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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま
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第179射:あれもだめ、これもだめ

あれもだめ、これもだめ



Side:ナデシコ・ヤマト



「……君、大和君、起きろ」


そう言われて、私が目を覚ますと、目の前には田中さんがいました。


「……ん? 帰ってこられたのですね。随分遅かった……というか、もう朝ですね」


そう言って、体を起こすと窓から漏れる日差しが目に入り今が朝なのだと自覚しました。

確か、田中さんが出て行ったのは、リリアーナ女王たちと話している間のクォレンギルド長の報告からですから、夜だったはずです。

つまり、徹夜というわけですか。


「ああ、事態が事態だからな。ちょっと長く話した」


そう返事を返す田中さんの表情には笑顔がありません。

ということは……。


「何かありましたか?」

「ああ、これからその話だ。眠いかとは思うが、一旦集合して話を聞いてくれ」


ある意味当然でしょう。

昨日クォレンギルド長が告げたことは、国家のリーダーが命を落としたという報告だったのですから、おそらく色々な話があったに違いありません。

もちろん私たちの今後も左右するような話もあったはずです。


「はい。わかりました」

「その前に、朝飯だ」


田中さんはそう言うとテーブルに近寄って、食料を大量に出します。


「やったー!! おにぎりだー! ノールタル姉さん。これオススメ」

「へえ。このおにぎりかい?」


その食料に光さんたちが集まります。

しかし、昨日のあの出来事以降、ノールタルさんにべったりですね光さんは。

いいことなのか、悪いことなのかはちょっと判断は尽きませんが、光さんの気持ちが楽になったのなら、私としてはいいことだと思います。

と、そこはいいとして、私も食事をとらないと。

これからの話はとても長いモノになるでしょうから……。

ということで、私もテーブルに出された食料を取りに行くと。


「お、撫子。おはよー」

「やあ、ナデシコ。おはよう」

「はい。おはようございます」


光さんとノールタルさんが元気に挨拶をしてきます。

それで気になったことがあるのですが……。


「そういえば、お2人は寝ていないんですか? 私と同じように休んでいる時間ですが……」

「いや、さっき起きたばかり」

「ああ、タナカに起こされたばかりだよ」

「そうだったんですか。てっきり光さんは起きるのが遅いから一番最後だと思っていましたわ」

「ぶー、なんだよそれー。僕ってそんなに起きない?」

「いや、起きないでしょう。田中さんがちょっとしたジョークを言うまで起きないですからね」

「うっ、それはそうだけど」

「まあ、ナデシコ。そこまでにしてやってくれ。私がタナカが帰ってきてから気が付いて起こしたんだよ」

「ああ、そういうことですか」


そんな風に話していると今度は晃さんとヨフィアさんがこちらにやってきました。


「おはよう。皆」

「おはようございまーす」

「おはよー。晃も普通にヨフィアさんと寝るのに抵抗が無くなってきたねー」

「どんどんヨフィアさんに押されていますわね」

「いやー。アキラさんが私を受け入れ始めたんですよねー」

「朝からキツイ話はやめてくれ。と、ご飯、ご飯」


晃さんは私たちの話を無視してご飯を取って直ぐに下がります。

まあ、ここで深く追求しても仕方ないですわね。

私たちも雑談はここまでにして朝ごはんを適当にとって、休んでいたベッドに戻ると、田中さんがテーブルが置いてある部屋の真ん中に立ち……。


「ま、全員朝ごはんを食いながら聞いてくれ。話はもちろん昨日の聖女死亡に関してだ」

「あれから、何か情報がきたの? それとも、死んだってのは間違いだったとか?」

「そこまで情報が更新されたわけじゃないな。地球でもないからメディア自体が無いしな」

「では、何を?」

「とりあえず、クォレンやアスタリ子爵に詳しい話を聞いてみた。お互いどの程度情報を集めているのかとかな」


なるほど、クォレンさんだけではなく、アスタリ子爵にも話を聞いたのですね。

ということは、ルーメルがどう動くのかを話を聞いたはずです。


