第169射:秘密会談開始 状況把握
秘密会談開始 状況把握
Side:アキラ・ユウキ
『んんー! やっぱり肩が凝りますね。書類仕事は本当に疲れます』
そう言って、リリアーナ女王は目の前で両肩をぐるぐる回すんだけど、俺からすれば……。
「絶対おっぱいのせいだと思うよ……」
と、俺の代わりに光が言ってくれた。
四天王のレーイア程じゃないといっても、十分大きい。
ヨフィアさんより上だ。
「というか、いつまで見ているんですか! 晃さん!! 田中さん!!」
「うえっ!? ご、ごめん!!」
「ん? 準備が整うまで待っているだけだが?」
俺だけ驚いて、田中さんはいたって冷静だ。
『ん? ああ、これは見苦しいところをお見せしました。すぐに着替えてしまいますね』
で、見られていたリリアーナ女王も特に気にすることなく、横にずれて服の着替えを始める。
「ああいう上に立つ連中は自分の裸を見られたぐらいで驚くかよ。まあ、変態的な視線で見られれば、隠すぐらいはするだろうが、ああいう女性で上に立つタイプはそういうのを含めて武器にする」
『えーと、タナカ殿の言う通りではありますが、一応男性の視線は恥ずかしいですよ? 人前で着替えるのが普通ではありませんので、そこは遠慮していただけるとありがたいです』
「そうか、今度から気を付けよう」
「すみませんでした」
田中さんに合わせて俺も謝る。
リリアーナ女王から指摘をもらえばそこはちゃんと直す。
険悪になりたくはない。
こっちとしても、一般人の思考を察する偉い人で助かるよ。
俺たちと常識のずれがなくて済む。
まあ、ノールタルさんの妹だから、経緯から考えて最下層の人種だった経験もあるんだよな。
いや、そういう最下層の人たちは常識から外れている気がするけど……。そこは考えないようにしよう。
『いえいえ、こちらも不用意でした。では、準備が整いましたので、お話をしてもよろしいでしょうか?』
「ああ、早速と、いいたいがまずはリリアーナ女王は夕食の方は?」
『いえ、本日は食べていませんね。勇者殿たちとの会話を優先させていただきました』
「そうですか。それだけ俺たちのことを優先してくれて感謝するが、まあ、腹は減っては戦はできぬってことで、これでも食べてくれ」
『はい? なにを……ってパンが空中に!?』
田中さんはそう言うとリリアーナ女王の前にパンを出現させる。
それは、ゴードルさんが気に入ってくれていたメロンパンだ。
今度は袋無し、床に落ちてしまうかと思っていたが、意外と俊敏な動きでリリアーナ女王がパンを見事にキャッチする。
「おー、ナイスキャッチ」
『え、えーと、さっきの話から察するに、これはタナカ殿が出したのですか?』
「ああ、そういう能力があるみたいだ。まあ勇者ほどではないが」
『いえ、十分すごい能力かと。物資を遠くに出現させるなど……。なるほど、この価値にルーメルは気が付いていないのですね?』
「いや、教えてすらいない。やる気満々すぎるからな。こんな能力を知ったら戦争突入だ。リリアーナ女王を信頼しているからこそ、教えた。ま、尤も、呼び出せるのは食べ物に限るがな」
え? そんなことはないはずだけど……。
だが、俺が疑問を口にする前に、ドサドサとリリアーナ女王の後ろに小麦粉の袋を落とす。
『すごいですね……』
後ろを向いて驚いているリリアーナ女王をよそに田中さんが俺たちを見て能力については黙っていろという旨の視線を向けてきた。
ああ、わざとそう言っているのか。
まあ、武器まで自由に出せるってのは警戒されるよな。
「ま、まずは挨拶がてら。というか、俺たちのことを信じてくれたお礼だ。こんな胡散臭い連中と会話の席を持ってくれて感謝する」
『いえ。このような心遣い感謝いたします。しかし、この能力を教えてくれたということは、期待していいのでしょうか?』
ん? どういうことだろう?
