第170射:秘密会談 これから
秘密会談 これから
Side:タダノリ・タナカ
ゴードルが帰ってきたので、とりあえず今までのことを話して、今の状況を把握させることになった。
まあ、ゴードルは見かけによらず頭はいいので、一回でこの話を理解した。
『なるほどなぁ。ノールタルさんたちのことをどう使うかだか』
『いえ、そこまで限定的に限ったことではありません。デキラを止めるにはどうしたらいいかです』
「ま、最悪強制逮捕の処刑も手だが、反発が怖いって話だ」
『うーん。その通りだな。無理な処刑は反発を生むべ。とはいえ、軍部の上層部のほとんどが好戦派ってのはなぁ。意外だべ」
やはりネックは仲間の少なさ、そして敵の多さだな。
デキラをつぶしても、それを煽りに使って戦争を仕掛けそうなんだよな。
まあ、内戦になってくれるなら状況的に万々歳なんだが、その作戦をとる話にはいかんよな。
と、俺と一緒にタブレットを見つめているルクセン君や大和君を見てそう思う。
そこはいいとして、ゴードルのことだ。
「なんだ、ゴードルも知らなかったか」
『んだ。基本的にはおれは畑の近くに住んでいるからな」
そうか、そっちの作業に従事していてそこら辺の様子を知らないわけだ。
「しかし、デキラはもともと軍から選ばれた四天王なんだろう? 軍部はついて不思議じゃないと思うが?」
『いやぁ。デキラも結構無理矢理に四天王にねじ込んだべよ。それで反発は大きかったべ』
「元から野心家ってことか」
『んだ。それで敵も多かったはずなんだべだが。まあ、ルーメルの侵攻を撃退して一致団結してしまったべかね』
「ありえるな。それで、戦争にでて勝てると確信した連中はデキラに着いたわけだ。まあ、軍人が戦わずに毎日砦の警備じゃくすぶっているだろうからな」
『軍人の本来の姿としては正しいのかもしれないべな』
「国家の意向を無視している時点で軍人じゃないけどな」
ただの反逆者だ。
まあ、それが国をひっくり返せば正当化されて軍事政権となるわけだが。
難しいところだよな。軍という国家の暴力装置とそれを制御する政府のやり取りは。
『とりあえず、この話は一旦おいておきましょう。デキラが率いる好戦派の大きさを確認しただけで十分です。これを私たちでどう抑えるかを考えないといけません。勇者殿たちは何かいい案はありませんか?』
「「「え?」」」
リリアーナ女王なりの気遣いで勇者である結城君たちに話を振ったつもりなんだろうが、学生だった結城君たちにこうしたシビアな状況での判断なんてできるもんかね?
まあ、そんな心配はしつつも口は出さずに、とりあえず意見を聞いてみるか。
意外と面白い案も出るかもしれない。
ああ、リリアーナ女王もそんなことを考えているのかもしれないな。
『どんなことでもいいです。まずは言ってみてください』
とりあえずリリアーナ女王は発言させようとしている感じだな。
何も思い浮かばない状況ではまず言ってみるのが大事だからな。
「えーと、じゃあ、ノールタルたちを連れて堂々とリリアーナさんたちと合流!」
速攻答えるのはルクセン君。
単刀直入でわかりやすいな。
『姉さんに来てもらうですか……。確かに、デキラたちを糾弾するにはいいですが……』
『問題は、砦をどう越えるかだべ。あとは、道中の魔物たちの相手だべな。下手するとバレて、そのまま戦争勃発だべな』
ノールタルたちを連れてラスト王国に向かうのは効果的だが、絶対に妨害が入ってくると俺は思う。
糾弾できたとして、そのまま戦いになる可能性は高い。
とはいえ、デキラに着くやつはかなり減るだろうから、内戦というよりもデキラ一派掃討戦って感じか。
よくよく考えればこれが一番いいのかもしれない。
無血で考えるからダメなんだよな。
「いや、俺たちが行っても少数戦力だ。これで戦争っていうか?」
