第162射:ほかに協力者を
ほかに協力者を
Side:タダノリ・タナカ
「意外と情報が集まったな。驚きだ」
俺たちが、アスタリ子爵との防衛構想の話し合いから戻ってきてみたら、大和君たちが思った以上の情報を集めていてくれた。
「四天王の全員の名前、あの痴女がレーイア、大男のゴードル、不明な研究者のザーギス、そして……」
俺は印刷されたパンツを回収して喜ぶ変態の写真を持って、テーブルの上に投げて……。
「四天王で好戦派筆頭のデキラか」
変態ってのは意外な人物がというのは聞くが、まあ、こういう性癖があっても不思議じゃないか。
ストレス緩和の為なんだろう。
戦場じゃ、人の血を見て、いたぶって、ストレス解消とかザラにいるからな。
とはいえ、そういうのが理解できない人物たちもいる。
「……最低ですわね」
「はい。このデキラという男の首は必ず取らなくてはいけません」
特に拒絶反応がひどいのは、お姫さんとその付き人のカチュアだ。
そりゃ、お城育ちで変態とかは見慣れないよな。
いや、逆にお城という特殊な環境だからこそ、妙な変態がいるのかもしれないな。
あのデキラみたいに、パンツを盗って喜ぶ変態がいるんだからな。
とはいえ、それを口に出すと、火に油を注ぐようなものだから黙っておく。
だが、こういう時は別のやつが火に油を注ぐもので……。
「そこは先輩と同意見ですね。デキラって変態はちゃんと殺さないとアキラさんが変な趣味に目覚めそうです」
ギンッ!!
「ちょっ!?」
そうヨフィアが冗談を言うもんだから、女性陣全員の視線が結城君に集まる。
その視線を受けた結城君は慌てて立ち上がり後ずさる。
殺されそうな視線だからな、あれは仕方がない。
しかし、ヨフィアのやつは空気が読めていないのか、それともわざとか?
「まあまあ、皆さん。アキラさんに下着じゃなくて、ちゃんと中身の方がいいと教えますから大丈夫ですよ」
なるほど。わざとか。
となると、俺はハリセンを取り出して、頭をしばく。
パシーン!!
「いったー!?」
「何度も言うが、結城君で遊ぶんじゃない。お前みたいな女に結城君を任せていいのかわからなくなってきたぞ」
「えー!? 私ほどいい女はいませんよ? ねえ、アキラさん? 捨てないですよね?」
「えーっと、そりゃヨフィアさんは好きですけど……」
「だから答えを求めるなって言ってる。さて、雑談はここまでにして、話の続きをしてもいいか?」
俺がハリセンを構えながらみんなに聞くと……。
「「「……」」」
全員沈黙で答える。
俺が本気なのはわかったようだな。
このままグダグダ言うやつがいたら、顔面ハリセンの刑にするつもりだったからな。
「さて、沈黙は肯定と受け取るぞ。とりあえず、四天王の詳細が分かったのはかなりありがたい出来事だ。ついでにゴードルとかいうやつの戦闘映像が取れたのはかなりの戦果だ」
「あっはっは、そうでしょうそうでしょう」
ちっ、この映像を取っていたのはヨフィアだったか。
調子に乗る言葉を言ってしまった……。
まあ、ここは無視して話を進めるしかないか。
「大和君たちの報告は一旦終わるとして、今度はこっちの報告だな。アスタリ子爵が講じているアスタリの町の防衛構想だが……」
ということで、俺は、アスタリ子爵の防衛構想を大和君たちに説明する。
まあ、難しいことじゃない。
当初の予想通り、防壁を盾に、籠城戦をして耐えつつ増援を待つという戦法だ。
そのための物資は一応色々集めてはいるので、それなり有効な戦法ではあるけどな。
「ふーん。まあ、戦争するんだしそうだよね。魔族の人は強いんだし」
「そこはルクセン君の意見に同意だな。四天王のゴードルみたいなのがいるとなると、下手な攻撃は通用しないからな。防壁越しに攻撃したほうが安全そうだ」
なにせ木の幹を握って折るぐらいだからな。
バカ力を超えている。
こんなのと真正面から戦うのはアホだな。
まあ、銃撃で何とかできそうだが。
俺がそんな風に出るときが来ないことを祈りたい。
その時は背中にも気にしないといけないからな。
と、そんなことを考えていると、大和君が口を開く。
「田中さん。それで何か私たちが手伝うことなどはあったのですか? 当初の予定では私たちがここで戦う際に有利になるように動けるために協力すると言っていたはずですが?」
おお、流石真面目な大和君だ。
本当にこの子は指揮官というか、隊長としての才能があるよな。
「ああ、その話もしてきた。俺たちは堀の工事に付き合うことになった」
「ほり?」
案の定というか、ルクセン君は首を傾げる。
まあ、現代戦において、堀はあまり意味のないものだからな。
見るとすれば、お城とかを見ない限りはないだろうな。
「光さん。お城とかの周りが掘ってあることを堀というんですわよ」
「ああ、あれね。なるほど、あれなら壁にたどり着くまで大変そうだね」
「話は分かりましたが、その場合、露骨なアスタリの防衛工事となるはずです。それで魔族を刺激しないのでしょうか?」
「そこは結城君とも話したが、結局、魔族の情報網は遮断しているからな。それに好戦派をこっちに誘引するいい手段もあるから、俺としてはちょうどいい機会だと思っている」
「はい? ゆういん? どういうこと?」
「光さん。既にアスタリの町の魔族の拠点は潰していますから、こちらで何かをやっているというのはばれます。ですから、こっそりやるより、一気にやって相手をおびき寄せた方が、和平派と話しやすくなるのではということです」