期待する?
俺が首を傾げていると、田中さんはすぐに答える。
「ああ、物資の援助は惜しまない。まあ、食料だけだが、これで食糧難は回避できると思うが、どこから手に入れたかと聞かれるとまずいんじゃないか?」
『いえ、この物資は人との交易で手に入れたと言えば、和平、融和派が盛り返す理由となります。命を失う事無く、物資が手に入るのですから』
ああ、そういうことか。
物資があるから、ゴードルさんが言っていた食糧難にはならないってことか。
そして、それはリリアーナ女王の支持回復にもつながると。
『とはいえ、デキラたちが暴走する理由にもなりそうですから、いざというときまでは黙っておくつもりです』
「それがいいだろうな。下手をすると、人を招き入れたのは女王だとか言われかねないからな」
はー、言われたら納得だけど、そういう解釈もあるんだ。
『しかし、これで、最悪国民が飢えることはなさそうです』
「あまり、この補給ルートばかりを頼るのは褒められたものじゃないというのは認識しておいてくれよ」
『それは重々承知しています。タナカ殿の状態一つで左右されるなど恐ろしいですから。しかし、この大量の小麦粉を運ぶと色々怪しまれそうですね。任意の場所に出すことは可能ですか?』
「ああ、それはできる。とりあえず、しまっておこう」
田中さんはそう言うと、リリアーナさんの部屋にあった小麦粉を消してしまう。
『では、あとで食糧庫の視察の時に入れておきましょう。誰かが置いてくれた贈り物ということで』
「そんなもので通るのか?」
『通さないと、デキラたちは食べられませんからね。反対する理由はないですね』
「なら、置手紙で付け加えるか、親愛なるリリアーナ女王へとか」
『いいですね。物資はデキラたちのモノではなく、私たちのモノということですね。デキラは支持してないという宣言になります』
物一つ渡すだけなのに、色々な意味があるんだなーと感心する。
見方一つ、行動を一つ付け加えるだけで、見え方がガラリと変わる。
そんな風に俺は思っていたんだけど、撫子は違ったらしく、二人の会話に口を挟む。
「お話のところすみませんが、そのお話は戦争の回避にはつながりそうなのでしょうか?」
「さあな。俺としてはあまり効果は高くない気がする。これはあくまでもリリアーナ女王の支援者たちが困らないようにって措置だからな。そしてついでに、デキラの支援者の数は減らそうって話だ」
『そうですね。直接的な戦争回避への道につながるのは難しいでしょう。ですが、食糧事情が悪くなれば、極端な行動になるモノも増えますから』
あれか、昔の戦国時代みたいな一揆とかが起こるとかそういう話か。
おなかが膨れてれば、そういうことは起こさないって授業で聞いたことがあるな。
今の暮らしを壊したくないって感情が働くんだっけ?
でも、暮らしが酷い人たちはこれ以上悪くなるまえにって動くんだよな。
「なるほどそういった意味では有効ということですね。しかし、現状はどうなのですか? ゴードルさんから少しは話を聞きましたが、リリアーナ女王からみて、戦争になりそうなのでしょうか?」
うわ、聞きにくいことを真正面から聞いたよ。
田中さんだって聞いてなかったのに。
「おー、直球だな。ま、それもいいか。献上品も渡し終えたところだし、現実的な話をするか」
『そうですね。ナデシコ殿の言う通りでしょう。で、現状の話ですが……』
そう、ここからが大事だ。
今の魔族の国ラストがどんな状況に陥っているのか、正確に把握しているのは、女王しかいないだろう。
『まずは、私たちの勢力数を言っておきます。私率いる融和、あるいは和平派のメンバーは魔族全体の半分よりやや少ないぐらいです。対してデキラのような人類を倒すといっている好戦派が半分よりやや少し多いという感じです』
「すまない。その数字は魔族にとってどのぐらいの意味を持つのかは、わからない。その半数というのはいいのか? それとも悪いのか?」
田中さんの言うように、半数の持つ意味が分からない。
