第180射:道は決まった
道は決まった
Side:タダノリ・タナカ
俺は、結城君たちの答えをクォレンたちに伝えていた。
「ほう。この状況で勇者殿たちは、それでも自分たちの道を進むことにしたか」
「なかなかできることではありませんね」
「流石勇者殿たちというべきかな?」
その反応は意外と好意的だった。
クォレンたちは人だ。魔族を殺しつくす方に賛成かと思っていたんだがな。
「なんだその顔は。俺たちだって分別はある。魔族の正体を知ってなお、殺すとは言わんさ」
「ですね。そもそも、今回の聖女暗殺の件は内輪もめですからね」
「それに付き合わされて、強力な魔族の軍と勝負とかバカらしいことこの上ない。死ぬ奴らは無駄死にだ。上の連中は魔族を殲滅できるとも思っていないだろうからな」
「グランドマスターも出兵をできるだけ減らしたいと思っているようだな」
なるほど、そっちが絡んでくるか。
内輪もめではあるが、建前上魔族に対して行動をとらざるを得ない。
その先兵として使われるのは冒険者ギルドだからな。
無駄に自分の戦力を減らしたくはないよな。
「ということは、思いのほか、各国の動きは鈍くなるか?」
「まあ、今日明日で仲直りして、連合を組みましょうとはいかないだろうな」
「そんな簡単に仲良くなれるなら、戦争もおこっていませんね」
「ソアラの言う通りだな。まあ、最短でも使者のやり取りだけでも早馬で数週間、連合の結成となると半年はかかるだろう」
そういえば、そうだな。ここの連中は車とか飛行機とか便利な移動手段はなかったな。
ドローンとか、車両などの俺のスキルのお陰で時間の感覚がズレているな。
そこらへんを考えると、時間があるわけではないが、案外デキラをとっちめる余裕もあるかもしれないな。
「まあ、そういうことで、これから具体的な行動について考えるが、冒険者ギルドの力を借りられると思っていいか?」
「ああ、各国に徴兵されてすりつぶされるより、勇者殿と歩んだ方が英雄譚になるだろうしな」
「ええ。冒険者にとって名声はなによりも得難いものですから」
「特にここのバカ共はタナカ殿には従順だからな。喜んでついていくと思うぞ」
「タナカ殿と組んだ方が勝算が高いってわけだ」
「色々ありましたが、私もあなたに従うことに否はありません」
「ああ、実力もその人柄も信頼できるからな。ほかの貴族よりもよっぽどましだ」
とまあ、こんな感じでギルド連中は俺たちの行動に賛成的だ。
まあ、そこはいいとして……。
「気になることはまだある。各国の動きも心配ではあるが、未だにルーメル王の方からアスタリ子爵に連絡が来ていない。こういうのは普通か?」
そう、アスタリ子爵が情報を知らない素振りだったのが気になる。
国の伝達速度はそこまで遅いものか?
「ふむ。今から話すことはギルドよりの話だから完全ではない。ということを念頭に置いて話を聞いてくれ」
「ああ」
「まず、正直な話情報の伝達速度は冒険者ギルドの方が圧倒的に上だ。だから遅れても特に不思議じゃない」
「なるほど、アスタリ子爵が知らなくても特に不思議ではないってことか」
「そうだ。とはいえ、ルーメル王都の方には冒険者ギルドの連絡網から情報が行っているはずだ。そういう約束だからな」
「有事の際の協力体制だったか?」
「ああ。そして、今はルーメルの連中はどう動くか悩んでいる最中ってところだろうな。だからまだ下部に連絡が届かないってわけだ。まあ、こういう大事な情報はむやみやたらに伝えられるものじゃないからな。国王とか、国王の滞在先にのみっていうのが当たり前だ」
なるほどな。クォレンの言う通りだな。
むやみやたらに聖女が死んだなんてことを言えば、国民は動揺する。
まあ、噂として広がるのを防ぐのは不可能だが、まだ方針が決まってもないのに国民の不安をあおるようなことはしないだろう。
特にこのルーメルじゃ、こんな話が世間に出回るのはキツイことになる。
以前に前王が魔王討伐に行って帰らなかったからな。
そこでのパニックは避けないといけない。
せめて、ルーメル王国が主導で音頭をとらないと国がまとまらないか。
「……その方面から考えても、もう戦争は避けられそうにないな」
「ああ、だからアスタリ子爵が取っている方法は早けれは早いほどいい、限りある人材や物資を集められるからな。攻めるにしても守るにしても、自分で扱える量が多いほうがいい」
「早めに動く方が地方貴族にとっては楽か」
「ええ。徴兵どころか物資の供給も要求されますから」
「普通なら反発があるが聖女死亡という事実があるからな。次は我が身だと思うだろう。なにせ、ルーメルには前科があるからな」
攻めたからな。次の報復はこっちだと考えても不思議じゃない。
イーリスたちのいうことは一々もっともだな。
「だが、各国との連携はどうなると思う?」
「まあ、勇者殿たちがいる状況だからな、普通ならルーメルを盟主とするだろうが、交渉次第だしな」
「それもそうか。とりあえず、俺たちは俺たちで各国が動く前に準備を整える必要があるってことか」
そんな感じで俺が納得していると不意にクォレンが口を開き……。
「そういえば、お姫様はどうだ? 戦争が不可避となると色々あるんじゃないか?」
「ああ、そういえばそんなことあったな」
「おい。それでいいのか?」
「別に今すぐ暴れだしそうな雰囲気はなかったからな。とはいえ、一度話してみる必要はあるか」
あれでもルーメル王の娘だ。