「あー、そういえばそうだよね。僕たちは精々10人前後なんだし、それで戦争っておかしな話だよね」
『んー。そういわれるとそうだべだが、勇者が乗り込んでくるっていうのは人の代表みたいなもんだから、戦争になるじゃないか?』
『まあ、ゴードルの言う通りですが、大昔の勇者も別に単独で魔族の軍と戦ったわけではありません。諸国をまとめ上げて魔族の軍と戦いました。まあ、この土地に逃がしてくれたときは少数どころか、勇者様と従者のエルフの二人だったようですし』
リリアーナ女王が言うには、勇者といってもやはり一人で大軍を吹っ飛ばしたわけではなく、普通の戦争で勝ったという話だ。
後半に言った魔族を逃がした時のエピソードも含めると、俺たちがノールタルたちを連れて行くのは、別に問題ないように思えるな。
「え? 何そのはなし? 勇者が魔族をこの地に逃がしてくれたってのは聞いたけど、たった二人だったの?」
そんなことを考えている内に、勇者のことにルクセン君が食いつく。
『ええ。まあ、当時は魔族を倒すぞっていきおいでしたから、それを止めるのも一苦労だったようです。隙をついて私たちをこの土地へ案内してくれたと先代様より伺っています』
「うへー。人を敵に回したってこと?」
『……おそらくは。その後勇者様を討ち取ったという話は聞きませんから、どうにかして生き延びたとは思いますが』
「まてまて、話がずれている。大昔の勇者のことは確かに興味深いが、今は目の前のことだ」
間違いに気が付いて、魔族を逃がすために人類を敵に回した勇者は勇者ですごいとは思うが、今は俺たちのことだ。
『そうでした。ですが、先ほどのヒカリさんの提案は案外いいかもしれません』
「え? そう? 結構無理があるかなーとは思ってたけど」
「私もそう思いましたが、よくよく考えると一番いいのかもしれないと思いましたわ」
「俺も同じく。ノールタルさんたちも連れて帰れるし、敵対してくるやつらは悪いってわかるしな。それを倒せばいいと思う」
なんと驚きなことに、ルクセン君の意見にみんな同意した。
画面外にいるお姫さんやリカルドたちも考える素振りは見せたものの、最終的には頷いている。
妙手だったということだな。
話は聞いてみるもんだ。
まあ、問題はあるが。
「その方針がいいのはわかったが、まずは、俺たちが敵対する魔族に負けないというのが大前提になる。それはわかるな?」
「まーねー。人を見たら攻撃するような連中が砦には集まっているみたいだし」
「かといってこっそり行くのは意味がないですわね。堂々とノールタルさんを連れて帰ることでデキラにダメージが与えられます」
「そうなると、俺たちが魔族に負けないどころか、ノールタルさんたちを守らないといけなくなるよな」
「あー、私はともかく、セイールたちは厳しいだろうね」
そう、結城君の言うように、自分の身を守るだけでなく、護衛対象であるノールタルたちを守る必要性もあるわけだ。
『確かに、そうなると……。私が出向きましょう。そうすれば、私と姉さんは知り合いということで、戦いを止められるはずです』
『そうだべな。それがいいだ。名目上は視察ってことだべな。そこでデキラを捕らえるべ。逃げ出しそうだべがな』
『それなら、四天王全員と私で掛かればいいのです。抵抗すればそれこそ国家反逆罪でそのまま処刑できます』
『たしかになぁ』
と、リリアーナ女王たちはすでにデキラを叩き潰すことを考えているようだ。
まあ、こっちとしてもあの変態と相対するのは避けたいからな。
女性陣が私刑にするだろうから。そういう遊びをしていると手痛いしっぺ返しをもらう。
敵は殺せるときに殺すんだ。
こういうのは、邪念とはいわないが、私怨なんかの個人感情が入ると失敗する事が多い。
