射:誰もが戦いを避けようとして戦いの準備をする

誰もが戦いを避けようとして戦いの準備をする



Side:タダノリ・タナカ



「……ということで、各国はすぐには動きそうにないな」

『そうですか。それが唯一の救いですね』

『んだ。それならまだ余裕があるべ』


と俺はリリアーナ女王や、四天王のゴードルと、グランドマスターから得た情報を話していた。

2人とも、この話を聞いてひとまず安心している様だ。

まあ、デキラを倒したと思えば、次は人の連合軍が相手とか悪夢でしかないからな。

因みに、結城君たちは同席していない。

監視の方に回ってもらっている。

下手な情報を聞いて混乱しても困るからな。


「で、そっちはどうだ?」

『こちらも特にデキラは変な動きは見せませんね』

『んだ。手紙をだしただべが、まだ反応がないべ』


昨日の今日だからな。まだアスタリの町にすら情報が来ていないのだ。

ラストの王国に情報が来ているわけがない。

デキラに情報が来るとしてもあとせめて一週間はかかるだろう。

全く、不便な世界だな。

だが、それだからこそ、ゴードルの内部に入りこむというのは疑われずに済むのだ。

相手も、情報を得たとは思わず、本心からの鞍替えだと思うはずだからな。


「このまま、リテアが暴露してくれればありがたいんだがな」

『しかし、その話が正しければ、デキラが動いていないということですよね?』

『だべな。それならこっちとしても安心だべ』


もちろん、リリアーナ女王とゴードルには、内輪揉めの可能性もあると説明している。

まあ、状況が状況だから、リリアーナ女王もこのことには最初から気が付いただろうが。

デキラが動いたかもってことで、あれだけ驚いていたからな。


『デキラがそこまでバカでなかったようで何よりだよ』

「そうだな」

『ええ。それがせめてもの救いです』


下手をすれば総力戦に発展していたからな。

そこまでデキラがバカだとはリリアーナ女王も思っていなかったが、その通りだったようだ。

その分こちらとしてもやりやすい。


「まあな。デキラが多方面を相手にする辛さを知っているのが何よりだな」


つまり、戦争になったとしても、突出するようなことはないだろうってこと。

だからこそ……いやー、やりづらいことこの上ない。

釣りだしとかの罠が通じることはないとみていいだろう。


変態だが。


『しかし、その話がこちらに届いた時が心配ですね』

『んだ。敵が攻めてくるとか言い出して、まーた無理やりな徴収とかしかねないべ』

「こっちの懸念はそれでデキラがこちら側に攻めてくるってところだが、現状はそういうことはなさそうだな。バカじゃなかったんだから。とはいえ、2人の言う通り今回の件でラスト国内も揉めるだろうな」


どこかに戦力を割り振れば、その分本国の防衛能力は落ちることになる。

バカなら攻めてくるかもしれないだろうが、デキラが将軍として戦力把握、そして戦術、戦略を理解しているなら、自分から攻め込むようなことはしないだろう。

だが、それは俺たちにとっては良いというだけで、魔族側としては聖女を殺したのは魔族だということを知れば、今度はこちらに攻めてくるのかもしれないという考えにデキラがいたるのは間違いない。

そうなれば国防を担う軍の代表でもあるデキラは軍拡を選択するしかない。

そして、リリアーナ女王はそれを止めることになって、更なる溝ができると。

いやー、どっちもどっちで猜疑心の塊になってくるよな。

人っていうのはなかなか分かり合えないってことだな。


『とはいえ、時間がある間になんとかデキラを押さえればいいわけですね』

『だべな。というか、今回のことを理由にして、デキラを押さえられねぇべか?』

「ん? ああ、逆にデキラの罪にするってことか」


流石ゴードル頭がよく回る。

今回の聖女が魔族に殺されたという事件は、デキラにとって戦争をするための理由にできるが、これはもろ刃の剣でもある。

逆にデキラの仕業にされて、国を危険にさらしたという罪に問われかねないのだ。

動機は十分にあるしな。

そして、評判を落とすための他の不法行為の証拠も沢山ある。


『……できないことはないでしょうが、未だザーギス、レーイアが戻っていません。あの二人と、ゴードルがデキラの所に潜り込んで、内部工作をしてからになりますね』

「そうだな。それがいい。敵はなるべく削って敵を味方にする方がましだからな」

『だべな。わざわざ仲間を殺したくもないべ。デキラに従っている連中もこのままじゃまずいってわかってるからデキラに付いて行っているのも多いしな。説得すればそれだけこっちが有利になるべよ』


と、そんな感じで、リリアーナ女王たちは魔族の方も時間がそれなりにあることを知って、根回しを優先して周りを固めてから確実にデキラをということになった。

しかし、話しながら思ったが、俺としては、このリリアーナ女王やゴードルとの会話の方がストレスが少ない気がするのは気のせいだろうか?

