第176射:詳しく話を
詳しく話を
Side:タダノリ・タナカ
「で、さっきの話、どこまで正確だ?」
俺はクォレンが待っている冒険者ギルドのギルド長室へやって来ていた。
無論、話はリテアとロシュールの聖女暗殺についてだ。
かなり面倒なことが起こった。
「死んだのは事実だ。殺された経緯については、まだ確定とは言えないが、ロシュールのエルジュ様はロシュールの大臣の謀反が可能性が高いな。魔族の絡みは分からん。リテアの聖女ルルア様に関しては、魔族と魔物の群れに襲われたって話が来ている」
「ロシュールの方はただの謀反か? わざわざ聖女を殺す理由がどこにある? 普通謀反を起こすなら国王だろう? 姫の1人を殺してもどうにもならん。というか、リテアの聖女が殺された場所はどこだ」
「……タナカ殿。なにか知っているのか?」
知っているとも、リテアの聖女が単独でロシュール方面に逃げていたのを知っているからな。
これで魔族の仕業と言われて納得はできん。
まあ、この情報は隠す理由もないので、素直に告げる。
「こっちは、聖女ルルアが単独でロシュールに向かっていたのを知っている。魔族に襲われた云々は嘘だな。あの聖女を襲っていたのは、リテアの騎士だったぞ」
「どこで……」
「言わなくても分かるだろう?」
「ああ、ドローンか」
「そうだ。グランドマスターの爺さんに聖女の警護を頼まれていてな。軽く監視をしていたら、単独で抜け出してロシュールに向かったのを知っている。その後に、聖女2人の死亡だ。関係ないと思う方がおかしいだろう?」
「確かにな。いや、タナカ殿のおかげで、確信が持てた。魔族に襲われたって話はどちらとも、国からの宣言だ」
「……全然信用ならんな」
大本営発表ほど信用ならないものはない。
しかも、お互い重要人物の死亡だ。
内部の人の犯行というのは、恥さらしもいいところだ。
そして、この世界はまだまだ文明は発展していないところを考えるとこういう弱みを見せると他国からの侵攻を受ける。
特にロシュールはガルツと戦争中だ。
この期に及んで内部の人に手を噛まれたなんぞ、今後の戦況が不利になる要素しかない。
リテアもそうだ。聖女を暗殺しましたなんてことが一般に広がれば、次の聖女の就任に不安視や疑問視する連中が山ほどでるだろう。今後のリテア運営に問題が出てくるはずだ。
あの聖女様もおっとりしているようで、敵は多いからな。しかもロシュールの聖女様とは師弟関係でもある。
無関係というのはアホだろう。
きっとまとめて始末されたって感じがするな。
で、怪しい感覚はクォレンもあったようで……。
「俺も同じだ。そもそも、リリアーナ女王にしても、好戦派のデキラにしてもこんな馬鹿な動きを見せる理由はないからな」
「だな。リリアーナ女王はもしかしてとは言っていたが、しっかり内部を固めてることに専念しているデキラが、こんな4大国を同時に敵に回すような真似をするか?」
「ああ、聖女を襲ったときたものだ。まあ、重要人物を殺すというのは戦争では大いにあるが、この場合は逆効果だからな」
「普通は各個撃破が当然だ。もしくはまとめて倒したいってことだろうが……」
「そんな、力があるのでしたら、既に攻め込まれています」
「だな。私もソアラの言う通りだと思う」
俺とクォレンの会話に入ってきたのはアスタリのギルド長と副ギルド長のソアラとイーリスだ。
こいつらも最初からこの部屋にいた。
まあ、本来はこいつらの部屋なんだが、クォレンの方が立場が上だからな。
と、ソアラたちがこの部屋にいる理由はどうでもいい。
「俺も同意見だ。そこまで予想が付かないバカなら、リリアーナ女王を追い詰めるまでになっていないだろう」
「ああ、あの聡明な女王が追い詰められるんだ。デキラもただの変態ではない」
「「「……」」」
先ほど、結城君たちに報告している最中からクォレンの発言が気になっているんだが。
「なあ、クォレン」
「どうした、タナカ殿? 何かわかったか?」
「いや、全然状況的には関係のない話なんだが、やたらとリリアーナ女王を褒めるが、惚れたのか?」
「はぁ? 一国の女王に対してそう言うのは失礼だろう。ただ、あの人は立派な女王だと思って尊敬しているだけだ」
「ああ、そういう……」
「てっきり、色香に血迷ったのかと」
「クォレンさんが、あそこまで手放しでほめるのも珍しいからな」
そうそう、イーリスの言うように、クォレンが相手をここまで褒めるというのもめずらしいから、邪推ではあるが、ソアラと同じように惚れた関連かと思ってしまった。
反応を見るに、ただ単に尊敬していて敬意を払っているようだ。
「すまん。変なことを聞いた」
「いや、構わない。確かにそんな感じをにおわせる行動だったな。流石に国が揺れるようなことはしないさ」
「だな。ま、この話はここまでで、本題に話を戻そう。俺たちが持ち合わせている状況的には、この事態を引き起こしたのは、魔族側というよりも……」
「こちら側が勝手にやったという感じだな」
「ですね。身内の恥をさらすよりも、魔族の責任だといった方がまとまりは良いですし」
「そうなると、ガルツとロシュールの戦争も怪しい物だがな」
「「「……」」」
イーリスの言葉に全員沈黙する。
そういえば、ロシュールでは大臣が魔族にそそのかされて暗躍したとか言ってたな。