「まあ、話がまとまりつつあるのはいいが、セイールたちが今すぐ旅に出るってのはキツイと思うぞ。そっちも準備がいるだろう?」
「あ、そういえばそうだね。ノールタルはどう?」
「私は意外といけそうだけど、セイールたちはもうしばらく休息がいるね。リリアーナはどうだい?」
『私の方も、城を開けるには相応の手続きや仕事を多めにこなしておかないといけません』
『そもそも、馬鹿二人が戻ってこないと話にならないべ』
『そういえば、そうでした。しかし、レーイアに捜索を頼んだのは2日前ですし、また当分は戻ってきませんね……』
『ザーギスのやつは妙なところにいるからなぁ』
向こうも向こうで色々大変そうだな……。
「とりあえず、即座に動くのは不可能だ。いまは、動きを知られないように静かにしておこう」
『そうですね。あからさまに動いてはデキラに勘付かれるでしょう』
『んだ。今は準備をするだけだべな。おいらは今まで通りに畑でも耕しているだよ』
「あとは、定時報告ということで、毎日この部屋で報告をするとしよう。いいか?」
『ええ。それがいいでしょう。お互い動きがわかるのならそれに越したことはありませんから』
『んだ。あ、あと、美味い物くれだよ。タナカ』
「ああ、それぐらいお安い御用だ」
俺はそう言って、2人にメロンパンを送る。
『ありがとうございます。後でいただきますね』
『おらは今食うだ。リリアーナ様も食べてみるといいだよ。甘くてうめえだ』
「遠慮しなくていいぞ。これぐらいなら毎日やる。というか、定時連絡のご褒美ってことにするか」
『それなら。遠慮なくいただきますね』
そう言うと二人は目の前でパクパクとメロンパンを食べてしまう。
「よし、今日のところはこれで終わりだな。後は何かあればタブレットを使って連絡をくれ、誰かしら出るはずだ」
『わかりました』
『わかっただ』
ということで、通信は終わり、初めての勇者と魔王の会談?と呼べるものかはしらないが、話し合いは大成功という形で終わった。
「やったねー。これでリリアーナ女王と手を組めたし、何とかなるんじゃないかな?」
「ええ。そうですね。これで魔族の動きもよくわかるでしょうから。何かあっても対処できるでしょう」
「だな。なんか、上手くいってよかったよ」
「これで、戦争を回避できます……」
「やりましたね姫様」
「ええ。魔族の王がこちらに協力してくれたのです」
「そうですね。勇者と魔王が手を組んだのです。成らないことなどないでしょう」
「おー、これでアキラさんたちが戦わなくて済むんですねー。やりましたよー」
「これでセイールたちも帰れるよ。ありがとう」
「ノールタル、さんも、一緒」
「ああ、一緒に帰ろう」
そんな感じで、ルーメル勇者メンバーはすべてが終わったような雰囲気を漂わせている。
……この成果なら確かに、戦争は防げそうだ。
こちらが常に先手を打てる状態……のはずだ。
いや、そんな楽観はやめろ。
こういう時に崩れてくる。
「お前ら、まだ全て片付いたわけじゃない。安心してないで次の行動だ。ここで浮かれてすべてを台無しにするな」
「「「……」」」
俺の言葉で一気に静まり返る。
俺が悪いことを言ったようにも感じるが、間違っていない。
こういう時に、司令部をやられて壊滅する部隊なんてざらにいるからな。
「俺が空気読めないと思うならそれでいい。だが、間違ってもひっくり返されるわけにはいかん。だからドローンの偵察をしっかりするぞ。間違ってもリリアーナ女王やゴードルが襲われるところを見過ごしたなんてのが無いようにだ」
「「「はい」」」
俺がそう言うとしっかり返事をする結城君たち。
本当に俺が空気を読めないだけ、取り越し苦労だったらいいんだがな。
なにかぴりぴりする。
方針固まる。
力を結集して、デキラを追い落とす!!
これで、ひとまずは安心になるはず!!
完璧な作戦だ!!
そうだろう?