第164射:優しき四天王
優しき四天王
Side:タダノリ・タナカ
『まっだく、面倒なもんだ。サラダになるかと葉をもってきたのがいけなかっただか?』
そう言って、ドローンの視界に映っているのは四天王のゴードル。
そして、その足元には、倒れ伏した木の魔物。
「「「……」」」
その映像を見ている結城君たちは唖然としている。
まあ、戦い方は衝撃的だったからな。
いきなり手の上に岩が現れたかと思ったら、それを投げつける。
それを繰り返して、木の魔物をそのままノックダウンして、倒れて動けなくなっている所を、持ち上げて鯖折りでフィニッシュ。
どこの全日本〇ロレスだと思ったわ。
魔物はヒール役かと。
それだけ、安定感のある戦いだった。
いや、危険な様子はなかったから、相手はヒール役には不足だったか。
と、そんなことより問題は……。
「魔術で岩を作り出して、それを投げている、か。便利なことだな。あの筋力と合わさって、見事な質量兵器だ」
「うん。あの剛速球受けたら死ぬよね~」
「確実に死にますわね。魔力障壁が必ずいります」
「戦いたくないよな。組み付かれたら押し返せる気がしない。そのままあの魔物と同じ結末を迎える気がする」
感想はそれぞれだが、脅威として認識しているのは何より。
しかし……。
「さ、感想は終わりにして、セイールにタブレットを渡す用意はできたか? 今から話しかけてみるぞ。またとない機会だからな」
「あ、わかったよ。セイールこっちこっち」
そう言ってルクセン君が動き出したのを確認して、ドローンをゴードルの前へと移動させる。
『ん? なんだぁ? この変な虫は?』
虫か。
本当に虫と思っているのか、適当に言っているのかは知らないが、このサイズの虫がいるのなら本当に魔境だなこの森は。
『んんー? 何か妙な光るモノをもっているだな』
ゴードルはタブレットが目についたのか近づいてくる。
俺は横目でセイールの方を見ると、準備が整っているようで、ルクセン君が親指を立てて頷いている。
よし、作戦開始だ。
俺が頷くと、セイールも頷いて……。
「あ、あの、ゴードルさん。聞こえますか?」
『!?』
ゴードルは声が聞こえたのか、驚いた様子で固まって辺りを見回している。
「こっちです。正面にいる変な虫が持っている光の板です」
『んお? ど、どういうことだ? 声が聞こえるだよ……』
恐る恐る。ゴードルはドローンに近づいてきて、タブレットをのぞき込むと……。
『おおっ!? セイールでねえか!? ど、どうしただ!? こんな板に入って!? い、今すぐ出してやるからな!!』
やべっ、そう来たか!?
タブレットの中に人が入っているって発想になるかよ!?
いや、当然か。昔の人はテレビの中に人が入っていると思うことは多かったらしいからな。
しかしながら、ゴードルに掴まれれば即座にぶっ壊れるのは予想できる。
なんとか回避をと思うが、動作が遅いドローンの上に、魔族の中から選ばれた四天王相手に逃げられるはずもなく、あえなく捕まってしまう。
だが意外と、冷静なようで……。
『セイール。これはどうすれば、いいんだ? どうすれば出られるだ?』
「あ、えーと、これは鏡みたいなもので、わ、たしは、中にはいないです」
『そうなのか……。ということは、誰かにつかまっただな。おじさんが心配しているだ。どこにいるだ?』
「お、ちついて、ください。ゴードルさん。まずは、わた、しの話を聞いてもらえますか?」
おお、意外とセイールが冷静だ。
ここで、アスタリの町にいますとか言ったら、勘違いしそうだが、それを無難に避けたな。
『……わかっただ。話を聞くだ』
しかし、なんで訛って聞こえるんだ?
勝手に翻訳してくれるのはわかるが、なんで人それぞれで聞こえ方に違いがでるんだ?
ま、そこはいいとして、セイールが今までのいきさつを、噛みつつもゆっくり教えていく。
ゴードルがデキラの行動と聞いて飛び出そうとしたのもしっかり抑えた。
このセイール意外と、元はしっかりしている女性なのかもな。
「……という、こと、なん、です。手伝ってくれ、ませんか?」
『……』
説明できることは説明して、あとはゴードルの返事を待つばかりだ。
『……話はわかっただ。あのデキラがろくでもないことをしているってな。それで今いるのは人の町で、人に助けられた。それで協力してほしいってことだべな?』
「はい。そうです。みん、な良い人たちです」
『セイールがそう言うならそうなんだろうな。その人たちに合わせてもらえるべか?』
そう聞かれたセイールは咄嗟に俺たちの様子を伺う。
俺としては願ってもない状況なので頷く。
「あって、もいい、って。かわる、ね」
そう言って、セイールは俺にタブレットを渡して来て、後ろに大和君たちが覗き込むような形で立つ。
そして、俺の持ったタブレットの画面には厳ついというより、おっとりした顔の男がいた。
『あんたが、セイールを助けてくれたんだか?』
「いや、俺じゃない。治療したのは……」
「ナデシコ・ヤマトと申します。ナデシコとおよびください」
「ヒカリ・アールス・ルクセンだよ。ヒカリでいいよ」
「えーと、初めましてゴードルさん。俺はアキラ・ユウキって言います。アキラで構いません」
そう大和君たちが丁寧にあいさつをすると、ゴードルの方も頭を下げて。
『これはご丁寧にどうもだ。しかし、便利な魔法の鏡だべな。と、失礼しただ。そちらの男性はなんて名前だべ?』
「おっと、失礼しました。私は田中と申します。これからよろしくお願いいたします」
普通に挨拶をする。
別に裏のある挨拶にはみえなかったからな。
日本の社員時代のように普通に挨拶をしたのだが……。
『どうも。おらもゴードルと呼んでくれだ』
「「「……」」」
ゴードルの返事はともかく、俺がまともな挨拶をしたことに驚いたのか、全員がこちらを見ている。
「なんか意見でもあるか?」
ブンブン!!
