第174射:急報もたらされる
急報もたらされる
Side:タダノリ・タナカ
残念なことに、あれから約一週間の時が過ぎる。
既にアスタリの町の堀は完成しており、水を引いてため池にも利用できるんじゃないかという話まで出てきている。
まあ、堀の利用方法はアスタリ子爵の自由だし勝手にしてくれ。
水があればこちらとしてもありがたいしな。
で、魔族の方だが……。
『デキラに妙な動きはありません。これは安心していいことでしょう』
『んだ。あのバカはそこまで変なことはしてなかったみたいだ』
と報告するのはリリアーナ女王とゴードル。
デキラの動きは下着泥と日中の軍備増強交渉と訓練、書類仕事だけだ。
単純な奴とは思うが、下着泥以外は真面目な軍人だ。
その態度も相まって、やはり軍での評価は高いと言わざるを得ない。
趣味に関してはノーコメント。
女性陣はすでにゴキ〇リ、ドブネ〇ミ以下という判定を下しているのは言うまでもない。
まあ、パンツを頭にかぶってはしゃいでいる姿を見るとなー。俺も流石にどうかと思った。
「で、四天王はまだ見つからず、戻ってこないか……」
「ほんとどこにいるんだろうねー。森が途切れてリテアのほうまで出ちゃったし」
「でも、不可解な森村の壊滅がありました。何かの魔物の仕業かとは思いますが。あれにやはり何か関係あるのでは?」
「どうだろうなー」
俺たちの四天王捜索については、ほぼ成果を上げられないでいた。
まあ、見つからないこと。ルクセン君が言うようにいったいどこにいるんだか。
しかし、大和君の言うように、森の中にあった集落が破壊されているのを発見した。
あれに関係があるのかどうかは定かではないが、この件に関しては……。
『あの村の物を見るに、おそらく妖精族の村です。妖精族を襲うとは流石に……』
と、ザーギスやレーイアが襲うわけないと弁護。
妖精族というのは、まあそのまま小型の人に羽が生えているような種族で、希少らしく、その希少さに合わせて装飾品の価値が高く、エンチャントという魔術付与ができて、魔道具を生産できることから、その価値は計り知れないらしい。
かといって弱いわけでもなく、魔力が強いので、下手な魔族だと返り討ちに合うレベルらしい。
まあ、どう推測しようがその村には誰一人いないし、憶測しかないが……。
『まあ、なにか虫タイプの魔物だべ。木の倒れ方が噛み切ったようになっているべ』
ゴードルの鋭い洞察力で虫の魔物にでも襲われたのではないかという結論に行きついた。
これに四天王たちがどう関与しているかまではさっぱりわからないが、魔物に襲われてこの村は放棄されたようだ。
激しい戦いのあとが見て取れる。
村の半分が結城君たちが魔術を放ったような跡になっているからな。
妖精族か、会うようなら注意が必要だな。
話を聞く限り、便利な道具も作っているようだし、仲良くなることに越したことはないだろう。
「ともあれ、死体が見当たらないのが幸いだな。四天王も妖精族たちもどこかで生きているってことだ」
『そうですね』
『んだ。ま、もう一週間だべそろそろ帰ってくるだよ』
「だな。俺たちが全部の森を見て回ったわけでもないし。もう戻っているかもしれない」
というか、この可能性が一番高いだろう。
この妖精族の住処は結構変な位置にあり、ルクセン君が試しにぶらりとドローンを飛ばしてなかったら見つからない位置だからな。
こんな変なルートを通っているなら見つかるわけがない。
といつものように、近況報告をして終わろうとしていると……。
「タナカ殿!」
急にクォレンがドア開けて入ってきた。
『あら、ギルド長殿』
「失礼しました。会談中とは知らず」
既にクォレンとリリアーナ女王も顔を合わせており軽く話をしているのだが、まあこっちは全然進展がなかった。
だが、この様子だと……。
「いや、クォレンがここに慌てて入ってきたのが問題だ。何があった?」
「ああ、驚きの話だ。リテアの聖女ルルア、ロシュールの聖女エルジュが魔族の手にかかって死亡したと、連絡があった……」
「え!?」
「そんな……」
「あの聖女様が?」
不味い。
結城君たちが思った以上に動揺しているように見える。
というか……。
「まさか、ルルア様だけでなく、エルジュまで!?」
「姫様落ち着いてください!」
なんか知らんがお姫さんまで動揺している。
そういえばロシュールのその聖女エルジュとは知り合いだとか言っていたな。
まあ、知り合いが死ねばショックか?
と、そこはいい。まずは皆を落ち着けないといけない。
「落ち着け。詳しく話を聞く。いま騒いでも情報収集が遅れるだけだ」
「「「……」」」
俺がそう言うと、静かになるメンバー。
こういうところは躾けた甲斐があるというモノなのかね?