「ルーメルは、何か行動を起こすんですか?」


晃さんも私と同じような事を考えたようで、田中さんに質問をします。

聖女死亡という大事件に対して、このルーメルは一体どのような行動を……。


「残念ながら、そう言う話はまだアスタリ子爵はしらなかった」

「へ? しらなかった?」

「ああ、今はまだ、アスタリの町まで聖女死亡の話は届いてない。まあ、冒険者ギルドは特殊な連絡方法でこのことを知ったらしい」


ああ、そう言えば確か冒険者ギルドにはそういう連絡手段があるという話を聞いたことがありますわね。


「ということは、今は国としては特に動くことはないってことですか?」

「今はまだな」

「今はまだ、ということは、今後動く可能性もあるということですね?」


私はつい、動かないこともあるという希望を乗せてそういう言葉を返してしまったのですが……。


「……まあ、そう思いたくなるよな。だが、それは甘い話だ。クォレン、アスタリ子爵と共に、これから各国は動くことになる。もちろん、魔族の討伐でだ」

「はい!? どういうこと、それって戦争じゃん!?」

「落ち着け、ルクセン君。聖女を殺されたんだ。リテアにとっては国家元首を殺された。それで何もしないでいるのは、国として駄目過ぎる。国民に不甲斐ないと思われれば国は瓦解するからな。国を守るためにも、国はこの事件に対して行動を起こさないといけないわけだ。というか、この可能性があるってことは大体分かっていただろう?」

「……そりゃ、分かっていたけど。やっぱりこうして宣言されるとね」


光さんがそう言ってシュンとなります。

確かに、こうして現実を突きつけられるのは辛いモノです。

と、そんな感じで落ち込んでいる光さんに、ノールタルさんがポンポンと頭を優しく置きます。


「ま、ショックなのはあるけど、これであきらめるわけじゃないだろう? ほら、これでデキラたち好戦派だけを潰す算段だって」

「あ、そうだ! ノールタル姉さんたちと話したんだけど、戦争になるなら、戦いたい奴らだけ出てくるでしょう? だからデキラたちだけ潰せばいいんじゃないかって。どう田中さん?」


そうです、確かに戦争を回避できなかったのは悔しい限りですが、あきらめるには早いです。

私たちは何としても被害を最小限に終える必要がある。

私たちの為にも、ノールタルさんたちの為にも。

で、私たちの意見を聞いた田中さんは……。


「悪くない作戦だ」

「でしょー!」

「よっしゃ、ならデキラたちだけを倒せばいいってわけですね!」


田中さんの反応に喜ぶ2人ですが、ここで終わらないのが、田中さんです。


「とはいえ、デキラたちを俺たちが倒すのは問題だ」

「え? なんで?」

「デキラたちがいなければ、魔族を守る軍隊がいなくなるわけだ。そのまま人の軍はラスト王国まで踏み込むぞ?」

「……確かにその通りですわ」


デキラは好戦派ではありますが、国を守るために動いています。

変態ですけど。

ということは、その軍を私たちが密かに排除しても、それで戦争が終わるわけではありません。


「リテアやロシュールは魔族が聖女を殺したという事実しか知らないからな。魔族のデキラが勝手に動いたなんて言っても意味がない。国民が他所の国の要人を殺したってことだけで基本的に大問題だ」

「うー、名案だと思ったのに……」

「そっか、デキラを倒すってことは魔族の軍を倒すってことになるのか」

「事情を知らない人たちからすれば、魔族はすべて敵でしょうから、降伏しても安全が保障されるとは……」


……今まで見てきた国の状況からすれば、降伏してもつらい生活になるだけ。

いえ、甘い考えは捨てましょう。おそらく魔族の皆さんは殺されることになります。

その私の考えを肯定するように田中さんは……。


「それは甘い考えだな。人類の敵とまで言われてきた相手だ。蹂躙されるだろうな。現代の戦いだって前線での無法はよくあるからな。こっちの連中が人類の敵にそんな行儀の良いことができるとも思えないな」

「「「……」」」


それだけは、絶対に避けなくてはいけません。

今更、魔族を見捨てるなどできるわけがありません。

ノールタルさんたちを差し出すなんてできません。

魔族の人たちは同じ人なんです。


「でも、どうしたらいいのかな」


光さんの言うように、このどうしようもないような事態に対する方法を何も思いつけません。

自分の無知が悔しいです。このまま戦争を黙ってみているしかないのでしょうか?

