第181射:再び聖都到着
再び聖都到着
Side:アキラ・ユウキ
おかしい。これはおかしい。
いや、違うのか? これがこの国の人たちの弔い方なのか?
そんな考えがよぎるが、すぐに否定する。
だって、あの大森林の調査で死んだ冒険者たちの弔いはしっかりしてたじゃないか。
だったら、だったらなんで……。
「みんな普通に生活している」
そう、何も起こっていない。
悲しみも怒りも何もない。
ただ、いつもの日常があるだけだ。
と、その異常な風景に、田中さんが口を開く。
「ま、俺たちの所に情報が届いたってことは、統制はしっかりしているってことだろうからな」
「どういうこと?」
「光さん。田中さんが言いたいのは、既に情報統制をしているってことですわ。そうですわね。田中さん」
「ああ、こういう大問題は国が乱れる原因だからな。これをしっかり抑えて安定させるのが、政治家の仕事だ。国民全員が生活を止めているなんて事態は問題すぎる」
確かに。
いくら偉い人が死んだからって、国民が生活を止める。つまり、働かないってわけにはいかない。
ただ悲しいことがあっただけだ。それで生活が崩壊するわけがないし、偉い人たちはそんなことをさせてはいけないってことだ。
「じゃあ、これは普通ってことなんですか?」
「ま、普通だろう。国のトップである聖女様が死んで、国全体が喪に服するっていうのはあるかもしれないが、経済活動が止まるわけじゃない。というか、冒険者の連中の弔いも飲み会があったからな。案外、ミサなんかがあってそこで祈りでも捧げるんじゃないか?」
「なるほど。だけど、これからどこをどう調べればいいんですか?」
俺としては何かしらわかりやすい動きがあって、それをドローンで追いかけるような感じになると思っていたんだけど、これじゃ肩透かしだ。
「そこはグランドマスターの爺さんのところだ。あっちにはこのドローンの件はクォレンを通じて話を通してある。一番生の情報を得るにはそこがいいだろう」
「おー、あのおじいちゃんなら、何か知ってそう」
「確かに、あのおじい様なら知っていることは多そうです」
「ということで、ドローンの予備を待機させたら、グランドマスターがいるギルドへ行くぞ」
「了解です」
この前は聖女様を助けるときに二機とも墜落して、リテアの情報源を失ったからな。
次はそういう失敗はしないように予備機の投入をしておく。
まあ、この遠方でもドローンを出現させられるっていうのに気が付かなかったからな。
便利極まりないことだ。
と、そんなことを話しているうちに、不意にドローンが止まる。
「どうした? 結城君」
「あ、その、あれって……」
そう言って、結城君が指さす先には、冒険者らしき人物たちと子供の姿があって……。
「あ、アロサとミコットじゃん!!」
「オーヴィクさんに、ラーリィさん、サーディアさん、クコさんですね」
それは、リテアで仲間になったみんなだった。
「えーっと……」
とはいえ、友人たちにこのドローンで近づくわけにもいかないよな。
このまま、通り過ぎるしかないのか。
「よし、直接会うのは無理だが爺さんにその後を聞いてみるか。見た感じ、なんか遊んでいるみたいだしな」
「あ、そうか。グランドマスターに聞けばいいのか」
「流石に直接ドローンで顔を合わせるわけにもいかないからな。とはいえ、全員笑っている様だし、聖女ルルアが亡くなった事に関しては、そこまで事実が伝わっていないか、それとも国民生活にそこまで影響がないってことだ」
「それならいいのかな?」
「聖女様が亡くなったことは残念ですが、こうしてクコさんたちやミコットたちが元気なことはとてもいいことですわ」
撫子の言うように、こうしてみんなが元気にしていることはいいことだ。
そんな風に安心していたんだけど、田中さんが口を開いて……。