おそらくあれだ、こっちの方が俺の思考に近いんだろうな。

結城君たちが悪いわけじゃないが、魔族たちは厳しい環境で生きてきたからな。

そういう意味で俺とあっているんだろう。



「……皮肉だねぇ」


そう言って、俺は窓を開けてタバコをふかしていた。

既に夜は深まって深夜という時間だ。

リリアーナ女王たちと会話するのは時間が夜に限られるからな。

しかし、人側の国家といい、魔族の国といい、お互いに戦争を避けようとして、軍備を整えて緊張感を高めてしまう。

戦争を望まないのに、戦力を整えざるを得ない。

皮肉だよな。


とはいえ、聖女の事もそうだが、この大陸は色々節目ってところなんだろう。

まあ、結城君たちという勇者が呼び出された時点で、そういう状態だったんだろうな。

この空気はまさに開戦前夜の国の空気だ。

昔、俺が、俺たちがよく稼いでいた仕事場の空気だ。


俺はのんびりした生活を求めて日本に住んだはずなんだがな。

こうして戦場にもどってくるとは、そういう意味でも皮肉としかいいようがないよな。

前も同じようなことは思ったが、よりそう思うようになった。


とはいえ、まだ始まったわけじゃない。

意外とあっさり終わるかもしれない。

世の中っていうのはびっくりすることはいくらでもあるからな。


「そうなれば、幸いなんだが……」


だめだな。どう考えてもそれは楽観しすぎているよな。

お互いの国のメンツもある。

原因がリテアにしろ、魔族にしろ、被害を被ったガルツとロシュールは報復行為をしなくてはいけない。

戦争という行動はどのみち起こる。

その被害をどう最小限にとどめるかを考えなくてはいけない。

だが、おそらく、ガルツ、リテア、ロシュールは魔族の仕業としてまとまるだろうな。

真実がどうであれだ。そうでもしないと、大国同士での潰し合いをしなくてはいけない。

その隙に魔族が攻めてくればという思考になってもおかしくはない。


「とはいえ、真実を知っていたら、魔族討伐は形だけになる可能性は高い、か。ん? これで行けるか?」


自分が口にしたことを改めて考えてみる。

大国が今回の聖女死亡の話の裏、リテア側などの策謀だという情報を得ていたとする。

……まて、いやないな。

リテアにコケにされるということになる。

黙認で和解となると、通常の賠償より物凄い賠償が必要だが、賠償を支払えばリテアが自分のところの聖女を暗殺したと認めることになる。

そんなのは認められない。

となると、やっぱり真面目に戦争となるか。


「まあ、でも逆にまとまってくれるなら、それを撃退すれば終わりか」


連合軍が大敗すれば、次をと思うやつは減るだろう。

まあ、結城君たちは嫌がるだろうが、それが攻めてきたときの有効打だな。

ドローンでの上空からの爆撃。これで連合軍であろうが、デキラの軍もどうにでもできる。

死人は出ることになるが、お互いに被害は拡大しないだろう。どっちも敵がわからずにやられるんだからな。

こうなった時は、結城君たちには知らせないで、俺がこっそりやるか。

動いたときには既に戦うということは避けられないからな。

で、殺しちゃいけないやつのピックアップはしないといけないな。

下手に全滅させると国が傾くからな。グランドマスターの爺さんに情報提供を頼むか。


と、そんな感じで最後は俺が処理すれば解決か、と考えていると、不意にタブレットから着信がある。

それは、グランドマスターの爺さんからだ。


「何があった。というか、普通に使いこなしているな」

『教えてもらったからのう。しかし、本当に便利なものじゃな。冒険者ギルドにこの魔道具を売ってくれぬか?』


このタブレット越しにちょっと教えただけで、俺たちへの連絡だけとはいえ普通に使えるようになったのは、この爺さんがすごいからだろう。

こういう偉い人間は新しい物好きってことか?

