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レベル1の今は一般人さん  作者: 雪だるま
168/516

第168射:解散と合流

解散と合流



Side:タダノリ・タナカ



『まさか、貴方たちのような人が勇者なんて。ルーメルは何を考えているんですか?』

「それは全く同意だな」


俺たちはリリアーナ女王がドアの向こうの兵士を説得して追い出したあと、こうして話の続きをしている。

内容は、結城君たちが勇者だということについて、あきれているという話だ。


「うぐっ……」


後方で、リリアーナ女王の言葉に応じで胸を押さえているお姫さんが面白いな。

だが、やめてやるつもりはない。話を円滑に進めるために必要な情報共有だからな。


『異世界の人を戦争に参加させる。デキラと何が違うのですか……』

『そうだべなー』

「うぐぐっ!?」

「姫様。どうか落ち着いてください。原因を作ったのは前王ですから!」

「うぐぐぐっ!?」


カチュアが慰めようとしているんだろうが、結局のところルーメルが悪いというのには変わりがないんだよな。

慰めのつもりが追い打ちになるっていうのはなかなかないよな。


「ま、そういうことで、俺たちは、というか結城君たちは戦うことに疑問を持っているわけだ。しかし、事態を調べて行けばいくほど、戦争に向かっていると分かった。だから……」

『こうして魔族の王である私とコンタクトを取ってみたというわけですね』

「そのとおり。情けない話だが、ルーメルの方は宰相がやる気満々でな。対話は不可能と踏んでいるんで、対話はこうしてこっそりとなってしまったわけだ」

『それは仕方ないでしょう。あなた方はこの世界に来たばかりですもの。対話にしても真正面から来たところで、ルーメル方面の砦に配備しているデキラの部下とぶつかることになっていたでしょうから、本末転倒になっていましたね』


まあ、どのみち戦争への道のりだったわけだ。

お互い敵と認識しているからな。


「しかし、こうして会話ができたのは今後のことに関して有益なことだと思える。リリアーナ女王はどう思う?」

『もちろん。私にとってもこれ以上ないぐらい有益なことです。これから戦争回避について協力してくれるのでしょう?』

「そのつもりだ。だが、先ほど言ったように俺たちはこの世界では新参者もいいところだ。理想を言ったところで、ついてくる人は少ない」

『それは私も同じですよ。いえ、私の場合は失敗して人が離れていきました』

『大丈夫だ。おらたちが付いている』

「そうだよ。リリアーナ。私は何があろうと、リリアーナの味方だよ」

『姉さん、ゴードル……。ありがとう』


とまあ、目の前で感動物語が演じられているわけだが、これでうまくいかなければ意味もないのもまた事実だ。

正直な話、軍部が勝手に行動をし始めるような事態だからな。収拾はかなりの手間だ。


「さて、味方が増えて何よりだが、これからどうしたいか話し合いたい」

『そうですね。味方が増えたとはいえ、厳しい状況に変わりはありませんから』


俺が水を差すようなことを言ったが、リリアーナ女王は顔をしかめることもなく、俺の話に頷く。

ちゃんと現実が見えているようで何よりだ。

ここまで国を傾かせているのだから、暗愚の可能性もあると思ったが、やはり原因はルーメルの侵攻による内部の不満が爆発したことか。

……まあ、その不満を抑えるのも為政者の務めと言えば務めではあるが、後でグダグダ言っても仕方がない。

こうして、味方がいるだけましだ。クーデターが起こって政権が奪われていないだけましだ。


「で、詳しい話だが、このタブレットをもう一台置いていく。それで、改めて夜話そう。先ほどの騒ぎで兵士の警戒も上がっているだろうからな」

『そうですね。ゴードルが長時間いることも珍しいですし、一度解散したほうがいいでしょう。しかし、このような道具がいくつもあるとは、勇者様たちの世界は素晴らしい技術があるのですね』

「ま、そういうところも、またあとでな」

『失礼しました。では、またあとで。ゴードル、よい報告でした。下がりなさい』

『んだ。失礼しますだ』


そう言って、ゴードルは部屋から出ていくのだが……。


『お疲れ様です。ゴードル様』

『んだ。まさか、虫が入っているとは思わなかっただよ』

『はは、道中で紛れ込んだのでしょう。しかし、陛下もあのように声上げられることがあるとは思いませんでした』

『リリアーナ様も可愛らしい女性ってことだべよ。陛下を守ってやってくれだ』

『はっ。ゴードル様やレーイア様に代わって私たちが必ずやお守りいたします!』


そんなやり取りを、扉の前に控えている兵士として立ち去る。

なんというか、こういう部下への配慮も忘れないのは立派なリーダーの素質はあるな。

ゴードルは俺の部下に欲しいというか、指揮官としてほしいな。

俺は元々一兵士として戦うのが性にあっているんだよな。

と、そんなことを考えているうちにゴードルは城の外へと出ていく。

外は既に日が暮れて真っ暗になっている。


「ねぇ、ゴードル。これから森の家に帰るの?」

『んだ。まあ、一般人はこの時間になると門が閉められて出入りできないだが、おいらはなにせ四天王だべだからな。というか、魔物が来たら家がぶっ壊されることもあるべよ。だからなるべく家に戻ることにしているだ』