「だな。まだ、リテア聖国は魔族が起こしたことに対して軍事行動も起こしていないようだ。オーヴィクたちとか絶対外せない戦力だろうしな」
その事実に気が付いた。
戦争になれば、どう考えてもオーヴィクたちは徴兵される。
そうなれば、命の危険にさらされる。
「……そっか、ラーリィたちも戦争に参加させられるのか」
「……それは避けなくてはいけませんね」
「絶対に阻止だ」
言うまでもなくだが、3人とも意見は一致していた。
何としても戦争だけは、ぶつかり合うことだけは阻止しないといけない。
オーヴィクたちとまた一緒に冒険しようって約束したもんな。
「まあ、ひとまずは平和で何よりだ。おそらくまだ上層部の意志決定が出来てないんだろうな。聖女がいなくなっての後釜や、その後の行動について。普通簡単に決まるモノでもないからな」
「確かにそうだよねー。地球の総理大臣の辞任とかの時も選挙のやり直しとか色々あったし」
「ということは、聖女ルルア様の後任が決まるまではリテアは動かないということでしょうか?」
「それまでにどうにかしようってことですね。田中さん」
「ああ、そうだ。とはいえ、まだ正確な情報は得ていない。さっきも言ったが、まずはグランドマスターの爺さんから話を聞くのが一番だ。ということで、オーヴィクたちの映像はここまでだ」
そう言うと、田中さんはオーヴィクたちからドローンを遠ざける。
笑っているオーヴィクたちとまた元気に会えるといいな……。
で、ドローンは空を飛んでいるので、さほど時間がかかることもなく、冒険者ギルドの本部にたどり着く。
だけど、流石は冒険者ギルドの本部って言われている場所で、冒険者はもちろんギルド職員の出入りもものすごく多い。
「いやー、やっぱり人が多いね。そういえば、まだ魔物の森の調査ってしてたんだっけ?」
「ああ、そういえばそんなことがありましたわね」
「この中で、どうやって潜り込むんですか? 流石にきつくないですか?」
この人混みの中、それも実力者が沢山いる中をドローンが降下して気付かれずに行けるのか?
いや、正直にいってすぐに見つかると思っている。
だけど、田中さんは特に気にした様子もなく……。
「ん? ああ、気が付かれるか。そりゃそうだが、別に気が付かれてもな」
そう言うと田中さんはドローンを急降下させて、グランドマスターの部屋へとためらう事無く向かい、そのまま窓を突き破り、中へと侵入する。
「「「はい!?」」」
あまりの強行に驚いて声を上げる。
な、なんでこんな目立つことを!?
『な、なんじゃぁ!? 子供が石でもなげよったか!? って、この窓は中庭からのはずじゃが?』
「よお。爺さん。色々と大変そうだな」
『……タナカ殿か。なるほどのう。それがクォレンから連絡が来ていたドローンというやつか。気配に熱が感じられんのう』
「だから気が付かなかったか。死んでるぞ。爺さん」
『こんなのを使うやつはお主しかおらんよ。全くおどろかせおってからに』
「「「……」」」
そんな二人の会話についていけずに沈黙する俺たち。
やべー、大人ってすごいと改めて思った。
で、そんな感じで感心していると、ドタドタと音がして誰かがグランドマスターの部屋に入ってくる。
『グランドマスター何事ですか!?』
『すまんのう。ちょっと魔道具が暴走してのう』
『……ああ、またですか。もう、骨董品の管理はちゃんとしてくださいね』
『すまんすまん』
『まったく、今本部はあの件で大忙しなんですから、少しは自重してください』
『わかった。本当にすまんかった』
どうやら、秘書をやっていたお姉さんのようだが、こんなにあっさり納得されるのか。
いや、超納得だけど、誰だってグランドマスターの魔道具って説明されたら、全員納得するしかない。
「いや、流石爺さん。信頼されているな」
『うるさいわい。で、話が有ってきたんじゃろう?』
「当然。リテアの聖女死亡の件だ。だが、その前にタブレットを出すからそれを受け取ってくれ」