と、そんなことはいいか、まずは爺さんが連絡してきた理由だ。


「それはこれからおいおいだな。で、本題は何だ?」

『ちっ、ケチな奴め。まあそれはよい。急な連絡理由じゃが、ルルア殿が生きておったと、早馬が連絡を持ってきた』

「本当か?」


あの聖女様が生きていた。

そうなると、状況が変わる。

前提の魔族に襲われたというのを否定できる可能性がある。

デキラも各国が混乱していないとなると、防衛に徹する可能性が高くなる。

いかん、まだ確定した話じゃない。詳しい状況を聞かなくてはどう動くべきかわからん。


『本当のようじゃ。というか、リテアの上層部の連中、いつの間にか聖女アルシュテール殿を連れて、ルルア殿が没した村へと向かっていたらしくてな。その村で発見されたそうじゃ』

「……現聖女に死亡を認めさせるためか」

『うむ。動きが早かったのは、わしらなどのルルア殿を支持している連中の邪魔を恐れてじゃろうな。まあ、政治的に考えればわからんでもないがのう』

「だな。生きているにしろ、死んでいるにしろ、未だに顔を出さない元聖女を待って政治を滞らせるわけにはいかないからな」


大統領がいないので政治をしません。とか言われても困るからな。

今回の場合は、未だに生死が判断つかない元聖女様の件で言い合いをするのは不毛だと思ったんだろう。

まあ、生きていたらこまるから、さっさと元聖女がいなくても問題ない体制にしたいんだろうが。

そうすれば、元聖女様が戻ってこようが、そう簡単に返り咲けないだろう。


「しかし、その状況からして、元聖女様は狙ったな」

『うむ。普通に正面から向かえば殺されると思ったみたいじゃな。間違ってはおらん』

「だな。本物が戻ってきたといっても知らぬ存ぜぬで、捕まえて殺してもよかっただろうからな。だが、上層部がこっそり行っていたことに、元聖女様は潜伏していたのかは知らんがよくわかったな」

『ああ、誤解があるようじゃな。我々冒険者に話が届いてないだけじゃよ』

「ああ、嫌われてるのか」

『ま、この前の魔物討伐で散々むしり取ってやったからのう。ルルア殿が悪徳貴族から徴収したものでな』

「元聖女さんもそこらへんを調整すれば、こうなることはなかっただろうに」


元聖女には同情するべき点もあるが、もっとおとなしく政策を進める根回しも必要だったな。


『ともあれ、早馬が情報をもたらしただけじゃ。どうせろくでもないことを考える連中が出てくる。そこでじゃ』

「俺にドローンで護衛を出せってことか」

『うむ。こっちから冒険者をだしてもどうせ止められるからのう。幸い、アルシュテール殿がその場に居合せた冒険者を雇い入れて、護衛にしているらしいのじゃが……』

「それだけじゃ心もとないか。わかった、すぐに向かわせる。その村の場所は?」


爺さんの依頼を受けて、俺は複数のドローンを元聖女様たちの元へ向かわせるのであった。


さーて、どう事態が動くかわからなくなってきたな。

元聖女様はリテアで一体どうするんだろうな。

あ、結城君たちへの連絡は……今日の仕事が終わってからでいいか。



危機に備えないでいるっていうのはとても難しいからね。

備えておくのは当然なんだけど、それで相手を刺激してしまう。

面倒だよねー。


で、最後に聖女ルルア様が生きていたと報告が!

これでリテアは救われるのか?

それとも更なる混乱へと向かうのか?



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― 新着の感想 ―
ああなるほど………ルナが出してない=自分達の物ではないドローンに気付いて、ルーメル方面の情報を集めて田中だと確定させて、接触してからの対デキラ作戦ね………。つまり異世界からの勇者がいることは知ってたが…
[一言] 面白すぎて辛い。(睡眠時間的に…) 今は未読の必勝ダンジョンをどのタイミングで読み始めるか悩み中。(後書きのヒントというか煽りというか…) (>_<")
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