これから何かしら動くのにお姫様という手札は限りなくありがたい。結城君たちが行動を起こすのには必要な人物だ。
そのケアを怠ることはできないか。
しかし、それで思い出すが、戦争不可避のことを伝えたときはもっと色々あるかと思っていたが、そこまでお姫さんも取り乱したりはしていなかったから、恐らく俺が言ったことも想定していたんだろうな。
というか、この状況で何もしないで物事が収まると思っている方がおかしいか。
ま、結城君たちが自分から動くという決断をしてくれたのが俺にとっては非常にありがたい。
と、そんなことを考えつつ、俺は地下の方へ戻ると……。
「んー。リテアに到着って言っても特に動きはないみたいだねー。ふつーの日常みたいだし」
「なぜでしょう? 聖女ルルア様が亡くなったのにこんな様子はあり得ない気がするのですが?」
「さあ、まだ来たばかりだし、って、田中さん」
どうやら、結城君が操るドローンはリテアに到着していたらしい。
「よお。そっちは無事に到着したか。で、他のメンバーは四天王の2人は見つけられたか?」
俺がそう聞くと、ルクセン君たちは首を横に振って否定する。
そう簡単に見つかるわけないか。
四天王2人がリリアーナ女王についててくれれば色々と安心なんだが上手くはいかないな。
「そうか。ま、見つからない物は仕方がない。と、お姫さん。話があるがいいか?」
「はい。何でしょうか?」
「今更にはなるが、単刀直入に聞く。今の現状はお姫さんが予知した状況に近付きつつある。そこのことに対して、何か思うところはないのか?」
「……」
俺の不躾どころか、ドストレートの質問に対して沈黙を守るお姫さん。
周りにいる結城君たちも何を聞いているんだって感じだ。
だがな、ちゃんとこういうことは聞いておかないといけない。
そういう大事なことだからな。
「……結局、回避はできなかったということでしょう。ですが、あの先を見たわけではありません」
「というと?」
「私は確かに、アキラ様たちが魔物の大軍と対峙するところは見ましたが、結果は見ていません。だから……」
「だから、俺たちが死ぬかどうかは分からないってことか」
「はい。ですので、私は最後までアキラ様たちと戦場にたち、最後まで犠牲が少なくなるようにしたいと思っております」
「ご立派です姫様」
そう言って、主を褒めるメイドのカチュア。
そして、俺から見ても、お姫さんの目からは真剣さが見て取れた。
「ま、そうでもなければ最初から勇者を呼び出そうとは思わないか」
「ええ。色々と愚かなことは致しましたが、私の目的は最初から変わってはいません。そしてこれからも」
うん。お姫さんはそういう奴だったな。
今日も変わりが無く何よりだって感じだ。
「未来が不可避だと分かったのなら、それに対して手段を求めるのみですが、それはタナカ殿が率先してやってくれるのでしょう?」
「俺が死なない程度にな」
「タナカ殿の死なない程度というがどの程度かわかりませんが、それでも既に魔族のリリアーナ女王や四天王のゴードルとの話もつけています。今、私たちは、4大国の中で一番魔族のことに精通しているといってもいいでしょう。あの未来予知ではこんな詳細なことは分かりませんでした。ただ異国の者にあの状況を任せているというのが情けなかったし、国を守りたいという気持ちがあっただけでした。ですが今は違います」
そういって、お姫さんは俺たちを見回して……。
「こうして、勇者様たちを筆頭に、頼れる仲間がいます。遠き魔族の地にも同士がいます。ただ、武力だけで対抗するのではなく。知略と融和を以て平和を目指す仲間がいるのです。孤高な戦いではありません。これで絶望する方が、愚かだと私は思います」
ハッキリとそう告げるお姫さん。
ま、俺たちのこの状況であきらめるっていうのは早すぎる。
最悪、敵対者は全部消し飛ばしてもいいからな。不慮の事故ってやつだ。
ああ、この場合の敵対者は人の軍も含みでな。
何かが起こって全員死亡ならお互い引くしかない。
いや、進軍した連中はすべて死亡で後腐れはないか?
ちがうな。それだけはやっちゃいけないか。
こういう連合軍が組まれるときは各国のトップあるいは次期国王とか身分の高い連中が参加することになるから、それをまとめてやっちまうと、今後の国家運営が困難になって、群雄割拠になりかねないな。
それはそれで面倒だ。
と、そんなことはいいか、今はまだお姫さんの言うようにあきらめる時じゃない。
「よし、その意気なら変に突撃とかはしそうにないな」
「はい。惑わされることはありません」
「その様子なら問題ないだろう。とはいえ、色々あるからな。単独行動はやめとけよ」
「それは心得ています」
「それならいい。さて、説教臭い話は終わりにして、結城君、リテアにたどり着いたみたいだが?」
さて、お姫さんが大丈夫とわかれば、次だ。
時間はあるようでない。
特に情報は今の俺たちには何よりも欲しい。
「あ、それがですね」
「全く動きがないんだよ」
「逆に不思議ですわね。いったいなぜ、リテア聖都はあんなにいつもの通りなのでしょう?」
「そうか。とりあえず、ドローンの映像を見せてもらっていいか?」
「あ、はい」
ということで、俺はタブレットを通して混乱の渦中にあるはずの聖都リテアの映像を確認するのであった。
どっちも犠牲にしたくない。
綺麗事上等。
それが目指せなくて何が勇者か!!
というのは、ヒーローものだけど、こっちの場合は事情があってそういう道を取るって話。
まあ、誰だって無駄死にを増やしたくはないからね。