「もともと、その戦争はどういう流れで始まった?」
「……これも確かではないが、俺が聞き及んでいる限り、聖女エルジュがガルツの村を救済に行った際に村に重税をかけている所を発見して、保護したのが始まりって言われているな」
「そんなこと前も言ってたな。で、ガルツ側としては不名誉な話だから認めるわけにはいかないか」
「で、そのエルジュの補佐としていたのが、今回暗躍していたとされるロワール大臣だ」
「……あからさまに、魔族が手を出してきたとかいうのは嘘だな。そうでもしないと争いが激化するからな。政治的措置ってやつか」
魔族を使えば国的には丸く収まるから魔族の名前を出した。
いや、こんな理由で戦争を起こしたことはチャラにはならないが、国民の怒りの矛先は魔族に向けられるわけだ。
政治的にはロシュールとガルツはどういう風に決着をつけるか見ものだな。
ロワールというのが暗躍したというのがわかっているなら、非はロシュールにあるわけか。
ま、それは当人たちの判断に任せるとして……。
「今考えれば、そういうことだろうな。しかし、聖女ルルアの方は何がどう関係している?」
「別にロワールが葬ったわけじゃないだろうな。グランドマスターから聞いていないか? 貴族連中と摩擦があったという話は」
「ああ、聞いている。聖女ルルアの方にはそっちが係わっているのか」
「おそらくな。というか、そっちが教えてくれたことだろう。聖女エルジュが原因で戦争が激化したと責任を取らされたってな」
「あったな。まさか、こんなあからさまに動くとは思わなかった」
「ま、状況的についでだったんだろうな。俺たちの方のドローンで聖女ルルアを確認した時は、単独でロシュールに向かっていたからな」
「単独でか!?」
「色々あったんだろうさ。しかも追手というか暗殺者付きだったな。おかげで追跡のドローンを潰してしまったわけだが、ちょっとした延命にしかならなかったな」
結局逃げたあとに殺されちゃ世話ない。
お陰で結城君がひどく落ち込んだからな。
まあ、そこはいい。問題は……。
「こうなると、リテア、ガルツ、ロシュールがどう動くかさっぱりわからなくなったな。俺たちは魔族と繋がりがあるから、この事実に気が付くが、魔族の仕業だと思えばそれで凝り固まる。魔族の討伐になるか? それとも国力回復が優先か?」
「そんなことは俺に聞かれてもわからん。わからんが、確実にガルツとロシュールの戦争は終わる。正式に魔族が絡んでいたといわれたからな。戦争の原因となった聖女エルジュは亡くなっていて、暗躍していた大臣は既に処刑されている。これで被害を受けたとガルツが攻めるとは思えない。各国は魔族の公表で魔族が動くかもという懸念がでてくるからな」
「まあ、表向きは魔族に対して動きを起こさないと国民から疑われるか。……大国の動きが知りたいな」
というか、絶対に動きを知ることは必要不可欠だ。
このまま、人対魔族なんて流れになれば、リリアーナ女王も戦わずにはいられない。
デキラ派が盛り返す要因になるし、俺たちは勇者と各国には挨拶にいっているし、戦争では真っ先に戦闘に立たされることになる。
能力をばらさなければいけないし、背中を気にして戦うとかやっかい極まりない。
「……ともかく、俺の方は冒険者ギルドを使って情報を集める。各国の動きを知らないとまずい」
「だな。俺の方は、リリアーナ女王の情報を聞くことか」
「そうだな。魔族の動きを知って各国の動きも知っておく。まだ動くには情報が足りない」
「……ったく、デキラが動かなくても人側が勝手に動いたか」
「まあ、こう言ってはなんだが、戦力は結集することになるから、人側が敗北というのはかなり低いだろう」
「それはどうかな? ここまでされると、リリアーナ女王もまともな手段はとっていられない。内部に入り込んでズタズタにしてくると思うぞ」
「……嫌なことを言うなよ」
「ばか、戦争なんだ綺麗ごとを言っていられるか。しかも対話ができるならまだいいが、魔族とは話をしないからな。文字通り話にならん」
ということで、俺たちの話は終わり各自行動をとることになるのだが……。
ギルド長の部屋を去り際に思い出したことを訊いてみる。
「そういえば、アスタリ子爵のほうはこの情報を掴んでいるのか?」
「いや、こちらからは聞いていない。俺が仕入れたのは、ギルドの情報網からだ。ドローンと同じとまでは言わないが、連絡道具が存在するんでな」
「おいおい。そんな便利な道具が存在しているのか。なら、国が知っていても……」
「まあ、おかしくはない。だが動きが無いのも事実だな。ま、アスタリ子爵に話を聞いてみるといいさ」
「そっちも俺か」
「私が聞くよりマシだな。冒険者ギルドとルーメルは和解したとはいえ、まだ色々あるからな。勇者殿たちの方が何かとやりやすいだろう」
「はぁ、わかった。そっちの方も俺で聞いてみる」
さて、ルーメルはこの聖女が殺害されたことに対して、一体どういう対応をするつもりなのかね。
あー、しかし、やることしか増えないな!!
どうもきな臭い感じです。
しかしながら、結局憶測にすぎない。
ということで、別ルートの情報を持っているところへと足を運ぶ田中。
真実は一体なんなのか?
そして、これからどうなるのか。