日本で言うなら、まあ支持率は高いほうだとは思う。
総理が変わるときは大体支持率30%は切っている気がするしな。
『あ、すみません。つい当たり前のこととして説明してしまいますね。この半数というのは、歴代魔王にといっても私を含めて3代ほどなのですが、少ないほうとなります』
「半数は少ないのか」
『ええ。勝負になると、半数が敵となる意味になります。敵が半数以上ということは……』
「厳しいな。突出した能力の持ち主でもいれば別だが……」
『はい。今のところ、四天王の中で敵対意思を見せているのはデキラのみ。総合的な戦力では私たちのほうが有利でしょう』
「ゴードルに、レーイア、ザーギスだったか?」
そうか、リリアーナ女王には四天王が3人もいるんだ。
ゴードルさんは頼りになるし、デキラを逃がすことにはなるけど、どうにかできるっていっているし、戦力的には問題ない。
あれ? でも、さっきの話はなんだか不利みたいな話し方だったけど……。
『ええ。よくご存じで。とはいえ、実際はそこまで有利というわけでもないのです』
「というと?」
『デキラは、軍部からの四天王です。つまり……』
「そうか軍はデキラの一派になるわけか」
ちょっ、それってかなりまずくないか?
俺でもその状況のやばさがわかる。
軍隊が敵って……。
『はい。軍の過半数以上、しかも将官のほとんどはデキラ派です』
「軍部ほとんどが敵とか絶望的だな。こちらの対抗戦力は?」
『四天王と、城の兵士、あとは義勇兵といったところでしょうか』
「ちょっとまて、義勇兵ができるほど対立が顕著なのか?」
『ええ。最近デキラが掲げるルーメル侵攻に対しての協力要請として、税金とは別に取り立てをしているのです。本人は支援金を受け取っているだけと言っていますが、町の方ではデキラたち軍部の横暴に対して、怒りに集まる人たちがいるのです』
もう、戦争一歩手前って感じなんだけど……。
俺がそんなことを考えていると、光が何かに気が付いたのか声を上げている。
「あ、ちょっとまって。その支援金って……」
そう言って光はノールタルさんたちの方を向く。
……そうか、そういうことか。
「横暴どころか、人攫いをして、乱暴をして、さらにはその人の財貨まで根こそぎ奪っていますわね」
「サイテー」
「まったく、そんなことに私の財産が使われていると思うと腹が立って仕方がないね」
『すみません。姉さん』
はっと怒りをあらわにするノールタルさんにリリアーナさんが頭を下げる。
「別にリリアーナが悪いわけじゃないから、謝る必要はないよ。というか、ここまでやっているんだ。デキラに大義名分はないよ。さっさととっちめればいい」
『そうしたいのはやまやまですが、証拠がありませんし、強硬に処罰しても従うとは思えません』
「そうだな。そこまでやっておいて、犯罪を犯しましたから大人しく処罰されますとか言わないだろうな。迂闊に言えば内乱勃発だ」
『はい。それは避けたいのです』
この映像を見せるわけにもいかないから、強制的な処罰はできない。
処罰してしまえば、好戦派が暴れだすことになる、か……。
うーん。一体どうしたもんだろう?
と、考えていると不意に田中さんが持っているもう一つのタブレットに反応がある。
『今帰っただ。話はできるかー?』
あ、そうだった。ゴードルさんは今帰っていたんだ。
どうやら無事に家に到着したみたいだ。
「ああ、話はできるぞ。というか、いま一番の問題を考えているところだ。知恵を貸してくれ」
『そうですね。ゴードルの意見を聞かせてください』
「えーと、よくわからないだが、いきさつを聞かせてくれだぁ』
こうして、夜はさらに更けていくのだった。
デキラはただの変態ではなかった!
ちゃんと敵勢力として色々やっているんだ。
下種なのはかわりないけど。
あと、魔王のおっぱはいいおっぱ!!
「おっぱ」といえば「おっぱい」に引っかからないのだ!
雪だるま式の言い方と思ってください。
せーの……。
おっぱ!!