『ん? どういう……』
そうグランドマスターが言い切る前に、田中さんはタブレットを出現させる。
『おわととと!?』
「ナイスキャッチ。使い方は追々説明するから、まずは画面に触らずに持っててくれ」
『おおっ、タナカ殿の絵が映って、というか動いておるな!?』
驚いているグランドマスターの顔がタブレット全体に映される。
手に持っているからこういう表示になるのは仕方ないか。
「その映像は、絵はリアルタイム、今直でつながっているってことで納得してくれ」
『ふむ。ギルドの通信宝珠みたいなものか。しかし、こっちは絵まで送れるとは素晴らしいのう』
「理解が早くて助かる。まあ、そこはいいとして、本題だ。率直に聞く。聖女は本当に死んだのか?」
そうだ。まずはそこだ。今はそういう話がルーメルまで届いてるだけでしかない。
グランドマスターならちゃんとした情報を持っているはず。
『お主相手にウソをつく理由もないから、正直に言うぞ。わからん』
「は? どういうことだ?」
『死体を確認したわけではない。ただロシュールに迎えに行った連中が、ルルア様の訃報を伝えただけじゃからな』
「よし。全容がわからない。詳しく説明してくれるか?」
『構わないが、こっちもそちらのことを聞きたい。あれから、何があった?』
「クォレンから報告は受けているんじゃないか?」
『本人の口から聞きたいんじゃよ。これはそっちと同じじゃな。というか、どっちから話を聞いた方がスムーズに進むと思うかのう?』
そう聞かれると困る。
確かに、どっちの話を聞くにも時間がかかりそうだ。
だけど、聞かないとちゃんとした話ができないというのもわかる。
「あー、そっちの希望はわかった。俺たちの方から話そうか。そっちは一旦クォレンから連絡が行っているから、理解は早いだろうしな」
『そう言われるとそうじゃな』
「じゃ、簡単に説明するぞ。リテアを離れた後だが……」
田中さんはグランドマスターにリテアを離れてからの起こったことを簡単に説明する。
お姫様と一応和解したこと、ジョシーという傭兵に強襲されたこと、情報屋のフクロウさんと会ったこと、魔族の村のこと、本当に簡単ではあるけど、忘れかけていたことも含めて全部話した。
『……本当に色々あったんじゃな。というか、聞いたことのない話まであったぞ。まさか王宮でそんなことがな』
「今までの中で一番ピンチだったな。で、何かそっちが聞きたいことはあるか?」
『いや、大体そちらの流れはわかった。まさか、魔族の人と一緒に動いておるとは思わなかったがのう。というか、魔王とな』
「人脈は広い方がいいだろう?」
『広すぎるわ。ともあれ、ノールタル殿、そしてセイール殿たち。私たち冒険者ギルドは貴女方の安全を保障いたします。何かあれば冒険者ギルドを頼り下さい』
「ああ、なにかあった時は頼らせてもらうよ。だけど、私はヒカリたちと一緒に行動すると思うけど」
本当に何もかも話して、グランドマスターは俺たちに何かあった時はノールタルさんたちの保護を申し出てくれた。
この人も恐らく魔族との戦争には反対なのだろう。
「で、今度は俺たちの方だ。そっちは一体なにがあった?」
『ふむ。では、長くなるが話そうかのう。と、その前にお茶くれんか? さっきの緑茶は美味かった』
……この御爺さんも本当に修羅場を潜り抜けているんだろうな。
こういう余裕が羨ましい。
まあ、偉い人が亡くなると、国全体で喪に服するというのはあるけど、それでも何もしていないわけじゃない。
経済は回り続けているし、暗殺の関係で遺体も出ていないんじゃ、そんな空気にならないよねー。
ということで、グランドマスターからの情報を聞こう。
いよいよ、必勝ダンジョンのある場面に近づいてきました。
向こうは、魔王様と取り込んだり妖精族さんがきたりで、クソ忙しいところでしょう。