「おー。納得」
「ですわよね、田中さん?」
「そうだ。本当に話が早くて助かる。まあ、戦争を誘発する手ではあるが、安全に和平派と話し合いができる機会でもある。で、この手伝いしてくれるか?」
問題はここからだ。
大和君やルクセン君が戦争をわざと引き起こすようなことを容認してくれるかどうか。
無理にやって邪魔されるのは勘弁願いたいからな。
「それって、アスタリの町で戦争が起こるってことだよね? でも、結局変わらないって話じゃなかったっけ?」
「やってみなければ分かりませんが、好戦派がお城にいる間に会話をすることも可能ではあります。まあ、準備をしておこうという話ですね」
「あー、なるほど。うーん、難しいなー。安全を取るならこっちにおびき寄せた方がいいし堀も作った方がいいと思うけど、どっちがいいかわかんないや。田中さん的にはどう思うの?」
「俺としては、敵をこっちに引き付けた後で会話をした方が、女王にとっても安全だと思う」
「女王にとっても?」
「ああ、今女王は支持を失いつつあるからな。そんな時に、人と密会をしているなんてバレればそれこそ失脚、命の危険に晒されることになる。俺たちと協力できそうな人物をそういう賭けで失うようなことはしたくないな」
そう、ただ俺たちが会話をするためだけに提案しているわけではない。
俺たちの協力者となる相手を守るためでもある。
「確かにその危険性は有りますね……。難しい所ですね」
「「「……」」」
全員が沈黙する。
まあ、簡単に答えが出るようなことではないからな。
しかし、どのみちいつか答えを出さないといけなくなる。
慌てて場当たり的にするか、計画を練って実行するかの違いなだけだ。
で、その沈黙を破ったのは、意外なことにセイールだった。
「あの、私、ゴードル、さんの知り合いです。友達。だから、いきなり女王陛下、より、ゴードルさんに連絡を取る方があんぜん、かも」
「ナイス、セイール。それいいんじゃない。私は賛成かなー。今後、好戦派をアスタリに引き寄せるにしても、計画的にできた方がいいんじゃないかなーと思うし」
「光さんの意見に賛成です。好戦派をアスタリに向かわせたとして、まともに話ができるか、どうやって好戦派を止めるのか、という話し合いも必要ですし、事前に連絡を取り合うことは必要かと思いますわ」
「ふむふむ。お姫さんはどうだ? 2人の意見に賛成か反対か?」
セイールの友好関係には驚いたが、話ができるならそれに越したことはない。
あとは、そこのお姫さんの判断によるところだ。
「……私も犠牲が少なく済むのであれば否はありません。しかし、セイールさんと四天王ゴードルという男が本当に知り合いなのかという疑問が残ります。疑うようで申し訳ありませんが、これは一歩間違えば和平への道が潰える可能性もあるので、よろしければ、ゴードル殿とどういう知り合いなのか、教えていただいてよろしいですか?」
おお、まともな回答だな。
もっと感情的になるかと思ったが、そうでもないらしい。
「私、とかれは幼馴染」
「へえ。そうなんだ」
「かれ、は、とっても優しい人。リリアーナ様に忠誠を誓ってい、る。だからその心配、はない」
「なるほど、だからこそ、セイールさんがゴードルさんと連絡を取ると言っているわけですね。いいと思いませんか田中さん」
「ま、この状況で嘘をつく必要もないだろうし、味方が増える可能性があるからいいと思うぞ。これで敵に回るなら、それこそ戦争は不可避と判断もできるしな」
「「「……」」」
俺がそう言うと沈黙するメンバー。
何を驚いてやがる。
もう、どっちに転んでも俺たちが取る行動は和平か戦うかしかないんだ。
あとは、覚悟を決めるだけだ。リスクのないところにリターンはない。
自分たちの判断に責任を持つ。そういう話なだけだ。
「ああ、逃げてもいいんだぞ」
この国を捨ててしまえばそれで終わりだ。
まあ、逃亡劇になるだろうし、安定した生活は遠いだろうがな。
ヨフィアがいったルートだ。
「いやいや、それって帰る手段がかなり少なくなると思うんですけど」
「ナイスツッコミだ結城君。この逃げるというパターンは地球へ戻る方法を探すために国の支援が受けられなくなる可能性が大きい。とはいえ、戦いを引き起こす。和平を成立させるよりは、簡単な道だよな」
「いや、追手がかかるだろうし、だめじゃん。ということで、僕はゴードルと話してみるべきだと思うな」
「ですね。セイールさんが協力してくれるというのです。無為にする理由はありません。田中さんのいう敵だったらというのは懸念ですが、そこで失敗しても直接リリアーナ女王と話せばいいだけです。ドローン一機を壊されたからといって、警備が万全になるとは思えません。どうですかお姫様?」
「ナデシコ様の言う通りだと思います。ここは一度四天王のゴードルと会話の席を設けるべきですね」
「じゃ、あとはどこで話すかだな。畑仕事のあとはゴードルはどこに戻っていくのか確認できているか?」
「もちろんできてますよー」
そういうことで、俺たちはさっそく動き出すことになるのであった。
四天王ゴードル。
はてさて敵か味方か。
四天王の一人が明らかに!
痴女の他には、パンツ食い、研究バカ。そのなかで一番まともそうだよね。
あ、研究バカはこっちに出てきてなかったね。
とはいえ、ろくなのがいねえと思うけど、見方をかえれば、パンツ食い以外はまとも。
やっぱり変態は悪い。
さて、ゴードルは敵か味方か?