「で、詳しくは?」
「ああ、しかし、会談中では?」
『私のことはお気になさらず。その聖女殿の件は、私の今後のかじ取りにも、重大な影響が出そうです』
「なんだ、そっちも聖女のことは知っているのか?」
『当然です。ルルアというのは今代のリテアのトップで、もう一人のエルジュというのは隣国ロシュールの第三王女でリリーシュ様の加護をうけ聖女になったと聞いています。間違いはございませんか?』
「はっ、間違いありません」
ちゃんとリリアーナ女王も近隣諸国の情報は仕入れているってことか。
ということは、各国の動きは基本的に魔族の国ラストには筒抜けってことだな。
もちろん勇者のこともバレバレだろう。
アスタリの町のこともルーメルルートではなく、リテアやガルツ経由で届くことになるだろうな。
となると、やっぱりあまり時間はないな。
しかも、アスタリの町の防壁強化に加えて、各国の聖女が死亡ね。ここをチャンスと思わないこともないだろう。
だが、気になることがある。
「クォレン、その聖女たちを殺害したと思われる連中が魔族っていってたな。それに間違いはないか?」
「ああ、間違いない。状況的にもそうだとしか言えない。まず先に亡くなったのがロシュールの聖女エルジュ様だが、ロワールとかいう大臣が魔族と繋がっていたらしく、姉であるセラリア王女と聖女エルジュ様を陥れて殺害しようと、ダンジョンまで追い込んだらしいが、そこは戦乙女の名をもつセラリア王女だ。カリスマを発揮して、ロワールが引き連れてきたロシュール軍を説得し味方に付け、ロワールを追い詰めようと、していたのだが、用意周到なロワールはその軍に魔族と魔物の混成軍を送り込んできて、乱戦。その結果、聖女エルジュ様は落命。ロワールのほうは、魔族の暗躍に気が付いていたリテアの聖女ルルア様が説明に来ていて、ロシュール王が押さえたが……。その帰路でまたもや……」
「襲われて、命を落としたか」
「そうだ」
「「「……」」」
いろいろ分からんところはあるが、内通者がいて狙い撃ちされたような感じだな。
各国の顔というか、聖女と呼ばれていた人物が相次いで死亡ね……。
しかも、魔族が犯人だといわれている。
「で、事実はどうだ?」
『そんなことは決してしておりません!!』
『んだ。リリアーナ様がそんなことするわけないべ』
「ま、そりゃそうだな。融和、話し合いを求めているのに、そんなことをするわけもないな。だが、デキラはどうだ?」
『……まさか』
俺が言いたいことが分かったようで、目を見開くリリアーナ女王。
「まあ、単純な話だ。まず前提として魔族が動いたことが確実なら、リリアーナ女王でもないとなると、この状況下でこの動きを見せるのは……」
『デキラしかいないべな』
『確かに……。しかし、そのような出兵は……』
「デキラが軍の統括みたいなこともしているんだろう? 適当に巡回とでも書いておけばいいな」
上に報告させずに済む方法なんていくらでもあるからな。
『……』
「で、このことをデキラが知ったらどう動くかだな」
『そうだなぁ、今こそチャンスとか言うべな。きっと……』
「だろうな」
これと無いチャンスに見える。
各国は混乱状態だ。
ガルツはロシュールと戦争中。
そのロシュールは大臣に離反行為と聖女の喪失。
リテアはトップである聖女の死亡。
全く身動きが取れない状況になっている。
「これに加えて、俺たちアスタリの町の動きを知れば、確実に動くと思うな。防衛体勢を整えられてもたまらんし、各国が対魔族で一致団結しかねない状況に陥っているからな」
世情的には、かなり不味い状況だ。
魔族が人に、しかも偉い人物を手にかけたなんて話が各国に広まれば、国としてもメンツがあるし、昔からの敵対者として語り継がれているんだ。
恐らく、魔族に対して大規模な軍事行動が行われる。
そうなると、和平もクソもない状況になるな。
『……ともかく、こちらがその情報を知れたのはいいことです。デキラが仕掛けたとなるとなおさらです。このラストの国は天然の要塞でもあります。森には強力な魔物もいますし、軍だからと言って容易に進める物ではありません』
『デキラの奴を逆に糾弾するのにいい材料だべ。敵が攻めてくるようなことを何でしたってな』
『ええ。ゴードルの言うようにその線で話を進めましょう』
流石は一国の王、嘆くことより、どう対処を打つかをササッと考えたな。
確かに、ゴードルの言う通り、和平派にとってピンチな話ではあるが、これは逆にデキラたち好戦派たちにとっても諸刃の剣になる。どちらが先に難癖をつけるかってことにはなるがな。
こういうのは難癖を先につけたもの勝ちだ。
『最悪、四天王である、レーイア、ザーギスの帰還は待ちません。時間をかける状態ではなくなりましたから』
「それがいいだろうな。あとはデキラたちを押さえるための兵員を集める時間がいるな。下手な数で動くなよ。こっちも四天王を探してみる」
『わかっています。ゴードル、至急協力してくれそうな人物に声かけて、城に来なさい。私の方は議員の説得をします。そこを押さえれば、有利に進められるでしょう』
『わかっただ。もう夜だから、明日朝一番でうごくべ』
『タナカ殿は申し訳ありませんが、四天王のことよろしくお願いします』
「ああ、何とか見つけられるよう頑張ってみる」
ということで、リリアーナ女王たちとの連絡は終わったが……。
「……聖女様、死んじゃったんだ」
「あの人が、まさか……」
「田中さん……俺たち」
あ、不味い。
結城君がドローンで助けた時の事を言いそうだ。
それを言えば、ルクセン君や大和君、それどころかお姫さんも怒りそうだ。
それは不味い。
かなり不味い。仲間内で揉めている暇はない。
「落ち着け!! ショックなのはわかるが、嘆いても人は生き返らない。今できる事をしないと全部失くすぞ!! まずはドローンを増やす。森の捜索を徹底して、四天王の捜索をする。いいな?」
「「「は、はい!!」」」
とりあえずは俺の威嚇に近い説得で持ち直しはしたが、結城君は後で口止めをしておかないと。
あと、聖女死亡の話がルーメル王家をどう動かすのか……。
聖女倒れる!
世界は揺れ動く!
そろそろ、関連が増えてきてあっちを読んでいる人たちはわくわくしてきたのではないでしょうか?
田中たちはこの激動の時代をどう生き残るのか!!
戦争は避けられないのか!!