俺が一応聞いてみるが勢いよく首を振って否定するメンバー。
ま、今までの言動からかけ離れているのは理解しているが、これぐらいはできる。
『どうしたべ?』
「いや、気にしないでくれ。問題は、デキラのことだ。こうしてセイールたちは保護しているが、このままじゃ届けることもできそうにない」
そう、問題はこれからどう動くかだ。
幸い、四天王のゴードルは話が出来そうなやつなので何とか味方に引き入れるのが大事だな。
それが出来れば、今後の行動が大きく変わってくる。
俺たちの有利な方向に。
『そうだべな。今、ルーメル側のルートは警備が厳重になっているべ。10年ほど前にルーメルであった侵攻で未だに警戒しているべよ』
やっぱりそこがネックになるか。
安易に攻めたのが今回の問題の大本だよな。
「ゴードルが俺たちの案内を務めるというのは?」
『んんー。おらが四天王としても、人を迎え入れるとデキラの一派がどう動くかわからないべ。いや、あのデキラのことだ。タナカたちがセイールたちにひどいことをしたとかいうにきまっているべな』
「よくデキラのことを知っているな。意外と付き合いがあるのか?」
『まあ、四天王の仲間だからなー。でも、あいつは好戦派で、リリアーナ様に反発してばっかだ。それで色々誘いはうけているが、拒否してるべよ』
「へえ。誘いっていうのは?」
『リリアーナ様に逆らって魔王の座を取るとかアホなはなしだべ』
「「「……」」」
あっけからんとゴードルは言ってのけたが、かなりまずい話だ。
「ゴードル。その話をリリアーナ女王は知っているのか?」
『無論、知っているべ。とはいえ、ルーメルが攻めてきて、それを防いだのはデキラたちだからな。リリアーナ様の無茶は通しにくいんだ。次期の魔王はかなりキツイだべな』
「知っていて手を打っていないのか?」
『もちろん。頑張っているべ。でも、デキラのやったことみたいに戦果として、わかりやすいものじゃないだべよ。食料をもっと増やすとか、町をもっと住みやすくするとか。人と手を取り合うとか……』
最後にはゴードルの声が小さくなっていく。
致命的だな。
融和政策が失敗したってことだからな。
日本でいえば総理大臣の公約違反だ。
支持率急落ってところだな。
で、この現地の生の声を聴いて、お姫さんはどんどん下を向いていく。
まあ、しゃーないわな。和平派をしたいっていうのに、追い詰めているのが自分たちなんだからな。
「国民感情的にはどうなんだ?」
『……正直あまりよくないべ。デキラがルーメル軍を撃退してから、人の土地を奪った方がいいんじゃないかって声も大きいだ。とはいえ、今まで頑張ってきたリリアーナ様をっていう声もあるんだべが……』
「結果が出ない以上、結果が出やすい方に流れて行っているか」
『……んだ』
判りやすいというか、当たり前の国民感情の動きだな。
簡単に明確な方に動く。
戦争とか最たる例だ。
しかし、この会話でわかったことがある。
「ゴードル。貴方は、戦争に反対だ? 違うかな?」
『そうだ。戦いなんて意味がないだ。何のために今まで田畑を作ってきたと思っているべ。今の国を、みんながなんとか食べていける国を作ったのはリリアーナ様だ。おらを四天王にしてくれたあの人を裏切る気はないべよ』
静かだがしっかりとそういう。
これではっきりした。
ゴードルは俺たちと手を組める。
これで演技なら、大した役者だ。
その時は手放しで褒めてやれる。
ということで、俺はある言葉を口にする。
「ゴードル。俺たちと組まないか?」
『タナカたちとだべか?』
「ああ、俺たち人側も戦争を望んではいない。セイールたちも故郷に返してやりたい。それを叶えるために、俺たちと協力してくれないか?」
このゴードルは人柄立場全てにおいて、今の俺たちにとっては理想的な協力者になりうる。
さて、答えだが……。
『……すぐに答えは出せないべ。おらはリリアーナ様の部下だがらな。リリアーナ様に話を聞いてみないと』
本当に真面目な奴だ。
これは忠臣ってやつかね。
しかし、これはかえって好都合だな。
「確かにな。一応相談するのが正しいな」
「「「えっ!?」」」
俺の言葉に驚く周りのメンバー。
相談なんてすれば、ドローンのことがバレるのではという心配があるのだろうが……。
「その際は、このドローンも持っていてくれないか。その方が説得力があるだろう?」
『ああ、そうだべな。珍しい魔物でも見つけたといって持っていくべよ。そして、タナカが直接リリアーナ様と話し合うといい。おらが話しても決められないべ』
「ゴードルは兵士の鏡だな」
素直にそう思う。
愚直な兵士だ。
だからこそ忠誠心も高いし、侮れない。
そして、人を裏切るようなことはないだろう。
『おらを褒めてもしかたないべ。恩人の危機に何もできないでいるんだ』
「いや、これからだ。これから、恩人の危機を救えばいい。俺たちも協力する。まあ、恩人が俺たちと協力してくれるかどうかにかかってくるが」
『そこはタナカが頑張ってくれだ』
「お互いにな」
「『あははは……』」
という感じで、その日の夜は更けていくのだった。
どんな所でも話ができる人はいる。
このゴードルは良き仲間となってくれるだろう。
というか、意外と理解力が高い。
脳筋ではなかったね。