「えーと、それでは逆に家が無くなっている可能性もあるわけでして、そのほうがあの森で野宿することになって危険な気がするのですが?」

『ま、そいうこともあるだな。でも、それよりもデキラのやつが気にするのが嫌だべ』

「え、どういうことだ?」


結城君は首を傾げているが、リカルドやヨフィアは納得した様に頷いている。

俺も理解できた、さっきのデキラのことを気にしたってことか。


「つまり、ゴードルはあのまま町にいるとデキラが何か行動を起こすと思っているのか?」

『んだ。ま、おらが不要にからかったのがいけなかっただ。多分口封じか、説得に来るべよ。そうなると、夜の会話ができないべ』

「なるほどな。というか、原因を作ったのはゴードルだろう?」

『そだな。とはいえ、無視しておくとリリアーナ様が困ることになるからな、おらに集中させただよ。おらにきたなら遠慮なくつぶせるからな』

「よく考えているな。というが、ゴードルはデキラに勝てると思っているのか?」

『一対一なら何とかなると思うべ。まあ、とどめを刺す前に逃げるとはおもうだべが。それでも痛手はおわせられるから、時間稼ぎにはなると思うべ』

「いや、それはだめだろう」


俺としてはゴードルをそんな小競り合いで失うことは避けたい。

そんなことを起こせば更迭間違いなしだ。


『ま、そんなアホなことはしないと思うべ。アレはアレで頭がいいだからな。そもそも、仲間を減らしたいわけでもないべ。デキラも。難しいだな』

「「「……」」」


その言葉に全員が黙ってしまう。

どいつもこいつも、平和を願って争っているか。

そこだけは、利権を争って戦う地球よりはましなのかもしれないな。

まあ、世界恐慌とか国を守るためっていうのがあったんだが……。

そこは言わないお約束か。


「なんとか、止める方法があればいいんだが」

『そういう案がでるのを願っているだよ。このままじゃ、お互いの派閥を倒すだけじゃすまないべ。魔族は身内で殺し合って終わりだべよ』

「そこまでなるか?」


思った以上にゴードルが予測している未来は厳しい。

俺としてはどっちかが主導権を握って、再び再建ぐらいと思っていたが……。


『食料がその時は絶望的に追っつかないべよ。まさか、そうなった時に農地だけには手を出さない。なんてバカな奴はいないべよ』

「……確かにな。食料は大事な軍事物資、相手には渡せないか」


食料の取り合い、或いは敵の食料というか継続戦闘能力を奪おうとするのは当然か。

お互いにそんなことしていれば、一般人は飢餓に苦しむことなる。

どこぞの内戦と同じだな。

と、そんな話していると、あることを思い出す。


「ああ、そういえばヨフィア、ドローンの方はどうだ?」

「え? 特に何も問題はないですけど?」

「そっちじゃない。ゴードルの家に待機させている方だ。何かいるなら先回りで見られるだろう?」

「ああ、ちょっと待ってくださいね」


そう言って、ヨフィアはモニターを切り替えて確認を始める。

しかしながら、ヨフィアは普通に使いこなしているな。

人は慣れる生き物ってことかね?

ま、こっちとしては楽になるからありがたい。


「えーと、ゴードルさんの家は無事ですねー。特に誰かの影も見当たりません」

「だ、そうだ。家は無事みたいだぞ。敵影もなし」

『ありがたい話だ。便利だな、ドローンっていう魔術は』

「しかし、ドローンのことはリリアーナ女王に伝えなかったな」

『今伝えても、警戒すると思っただよ』

「それはそうだな。ま、あとは家に戻って話すだけだが、俺たちが先に話を始めても大丈夫か?」

『んー。デキラがどう動いているかが気になるだが……。ドローンでみるかぎりどうだべ? リリアーナ様の執務室は窓があるから確認できるとおもうだが?』

「わかった確認してみる」


俺はすぐにドローンを操作して、女王の執務室を覗き見てみる。

幸い、女王の執務室は日当たりのいい大窓が取り付けられた場所なので中をうかがうのには苦労はない。

で、目標のリリアーナ女王はというと……。


『……』


ただ黙々と書類を片付けている。

一国の主だからな、そりゃ書類仕事が多いだろう。

なんというか、机に向かって書類整理をしているさまは、俺が日本で働いていた時代を思い出す。

デスクワークだったかならなぁ……。

あれはあれで、傭兵稼業よりもつらいんだよな。

と、そこはいいとして、今は一人のようだな。


「今は一人で、書類、仕事を片付けているように見える」

『なら、あとがいいだよ。仕事している最中に話しかけても邪魔になるだけだべ』

「確かにな」

『ま、そのまま見守って席を立った時にでも連絡してみるといいだべよ』

「わかった。ゴードルも気を付けて帰れよ。一応上空から偵察はしているが、けっこう距離がある、見落としている可能性もある」

『わかっただ。とはいえ、帰り道が寂しくないのはありがたいだな』

「雑談で良ければ付き合うぞ」

「うん。僕も付き合うよー」

「ええ。私も付き合いますわ」

「俺で良ければいつでも」

『みんなありがとうだ』


そんな感じで、軽い雑談をしつつ森の中を進んでいると……。


「女王が席を立ったな。背伸びをしている」

『んー……。今日はここまでですね』


タブレットはオンにしているので、声も聞こえてくる。


『さて、私室に戻りましょう』


そう言って、リリアーナ女王は執務室を出ていく。

おそらく持っているのだろう。声や物音が近くで聞こえてくる。

しかし、意外とタブレットのことを咎められることはなかったな。

まあ、タブレット専用のカバーを付けていれば、書類入れにも見えないことはないし、ただの私物にしか見えないか。

魔王の持ち物を問いただすやつなんざそうそういないだろうからな。


「どうやら私室に戻るみたいだ」

『なら、そこで話すといいだ。流石に魔王の私室は広いから、話声が響くこともねえだよ』

「わかった。そこで本番ってことだな。俺が先に話しているから、ゴードルは戻ったら連絡してくれ。一緒に話そう」

『わかっただ』


さて、俺は一足先にリリアーナという女王の考えを聞くとしようか。




焦ることはせず、ちゃんと場所を選んで話をしましょう。

警戒させないためには、毎日と変わらない行動が大事だね。

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