でも、もしかして田中さんならと、視線を向けると……。


「いつもの訓練なら考えろってところだが、今回は時間もないし、面倒なことになりかねないから俺が最初に作戦をいう。上手くいくかもよくわからんが、まずは聞いてくれ」


田中さんはいつもより厳しい表情で、私たちを練習だといって試す間もなく、作戦を言おうとします。

それだけ現状は厳しいのでしょう。


「まず、前提に俺たちというか、結城君たちが最前線に出る必要がある」

「え? でも……」

「落ち着けルクセン君。まずは聞いてくれっていっただろう? なぜ、結城君たちが出る必要があるかだが、そうすることによって、まず戦いに俺たちが参加できるという利点が生まれる。それが、ルーメル一国の軍か、大国の連合軍かはわからないが、そうすることによって、俺たちが真っ先に魔族と接触して、デキラを潰して魔王を倒したと宣言することができる可能性があるわけだ」


なるほど。そういう手がありますか。

そうすれば、デキラを排除出来て、リリアーナ女王たちを守れるかもしれません。


「おー。そっか、僕たちが軍に混ざってデキラを魔王に仕立て上げて倒せばいいわけだ。あれ? でも、魔族がそれで助けられるの?」

「そこは、俺たちのやり方しだいだな。まあ、魔族と共闘したといったら攻撃されそうだがな。まあ、そこは結城君たちが勇者として、魔族の連中を建前奴隷として引き取るっていうのもある」

「……奴隷というのはアレですが、建前で助かるのなら……」

「でも、家とか……」

「まあ、色々心配は出てくるが、まずは安全の確保ってところだな。とはいえ、勇者が率先して戦って魔王を倒さないと話にならない」

「「「……」」」


……もしもの話をしていましたが、それは、私たちが命を懸けてデキラが倒せたらの話です。

そんなことが出来るのでしょうか。


「さっきも言ったが、これは一つの案だ。だが、俺たちが動かなくても、デキラや各国は動いている。既にゴードルはデキラの中に潜り込むということになっている」

「え? ゴードルのおっちゃんが!? なんで!」

「このままだと、デキラのいいようにされるのは目に見えているからな。ゴードルがデキラの方に潜り込んで、軍の行動を把握するってことだ。いきなりリリアーナ女王を急襲されるのが怖いからな。それを察するためだ」


……私たちが動かなくても事態は動いている。

ゴードルさんもリリアーナ女王も。

きっと、私たちがいなくても、生きるために動くのでしょう。


「動かないならそれでいい。事態をじっと見守るのも選択だ。ノールタルたちには悪いがな」

「私たちは気にしなくていいさ。若者が自分たちの命を大事にして何が悪い。私たちをこうして助けてくれた。これだけでも十分さ」


そう言うと、セイールさんたちも頷く。

……故郷に戻れないのを覚悟している。

そんなのは……。


「そんなのはだめだね!! 僕は絶対反対だよ!! 約束したんだ! ノールタル姉さんに故郷を案内してもらうって!」


ええ。その通りです。

私たちがやることなんて一つだけです。


「みんなで、笑って戦争を終わらせるぞー!! デキラも国の思惑もぶっ飛ばす!!」

「「「おー!!」」」


光さんの掛け声にみんなで声を上げます。

そうです。今まで通りにやればいいだけです。

私たちはどんなに困難だろうと、私たちの道を貫きます。


「よし、それだけ気合があればいいだろう。俺もやりがいがあるってもんだ」


……そう言った田中さんを見て、少し早まったかなー。と思ったり……。




あれもだめ、これもだめといわれるなら、全部やればいいんだよ!!

勇者ってのは本来そういうモノだから!!


人の家に入ってタンスあさったりとかするのは許されているからね!!


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